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お肉の一部は丈夫な紐でぎゅっと結び、ショーユ、水、樹液と、紫のブドウで作った果実酒も加えて煮込む。ついでに畑で取ってきたマンドラゴラも突っ込んだ。
断末魔が「いやっ……熱い……酷い……」だったのが、結構心に来る。容赦なく煮込むが。
これがマンティコアの煮込みだ。匂いは美味しそう。トマトのスープとミソのスープは勇者のところに材料を持ち込んで出来るので、こちらはお肉や野菜を先にドナベしておいた。
ベエコンに関しては、暫く塩漬けが必要なので、その内勇者におすそ分けしてやろう。今日は塩漬けまでだ。
お肉の表面にフォークで穴をあけ、美味しそうだなー、と感じる程度に塩をまぶし、袋に詰めて保冷庫の中に放置。これで七日くらい寝かせたら、塩を抜いて乾かし、ドナベする予定だ。
硬かったら俺達だけで食べるけどな。勇者、人間だから顎が弱いし。
お肉そのままの味を味わう部分は、一番やわらかいところを使う事にして、切り分けて炭火で焼き、これもドナベしておいた。
何分肉の量が半端じゃなく多い為、中々ドナベが追いつかず、結構時間がかかっている。
何度もレイラに「疲れていないか?」「辛くないか?」と確認したが、彼女はけろりとしていた。問題がないようで安心と言えば安心だが、あんな事の後なので、もしも無理をしているのであれば早めに休んで欲しい。
正直、魔王である俺は、それほど相手の弱さを推し量れない。
人間よりも遥かに強いレイラでさえ、俺に比べれば弱いのだ。俺なら、きっと蠍の毒を食らっても「ちょっと痛い」で済んだだろう。
ドラゴンが毒針に倒れる事を知らなかったとはいえ……やはり己よりも弱き者というのは怖い。特に、レイラのように傍にいるのが当たり前になった相手が倒れるのは。
「魔王様、焦げているぞ」
「う、うわぁぁ、本当だ!」
そのまま食べる用にと炭火で焼いていたお肉……何回目かはそろそろ分からないが、とにかくそれが、俺の手元で黒くなっていた。幸いな事に全面ではなく、端っこだけだが。レイラが言ってくれなければ炭になるところだった。危ない。
「さっきからこちらを見ては悲しそうな顔をしているな」
……視線が向かっていたらしい。恥ずかしい。
恥ずかしいついでに、網の上のお肉を皿に乗せた。
「安心しろ。ボクは案外丈夫だ」
レイラは俺に近づき、ペシ、と背中を叩く。全然痛くない。
「次はあんな攻撃を食らわん」
「……次は、お肉よりもレイラを大事にするし、大事にしてほしい」
俺は切実に彼女に言うと、レイラは満面の笑みを浮かべで俺にすり寄った。角が刺さってちょっと痛いけど、嫌ではない。
「これだから魔王様が好きなんだ!」
よりぐりぐりと擦ってくる。うっかり貫通したらどうしよう。いやいや、どうにも出来ない。とりあえずびっくりする。
「ボクはもう、怪我をしたりしないぞ!」
尚もぐりぐりしたまま、彼女は上機嫌に続けた。
「魔王様が心配そうな顔をしてしまうからな」
ここまで答えると、ようやっと俺は角の洗礼から解放された。よかった。穴、開いてない。
「いや、しかし、たまには心配そうな顔を見ると言うのも……。こういう顔はレアだし……ちょっとハラワタが零れるくらいまでだったらいけるか」
「いけない! 止めて!」
レイラ、時々怖い!
なんで自ら傷つく事を選択しようとするの。痛いだろうに。
「冗談だ」
冗談!? これが!?
「こんな怖い冗談、冗談じゃない!」
「ん? どっちだ?」
「冗談じゃな……えーっと、冗談じゃすまないぞ!」
これだ。冗談じゃすまないぞ。
「ふっふっふ。心配して貰えるのは悪くないな」
心配する方の身にもなってみろ、という言葉は、ギリギリ飲み込んだ。例えばレイラに、今の俺と同じ気持ちを味わわせたいとは思わなかったからだ。
味わわせるのは、ご飯だけで十分。
「ほら、魔王様。手を動かさなければ調理は進まないぞ」
「……わかってる」
肝が冷える様な冗談を口にしてからかってきたのは、レイラなのに……。
こんな風にじゃれ合いながら、俺達は下準備を重ね、勇者の家におすそ分けに行ける支度が整ったのは、大分時間が経った後だった。
***
断末魔が「いやっ……熱い……酷い……」だったのが、結構心に来る。容赦なく煮込むが。
これがマンティコアの煮込みだ。匂いは美味しそう。トマトのスープとミソのスープは勇者のところに材料を持ち込んで出来るので、こちらはお肉や野菜を先にドナベしておいた。
ベエコンに関しては、暫く塩漬けが必要なので、その内勇者におすそ分けしてやろう。今日は塩漬けまでだ。
お肉の表面にフォークで穴をあけ、美味しそうだなー、と感じる程度に塩をまぶし、袋に詰めて保冷庫の中に放置。これで七日くらい寝かせたら、塩を抜いて乾かし、ドナベする予定だ。
硬かったら俺達だけで食べるけどな。勇者、人間だから顎が弱いし。
お肉そのままの味を味わう部分は、一番やわらかいところを使う事にして、切り分けて炭火で焼き、これもドナベしておいた。
何分肉の量が半端じゃなく多い為、中々ドナベが追いつかず、結構時間がかかっている。
何度もレイラに「疲れていないか?」「辛くないか?」と確認したが、彼女はけろりとしていた。問題がないようで安心と言えば安心だが、あんな事の後なので、もしも無理をしているのであれば早めに休んで欲しい。
正直、魔王である俺は、それほど相手の弱さを推し量れない。
人間よりも遥かに強いレイラでさえ、俺に比べれば弱いのだ。俺なら、きっと蠍の毒を食らっても「ちょっと痛い」で済んだだろう。
ドラゴンが毒針に倒れる事を知らなかったとはいえ……やはり己よりも弱き者というのは怖い。特に、レイラのように傍にいるのが当たり前になった相手が倒れるのは。
「魔王様、焦げているぞ」
「う、うわぁぁ、本当だ!」
そのまま食べる用にと炭火で焼いていたお肉……何回目かはそろそろ分からないが、とにかくそれが、俺の手元で黒くなっていた。幸いな事に全面ではなく、端っこだけだが。レイラが言ってくれなければ炭になるところだった。危ない。
「さっきからこちらを見ては悲しそうな顔をしているな」
……視線が向かっていたらしい。恥ずかしい。
恥ずかしいついでに、網の上のお肉を皿に乗せた。
「安心しろ。ボクは案外丈夫だ」
レイラは俺に近づき、ペシ、と背中を叩く。全然痛くない。
「次はあんな攻撃を食らわん」
「……次は、お肉よりもレイラを大事にするし、大事にしてほしい」
俺は切実に彼女に言うと、レイラは満面の笑みを浮かべで俺にすり寄った。角が刺さってちょっと痛いけど、嫌ではない。
「これだから魔王様が好きなんだ!」
よりぐりぐりと擦ってくる。うっかり貫通したらどうしよう。いやいや、どうにも出来ない。とりあえずびっくりする。
「ボクはもう、怪我をしたりしないぞ!」
尚もぐりぐりしたまま、彼女は上機嫌に続けた。
「魔王様が心配そうな顔をしてしまうからな」
ここまで答えると、ようやっと俺は角の洗礼から解放された。よかった。穴、開いてない。
「いや、しかし、たまには心配そうな顔を見ると言うのも……。こういう顔はレアだし……ちょっとハラワタが零れるくらいまでだったらいけるか」
「いけない! 止めて!」
レイラ、時々怖い!
なんで自ら傷つく事を選択しようとするの。痛いだろうに。
「冗談だ」
冗談!? これが!?
「こんな怖い冗談、冗談じゃない!」
「ん? どっちだ?」
「冗談じゃな……えーっと、冗談じゃすまないぞ!」
これだ。冗談じゃすまないぞ。
「ふっふっふ。心配して貰えるのは悪くないな」
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味わわせるのは、ご飯だけで十分。
「ほら、魔王様。手を動かさなければ調理は進まないぞ」
「……わかってる」
肝が冷える様な冗談を口にしてからかってきたのは、レイラなのに……。
こんな風にじゃれ合いながら、俺達は下準備を重ね、勇者の家におすそ分けに行ける支度が整ったのは、大分時間が経った後だった。
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