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第12章 呪われ公の絶息
終わり、始まる
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卒業パーティーで歌唱を任されたエレオノーラ。
彼女はエンカルナとともに舞台に上がり、全身全霊で歌を贈った。
卒業生へのはなむけに。
どうかこの日が一生の思い出になりますように。
切なる願いをこめて歌いきった。
そして大仕事を終えて、彼女は外へ飛び出した。
まだ少し風が冷たい季節。
この薄手のドレスでは少し肌寒い。
「ふぃー……マジで疲れた。でも楽しかったなぁ……」
自分の歌で喜んでくれる人がいる。
その事実が何よりも嬉しいのだ。
今の自分ならば……帝国を救った歌声を、誇らしく披露できる。
「あ、いた」
パーティーを抜け出してきたことには理由がある。
一足先に外に出て行った彼を探すためだ。
「ペートルス」
「おや……エレオノーラ。もうパーティーはいいのかい?」
「話したい人とは全員話せたから。ペートルスは、もう学園に思い残すことはない?」
しばし瞑目して考え込むペートルス。
自分は学園でやり残したことはないだろうか。
最後に会っておきたい人、言っておきたいこと。
「……いや。卒業式に相応しい日にできたと思うよ。思い残すことはないかな」
皆は快くペートルスを受け入れてくれた。
あれだけの大騒動を起こして、多くの人に迷惑をかけたにもかかわらず。
今、自分はたくさんの人と縁をつないでいる。
その自覚が持てただけでも、ペートルスにとっては充分だった。
「そっか。じゃ、これで晴れてニルフック学園卒業だね」
「ああ。君も二年生になるね。きっとクラスNにも後輩が入ってくるだろうから、先輩らしく優しくしてあげてほしい」
「せ、先輩らしく……ね。わたしにそんな立派な振る舞いはできねえなぁ……」
「ははっ。礼儀正しく在る必要はない。君の自然な優しさ、かっこよさを見せてあげればいいのさ」
自分らしく、ありのままに。
ペートルスが憧れた生き方を体現するエレオノーラ。
はたして自分は今の生き方を維持できるだろうか……と彼女は少し考えた。
しかし生き方が変わったとしても、自分に正直に生きる本質は変わらないのだろう。
「あ、そうそう。まだ言ってないことがあったんだ」
一番大事な言葉。
ペートルスにまだ伝えていなかった。
「――卒業おめでとうございます、ペートルス様」
「うん……ありがとう、ノーラ」
これで『ノーラ』と『ペートルス様』の物語は終わり。
これからはまた新しい日常が紡がれる。
もっと深く、刺激的な日々へ。
過去を忘れるのではない。
過去の己に、今の己を重ねた上で『エレオノーラ』と『ペートルス』の物語を始めよう。
「僕も君にお願いしようと思っていたことがあったんだ。聞いてくれるかい?」
「もちろん」
ペートルスは懐から取り出した黄金の布を、そっとエレオノーラに手渡す。
「Shall We Dance?」
「Mypleasure!」
手を取って足を運ぶ。
踊りはそんなに得意じゃないけれど、それでも。
きっと人生最高の舞踏になる。
ペートルスにエスコートされて自然と足が動く。
輝く星空の下、情熱のワルツが刻まれる。
彼女はエンカルナとともに舞台に上がり、全身全霊で歌を贈った。
卒業生へのはなむけに。
どうかこの日が一生の思い出になりますように。
切なる願いをこめて歌いきった。
そして大仕事を終えて、彼女は外へ飛び出した。
まだ少し風が冷たい季節。
この薄手のドレスでは少し肌寒い。
「ふぃー……マジで疲れた。でも楽しかったなぁ……」
自分の歌で喜んでくれる人がいる。
その事実が何よりも嬉しいのだ。
今の自分ならば……帝国を救った歌声を、誇らしく披露できる。
「あ、いた」
パーティーを抜け出してきたことには理由がある。
一足先に外に出て行った彼を探すためだ。
「ペートルス」
「おや……エレオノーラ。もうパーティーはいいのかい?」
「話したい人とは全員話せたから。ペートルスは、もう学園に思い残すことはない?」
しばし瞑目して考え込むペートルス。
自分は学園でやり残したことはないだろうか。
最後に会っておきたい人、言っておきたいこと。
「……いや。卒業式に相応しい日にできたと思うよ。思い残すことはないかな」
皆は快くペートルスを受け入れてくれた。
あれだけの大騒動を起こして、多くの人に迷惑をかけたにもかかわらず。
今、自分はたくさんの人と縁をつないでいる。
その自覚が持てただけでも、ペートルスにとっては充分だった。
「そっか。じゃ、これで晴れてニルフック学園卒業だね」
「ああ。君も二年生になるね。きっとクラスNにも後輩が入ってくるだろうから、先輩らしく優しくしてあげてほしい」
「せ、先輩らしく……ね。わたしにそんな立派な振る舞いはできねえなぁ……」
「ははっ。礼儀正しく在る必要はない。君の自然な優しさ、かっこよさを見せてあげればいいのさ」
自分らしく、ありのままに。
ペートルスが憧れた生き方を体現するエレオノーラ。
はたして自分は今の生き方を維持できるだろうか……と彼女は少し考えた。
しかし生き方が変わったとしても、自分に正直に生きる本質は変わらないのだろう。
「あ、そうそう。まだ言ってないことがあったんだ」
一番大事な言葉。
ペートルスにまだ伝えていなかった。
「――卒業おめでとうございます、ペートルス様」
「うん……ありがとう、ノーラ」
これで『ノーラ』と『ペートルス様』の物語は終わり。
これからはまた新しい日常が紡がれる。
もっと深く、刺激的な日々へ。
過去を忘れるのではない。
過去の己に、今の己を重ねた上で『エレオノーラ』と『ペートルス』の物語を始めよう。
「僕も君にお願いしようと思っていたことがあったんだ。聞いてくれるかい?」
「もちろん」
ペートルスは懐から取り出した黄金の布を、そっとエレオノーラに手渡す。
「Shall We Dance?」
「Mypleasure!」
手を取って足を運ぶ。
踊りはそんなに得意じゃないけれど、それでも。
きっと人生最高の舞踏になる。
ペートルスにエスコートされて自然と足が動く。
輝く星空の下、情熱のワルツが刻まれる。
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