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14 魔石屋ヒサギ1

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 騎士団支部に行って飯を食べた後、俺はジェーンに連れられて魔石店に来た。

 ジェーンの行きつけの魔石店らしい。

 ジェーンが来た魔石店は高級な感じではなく、誰もが入れるような開放感のある店だ。入口いっぱいにガラスのショーケースが並んでいる。

 入口付近には安い魔石しかないが、店の奥には高級な魔石が並んでいる。

 巨大な鉱石も数多く並んでおり、石に興味がない人でも、一度は足を運んでみたくなる店だ。

 俺は背が小さいので、大きなガラスケースの中を見れない。身長が足らず、ケースの中にある魔石が見れないのだ。仕方ないので、ジェーンにおんぶされて魔石を見ている。

 光り輝く魔石たちを。

「すごい。マジでファンタジーだ。地球にある鉱石とは輝き方が違う。本当に、魔力がある石なんだな」

 今まで草原だけが俺の見た世界だったが、この魔石屋は本物だ。本物の魔法が生きている。目の前に、魔法がある。

「エル? なんだ地球にある石とは? 地球とはなんだ? 精霊の住むところか?」

「いや、地獄だよ。地球は。一部の富裕層だけが楽しめる世界さ」

「ふうむ。精霊にもいろいろあるのか? なんだかわけありのようだな」

 ショーケースの中を見ると、グレイジャッカルの魔石も並んでおり、純度や質が良いものは高い値段設定だ。一個300ギールはする。

 キマイラの魔石もあり、これは一個50万ギールという値段だ。かなり高い。大きさも違うし、グレイジャッカルの魔石とは輝き方が違う。

「キマイラはレアな魔物だ。それだけ持っているスキルも違う。値段が高いのはその為さ」

「そうなのか。魔石もたくさん並べると、こんなにきれいなんだな」

「まぁ、ここのは綺麗にカットされているしな。原石ではないからな」

 魔石店に入り、魔石を眺めていると、店の人が声をかけてきてくれた。

「分からないことや、ショーケースの魔石を触ってみたいときは、いつでも声をかけてください」

 長身の、スレンダー美人だ。黒髪で、チェック柄のエプロンをしている女性だ。店のオーナーか? かなり若いけど。

「おや? ヒサギはどうした? 私はジェーンだ。君は新しい従業員か?」

 ん? ジェーンが新しい単語を喋ったぞ? ヒサギ? もしかしてジェーンってここのオーナーと顔見知りなのか? 行きつけって言うくらいだしな。

「え? ジェーンさん? ヒサギ? ヒサギって父のことですか?」

「うん? 父? 君はヒサギの娘か?」

「あ、はい。ヒサギは父です。私はヒサギの娘です。今まで帝都で学校に行ってました」

 ジェーンと店員の女の子で、何か話している。俺は背中におんぶされたまま、じっと話を聞いている。

「学校? もしかして寮暮らしで帝都にいたのか?」

「はい。帝都の魔法学校です」

「娘がいたのか。聞いてなかったな。ふむ。あなたのことは分かった。ならばヒサギはいないのか? 久しぶりに話がしたい」

「あー。その。父ですが……」

「どうした?」 

「鉱石の採取に出かけた際に、魔物に殺されてしまいました」

 店員の女の子は、苦笑い。空気が一気に重くなる。

「な、なんだと。死んだ?」

「はい。馬鹿な父です。弱いのに、危険な鉱山でレアメタルなんか取ろうとするから」

 女の子は、うつむいて悲しそうにしている。

「そ、そうだったか。すまん。まさかそんなことになっているとは」

「あはは。気にしないでください。今は母と一緒に店をやっていますから、お入り用な魔石があったら言って下さい」

 女の子はかなりやつれたような顔をしている。よく見ると耳が少々長い。肌も浅黒いし、純粋な人間ではないのかもしれない。

「ジェーンさんでしたよね? 私の名前はヒバリっていいます。父と知り合いなら、母を呼んできますよ」

「ん? ああ、そうだな。イリスさんはいるんだな? じゃぁ呼んできてほしい」

「はい」

 ヒバリという、スレンダー美人の店員は、店の奥に入って行った。

「ジェーンはここの店主と知り合いなのか?」

「ああ。私が駆け出しの頃からの知り合いだ。よくお店のクズ魔石をもらっていた。剣術スキルが手に入ったのも、ここの店主がいたからだ」

 そうだったのか。意外とジェーンは顔が広いな。いろんな人と付き合いがあるみたいだ。

 しばらくすると、顔のやつれた褐色美人さんがやってきた。同じようにエプロンをしているが、こちらは全然違う。特に胸のあたりが。かなりの巨乳、いや爆乳だ。残念ながら、娘には胸の遺伝子は受け継がれなかったようだ。

「おお。久しぶりだね。その赤い髪。ジェーン0235だろ?」

「ああ。久しぶりだなイリス。私がいない半年の間に、不幸があったようで、お悔やみを申し上げる」

 ジェーンは頭を下げる。おんぶされている俺も頭を下げることになる。うわわ。ずり落ちそうだ。 

「あはは。そうだね。馬鹿な男さ。本当にね」

 イリスさんはさみしそうな顔をして、店に遺された魔石を見ている。

「何かあれば行ってくれ。微力だが力になる」

「ははは。それは嬉しいけどさ、ジェーン。あんたの背中の子供はなんだい?」

 イリスはスイッチを入れ替えたように、俺を見る。

「私が保護する予定の子供だ。孤児だ」

 建前上、孤児なのは仕方ないが、のどに引っ掛かる言葉だな。孤児ってのは。

「へぇ。ずいぶん可愛い女の子だね」

 俺のことをじろじろと見る褐色のお姉さん。とても大きな娘がいる女性には見えない。

「女の子じゃないぞ。この子は男だ」

「え? うそ? すごい可愛いけど」

「見た目に騙されるな。こいつはれっきとした男だ。女を騙す姿をしているので、気をつけろ」

 ジェーンはジョークを言ったつもりなのか? 真顔でそんなことを言うんじゃない。

「へぇ。可愛いねぇ。触ってもいい?」

 俺は犬か猫か? 触ってもいいってなんだ。

「それよりも魔石の話がしたいのだが、まぁいいだろう。触らせてやる」

 なぜジェーンが許可を出すんだ。触られるのは俺だぞ。

 俺が黙っていると、店主である褐色美人のイリスは、俺のほっぺを触りだした。帽子を取って、頭もなで始める。

「うわぁ。すごい柔らかい。この子、王族みたいに可愛いわね」

「だろう?」

 ふふんっと、鼻息を鳴らすジェーン。なぜおまえが偉そうなんだ。

「あのあの。私も触らせてください」

 横で見ていた、スレンダー美人の従業員。ヒバリがそわそわしている。

「お母さんばかりずるいです。私も触らせて」 

「いいよ。ほら」

 俺はジェーンにおんぶされていたが、ひょいっとイリスに抱きあげられる。

「うわ! 軽い! なにこの子! ガリガリなの?」

 俺の体重に驚いているようだ。

「そうなの? お母さん」

「こら! 勝手に持っていくな!! それは私のだぞ!」

 ジェーン。俺はお前のモノじゃないぞ。

「お母さん。私も抱かせて抱かせて」

「しょうがないな。ほらヒバリ。落とさないでね」

 俺は幸薄そうな、ヒバリの胸に抱かれる。抱かれたとき、花のような甘い香りがした。

「うむむ。お前たち、エルをなんだと思っているんだ」

「エルっていうの? この子。お人形さんみたいだね」

「俺は人形じゃないぞ」

「うわ! 喋った! 声も可愛い!!」 

 キャッキャッキャッキャと、俺を触りまくって撫でまくる二人。

 俺は完全におもちゃのように扱われ、ジェーンも混ざって、美人の三人にもみくちゃにされる。

 俺は魔石を見に来たんだよな? どうしてこんなことになっている?

 褐色美人の店主、イリス。その娘のスレンダー美女、ヒバリ。彼女たちは可愛いものに目がないようで、長時間俺を愛でつづけた。

 俺も俺で、チヤホヤされるのは嫌いじゃない。みんなが満足するまでおもちゃにされ続けた。

 しかし、ジェーンだけだな。俺の股間を触ってくるのは。やはりお前は変態か。
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