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「きゃぁぁぁ!」
3月11日。阿部は朝から監視カメラの映像を調べて歩いていた。
そんな中、悲鳴が聞こえ、すぐに走って向かうと、そこには尻もちをついて引きつった顔をしている女性と、街路樹にぶら下がっている足があった。
そして、それを啄むように木の枝には複数のカラスもいる。
「これは!」
間違いなく、追っている一件のものだろう。
すでに今日で四日目。連続バラバラ事件は一体どこまで続くものか。
阿部は第一発見者であろう、尻もちをついている女性をなだめ、捜査の協力を仰いでから、すぐに警察に連絡を取った。
あっという間にパトカーが何台も到着し、女性は一度パトカーの中に隔離され、事情聴取を受ける。
阿部はと言えば、他の刑事や鑑識達とともに状況見分などに立ち会った。
足は男性の左足で、ピンクのビニール紐が足首にかかってそのまま街路樹からぶら下がっていたのだ。足自体に外傷はない。
「……あぁ、これ」
歩道には、左足を下したときに零れた粉が落ちた。
いや、粉というよりも形があるものだ。薄黄色い、バターの香りのする何か。
「あの、これが何だったかわかりました? 昨日の現場にも入っていたと思うんですけど」
「あぁ、それなら、クッキーだそうですよ。……またあったんですか」
問いかけた鑑識は、訝し気に阿部の掌の上に置かれた薄黄色い欠片――クッキーの残骸を見遣る。
「多分これ、ずっとバラバラの部位と一緒に置いてあるんだと思うんです」
彼はため息交じりにクッキーを眺める。
確かに嗅いだ事の有る匂いはクッキーのものであったし、これがクッキーなのだとすれば、人間の肉が無くなった後にもかかわらず群がっていたのにも納得がいく。
「それにしても、何でクッキー?」
「思い当たりませんね」
鑑識と二人で首をかしげた。男の身元と関係があるのだろうか、と、二人とも思ったのだ。
「クッキーって言われて想像出来るのは、この時期だとホワイトデーくらいだよな」
突如入った声の主は、阿部の同僚だ。
「ホワイトデー」
同僚の言葉を口の中で転がせば、妙に納得のいく気がした。
「だとすれば、バラバラの最後のピースは、14日に揃うのかな」
8日に右手、9日に左手、10日に右足。そして11日の今日、左足。もしもこの仮説が当たっているのなら、最後は頭だろうか。
「……まさか」
同僚がぞっとしたように青い顔をしながら首を横に振った。自らホワイトデーなどと言ったのだが、あまり考えたくなかったのかもしれない。
「でももし、実際にホワイトデーまでのカウントダウンに近いものなのだとすれば、パーツはあと3つだ。3つ目に犯人がどう仕掛けるのかはわからないが、こちらにとって喜ばしい事は何一つないだろう」
「まぁ、な」
なんとも言えぬ静寂がその場を包み込む。
「おい、話を聞いてきたぞ」
「どうでした?」
事情聴取を行っていた上司がその場に現れると、その静寂がようやっと消え失せた。
「彼女は通勤途中の女性だった。今日は仕事の関係でいつもより早く出ようとしたところで、これを見つけてしまったらしい」
彼女の事情聴取をしていたパトカーは消えていた。あの女性を送っていったのだろう。
「一応職場にも連絡したが、どうも忙しいようでな。残念ながら休ませては貰えないようだ」
仮にもショッキングなものを見てしまった人に対しての扱いとしては、あまりよろしいとは言えないだろう。とはいえ、今は彼女の職場の状況を考えている場合ではない。
「彼女から何か有力情報は……」
阿部の問いに、上司はゆるゆると首を横に振った。
またしても手掛かりなしだ。彼はため息をついた後に、上司に「ホワイトデーにちなんでいるのではないか」という仮説を話してみる。すると上司は厳つい顔をさらに厳つくし、「それなら、犯人は女かもしれないな」と呟く。
「どうして、女性だと思われるのですか?」
「この被害者は男だ。そしてホワイトデーは、お返しの日だから、だよ」
上司の言葉が、阿部の頭の中で反響する。
お返し……それは、一体何のお返しなのだろうか。
***
3月11日。阿部は朝から監視カメラの映像を調べて歩いていた。
そんな中、悲鳴が聞こえ、すぐに走って向かうと、そこには尻もちをついて引きつった顔をしている女性と、街路樹にぶら下がっている足があった。
そして、それを啄むように木の枝には複数のカラスもいる。
「これは!」
間違いなく、追っている一件のものだろう。
すでに今日で四日目。連続バラバラ事件は一体どこまで続くものか。
阿部は第一発見者であろう、尻もちをついている女性をなだめ、捜査の協力を仰いでから、すぐに警察に連絡を取った。
あっという間にパトカーが何台も到着し、女性は一度パトカーの中に隔離され、事情聴取を受ける。
阿部はと言えば、他の刑事や鑑識達とともに状況見分などに立ち会った。
足は男性の左足で、ピンクのビニール紐が足首にかかってそのまま街路樹からぶら下がっていたのだ。足自体に外傷はない。
「……あぁ、これ」
歩道には、左足を下したときに零れた粉が落ちた。
いや、粉というよりも形があるものだ。薄黄色い、バターの香りのする何か。
「あの、これが何だったかわかりました? 昨日の現場にも入っていたと思うんですけど」
「あぁ、それなら、クッキーだそうですよ。……またあったんですか」
問いかけた鑑識は、訝し気に阿部の掌の上に置かれた薄黄色い欠片――クッキーの残骸を見遣る。
「多分これ、ずっとバラバラの部位と一緒に置いてあるんだと思うんです」
彼はため息交じりにクッキーを眺める。
確かに嗅いだ事の有る匂いはクッキーのものであったし、これがクッキーなのだとすれば、人間の肉が無くなった後にもかかわらず群がっていたのにも納得がいく。
「それにしても、何でクッキー?」
「思い当たりませんね」
鑑識と二人で首をかしげた。男の身元と関係があるのだろうか、と、二人とも思ったのだ。
「クッキーって言われて想像出来るのは、この時期だとホワイトデーくらいだよな」
突如入った声の主は、阿部の同僚だ。
「ホワイトデー」
同僚の言葉を口の中で転がせば、妙に納得のいく気がした。
「だとすれば、バラバラの最後のピースは、14日に揃うのかな」
8日に右手、9日に左手、10日に右足。そして11日の今日、左足。もしもこの仮説が当たっているのなら、最後は頭だろうか。
「……まさか」
同僚がぞっとしたように青い顔をしながら首を横に振った。自らホワイトデーなどと言ったのだが、あまり考えたくなかったのかもしれない。
「でももし、実際にホワイトデーまでのカウントダウンに近いものなのだとすれば、パーツはあと3つだ。3つ目に犯人がどう仕掛けるのかはわからないが、こちらにとって喜ばしい事は何一つないだろう」
「まぁ、な」
なんとも言えぬ静寂がその場を包み込む。
「おい、話を聞いてきたぞ」
「どうでした?」
事情聴取を行っていた上司がその場に現れると、その静寂がようやっと消え失せた。
「彼女は通勤途中の女性だった。今日は仕事の関係でいつもより早く出ようとしたところで、これを見つけてしまったらしい」
彼女の事情聴取をしていたパトカーは消えていた。あの女性を送っていったのだろう。
「一応職場にも連絡したが、どうも忙しいようでな。残念ながら休ませては貰えないようだ」
仮にもショッキングなものを見てしまった人に対しての扱いとしては、あまりよろしいとは言えないだろう。とはいえ、今は彼女の職場の状況を考えている場合ではない。
「彼女から何か有力情報は……」
阿部の問いに、上司はゆるゆると首を横に振った。
またしても手掛かりなしだ。彼はため息をついた後に、上司に「ホワイトデーにちなんでいるのではないか」という仮説を話してみる。すると上司は厳つい顔をさらに厳つくし、「それなら、犯人は女かもしれないな」と呟く。
「どうして、女性だと思われるのですか?」
「この被害者は男だ。そしてホワイトデーは、お返しの日だから、だよ」
上司の言葉が、阿部の頭の中で反響する。
お返し……それは、一体何のお返しなのだろうか。
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