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第一章 伝説の水魔法使い

53 水を世界に

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 リザとライドが銃弾を浴びせたことにより、ロイド司教の動きが弱まった。

 発動していた魔法にリソースを割くことが出来なくなり、魔法の形が崩れたのだ。

「ちっ! 仲間がいましたか!!」

 空中で渦を巻いていた水と炎は急激に威力が衰え、形が崩れ始める。均衡を保っていた水と炎が衝突しあい、今にも爆発しそうだ。空中分解すると言ってもいい。そうなれば、爆発自体が付近に広がる。

 これ以上被害を拡大することは出来ない。俺はロイドの糞野郎に、ウォーターカッターを浴びせてみる。

 指先からレーザーのように水が放たれたが、ロイドは炎を収束させたファイアジャベリンを放って相殺。高温の炎と水がぶつかったことにより、周囲に水蒸気が立ち込める。

「くっ。これ以上魔法を拡大、維持できませんね。中途半端な威力になりそうですが、喰らいなさい」

 ロイドは炎と水の竜巻を礼拝堂の女神像に向けて解き放とうとする。もしも奴の魔法が解き放たれれば、この教会は吹っ飛ぶ。子供たちが死ぬ。

 リザもライドも銃を連射しているが、ロイドが張った水の障壁に阻まれて弾丸が届かない。

「マジかよ! やべぇ!」

 この糞野郎は、本当のチートだ。上には上がいたのだ。俺はこの世界に水魔法使いが少ないからと、調子に乗っていた。俺はまだまだチートじゃなかった。ただ水を出せるだけの子供だった。

「死になさい」

 炎と水の竜巻が迫ってくる。水蒸気爆発は間もなくだ。

 覚悟を決める時が来てしまったようだ。俺は後悔したが、どうしようもない。

 俺が諦めかけ、ロイドが魔法を放とうとしたその時、俺の懐で水魔石が輝いた。

 胸ポケットに入れていた小さな水魔石が、微振動して、ほんの少しだけ光っていた。

 なんだか、これを使えと、『誰かに』言われている気がした。

 誰に言われているかは分からない。ただ使えと、勝手にそう思った。

 俺はロイドに向けて、ためらうことなく、水魔石をぶん投げた。力いっぱいぶん投げた。

 くるくると回転しながら水魔石は飛んでいくが、ロイドがすかさず火炎弾で撃ち落とす。爆発霧散した。

「子供の悪あがきですか? 石ころを投げるとは、無駄なことを」

 ロイドはそう言っていたが、奇跡は起こる。

 水魔石が粉々に砕かれたことにより、中に閉じ込められていた神級魔法が発動。大きな津波を発生させた。

 その大きさは高さ10メートルを超える津波。手のひらに収まるほどの小さな水魔石だったが、ロイドが壊したことにより、水が暴走。津波となってあふれ出た。

「な! なに!!」

 巨大な壁のように、水が渦巻いて押し寄せる。

 津波は四方八方に押し寄せて、すべてを飲み込むと思われたが、なぜかロイドと神殿騎士たちだけに襲い掛かった。

「ば、ばかな!! こんなことが!!」

 教会の入り口は大破し、ロイドと外にいた神殿騎士たちは津波にのみ込まれる。瓦礫と共に押し流されていく。波乗りサーフィンよろしく、街の外にある湖まで、押し流されていった。

 当然、ロイドの魔法は津波で霧散し、教会が消滅することは免れた。

 入り口付近にいたリザとライドも津波にのまれたかと思ったが、二人とも無事。やはり、ロイドや神殿騎士だけを狙った津波だった。

 津波が発生した時、一瞬、水の女神ダーナ様が見えた気がしたが、あれは本物だったのだろうか? だからロイドたちだけを押し流したのだろうか?

 俺は教会の外に出てみると、瓦礫と共に流されていくロイドたちが見えた。周りの市民は津波が発生し事に騒いでいたが、見て見ぬふりをした。

「おい、アオ。今の魔法がなんなのかは聞かん。とにかく、大変なことになった。すぐにこの国を発つぞ。金は稼いだし、これ以上要は無い。さっさと荷物をもってこい」 

「アオ君。悔しいが、今はライドの言うとおりだ。私の国へ逃げよう。水不足で大変な国だが、私の知り合いがいる。そこを頼ろう」

 二人は俺に近寄ってくると、まくし立てるようにそう言った。

「それは分かったが、クーはどこに行った? 無事なのか?」 

「無事だ。今、湖に行ったオーガたちを集めて、ここへ向かってる」

 そうか。無事か。ならいい。

 あとはさっさと逃げるか。

 俺は半壊した礼拝堂を見渡す。すると、マーティン司祭とシスターたちが心配そうに俺を見ていた。

 教会をここまでぶっ壊し、ルドミリア教会と戦争し、すげぇ迷惑をかけた。

 最後の計画が上手くいけば、この王都は水で困ることはないが、彼らを見るといたたまれない。俺は完全に疫病神だ。だが、この教会は水に困ることはなくなる。それは間違いない。

「マーティンのおっさん! 俺の金庫の中に金が入ってる! 教会の修理に充ててくれ! 俺は行く!」

 俺は無責任にそう言うと、マーティン司祭はにやりと笑ってこう言った。

「そうか。気を付けて行け。援軍は呼んである。後のことは心配するな」

 援軍。それはダーナ教会から呼んだ、聖騎士のことだ。

 本部からの到着はまだ二週間以上先だが、教会の状態を見ると少し不安になる。一応、オーガの子供たちはここに残していくことになっている。教会を守る戦士になってくれるだろうが、ロイドの奴がいる。あの津波で死んだとも思えん。また仕掛けてくるだろう。

 やはり心配になるが、自分の命も心配だ。あとは教会同士の戦い。俺が首を突っ込むことじゃない。なんとか生き延びてくれ。

 俺は教会の敷地でソワソワしていたオルフェを捕まえると、荷物を背負わせる。

「リザ、ライド! クーが帰って来しだい、逃げるぞ!」

「わかってる!」

 急いで用意をしていると都合よくクーたちが帰って来た。皆、怪我もなく無事だ。

 オーガたちに計画は上手く言ったか聞いてみると、彼らは口々にこう言った。

「神の御使い様。汚れていた赤い湖は、聖水へと変わりました」

 俺に跪くと、涙を流してそう言った。 

『赤い湖は、聖水へと変わった』

 間違いなく、そう言った。

 え? こんなに早く浄化されたのか? 王都の周りにある湖の大きさは、かなりのものだぞ。水魔石100個程度を入れたからって、すぐにきれいになるか?

 俺はそう思っていたが、次の瞬間、教会の枯れていた井戸から、蒼く光った聖水が噴出した。

「なに!? 枯れた井戸から水が噴き出た!?」

 ライドが驚くと、次々と街の中から大声で叫ぶ市民の声が聞こえてくる。俺はクーに頼み、おんぶしてもらう。ピョンピョンジャンプして、教会の見張り台に行ってもらうと、そこには見事な光景が広がっていた。

 俺の計画が成功した証しが見えたのだ。

 それは王都に設置された、たくさんの枯れ井戸。その枯れた井戸から、間欠泉のように、聖水が噴き出ていたのだ。

 まるで竜が昇るように、水が天に向かって噴き上げていたのだ。

「ははは。やっぱ俺ってチートかもな。これは誇っていいだろ。もとはただの日本人だぜ? 俺ってすげぇよ」

 俺は初めて、自分で自分を褒めた。

 なぜなら王都は、聖水の蒼い光に包まれていたからだ。
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