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693、魔道具の素材は
しおりを挟む「しっかりと使えるようで安心しました。もしや、眼を鍛えておられますか?」
「ああ、はい。最近鷹の眼が限界値まで行ってしまって次はどうしようかと考えていた所です」
「鷹の目。それは素晴らしいですね。空間把握は完璧ですね。なるほどその魔石に気に入られるわけです。どうぞ末永く可愛がってくださいませ」
「はい。頑張ります」
ブレイブが真摯に頷くと、レガロさんは満足そうに微笑んだ。
そして、スッと一歩下がる。
今度はサラさんが立ち上がって、「じゃあ早速あなたたちに助言をしましょうか」ってノリノリで提案した。
「今あなたが手に入れた力で、『神の御使いの欠片』の場所は感じることが出来るわ。でも、それだけでは欠片は取り出せないの。欠片を実体化するのに必要なのは、釣り餌となる物よ」
「釣り餌……」
「目の前に餌をぶら下げれば、あれは我慢ってものを知らないから、きっと出て来るわ。その特性によって毎回魔王が出来上がったんだもの。でも、釣り餌を与えちゃうと力を取り戻しちゃうから、上手く目の前にぶら下げておびき寄せないといけないの」
サラさんが楽しそうに説明してくれているんだけど、あれ? 俺たち何の説明を聞いてるんだっけ? あれ? 釣り?
「そのためには、まず周りに漂う魔素を綺麗なものにしないといけない。餌に気付かれないどころか、姿を現さなくても常に食べ物がある状態になっちゃってるから。難しいけれど……」
「俺がピンポイントでその欠片の位置を特定できるんであれば、そう難しいことじゃないです」
「まあ、そうだな。魔道具とマックの浄化を使えばすぐだな」
ブレイブの言葉に、ガンツさんが頷く。さりげなく俺の役割が重要化されてしまった。やるけどね。やるからには最後までしっかりとやるけどね。何せヴィデロさんの故郷だもん。平和が一番。
「おいおいガンツ君。魔道具なんてそんな簡単に手に入らないだろ」
長光さんが極まっとうなツッコミをすると、全員がちらり、とヴィデロさんに目を向けた。
「それは大丈夫だ。俺が頼んでみる」
「ヴィデロ君が?」
「ああ。母が魔道具技師なんだ。結界の魔道具は作り方が単純だから素材があれば片手間に作れると言っていた。設置にかなりの魔力は必要になるが、ユイがいる。ユイだったら多分問題なく全て設置できるはずだ」
「あ、じゃあちょっとアリッサさんに聞いてみますね。さっきまでログインしてたから、上手くいけばまだログイン……してた」
俺は早速チャットを開いて、アリッサさんに結界の魔道具を作って貰えないかと送ってみた。それにしてもあの魔道具を片手間でって。アリッサさんって本格的な技術者だよなあ。カッコいい。流石ヴィデロさんのお母さん。
ほんの少し待ったところで、ピロンと通知が来た。アリッサさんからの返答だ。
「ええと、今素材が切れてるみたいです。魔大陸に設置するために秘蔵の魔石をバンバン使ってたら手元になくなったって。それが手に入ればすぐにでも作れるって。何なら素材が揃ってるならどこでも作れるって返ってきましたけど」
「あの魔道具をどこでも作れる……さすがアリッサね。いっそのことアリッサを現地に連れて行った方が早いかもしれないわね。私たちが魔物をアリッサに近付けないようにすればいいわけだし」
「エミリ、あまり無体はするな。彼女は戦えない者だ」
勇者に窘められて、エミリさんが肩を竦める。エミリさん、王太子をとっ捕まえて魔物の前に放り投げたくらいだし、勇者が窘めてくれてちょっとホッとした。最近わかって来たぞ。あのパーティーの中では、勇者が一番の常識人だ。王女様のことに関して以外は。うん。
俺は奥のテーブルを敢えてそっとしておいて、必要な素材が何なのか聞いてみることにした。
『中央山脈の洞窟から採れる『聖翠石せいすいせき』っていうエメラルドみたいな魔石よ。『聖蒼石せいそうせき』と『聖黄石せいおうせき』でも代用可能。でも性能は『聖翠石』がダントツね。魔大陸用のは全て『聖翠石』を使ってる。簡易結界は代用品で作ってる状態』
なるほど。あの山の石を使ってるのか。あの山、一度長光さんに連れて行ってもらったなあ、とふと思い出して、本人がいることに気付いた。
「長光さん。『聖翠石』って持ってますか?」
「『聖翠石』? わりい、さっきブレイブ君が買い取った魔石を弄るのに最後の石を使っちまった。その後採鉱に行ってないから今はないな。もしかして魔道具に必要なのか?」
「そうです。魔大陸に設置する魔道具に手持ちの『聖翠石』をありったけ使っちゃったらしくて。『聖蒼石』と『聖黄石』でも代用は可能らしいんですが、性能が段違いだって」
「蒼と黄か。そっちは持ってるんだけどな。確かに翠を使ったときの方が性能は段違いにいいもんが出来るが……かなりレアアイテムでな。俺も何度かに一つくらいしか手に入れることが出来ないんだよな。蒼と黄の石なら今持ってるぞ。見てみるか?」
うーんと唸った長光さんは、懐に手を入れて、手のひら大の宝石を取り出した。『聖蒼石』はすごく澄んだ暗い色合いの青い宝石で、『聖黄石』はすごく透明な薄い色の琥珀みたいな感じだった。綺麗。
渡されて手に持つと、俺はまじまじと石を見た。綺麗。
そっと鑑定眼で見てみると『聖蒼石:聖属性 聖なる魔素に包まれた場所から稀に採れる聖石 聖黄石と掛け合わされることで聖翠石が出来上がる レア度3 魔力値189』となっていた。ん? 待って。今物凄いヒントなかった?
「これとこれが掛け合わされると『聖翠石』が出来上がるって……掛け合わす?」
俺は一旦石を長光さんに返すと、サラさん錬金レシピと魔大陸産錬金レシピの二冊を取り出した。
近くのテーブルを借りてそこに置いて、パラパラとめくる。サラさんのレシピには『聖蒼石』と『聖黄石』を使ったレシピはなかったけれど、魔大陸産のレシピにはあったよ。
「やった!」
ついつい声を出して、そのページを食い入るように見る。
『聖蒼石』『聖黄石』『聖水』『理性の原液』『虫草(壮)』『雪森草』『無魔石』全部持ってる!
「『聖翠石』作れます! 多分! 失敗しなければ!」
思わず叫ぶと、長光さんが苦笑した。
「失敗しなければってのが笑えねえよな。難しいのか?」
「難しいかどうかもわからないけど、こっちのレシピに書かれてるのに簡単な物はあんまりないです」
俺がレシピを指さすと、長光さんは「上位のレシピはそうだよな……」と呟いた。顔に影が射している。これ、生産職に就いてる人なら誰だって味わうよね。それがまた面白んだけど。
レシピ本をしまおうと閉じると、いつの間にか隣に来ていたサラさんが「ねえ」と声をかけてきた。
「ちょっと見せてくれない?」
「あ、はい」
目を輝かせたサラさんは、俺の返事を聞くと、サラさんのレシピの方に手を伸ばした。
「やだこれ、私のレシピ、マックのレシピに書き換わってるわね。楽しい。すごく丁寧に作ってるのね。錬金なんて案外大雑把でも何かしら出来上がるのに」
「いやいやいや、失敗しますから。ボン、って煙吹いて」
「最初の頃何回かそれやったわ。楽しいのよね、あの失敗の状態」
声を上げて笑うサラさんの言葉に、俺は密かにショックを受けていた。最初の頃しか失敗しなかった、だと……? ふう、流石サラさん。っていうか俺の周り、スペック高い人多すぎだろ。俺は未だにちょっと気を抜くと失敗しそうになるのに。ヴィデロさんを待ってる間なんて、どれだけ失敗したか数えてもいないよ。
遠い目をしていると、サラさんが「それ、ここで作れないかしら。私見てみたい」と言い出した。
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