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うごめく野望
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「まったく……また夜会か、イザベラ」
リナルディ伯爵ウンベルトは、娘のドレス姿に苦言を呈した。
約半年前のことだ。
このリナルディ伯爵家に大金が舞い込んだのは。
曰く、リナルディ伯爵家に多大な借金を背負わせているフールドラン侯が『リナルディ伯爵家の蔵書を買い取りたい』と言ってきたのだ。
加えてクラーラの婚約者であるハルトリー辺境伯も、領地の一部を接収して借金の返済を協力してくれる……と。
まだすべての借金が返済できたわけではないが、少しは軽くなった。
その一方で舞い込んだ大金に浮かれ、ウンベルトの母子の金遣いは荒くなっている。
「いいじゃない、べつに? お金はまだたくさんあるんでしょう?」
「そういう問題ではない。大勢抜けていった使用人の再雇用に金を残さなくてはならんし、お前もいい加減に婚約者を見つけて身を固めなさい」
「ああ、ネチネチうるさい! 領地が減らされたんだから、私が夜会で良縁をつないで勢力を拡大しないといけないの。そうでしょう?」
「はぁ……」
イザベラはそう言って屋敷の外へ飛び出していく。
領地が減らされ、税収が減ったことは事実だ。
白魔術の名門伯爵家として勢力を拡大しなければいけないこともまた事実。
だが、金遣いの荒い家族がいては広い領地を取り仕切ることなど不可能。
今回だってハルトリー辺境伯とフールドラン侯に領地を接収され、むしろ助かった側面もあったのだ。
民の反乱もひとまず鎮めることができ、魔物の被害も撲滅できた。
ウンベルトの喫緊の課題は『妻子の浪費をなんとかすること』である。
さりとてイザベラに厳しくすれば、あの娘は癇癪を起こす。
白魔術を継承させることが役目のウンベルトにとって、一人娘のイザベラを追い詰めすぎることはできないのだ。
せめてクラーラが黒魔術なんかを学んでいなければ……と。
いまだにウンベルトは恨みがましく思っている。
「あら、あなた。またそうやって頭を抱えて……」
「ルイーザか。お前もまた夜遊びか? イザベラの縁談はそろそろ見つかりそうなのか?」
「もう少しかかりそうねえ。まあ気長に待ちましょう?」
呑気な妻に対して加速するウンベルトの頭痛。
せめて妻がまともであれば。
「そうそう。それよりも、あなた聞いた? ハルトリー辺境伯の噂よ」
「ハルトリー辺境伯……クラーラの嫁ぎ先か。彼が何か?」
「最近、夜会に顔を出し始めたそうよ。今までまったく社交界に出てこなかったのに、どういう風の吹き回しかしらね? しかもすっごく評判が良くて、近ごろは彼の話題で持ち切りだそうよ。私も早く会ってみたいものだわ」
「ほう……」
珍しく妻が有益な情報を持ってきた。
ハルトリー辺境伯といえば極度の出不精で、相手が国の重鎮であろうとも代理を立てる人見知りだと聞いていた。
それがどういう理由で表に出てきたのか。
ウンベルトはしばし思案に耽る。
ハルトリー辺境伯といえば、半年前に領地を割譲した相手。
その件と関係があるかもしれないし、もしくはクラーラの影響かもしれない。
どちらにせよ――これは好機だ。
ウンベルトは使用人を呼びつけた。
「おい。王都の夜会の予定と参加者の名簿を持ってきてくれ」
窮状を打開するには動くしかない。
狭まった視野の中、ウンベルトは予想だにしない計画に乗り出した。
リナルディ伯爵ウンベルトは、娘のドレス姿に苦言を呈した。
約半年前のことだ。
このリナルディ伯爵家に大金が舞い込んだのは。
曰く、リナルディ伯爵家に多大な借金を背負わせているフールドラン侯が『リナルディ伯爵家の蔵書を買い取りたい』と言ってきたのだ。
加えてクラーラの婚約者であるハルトリー辺境伯も、領地の一部を接収して借金の返済を協力してくれる……と。
まだすべての借金が返済できたわけではないが、少しは軽くなった。
その一方で舞い込んだ大金に浮かれ、ウンベルトの母子の金遣いは荒くなっている。
「いいじゃない、べつに? お金はまだたくさんあるんでしょう?」
「そういう問題ではない。大勢抜けていった使用人の再雇用に金を残さなくてはならんし、お前もいい加減に婚約者を見つけて身を固めなさい」
「ああ、ネチネチうるさい! 領地が減らされたんだから、私が夜会で良縁をつないで勢力を拡大しないといけないの。そうでしょう?」
「はぁ……」
イザベラはそう言って屋敷の外へ飛び出していく。
領地が減らされ、税収が減ったことは事実だ。
白魔術の名門伯爵家として勢力を拡大しなければいけないこともまた事実。
だが、金遣いの荒い家族がいては広い領地を取り仕切ることなど不可能。
今回だってハルトリー辺境伯とフールドラン侯に領地を接収され、むしろ助かった側面もあったのだ。
民の反乱もひとまず鎮めることができ、魔物の被害も撲滅できた。
ウンベルトの喫緊の課題は『妻子の浪費をなんとかすること』である。
さりとてイザベラに厳しくすれば、あの娘は癇癪を起こす。
白魔術を継承させることが役目のウンベルトにとって、一人娘のイザベラを追い詰めすぎることはできないのだ。
せめてクラーラが黒魔術なんかを学んでいなければ……と。
いまだにウンベルトは恨みがましく思っている。
「あら、あなた。またそうやって頭を抱えて……」
「ルイーザか。お前もまた夜遊びか? イザベラの縁談はそろそろ見つかりそうなのか?」
「もう少しかかりそうねえ。まあ気長に待ちましょう?」
呑気な妻に対して加速するウンベルトの頭痛。
せめて妻がまともであれば。
「そうそう。それよりも、あなた聞いた? ハルトリー辺境伯の噂よ」
「ハルトリー辺境伯……クラーラの嫁ぎ先か。彼が何か?」
「最近、夜会に顔を出し始めたそうよ。今までまったく社交界に出てこなかったのに、どういう風の吹き回しかしらね? しかもすっごく評判が良くて、近ごろは彼の話題で持ち切りだそうよ。私も早く会ってみたいものだわ」
「ほう……」
珍しく妻が有益な情報を持ってきた。
ハルトリー辺境伯といえば極度の出不精で、相手が国の重鎮であろうとも代理を立てる人見知りだと聞いていた。
それがどういう理由で表に出てきたのか。
ウンベルトはしばし思案に耽る。
ハルトリー辺境伯といえば、半年前に領地を割譲した相手。
その件と関係があるかもしれないし、もしくはクラーラの影響かもしれない。
どちらにせよ――これは好機だ。
ウンベルトは使用人を呼びつけた。
「おい。王都の夜会の予定と参加者の名簿を持ってきてくれ」
窮状を打開するには動くしかない。
狭まった視野の中、ウンベルトは予想だにしない計画に乗り出した。
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