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第一章 伝説の水魔法使い

16 池の水を浄化して次の街へ

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 リザを正式な護衛として雇うこととなった。ギルドを通さない、完全な私兵扱いとして、俺に忠誠を誓うという。俺が水魔法を使えると知るや否や、ものすごい変わり身である。

 しかし、俺をさらったりするという考えが無いようだ。俺は前世が日本だったため、奴隷と言うのにはなじみが無い。テレビニュースでは人さらいの話を聞いていたし、海外では奴隷は当たり前だった。ましてやこの治安が悪い異世界では、奴隷など至極当然にいる。現に今までの俺がそうだったしな。

 俺の力を見てもなお護衛につくということは、売るよりも俺に仕えることの方が、メリットがあるのだろう。

 リザがどんな奴かまだ計りかねるが、とにかく戦力は必要なので、これ以上は何も言わないでおく。

「アオ様。あちらに池がありました。すでに人の飲める水ではありませんが、アオ様なら水に変えられるのでは?」

「なんだそのアオ様と言うのは」

「水魔法使いは神の御使いですし、私はアオ様に仕えると決めました」

「やめろ。今まで通りにしてくれ」

「良いのですか? たっぷりと甘やかしますよ?」

「甘やかす? 何を言っているか分からん。今までどおりでいい」

「ふふふ。アオ君は人としてもできてるね。いい男になる」

 リザは俺のぼさぼさの髪をかき分け、顔をよく見る。

「そんな髪では奴隷に見える。後で私が切ってあげよう。かわいい顔が台無しだ」

 リザは俺を見てニコニコ。やはり、怖いくらいの変わり身だ。とはいえ、水魔法を使う前から、リザは誠実な女だった。子供の俺を一人の人間として扱ってくれたので、まぁ、このくらいは許してやる。

「リザ。池があると言ったな。案内してくれ」

「分かった」

「オルフェはそこにいてくれ。牛たちもな。あぁそうだ。のどが渇いているだろ。水を少しやろう」

 俺は桶に水を入れてオルフェと牛に与える。

「モー」

 牛は喜んで飲んだ。

★★★


 俺は池に来ると、鼻を押さえた。なんと、中で人が死んでいるではないか。水を飲もうとして村人が死んだようだ。腐乱死体になって浮いている。

 池は赤黒く、もはや人が飲めるものではない。魚も浮いているので、養殖をしていたのかもしれない。

「しかし、なんで急にこんなことに」

「これはあくまで噂だ。私が旅をしている中で聞いたのだが、王都の奴らが原因らしい」

「王都のやつら?」

「国王の命令で、水脈から水を無理に吸い上げていると聞いた。もしかしたらそれが原因でこうなったのかも」

 地下水の流れが止まったのか? それで酸性の濃度が局地的に高くなったのだろうか? なんだか、国家規模の犯罪らしいぞ。下手にかかわらない方がいいな。

「リザ。池の水を浄化してもいいが、俺は飲まないぞ。人が死んでいる水など、飲む気になれない」

「それは私もだ。だけど、何にしても水は必要だ。牛たちや、これからの旅で洗い物に使えばいい」

 いや、洗い物でも嫌だが。牛たちを連れていくとなると、やはり仕方ないか。

「分かった。樽に汲んでくれ。浄化する」

「了解」

 リザが樽に毒水を汲み、俺が魔法で浄化する。直接水に触ると焼けただれるので、鉄の棒を持って水を掻き混ぜる。鉄は、良く魔力を通すので、こういう時に重宝する。

 俺はグルグルと水をかき混ぜる。かなり疲れるが、仕方ない。生活水の為だ。

「すごい! 本当に水になった!! 透明になっていく!!」

 リズは俺の魔法を見て、ピョンピョン飛び跳ねる。年相応の、女の子らしい仕草だ。

「すごいすごい!! アオ君さえいれば、私は幸せになれる!」

 幸せになる? 何を言い出すんだこの女は。心の声が漏れているぞ。それに、俺の力はまだ大したことはない。いずれは海の水を大量に真水に変えてやるが、今は無理だ。今後の、俺の努力次第だな。

「アオ君。絶対に君を守り抜く。誰にも渡さない!」

 なんだか俺はリザの物になってしまったが、それは構わない。俺に協力的な態度なら、今は許してやる。俺はまだ10歳の子供だしな。大人になれば、逆転する。

 俺は樽に純水を一杯に入れ、牛たちに担がせた。
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