10 / 44
敏腕
しおりを挟む
朝食を終えて私室に籠ろうとするシャンフレック。
今日は執務室ではなく、自分の部屋で公務をしたい気分だ。
そんな彼女の後ろを、アルージエがついて来ていた。
「……あの」
「どうした?」
「私、これからお仕事」
「知っている。僕も手伝おうと思ってな。もしかして迷惑だったか?」
別に迷惑ではないし、むしろ嬉しい気持ちはある。
しかし……客人を私室に入れるわけにもいかない。
「迷惑じゃないわ。ただ、あの……あまり部屋を探らないでちょうだい」
「ああ、心得た。僕は雑用に使ってくれて構わない。無駄に動かないから安心してくれ」
予め念押しして、アルージエを部屋へ招き入れる。
部屋の中央にはどかんと置かれた安楽椅子。
普段は安楽椅子でだらしなく過ごしているシャンフレックだが、アルージエの前では見せられない姿だ。
「あ、やば。本が……」
そして、地面には大量の本が乱雑に置かれている。
片づけするのを忘れていた。
書物特有のスモーキーな匂いが鼻をくすぐる。
「おお、こんなに本が……! 勉強熱心だな、シャンフレックは」
「ちょ、見ないで……」
「この椅子の下に置いてあるのは経営本か。シーツにはファッション誌のような本もくるまっている。ははっ、なぜか皿の上に本が乗っているぞ!」
「ちょっと、部屋を探らないでと言ったでしょう!?」
とはいっても、目に見えるところに本が散乱しているのだからアルージエの反応も仕方ない。片づけしなかったシャンフレックが悪い。
「すまん。デリカシーがなかったな。というわけで、僕に指示があれば言ってほしい」
「そうね……ええと。とりあえずそこに座って、この書類をまとめてくれる?」
シャンフレックは事前に考えていた課題を与える。
少量の会計文書をファイリングしてもらう。
領民の情報が書かれているものについてはシャンフレックが取り扱うが、財政に関する書類ならば渡しても問題ないだろう。
「了解した。では、お互いに仕事を始めよう」
正直なところ、アルージエには労働力としての期待はしていない。
記憶喪失だというし、適切な判断もつかないだろう。
本人が仕事をしたいというので、無理に与えているだけだ。
シャンフレックはさっさと仕事を終わらせるために、集中して仕事に取り組んだ。
そして数分後。
「終わったぞ」
「はやっ!?」
渡した文書は少量とはいえ、あまりに早すぎる。
シャンフレックは困惑しつつもアルージエの成果物を確認した。
「すごい……本当に整理できてるわ……あれ? 会計の結果がすべて書かれてる……?」
あとでシャンフレックが記入しようと思っていた会計欄に、すべて数字が載っている。これは明らかに自分の文字ではなく、彼女は困惑した。
「間違いがあったら申し訳ないが、すぐに終わりそうだったので書かせてもらった。何度も確認したので大丈夫だとは思うが」
「そ、そう……計算も問題なくできて、仕事が早いと……」
本気を出したシャンフレックと同等の消化スピードだ。
やはりアルージエは日頃から政務に携わる身分だったのでは?
驚愕の有能さを見せたアルージエに感心しつつも、少し妬いてしまう。
「いいわ。もっと仕事を押しつけてあげる!」
「本当か!? 助かる!」
「ぐっ……」
いっそ彼に仕事をすべて投げてしまおうか。
そう考えたシャンフレックは直前で踏みとどまる。
「とりあえず、明らかになったこと。それはアルージエがとても優秀な人材だということね」
「なるほど。きみが言うからには間違いないのだろうな。それなら、僕はこの能力をきみのために尽くしたい。構わないだろうか」
「そんなことを言われて否定する人はいないでしょう。じゃあ……そうね。二人で力を合わせて、さっさと今日の仕事を終わらせてしまいましょうか」
馬鹿みたいに誠実なアルージエに応えるには、シャンフレックも素直に好意を返すしかない。
正解を悟った彼女は、アルージエの献身をすべて受け止めることにした。
今日は執務室ではなく、自分の部屋で公務をしたい気分だ。
そんな彼女の後ろを、アルージエがついて来ていた。
「……あの」
「どうした?」
「私、これからお仕事」
「知っている。僕も手伝おうと思ってな。もしかして迷惑だったか?」
別に迷惑ではないし、むしろ嬉しい気持ちはある。
しかし……客人を私室に入れるわけにもいかない。
「迷惑じゃないわ。ただ、あの……あまり部屋を探らないでちょうだい」
「ああ、心得た。僕は雑用に使ってくれて構わない。無駄に動かないから安心してくれ」
予め念押しして、アルージエを部屋へ招き入れる。
部屋の中央にはどかんと置かれた安楽椅子。
普段は安楽椅子でだらしなく過ごしているシャンフレックだが、アルージエの前では見せられない姿だ。
「あ、やば。本が……」
そして、地面には大量の本が乱雑に置かれている。
片づけするのを忘れていた。
書物特有のスモーキーな匂いが鼻をくすぐる。
「おお、こんなに本が……! 勉強熱心だな、シャンフレックは」
「ちょ、見ないで……」
「この椅子の下に置いてあるのは経営本か。シーツにはファッション誌のような本もくるまっている。ははっ、なぜか皿の上に本が乗っているぞ!」
「ちょっと、部屋を探らないでと言ったでしょう!?」
とはいっても、目に見えるところに本が散乱しているのだからアルージエの反応も仕方ない。片づけしなかったシャンフレックが悪い。
「すまん。デリカシーがなかったな。というわけで、僕に指示があれば言ってほしい」
「そうね……ええと。とりあえずそこに座って、この書類をまとめてくれる?」
シャンフレックは事前に考えていた課題を与える。
少量の会計文書をファイリングしてもらう。
領民の情報が書かれているものについてはシャンフレックが取り扱うが、財政に関する書類ならば渡しても問題ないだろう。
「了解した。では、お互いに仕事を始めよう」
正直なところ、アルージエには労働力としての期待はしていない。
記憶喪失だというし、適切な判断もつかないだろう。
本人が仕事をしたいというので、無理に与えているだけだ。
シャンフレックはさっさと仕事を終わらせるために、集中して仕事に取り組んだ。
そして数分後。
「終わったぞ」
「はやっ!?」
渡した文書は少量とはいえ、あまりに早すぎる。
シャンフレックは困惑しつつもアルージエの成果物を確認した。
「すごい……本当に整理できてるわ……あれ? 会計の結果がすべて書かれてる……?」
あとでシャンフレックが記入しようと思っていた会計欄に、すべて数字が載っている。これは明らかに自分の文字ではなく、彼女は困惑した。
「間違いがあったら申し訳ないが、すぐに終わりそうだったので書かせてもらった。何度も確認したので大丈夫だとは思うが」
「そ、そう……計算も問題なくできて、仕事が早いと……」
本気を出したシャンフレックと同等の消化スピードだ。
やはりアルージエは日頃から政務に携わる身分だったのでは?
驚愕の有能さを見せたアルージエに感心しつつも、少し妬いてしまう。
「いいわ。もっと仕事を押しつけてあげる!」
「本当か!? 助かる!」
「ぐっ……」
いっそ彼に仕事をすべて投げてしまおうか。
そう考えたシャンフレックは直前で踏みとどまる。
「とりあえず、明らかになったこと。それはアルージエがとても優秀な人材だということね」
「なるほど。きみが言うからには間違いないのだろうな。それなら、僕はこの能力をきみのために尽くしたい。構わないだろうか」
「そんなことを言われて否定する人はいないでしょう。じゃあ……そうね。二人で力を合わせて、さっさと今日の仕事を終わらせてしまいましょうか」
馬鹿みたいに誠実なアルージエに応えるには、シャンフレックも素直に好意を返すしかない。
正解を悟った彼女は、アルージエの献身をすべて受け止めることにした。
1
お気に入りに追加
1,031
あなたにおすすめの小説
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~
木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。
少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。
二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。
お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。
仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。
それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。
こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。
幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。
※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。)
※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。
なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。
そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。
そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。
クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる