これは報われない恋だ。

朝陽天満

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759、閃光さんからのお誘い

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「それにしても孵らないなあ」



 また少しだけ大きくなった卵を撫でながら、俺は溜め息を吐いた。

 ブルーテイルの卵は、少しずつ大きくなっていってはいるけれど、全く孵る気配はない。

 生きてるのだけはわかるからいいんだけど、楽しみにしてるからか、気持ちが逸る。

 そんなとき、閃光さんから連絡が来た。

 ディーが聖域に行きたいらしいから、一緒に行かないか、という誘いだった。

 一も二もなくその言葉に飛びついた俺は、手狭になった籠に卵を寝かせて辺境まで跳んだ。



 今日のディーは最初に見た時のような、普通に大きな状態だった。

 閃光さんたちはパーティーで来ていて、俺と卵に普通に挨拶していた。卵を撫でて「大きくなったなあ」なんて目じりを下げる鉄骨さんは、どこぞの甥っ子姪っ子を見つめる叔父さん的な顔をしていて、すごくホンワカした。



「聖域ってのは一番行きやすいのが北の砂漠にある獣人の村に行く洞窟の所なんだ」



 と説明してくれる閃光さんは、すでに何回も行ったことあるみたいだった。

 砂漠都市にギルドの転移で跳んで、その後馬とディーで洞窟まで駆け抜けて、山を登るんだそうだ。

 あ、なんだ。アリオン君のお祖父ちゃんの所か。

 だったら、と俺は提案してみた。この人数だったら今ならあそこまで跳べるし。



「魔法陣魔法で北の洞窟まで跳びましょうよ。そしたら一瞬なので」



 手を差し出すと、三人は怪訝な顔をして俺を見ていた。

 魔法陣魔法、ユイがガンガン使うから結構知られてたと思ったんだけど。魔導士でも何でもない俺が使うのはおかしいのかな。

 首をかしげると、恐る恐る俺の腕に触れてきた閃光さんが「なあ」と口を開いた。



「魔法陣魔法ってそんな簡単に出来るもんなのか?」

「古代魔道語を覚えちゃえば多分」

「古代魔道語はディーに習ってるから習得済みだけど」

「あ、じゃあきっかけがあれば大丈夫だと思います」

「きっかけ……」

「それが一番難しいってもんだよ、マック君」

「そうそう。なかなか新スキルをゲットするきっかけなんてないのよ。ギルドで講習を受けたりする以外にはね。でもギルドでは魔法陣魔法なんて講習ないし。私あったら即座に受けてるわ」

「あ、俺も俺も」

「マックはどうやって覚えたんだ?」



 閃光さんの質問に、鉄骨さんとユーカリさんが知りたい知りたい! と手を合わせる。



「俺は、トレの雑貨屋の店主に教えてもらいました。結構強引に」

「トレの店主って、ああ。ギルドトップの息子か? 有名どころだな」



 俺の腕を握りながら、閃光さんがなるほどな、と頷く。

 クラッシュもかなり知名度あがったよね。

 閃光さんたちが魔大陸に行ってたりしたら多分クラッシュの店を馴染みにしてるだろうから、知らない方がおかしいのかな?



「じゃあ、跳ぶので俺の手に掴まってください」



 そういうと、慌てて二人も俺の手に触れた。ディーは小さくなって閃光さんの腕に収まっていてぬいぐるみ感が増している。可愛い。





 魔法陣を描いて、北の洞窟の前まで跳ぶ。中には入らないでこのまま山に向かうらしい。

 歩きでも聖域の入り口まで、ここから30分ほどで着くんだとか。



「俺たちは走るけど、マックはディーの背中に乗っておくか?」



 大きくなったディーの背中をポンポンしながら、閃光さんがとても魅力的なことを言ってくれた。

 え、いいの!? 乗ってみたい!

 ワクワクしてディーを見ると、ディーは俺が乗りやすいようにと伏せてくれた。



「あ、でも俺だけ乗るのっていいんですか?」



 一人だけ走らないなんて、とディーを撫でながら呟くと、閃光さんが笑いながら俺の頭を軽く小突いた。



「乗ってみたいって顔しながら遠慮すんなって。それに俺ら、スタミナ重視してるからハッキリ言って速いぞ。ユーカリがブースト掛けるからな。ついてこれるならいいが、どう考えても無理だろ。薬師ジョブだと」

「スタミナ……スピード……確かに、あんまりない、です」



 じゃあ乗れ、と言われて、俺は素直にディーの背中に乗った。

 乗ってよかった。絶対についていけないスピードだった。閃光の名前は伊達じゃなかった。速い。

 歩けば30分という移動時間は、走って5分程度と短縮された。



 聖域の入り口は、外からは全く見えない状態だった。

 単なる絶壁と思われた山裾に着くと、ディーが伏せた。俺を乗せた状態で、閃光さんが背中に乗ってくる。その後ろに鉄骨さん、そしてユーカリさんがディーに手を掛けたところで、ディーの身体がさらに大きくなった。

 4人を乗せたディーは、『しっかり掴まっておれよ』と俺たちに声を掛けると、よくわからない詠唱を唱えた。と思った瞬間、目の前が光って、さっきとは全然別の場所に着いた。あれだ。今のは光属性の移動魔法だ。ロウさんが使ってる魔法と同じだ。



『ここから少し歩くが、スタミナは大丈夫か?』



 背中から下ろしてもらっていると、ディーが声を掛けてきた。



「今は満タンだから大丈夫。乗せてくれてありがとう。すごく楽しかった」

『それは良かった。乗り心地がそれほど良くなくて申し訳ない』

「すごく心地よかったし、速くても怖くなかったよ」



 雄太に拉致られるときはあれだけの恐怖を感じるのに、似たようなスピードを出すディーの背中は快適とも言えた。

 貴重な体験ができた。

 俺は卵の籠を抱え直すと、一度卵に聖属性の回復魔法を掛けてから、皆と共に歩きだした。

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