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番外編4
第三の神の御使いの欠片を求めて 8
しおりを挟む「お久しぶりです、長老様」
「あらあら、サラじゃない。婚姻おめでとう。私はここから動けなくて、どうお祝いしようか考えていたのよ。あなたから来てくれて嬉しいわ」
「私もまたここに来れて嬉しいわ。けれど、ちょっと状況は嬉しくなさそうね」
「そうねえ。流石に抑えきれなくて溢れさせてしまったわ」
和やかな雰囲気で、とても濃い内容の話をする長老様とサラさんは、切羽詰まったこの雰囲気をいい感じで和ませてくれた。
でも目の前の凶悪な錬金釜をどうすればいいのかさっぱりわからない。
和やかな二人の会話の合間にも、釜の謎液体はガボガボと溢れてきている。
「どうすればいいのかさっぱりわからない」
「そうだな」
俺の呟きに、ヴィデロさんが苦笑して同意する。既に臨戦態勢は万端で、剣の柄に手をかけている。後ろから入って来た候補者三人は、ちょっとだけ逃げ腰風だ。
「マック君、ちょっとお願いがあるのだけれど、あなたの錬金レシピを貸してくれないかしら」
長老様がおっとりとした口調でお願い、と手を合わせて来るので、一も二もなく頷くと、俺は持っているすべてのレシピを出した。畳の上に置いた途端、レシピは勝手にペラララララ……と捲れ出した。
そして、白いページが数枚抜け出すと、宙を舞ってひらりと今回見つけた三人の手元に飛んで行った。
三人がそれに触れた瞬間、その紙が色づいていく。
「『金剛紅石英』ってなんだそりゃ」
「俺のは『漆黒藍水晶』ってなってる」
「僕のレシピには『玉翠琥珀石』と出ています」
三人とも首をかしげている。
やり方すらわからないよね。
俺たちはサポートってところかな。
なんとなく当たりをつけていると、長老様が満足げに頷いた。
「皆様資格ありのようで嬉しいです。そのレシピは、後ろで駄々を捏ねているこの子が欲している物です。鉱石が好きな子なのね。皆にはそのレシピを使って、錬金に挑戦してほしいのよ。この子が気に入るものを作ってくれたら嬉しいわ」
「駄々……」
俺とヴィデロさんが苦笑すると、サラさんが声を出して笑った。
「そうよね。昔から、錬金釜は気難しい子が多いものね」
「そうなのよ。この子は特に好き嫌いが激しいのよ。流石に私のようなお婆ちゃんには少々骨が折れるわ。だから、この子を可愛がってくれると嬉しいのだけれど」
おっとりと頬に手を添えた長老様は、適合者の三人を自分の方に呼んだ。
おっかなびっくり三人が近付いていくと、ボコボコとあふれ出していた謎液体がキラキラと蒸発した。
溢れていた中身もなくなり、見る限り普通の錬金釜に戻ったのを確認すると、長老様は三人に「素材はどれかわかるかしら」と声を掛けた。
ちらりと見ると、鉱石系の素材の名前が並んでいた。この里で採れるかどうかはわからない。
「俺たちは錬金用素材ってひとつも持っていないんですけど、採取から始めた方がいいんですよね」
輪廻の言葉に、長老様はそうねえと頬に手を当てた。
「この村の奥に、昔採掘所だった場所があるのよ。最近はもう誰も行かないから魔物が住み着いてしまっているのだけれど、そこはかなり珍しい物も採れるの。サラ、あなたに護衛を頼めるかしら」
「いいわよ。他にも心強い護衛が沢山いるわよ。外にはエミリもいるから後で会ってあげて欲しいの」
「勿論。この子が落ち着いたらぜひご一緒しましょう。その時はマック君にお菓子の依頼をしたいわ。たまにとてもマック君のお菓子が食べたくなるのよ。いいかしら」
「勿論です。輪廻の所で作っているとても美味しい果実を沢山買い込んでいるので、沢山作りますね」
思わぬ依頼を受けて、俺は笑顔で請け負った。ピコンと音が鳴ったから、きっとお菓子作りはクエストになっていると思う。
三人は紙を片手に立ち上がると、長老様に行ってきますと挨拶をして、部屋を後にした。
俺も新しい場所と聞いてワクワクしながら一緒に付いていく。皆、謎素材を鑑定できるようになってるのかな。
職業柄、セブンも輪廻も鑑定は使えると思うから、もし錬金術師のジョブが手に入ったら、謎素材の素材名が分かるようになると思うんだけど。
外で勇者たちと合流し、ロウさん案内のもと、長老様の家のそのまた先に行く道を進んだ。ここは俺も初めての道だ。というか道があることすらわからなかった。
護衛されている輪廻は、ちらりと周りを見て、俺の肩をポンと叩いた。
「なんだよこの豪華護衛陣は」
そっと近づいて来てこっそりとそんなことを言う輪廻に思わず笑う。
獣人たちも物珍し気に周りをきょろきょろしながら一緒に付いてきているから、かなりの大所帯となっている。俺も新しい素材があるのかと思うとワクワクする。
ロウさんを先頭に皆ぞろぞろと森を抜けていった。歩きで大体15分ほど。そこには人気のない鉱山の入り口があった。
「ここは、今はもう使われていない鉱山だ。我らと鉱石はあまり相性が良くなくてな。まだ人族と関わっていた時代にはここから鉱石を掘り出し、売りに出していたのだが、関わりを絶ってからは閉めてしまったのだ。魔物もいるので、気を付けて欲しい」
皆がいい返事をする。ツルハシなんて持っていないや、とちょっと残念に思っていたら、セブンがインベントリからツルハシを出した。流石鍛冶師。
「すいません。ここって俺たち以外の人でも掘って大丈夫ですか?」
「構わない。一日や二日でなくなるほど埋蔵量も少なくはないだろうから、存分に掘ってくれ」
ロウさんの許可を得たセブンは、更にツルハシを取り出して、輪廻とサリュに手渡した。そして、俺たちを振り返った。
「他にやりたい人います? ツルハシなら大量に持ってるから貸し出しますよ」
俺たちの方を振り返ってそんなことを聞いていた。
「ほら、マックも。採掘レベルが低いと取れるものも少ないかもしれないけど」
「う、ううん。ありがとう。やってみたいとは思ってたけど、ツルハシなくてさ」
「マックの場合は採取レベルが高いだろうから、大丈夫だろ」
そうだね、と頷いて、壁に近付いてカンと岩にツルハシを打ち付ける。
ヴィデロさんと勇者とルーチェさんは見張り。サラさんとエミリさんは一緒にやるとセブンからツルハシを借り受けている。獣人たちは各々好きに動いていた。奥に行ってみる人、座ってお茶を飲む人等々。ヴィルさんとクラッシュは既に奥に向かっていってしまった。フリーダムだね。
痺れるような手ごたえと共に、足元に鉱石の原石が転がった。
それを鑑定してみて、素材名を確認する。やっぱりというか、錬金素材だった。
「お、『彩華鉱石』とかいうの出た」
「僕は『雲母石』というのが出ました」
輪廻とサリュも早速錬金素材をゲットしている。けれどセブンは変な顔をして首を捻っていた。
「なんで鉱石の名前がわかるんだ? 俺のは『謎素材』としか出ないんだけど」
手に宝石の原石のようなものを握りしめながら呟いたセブンに、俺は慌てて「ジョブ欄見て!」と声を掛けた。
「ジョブ欄……うわ、『錬金術師』とかいうのが新しく出てる」
「それをセットすれば鑑定でちゃんと素材の名前が出るからやってみて」
「わかった。サンキュ」
早速宙に指を這わせて設定を変更しているセブンを見ながら、輪廻が戸惑ったように手を止めた。
「え、俺の職業も『錬金術師』になっちゃったの? それはちょっとまずいんだけど。自分じゃジョブ動かせねえからさ。俺、『草花薬師』じゃねえとトレアムさんと一緒に農園出来ねえじゃん」
「あー、そこらへんは俺じゃわからないや。ヴィルさんなら何度も生身でこっちに来てるから後で聞いてみるといいよ」
俺の言葉に、輪廻は洞窟の奥の方に視線を向けながら頷いた。
「生身で来てる?」
俺たちの会話を聞いたセブンが怪訝な顔をする。輪廻はセブンの状態を気にもせずに「そうそう」と頷いた。
「俺、元はプレイヤーだったんだけど、今は移住組なんだ」
「移住……」
「あ、もしかして、知らなかった、とか。あれ、でも勇者たちと仲いいよな……?」
「懇意にしてもらってるけど、移住って一体なんだ?」
「……あれ、まずかったかな。そこらへんはさっき奥に入っていったヴィルさんに詳しく教えて貰って」
「……わかった」
会話しながらもツルハシを振るったセブンは、今度こそ鑑定で錬金素材の名前が分かるようになったためか、すぐにそっちに夢中になった。
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