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しおりを挟む「あ、あと、この木から取れる樹液は瘴気の影響を受けてないから、お砂糖に加工するなりなんなりすると良いぞ。美味しい!」
「えっ!? 樹液まで!?」
「ふっふっふ、樹液だけだと思って貰っては困る」
ドライアドが万能である事を、たっぷりと教えてやろう。
「葉はお茶に、実はそのまま食べられて、種はコウヒイになるんだ!」
「おお、凄い!」
勇者は目を輝かせた。
「更にこの葉っぱをスライムに食べさせ続けると、美味しいスライムが出来るんだぞ!」
「……あ、いや、それは……。だってスライムってあの……」
「ええ、それは……ちょっと……」
何故か一気にテンションが下がった。
嫌なのか。美味しいのにな。
「食べたくない奴に食べさせる必要はない。スライムはボク達だけのものにしてしまおうではないか」
「うーん……仕方ないなぁ」
無理強いするもんじゃないしな。スライムにあまりいいイメージを持っていないのかもしれない。
ぷるぷるつるつるで、食べやすくていいんだけどな。特に蜜をかけて食べると、デザートにピッタリ。
「じゃ、ウッドクンを見せるからついて来てくれ」
俺は少し歩き出したが、ぴたりと足を止める。
「あ……もしかして、他の物も見たいか? マンドラゴラとか」
「い、いや、結構!」
「ええ、そんな物は見なくてもいいわ!」
マンドラゴラは心が抉られるもんな。チカンじゃありません! って気分になるし。
「じゃあ、予定通り行くか!」
俺は一度止めた足を進め、オンシツ? とか言ってたか。それを出て納屋へと向かう。
この納屋。庭にトントンカンカン地道に立てた物だ。やはり畑仕事をするとなると、道具を入れたり、収穫物を保管する場所が欲しかったのである。
それほど広いわけではないが、そこに勇者達を招き、力をセーブしてランタンに火をつけた。
俺は魔王ではあるが、残念ながら力の加減が下手だ。お手軽焼け野原コースか、指の先から小さな火種になる程度の物を出すか。この強か微弱かの二択なのである。
二択ではあるが、日常生活の中で微弱は案外役に立つ。特に、灯りをつけたり、ウッドクンに火をつけたり。
大きい力は、それほど使う訳にもいかない。色んな場所で、色んな人が生活しているのだ。
俺は基本的に共存を望む。平和が一番。
「えっとな、これがウッドクンだ」
俺は納屋の中に置いた大きめの麻袋の中に手を入れ、一掴み出して見せた。
細かくなかったドライアドは、もう喋らない。
「これに火をつけて、水気をきって乾かした食材と一緒に箱みたいなものに入れる」
箱も見せてやればいいかな。えーっと……あった。これこれ。
俺は粘土で作った鍋と、燃えにくい素材で作った網を、開いた片手で探して見せた。
「なるほど、土鍋か」
「ドナベ? これの事か?」
勇者的に、このセットはドナベというらしい。
「このドナベとかいうやつの下に、ウッドクンを入れて火をつけ、ドナベの真ん中に入れる。たっぷり煙が出たら、真ん中の奴に食べ物を入れて蓋をし、弱い火にかけるんだ」
ふんふん、と勇者もオリヴィアも聞いている。
オリヴィア、ちゃんと否定せずに聞くようになったな。偉い偉い。
「えーっと、さっきのベエコンとかいうやつの時は別の道具を使ってるんだけど、理屈は同じだ」
俺は頷きながら説明を続けた。
レイラはやはり飽きたらしく、納屋から出ていった。大方その辺で遊んでいるのだろう。気配はそう遠くに行っていないので、放っておく。
「ウッドクンから出た煙が食材にしっかり絡むと、それだけで瘴気の中和になる」
「これは、他の木材では難しいのかしら?」
「ああ。色々試したが、やっぱり最後はドライアドに戻ってくる事になる」
そうでもなければ、俺だって何かしらの声を発する木を使い続けようとは思わない。何しろ、人間がよく使う木達は、種類問わず口をきかないのだ。
何も話さない……つまり、安眠妨害もされない。安心安全設計。
「一応数も少なくなっていたから、俺だって遠慮して最初は他の木も使ってみてたんだよ」
俺はその時の事を思い出し、身震いする。
「お腹を壊した。胃痛も暫く治まらなかった」
しかもちょっと熱も出た気がする。魔王の身体は人間と比べると遥かに頑丈なようで、それまで病気の一つもした事が無かった。
それが瘴気の影響を中和出来ていない状態だと、なんと脆い物か。
「魔王でこれなんだから、人間は真似しない方が良いぞ!」
俺よりも頑丈じゃないしな!
「わかった、真似しない」
「……伐ったドライアドはウッドクンにするわ」
「おっと、ウッドクンで定着か」
ウッドクンって言ったの、勇者じゃん。何でちょっと残念そうなんだよ。
いや、それはそれとして、無駄にならなくて済んでよかった!
「えーっと、とにかく、ウッドクンを使ってドナベすれば、瘴気を中和出来るから! やってみてくれ」
「燻製は土鍋になったし」
「ん? クン、セイ……?」
俺が首を傾げると、勇者は「何でもない!」とぶんぶんと首を振った。あんまりにも振るものだから、ちょっともげそうではらはらした。
幸いにももげる事は無く、思ったよりは脆くない事が立証されたが。
「じゃ、ここから出るか」
ここまで説明したら、あとは良いだろう。俺は二人を促して納屋を出た。
「魔王様! 見てくれ、良い獲物だろう!」
出た瞬間に、オリヴィアは直ぐに地面に膝をつき、勇者は「強い……」と引き気味の表情で呟いた。
何しろ、レイラが満面の笑みを浮かべて片手にコカトリスを持って立っていたのだ。狩りたてほやほやである為に、どうも人間には刺激が強かったらしい。
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