これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
810 / 830
番外編4

第三の神の御使いの欠片を求めて 4

しおりを挟む
 四つ目の村で、熊の獣人の子が爆発させることなくグルグルと釜を回すことに成功した。

 でもまだ12歳なので、ジャル・ガーさんが唸っている。

 今は釜が暴走しかけていて危ないからね。獣人たちは本当に子供を大切にするし。

 一応今回の趣旨は最初に集まって貰った時に説明はしていた。

 この子も説明を聞いて、それを踏まえて釜を回してくれたんだけれど。

 あの緊迫した状態は、きっと安全な訳ではなくて。

 わずか12歳の熊の獣人を連れて行くのには抵抗がある。



「回せたということは、僕には欠片の暴走を止める力があるのかもしれないんですね」

 

 聡明そうな獣人の子供は、躊躇うことなく、行きましょう、とジャル・ガーさんを見上げた。

 そんなやり取りを見守っていたのは、この村に身を寄せている、元西の洞窟を守護していたモロウさん。

 実はこの子、モロウさんの血筋の子らしい。

 モロウさんは険しい顔をして、キリッとジャル・ガーさんを見上げる子を見ていた。

 熊獣人の子はサリュと名乗ってくれた。

 モロウさんは複雑な顔をしてサリュを見下ろすと、大きな手で頭を撫で、「俺は先に里に行ってる」とジャル・ガーさんの背中を叩いて、森の方に走っていった。

 サリュは俺たちと行動を共にすることにして、残りの村を釜を抱えて回った。



 結局、獣人の村での適合者はサリュだけだった。

 ヴィデロさんに連絡を入れると、ヴィデロさんたちは今砂漠都市にいるらしい。

 ウノの街から順にまわっているらしいので、俺たちは辺境街からまわって合流することにした。

 ということで、俺たちは辺境に向かった。

 冒険者ギルドに入っていくと、依頼用掲示板の所にバーンと大きく『告知!』と書かれた紙が貼ってあった。

 内容は『ジョブチャレンジ』と銘打たれていて、『依頼人の要望に応えることが出来たら、レアジョブに就くことが出来るかもしれない。異邦人たちはこぞって挑戦して欲しい』とのことだった。うまい。

 これはヴィルさんが考えたな、と思いながら、ジャル・ガーさんと共に窓口に声を掛ける。

 ギルドは既に受け入れ準備万端で、依頼用個室の一つを貸し切ってくれて、そこで挑戦する異邦人を一人一人見ることが出来るようになっていた。

 ギルドの中は既に「新しいジョブだってよ!」「レアジョブって上級職かな」「それとはまた別のやつじゃねえ?」「すげえ、俺やるわ」「俺も俺も」などと盛り上がっている。

 既にウノで挑戦したプレイヤーたちから情報が入っているらしく、色々と憶測やら何やらが飛び交っているのが凄い。この一大事はヴィルさんの手によって、一大イベントと化していた。

 

 釜をテーブルにセットして、ジャル・ガーさんがプレイヤーたちを待ち受ける。俺は隣の部屋で待機組だ。ヴィルさんは今はもうある程度顔が知れていて、もしや運営サイド、と噂されているので堂々と顔を出しているんだろうけれど、俺はね。違うからね。ヴィデロさんとクラッシュはもともと皆にこの世界の人として認識されているからどうとでもなるし。

 ヨシュー師匠が声を届けてくれる魔法陣をセットしてくれたので、おとなしく隣の部屋で会話を聞きながら待機していると、ドアがノックされた。

 返事をすると、ドアが開いて、顔を出したのは、勇者。



「よう、マック。また面白いことをやってるんだって?」

「あ、こんにちは。面白いこと……ではないんですけど」



 挨拶すると、勇者はその大きな体躯をドアから音もなく滑り込ませ、俺の隣の椅子に腰を下ろした。一緒に会話を聞く気マンマンなようだ。



「俺の弟子たちが大騒ぎしていた。またイベント始まった! ってな。高橋なんかユイを使ってわざわざ探しに行ったみたいだぞ」

「高橋……まあ、あいつらならやりそうですけど」

「で、あんな物騒なもんを取り出して来て、何があった」



 勇者は、この部屋に来る前に、隣の部屋に顔を出して来たらしい。

 そして、錬金釜を見て何かが起きたと気付いたようだった。

 

「第三の『神の御使いの欠片』がエルフの里で見つかりまして。主がいないので暴走しているみたいなんです。なので、今必死で主探しをしてます」

「また厄介な……」



 勇者は盛大に溜め息を吐いた。

 だよね。勇者はジャル・ガーさんたちの次にあの魔王の脅威を知ってるもんね。

 隣から届けられる声をBGMに、眉間のしわを深くした勇者に視線を向けた。



「そういえば、勇者はサラさんが錬金術師になった経緯を知ってるんですか?」



 エルフの里で、この世界の人族は釜を扱う資格がない、って言っていたのが引っかかっていた。じゃあ、どうしてサラさんは扱えたんだろう。

 ヴィデロさんはアリッサさんが異世界人だからっていう理屈が通るとは思うけれど、サラさんは完璧ここの人族だから。

 俺の質問に、勇者は少しの間考えるように目を瞑った。

 そして、口を開く。



「魔王を討伐できる魔力があるから、と国王に強制招集された時に会ったサラは、すでに錬金釜を使えていた。とはいえ、周りにはかなり内緒にしていたようだが。詳しい経緯は聞かなかったが、ルーチェと共にやんちゃしていた時に手に入れたらしい。詳しくは本人に聞いた方がいい」

 

 勇者はそう言うと、腰に下げていた小さなカバンから通信端末を取り出した。

 アリッサさんが実用化にこぎつけた通信端末は、今ではこの世界でもプレイヤー間でもなくてはならない物になっている。使い続けるとバッテリーじゃなくて自分のMPが減っていくのが玉に瑕だけれど。

 勇者は画面を操作して、連絡を入れた。



「よう、ルーチェ。サラは一緒か?」

『何だアル。連絡してくるなんて珍しいな』

「ちょっと今こっちの国で祭りが始まってな。サラが喜ぶかもしれねえと連絡を入れた」

『祭りかよ……なんだよ一体、ようやくこっちも形になって来たってのに』

「欠片関係だそうだ」

『……ほう』



 勇者の一言で、ルーチェさんの声もワントーン低くなる。

 きっとこの通信の先では不敵に笑ってるんだろうなと思わせる声音に、少しだけ畏怖を感じた。激戦を潜り抜けた猛者の雰囲気は怖い。



「今隣にマックもいるんだけど、来ねえか? 辺境のギルドだ」

『行く』



 通信が切れると、勇者がふう、と息を吐く。

 その後端末をしまうと、くそ、と舌打ちした。



「魔大陸に連絡を入れると一気に魔力が減るな」



 魔力お化けのような勇者でも舌打ちするほどの魔力消費はよくわかる。

 俺も調子に乗って手に入れた時に魔大陸にいる雄太に連絡を入れた途端、大量にあったMPが一気にガーッと減ってすごくビビったことがあるから。本当に五秒持たなかった。大陸を跨いだ連絡はいつも通りチャットで行った方がいいという結論に至った体験だった。そう考えると、アリッサさんが構築したこのアバター、とんでもなく優秀なんじゃなかろうか。死に戻るし。

 

「っていうか魔大陸に連絡を入れてそれだけ長い時間話せるほうが凄いと思います」

「マックもしたことあるのか」

「あります。今どこ、だけで終わりました。マジックハイパーポーションを片手に連絡入れないと使えません。いやむしろ、飲むのが追い付かない」



 真剣に返すと、勇者は声を出して笑った。

 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...