これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編5

魔大陸開墾編 1

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 その日、ADOを楽しむ全プレイヤーに一斉に届いたDM。
 それは今までは一度もなかった、サービスを停止してのアップデート。
 その期間はまさに他のゲームでも在り得ない二日間のログイン停止。
 これといったイベントを行っていないADOでの大型アップデートに、ADOユーザーは否応なく期待を高まらせた。
「新ジョブ実装か!?」
「新マップ追加とか!」
「大々的なイベント勃発か!」
「ゲーム趣旨の方向転換じゃね?」
 等々、色々と騒がれていたけれど、憶測とはいえ、かなり的を射たコメントも中にはあった。
 そんなADO推測で賑わっているSNSを、俺は会社の事務所で確認していた。
 一か月後のそんな大型アップデート、皆がワクワクしながらアップデート内容の発表を待ち望む中、俺には激務が待っている。
 今回のアップデート(と称したグランデ国宰相とアリッサさんの国の方向性のすり合わせ)までの間、俺は特別任務を申し渡されたのだ。俺の義理の母にして親会社の社長であるアリッサさんに。
 曰く、「魔大陸を使える大陸にしたいから、サラちゃんたちと協力して浄化して欲しい」とのこと。
 いや、今までも頼まれてたし細々とはやってたけどね。
 このアップデート終了までの期間中で出来る限り魔大陸を人の住める状態まで持って行きたいらしい。それはちょっと無理では、という言葉が喉元までせり上がって来たけれど、その後に「サラちゃんがルーチェくんと二人ならかなりの広範囲で浄化できるようになったから、健吾君には一つ一つの村や街を担当して欲しいらしいの」という付け足しにより、断ることが出来なくなった。
 村や街があの広すぎる魔大陸にどれほどあるかはわからない。けれど、グランデ国内で主要な街が十。その面積の大体七~八倍である魔大陸、概算だと大きな街は百程度のではないか、とアリッサさんが言い切った。充分多いと思う。そして、その街に置くための結界魔道具はヴィルさんを酷使して素材を集めて既に作ってあるから、持って行って、とのこと。
 俺より激務のアリッサさんは、いつ空いているのかわからない時間を使って魔道具を千個近く、既に作っていると。一つの村に大体三~四個。大きな街はそれの倍くらい。
 戦慄した。
 俺は自分がいつでも遊んでいるダメな人のような気がして、YES以外の返事が出来なかった。
 お願いだから身体壊さないでね、お義母さん。

 浄化業務の際、上司であり義兄のヴィルさんに俺がお願いしたのは、臨時バイトで雄太たちのパーティーを雇い入れてもらうことだった。
 はっきり言って俺の転移魔法陣で跳べる範囲はショボい。
 行ったことのある場所にしか跳べないから、ほぼ最初の村から中央までの本当にショボい範囲しか移動できない。かといって俺よりももっと広大な土地を浄化しないといけないルーチェさんたちに助っ人を頼むわけにもいかない。
 となると、ユイの転移に頼らざるを得ない。最近南の方にも進出している言っていたし。
 快諾してもらって、俺は雄太たちを職場に招き入れた。既に皆大学卒業の単位を取っていて、卒論提出済みでやることがないんだそうだ。良かった。
 仮眠室にはみんなの分の簡易ベッドが既に用意されている。
 ヴィルさんもログインして走り回っているし、それはヴィデロさんも同じ。
 だから俺の魔大陸移動はこれで雄太たちの了承が得られなかった場合一人だったのだ。それもう無理ゲーだよね。それはヴィルさんもわかっていてくれたので、最初はクラッシュに頼もうとしていたらしい。でもクラッシュも南の方には行ったことないと思うんだ。それに一応冒険者ギルド魔大陸支店のギルド長兼トレ雑貨屋魔大陸支店店長をしているから多忙を極めているはず。彼以外に魔大陸を拠点に出来る人はいないから。勇者たち以外は。
 雄太たちには本当に感謝。
 アップデートまでの一か月。俺たちは走り回りましたとも。

 そして大型アップデート当日。
 本当に小さな朽ちた村は放置して、ある程度大きな街を次々浄化していき、雄太たちが知っている街はあらかた使えるようになった状態で、俺たちは朝ログインした。
 今日から二日間はプレイヤーたちもログインできないからとクラッシュも巻き込んで、ルーチェさんたちと一緒に魔大陸の主要都市の確認に奔走するのだ。
 魔大陸にある国は、全部で八つ。
 魔王がいた中央の国が一番大きくて、周りを囲むように国があった、らしい。今は国境も何もあったもんじゃない程の荒れ放題だけれど。
 俺は早々にクラッシュと共にルーチェさんたちと合流した。
 雄太たちは今日明日に限っていきなり緊急クエストが舞い込んできたとかで、ヴィルさんに断って別で動いている。めっちゃワクワク顔だったので、多分絶対討伐系か何かだと思ったので、出来る限りのアイテムを持たせて送り出した。
 今俺の周りには、ルーチェさんとサラさん、クラッシュ、そして野次馬根性を出してくださった勇者とエミリさんもいる。
 そうそうたるメンバーだ。皆魔法も戦闘も最上級なので、俺一人ちまっとしているのは気のせいじゃない。

「じゃあまずは中央から『ソレイル』。北に行って『ガルラ』。西の大国『ランドザード』。その下の小さい国『フォンドゥン』。南西の国『エセス』。南の国『エピ』。横長の国『ビビオ』。そして、ジャル・ガーの住んでいた『ソルベ』。これが主要の国でいいわね」
「ヴィルから貰った地図でも同じことが書かれてるわね。大丈夫」

 サラさんとエミリさんがそれぞれ手にした地図を照らし合わせている。
 エミリさんが持っている地図は、俺も前に見せてもらったことがあるヴィルさんの地図。
 所狭しとあらゆることが書かれていて、いつ見ても空恐ろしくなる代物だ。逆にサラさんが手にしている地図は、まっさらで主要の都市の場所が書かれているだけのもの。
 これは本人たちが自分の目で見て書き入れたものだ。
 本当に全体的に回って来たんだ、とやっぱり空恐ろしくなる。

「こんな地図があれば、あの時もっと楽だったのにな」
「ほんとにな。結構苦労したんだぜ、この都市をまとめるの。俺ら東と中央しか移動してなかったろ」
「確かにな。西も行ってきたのか」
「くまなく浄化してきた。グランデの壁付近ぐらいの魔素濃度にはなったと思う」
「すごいな、ルーチェ」

 俺もそう思う、と勇者の感嘆の声に頷くと、ルーチェさんはさて、と俺を見た。

「マックはどのあたりを浄化して使えるようにしたんだ?」

 ルーチェさんの質問に、俺も持っていた自分の地図を広げた。
 一応、ブレイブ監修のもと、浄化して教会を使えるようにしてきた街はチェックしてある。
 一か月必死で頑張ったからね。佐久間さんにごねられながら。ご飯とか作ってる暇もなかったんだよ。

「中央の魔王の城は、そもそも瓦礫の山だったので、全然復興してないです。でも周辺の街は、前に浄化したところを中心にソレイル八都市、ガルラ六か所、ソルベは西側だけで四か所、ビビオが村含めて六ヶ所。エピが大きな都市だけ七か所、エセスがモロウさんの村周辺八か所、ランドザードが十一か所、全部で五十でした。結界の魔道具はまだまだ半数しか使ってない状態ですけど、時間が足りなくて」

 地図のチェックを数えながら答えると、ルーチェさんに「上出来」と褒められた。
 本当に、この一か月頑張ったんだよ。ルーチェさんとかエミリさんたちほどじゃないけれど。雄太たちが行ったことのある街はよかったけど、そこから行ったことのない場所までの移動は転移では無理で。南と西の魔物は北と東より明らかに強そうで。
 ブレイブだけを借り受けて雄太たちに魔物を倒して貰っている間に村の中を飛び回って結界の魔道具を置いて、浄化。MPを回復してまた次に行くの繰り返し。北から東の方は順調だったけれど、西の方になると山も邪魔してめっちゃ大きな亀裂とか渓谷とかあるのに道はなくて、飛翔と転移を駆使して移動。一日一つか二つ浄化できれば上出来だった。
 まだまだ小さな村は手を付けていないけれど、そこは大丈夫とアリッサさんに言われたので、大きいところの教会は使えるようにしてきたんだ。
 ルーチェさんたちも魔大陸をくまなく移動して、フィールドの方を浄化しまくって来たらしく、このままいけば獣人くらいなら魔大陸に来ても大丈夫なんじゃないかということだ。凄すぎる。

「そうだ。面白いものをゲットしたんだよ。マック、ちょっとこれ見てくれ」

 ルーチェさんが差し出して来たものを何気なく手に取って、鑑定眼で見てみると。

『エンブレム(vivio):その国を象徴する紋章の彫られたエンブレム。複数個集まることにより、本来の力を発揮する』

 見るからに重要そうなそのアイテムに、ヒェ、と声が出る。
 たった一つのコインのようなものだけれど、何かが違う。複数個集まると本来の力を発揮するって、その本来の力って一体何なんだ。
 そっとルーチェさんに返すと、ルーチェさんはそれをカバンにしまい込んだ。

「これな、シークレットダンジョンと同じようなダンジョンで見つけたものなんだ。魔大陸はグランデなんか目じゃないくらいシークレットダンジョンが多くてな。面白くてついつい入っちまった」
「魔物が結構いい物を落としてくれるのよ。マック君、オーブ買わない? 安くしとくわよ」
「オーブ……ってまだオーブあるんですか!?」
 
 魔王を倒したことで、ルーチェさんが散々入っていたシークレットダンジョンはもう用済みになったはずなのに、この人達は一体何をしているんだ……
 ニコニコと荷物からオーブを取り出すサラさんに、思わず嘆息する。
 欲しいけどね! そりゃ魔法憶えられるから欲しいけどね。バカ高いじゃんオーブ。

「この大陸では、クリアオーブの代わりにこのエンブレムが出てくるんだよな。今の所集まったのは二個だけだけど、これはちょっと集めた方がいいと思って」

 ルーチェさんがエミリさんに目配せすると、エミリさんがそうそう、と話を引き継いだ。

「現状シークレットダンジョンに入れるの、『高橋と愉快な仲間たち』だけじゃない? だから、ちょっとヴィルに頼んで今日一日あの子たちを借りて、エンブレム集めを頼んでいたの。勿論出て来たオーブは好きにしていいっていう条件も付けてね。買取もするわよ」
 
 なるほど、今日の雄太たちの別行動はこれか。これだな。
 エミリさん……連携がシャレにならないんだけど。

「異邦人たちが来ないのって今日明日だけじゃない。その間に出来るだけダンジョンに入って貰って、エンブレムの出る傾向をまとめて貰いたくて。その代わり今日はマックのお供は私達ね」

 お供って、雄太たちよりも最強のお供が出来てしまった。
 でもルーチェさんがいるのは本当に心強い。
 ルーチェさんは俺がチェックしていた地図を手に、これがあればすぐ行けるな、ととんでもないことを言い出している。そうだった。ルーチェさんは座標での転移魔法陣を覚えてたんだった。だから座標さえわかれば行ったことがない場所でも跳べるんだった。最強すぎる。

「んじゃ、行くか」
 
 そんなルーチェさんの一声で、俺たちは行動を開始した。
 そして、浄化完了した街のチェックをほぼ一日で終えた。もうさ、次元が違うよね……

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