これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編4

第三の神の御使いの欠片を求めて 9

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 ロウさんに案内された入り口付近の一角で、レシピに載っている素材は全てそろえることが出来た。ちなみに、俺もその恩恵で鉱石を貰うことが出来た。お礼は長老様へのお菓子をとロウさんに言われたので、一番よく出来たスイーツを出そうと心に決めて、里へ帰ることとなった。ちなみに、ヴィルさんとクラッシュはまだまだ中を探索中らしい。端末型魔道具で連絡を取ったところ、錬金関係はいても何も出来ないし、行けるところまで行きたいから後は任せるとのこと。

 長老様の館に着くと、早速集めて来た素材で錬金が始まった。

 俺とサラさんとヴィデロさんは見届け役兼講師として、少しだけ手助けすることに。

 件の錬金釜は一つしかないので、一人ずつ行うことになった。

 その中でもし錬金釜が気に入った人がいれば、おのずとわかるんだそうだ。

 

 最初はサリュが錬金を始めた。

 教えたとおりに、ほんの少しだけ躊躇いながら、棒を回す。

 重そうに必死で棒を回して、何とかカランという音と共に、第一回目の錬金を成功させた。

 次いで輪廻。

 輪廻は途中のグルグル回す場所で歯を食いしばっても回らなくなり、ヴィデロさんがほんの少しだけ手助けした。俺では力になれない程の抵抗感だったから。

 それでも、失敗することなく何とか一つのアイテムを作り上げていた。

 最後はセブン。

 石を扱う手つきはとても丁寧で、一つ一つ鑑定しては一番状態のいい物を選んで釜に入れていった。

 今度は特に苦労するところも見せずに、指定されたレシピのアイテムを作り上げた。

 言われなくてもわかる。釜は、セブンに懐いたらしい。

 もう釜は暴走することなく、静かに佇んでいた。



 長老様の部屋の襖がすべて開け放たれる。

 いつもの景色が戻ってきて、息苦しかった空気がようやく普段のものに戻って来た。

 

「今出来上がったものは、それぞれがお好きにして大丈夫よ。お疲れ様。大変だったでしょう。休憩しましょうね」



 長老様が手をパンパンと叩くと、いつものエルフの人がお盆を手に入って来た。

 開け放たれたことで、縁側にはずらりと護衛の人たちが座っている。師匠たちもお茶を手渡されて、嬉しそうに『祈り』を唱えてキラキラと光らせていた。



「サリュ君、輪廻さん、この度は御足労頂いて、本当にありがとうね。私の肩の荷も下りました。そして、セブンさん。この神の御使い……錬金釜を、大切にしてね。どう使うのもそれはあなたの自由だけれど、過ぎたる欲望は周りをも巻き込んで悪い方へ流れてしまうわ。でもそれもその方の裁量なのでしょうけれど。その子をよろしくね」

 

 おっとりと長老様に言われて、セブンは少しだけ難しい顔をした後、深々と頭を下げた。



「わかりました。俺がどれだけ出来るかわかりませんが、出来る限りやってみます。目の前に錬金術の師匠もいることですし、もし素晴らしい物が出来上がったらこの釜のお礼として持ってきてもいいでしょうか」

「あら、それは素敵ね。私は武器を扱うことは出来ないけれど、腕自慢のロウがきっと喜ぶわ。あなたも、マック君と一緒に素材の採取にいらっしゃい。裏の鉱山もいつでも来ていいわ。ただし、魔物に注意してね。もうすぐ地図も出来上がると思うのよ」

「地図?」

「ええ。ヴィルが奥に行くというので、出来たら地図を描いて欲しいと依頼しておいたの。採取場所もきっとその地図でわかると思うわ」



 ころころと笑う長老様に、皆が苦笑した。

 ヴィルさん、好奇心を満たすだけじゃなくて、ちゃっかり依頼まで受けていたなんて。これはもう、ヴィルさん嬉々として地図作りをやっていそうだ。

 そうなると今度は俺が依頼をこなす番。



『【NEW】甘味の納品



 エルフの里の長老様が極上の甘味を所望している

 とっておきの甘味を届けよう



 タイムリミット:2:32:45



 クリア報酬:錬金素材【鉱石】 エルフの里秘蔵レシピ』



 失敗に対する欄がないので、失敗したところで俺にデメリットはないらしい。

 でも、とインベントリをチェックする。

 この間輪廻の所から沢山の新種の果物を分けてもらったんだ。まだ世には出ておらず、この間ようやく量産体制が整ったところの果物だ。輪廻の植物用調薬アイテムと俺のカイルさん農園錬金レシピのアイテムを駆使して、色々と実験して、その報酬で沢山貰った、まるで赤い宝石サクランボのような果物。輪廻が「チェリー」と連発していたので、トレアムさんがそのままチェリーと名付けた新果実。それを色々とお菓子にしてみたものが沢山インベントリに入っていた。試行錯誤が楽しくて、結構な量がある。

 皆が見ている中、チェリーのお菓子を次々出していく。全て五個くらいずつあるので、足りなくはないと思う。

 チェリー大福、チェリーゼリー、チェリータルト、チェリーのショートケーキ、チェリームース、チェリーマフィン。

 ずらっと並べると、かなり壮観だった。ちゃんとチェリーを飾って可愛らしい見た目にしているので、見た目も楽しめる。味はヴィデロさんとヴィルさんのお墨付き。



「素敵ねえ。可愛らしい果実だこと。これは輪廻さんの所の果物かしら?」

「はい。トレアムさんと俺とマックで品種改良して、口当たりのまろやかな物をいつでも食べられるように育てたものです」

「それは素晴らしいわ。きっと上品なお味なのでしょうね。私は、そうね、これをいただこうかしら」



 長老様はチェリー大福を手にした。大福のような和菓子はエルフの里の特産品のようなものだから、慣れている味だと思う。だったら、と俺はチェリームースも手渡した。喉越し滑らかで、とても食べやすいんだ。

 長老様は俺のお薦めを見て、嬉しそうに手を叩いた。

 スッと音もなく、お茶を淹れてくれたエルフさんがやってきて、俺が出したお菓子を見て目を輝かせた。



 皆がお菓子を食べ終えたところで、ピロンとクエストクリアの音が鳴った。

 勇者はどうしても王女様と娘ちゃんに食べさせたかったらしく、まだ手の付けられていないお菓子を買い取れないかと俺と長老様に懇願し、ルーチェさんは自分の分をサラさんにあげようとして、食べないのはもったいないと無理やり口に突っ込まれていた。エミリさんは大福を食べて「懐かしい」とニコニコし、師匠たちは一つと言わず何個か口にため込むように流し込んでいた。



「よかった、ランクSクリアだ」



 ちらりとクエスト欄を見て、ホッと息を吐く。

 これで色々と一件落着かな、と思ったところで、端末型魔道具に着信があった。

 すぐに出ると、ヴィルさんからの救援信号だった。



『鉱山の奥にちょっと手に負えない魔物がいるから、誰か助っ人を頼む』



 その声に手を上げたのは、勇者、ルーチェさん、サラさん、エミリさん。

 最近腕が鈍っているから、腕試しだ、と言って、迎えに来たクラッシュと共に鉱山の奥に転移して行ってしまった。

 その素早さに呆気にとられつつ、ヴィデロさんが「あのメンバーなら俺はいかなくてもいいな」と苦笑しているのを見て、確かにと笑った。





 素材をたんまりゲットして、俺はセブンを自分の工房に招待することにした。輪廻も来たいというので、皆で移動。師匠たちは早速奥の温室に行ってしまったので、俺は輪廻とセブンにモントさん秘蔵のお茶を淹れ、聖水茶にして出した。



「二人ともお疲れ様。セブン、これからは錬金術師だね」

「ああ。でも、錬金術師なんてADOは実装されていないって言われていたのに」

「それはね、錬金釜の在り方がとても危ない物だからなんだ」



 俺は、時折ヴィデロさんにフォローしてもらいながら、魔王のこと、魔大陸のことをセブンに教えた。錬金釜を持つには、せめて知っておいて欲しいから。そして、勇者たちの真実と、俺たちと魔王の戦いのこと。ついでに輪廻の言う移住組のことについても、ヴィデロさんと共に話した。

 エルフの里に行って、錬金釜を手に入れられるということは、知ってもらっても大丈夫だし、セブンならきっと悪いようにはしないから、というヴィデロさんのお墨付きによって。

 元プレイヤーで、今は生身でこっちに来て、生涯をここで過ごそうとしている輪廻の話を聞いて、セブンはとても複雑な顔をして、言葉もないようだった。

 無言でお茶を一気飲みし、上を向いて唸り、下を向いて口を手で覆い、しばらく挙動不審な動きをした後、背筋を伸ばして、ヴィデロさんの方を向いた。



「俺も、移住したいです」



 とても、真面目な顔をして、セブンはそう言った。



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