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許されたことではない

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 いきなり現れたメアは己を神と名乗った。
 少なくともトリナの知る神は竜であり、人ではない。

 だが、有無を言わさぬ覇気があった。
 威圧感を放っていた。
 それだけで二人にメアが神だと信じさせるには充分だったのだ。

 メアはフレーナに大きな傷がないことを確認して安堵する。
 邪気を察して急いで来たかいがあった。

 「そこの村人、少し痛むぞ」

 メアはトリナに向けて言い放った。
 何をされるかと身構えたトリナ。
 だが、彼女の警戒は無意味だった。

 メアの姿が一瞬にして掻き消え、気づけばトリナの側方に。
 彼の手には紫色の石。
 そして中空には金色の鎖が瓦解して待っていた。

 「え……」

 唖然として目を回すトリナ。
 瞬間、彼女を虚脱感が襲って倒れ込んだ。

 慌ててシーラが駆け出し、トリナの身体を支える。

 「いったい何を……!」
 「邪石でネックレスを作るとはな。これは拾った物か?」

 一瞬の間に、メアはトリナのネックレスを破壊して奪い去ったのだ。
 ネックレスの中核には件の邪石が嵌め込まれていた。

 トリナが頭痛に悶えている代わりに、シーラが返答する。

 「その石は森の中で見つけたものです。最初は私が見つけたのですが、トリナがネックレスにすると言って……」
 「そっか。この石は人に災いをもたらす。
 その村人が暴力に働きかけたのも、邪石の精神汚染の影響だろう。
 ……それはともかくとして、許されたことではないがな」

 メアは邪石を入念に魔力で覆い、ひとまず無力化する。
 それからフレーナのもとに歩み寄った。

 「がんばったな、フレーナ。一人で心細い中、よく耐えたよ。
 お前は村人を恐れてるのに……自分の意志を貫いた」
 「私は……うん、がんばりました。言いたいことを言っただけで、大したことはしてないですけど。メア様のことを思うと勇気が湧いてきて」

 そっとフレーナは抱きしめられる。
 メアの抱擁とともに、どっと安堵が襲ってきた。
 このまま泣き崩れてしまいそうだが、なんとか堪える。

 「また買い物に行こう。破けてしまったドレスを買い直して、一緒に世界を歩こう。帰ったらお前の料理が食べたい。俺の家族として、やってくれるか?」
 「はい……はい! ぜひ!」

 メアは満足したように頷いた。
 一方、ようやく頭痛が収まったトリナは前方の光景に目を見開いた。

 神にフレーナが抱きしめられている。
 まさか本当に、家畜ではなく家族だとでも言うのだろうか。

 「っ……」

 だが、怒りは先程のように上ってこない。
 むしろトリナの胸中を支配したのは……後悔。

 神の家族を相手に、あのような真似をしてしまったこと。
 そもそも生贄に捧げられた時点で、フレーナは村の人間ではなく神殿の住人。
 邪石による精神汚染が消えたおかげでトリナは冷静さを取り戻していた。

 「あ、あの……神様」
 「ん?」
 「た、たいへん……失礼いたしました! 神様に対して無礼を働くつもりはなかったのです! あの、どうか罰は……」
 「ああ、俺は別に罰とか下さない。ただし事実は記憶しているし、俺以外の人間が怒るかもしれないな。そこにいる……二人とか」

 メアはおもむろに振り向いた。
 彼の視線の先、茂みの中から赤髪の青年が姿を現した。

 「いやはや、申し訳ない。盗み聞きをする気はなかったのですが、何やらお取り込み中のようでして。邪石は見つかったようで何よりです」

 男……アイネロは笑顔で答えた。
 笑顔を浮かべているが目は笑っていない。

 そして、さらに後方より。
 呆然とした様子のクレースが顔を出した。

 「これは……どういうことだ? フレーナは引っ越したのではなかったのか?
 なぜトリナとシーラが山の中に?」

 彼は大量の疑問符を浮かべ、全員の顔を見渡した。
 クレースの視線を受けてトリナは硬直する。
 フレーナに関してついていた嘘がバレてしまう。
 おまけに、今この瞬間の事実を暴露されればおしまいだ。

 「すまないな、そこの二人。神は人間を罰しはしないが、公平でなければならない。
 フレーナが村で遭っていた差別、今さっきの出来事、俺がアイネロとクレースに語らせてもらう。もちろん、訂正や追加の情報があればフレーナに話してもらおう」

 青褪めた様子のトリナとシーラ。
 そんな二人を差し置いて、メアは先程までの出来事を語り始めた。
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