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5.man ご対面
しおりを挟む結局、突然現れた女の子は自分のことを梨香子だと名乗ってそのまま座ってしまった。綺麗な子で愛嬌もあってきっとモテるタイプだ。ただ俺に興味を出してくれたのはミスチョイスだと思う。場の空気が白け気味だ。この3人だったら優馬に気が向いていない限り優馬が拗ねてしまう。俺と光希は多分こういう時にモテなくてもショックはあんまりない。
拗ねた優馬と面白そうに目線でいじってくる光希、どうして良いか分からない俺たちの会話はほぼ梨香子さんのペースに乗ってしまった。聞かれたことに何となく答えてるだけのやり取りを重ねていると、次第に梨香子さんのテンションが落ち着いていくのが分かった。自然な流れで元々おしゃべりな優馬が俺の代わりに会話の中心に入っていく。
「梨香子さん、守人のどの辺がいいの?顔?薄めが好き?」
「んー、顔もいいと思ったけど何か落ち着いてそう!
完全に直感だけど話聞いてくれそうな男子に見えた。」
この会話が続くと優馬が俺を、梨香子さんが優馬をチクチクと攻めていく形になるのが何となく想像できる。誰も悪気はない、素直なだけだろうけど。俺は光希とこの状況どうしようか的な目線を頻繁にやり取りし始めたのを察してたのかどうか、梨香子さんが矛先を変えた。
「優馬くん、私はごめんなさいだけど一緒に来た子も可愛いよ? お話ししにいく?」
しかし、優馬は拗ね気味のままだ。
「その子は見てないから分かんないけど、今日はカウンターの店員さんが1番可愛い。」
またその話か、と思いながらどうにか綾乃の話にならないように口を挟もうとした時、完全に事故が確定した。
「あ!梨香子、カウンターの子と友達だよ、綾乃って言うの!」
そこからは、テンポが早すぎて俺みたいな普通の人間は活発な2人の男女に全く追いつかなかった。光希はもう流れに身を任せますというスタイルに入っていたが、俺はそうもいかない。流石に飲みの場でふらふらと目の前には出れないだろう。それに酔ったと言うほどのものじゃないが気分がいいなぐらいにはお酒が入っている。どうやって場を収めるのが良いのか考え込んでいる間に、他の3人はカウンターに向けて席移動を始めてしまった。iPhoneを確認すると、もう21時だった。このままばっくれて由梨加さんと一緒のタイミングで帰ってきても何とかなるか?タバコ吸わないけど、吸いに行った感じにするとか?お腹壊したといって21時までトイレか?というか由梨加さんが来る時間だし、もう店を変えようって言ってみようか?
これだと言う良い案が出ないままiPhoneの時計表示を眺めているとLINEの通知が3件あるのに気づいた。ほんの5分前だ。優馬が由梨加さんに「1軒目で盛り上がってしまってるからこのままここで合流しよう!」、由梨加さんからOKスタンプ。光希が位置情報を送信している。誰にも何も言ってないから仕方がない。良い回避策が思いつくわけもなかった。そうこうしている間に梨香子さんが席移動を躊躇っていた俺を強引に引っ張りに来た。きっと席についたら修羅場が始まる。いや、修羅場というより事故だ。綾乃が怒るかどうか、そもそも知り合いとして振る舞うのかどうかも何も分からない。
もう知らないと思いながら言われるままにカウンター席に移動する。華ちゃんという子、優馬、光希、梨香子さん、俺の順でカウンターに座ることになった。綾乃が明らかに意識してこっちを見ないのが分かった。そういうスタンスならこっちも合わせるしかない。知らない人としてこの場をどうにかしよう。失敗しないように気合を入れる意味も込めて、黒霧島のロックをお願いする。こういう時はきっと酔ってるくらいが楽にやり過ごせるはず。
カウンターだからそんなにみんなで話せる風ではないのに優馬が梨香子さんと話したがるせいで、会話はみんなで1つをするしかない形になってしまう。ただ、しゃべらなくていいという面ではありがたい。適当に相槌を打ちながら話に参加する中で、俺は何度もみんなのオーダーを作る綾乃の指を目で追った。顔を見る勇気はないし、目が合ってしまえば話しかけたくなるだろうから。綾乃が5人分のオーダーだけでなくもう一杯お酒を注いでいる。注がれているのは三岳のロックだった、焼酎が飲みたくなるぐらいに気まずいのかと思うと悲しくなってしまう。手元の黒霧島が水みたいに感じる。
自分勝手に結論を出してしまったツケは、大きいんだなと身に染みてくる。まだ高校生だったんだなんて、そんな理由にならない理由のせいにしてしまいたい。
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