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692、重なり合うクエスト
しおりを挟む「ここで『神の御使いの欠片』に対する助言をもらい、溢れ出すモノの暴走を阻止しろってことなんですけど、そのことに対する情報を売ってください」
ガンツさんが代表してクエストのことをレガロさんに質問した。それに対して、レガロさんは少しだけ首を捻ってから、「それはですね」と口角を上げた。
「私がここで何か情報を差し上げたら、それは対価が発生してしまいます。何せ私のお店の中ですから。私が何気なく言葉にしたのであれば、それは助言になるのですが、そうやって質問されてしまっては、それは情報を売ることになってしまうので、助言ではなくなってしまいます。残念ながら、私が助言することは出来ません」
「えっ、じゃあ、質問方法間違えました!?」
レガロさんの言葉にガンツさんがショックを受けていると、「しかし」とレガロさんの視線が動いた。
「私以外にも助言を出来る方たちがいるかもしれません」
そう言いながらちらりとみるのは、後ろにいる勇者たち4人。
「サラなら色んな詳細を知ってると思うぞ」
「そうね。ルーチェ……セイジも走り回ってたから色々知ってるわよね」
「っつうかエミリならギルド権限で大分情報入ってくんだろ」
「あら。アルだったら王宮の資料読み放題じゃない」
4人が4人とも情報源があるらしい。頼もしい。
4人は顔を見合わせて笑い合うと、俺たちを手招きした。
わかったことは、魔王がいた地に『神の御使いの欠片』があること。これは俺たちも知ってた。でもそれは地面に埋まってるかなんかだと思ってたら、違った。
サラさんが言うには、城跡付近の一段と濃い濃度の穢れた魔素そのものが欠片を包み込んでしまっているらしい。
『神の御使いの欠片』をアイテムとして見つけるには、あそこの魔素を抑え込めばいいんだっていうけど。大陸中に濃い穢れた魔素がばらまかれてるんだけどそこの所はどうなるんだろう。
あれだけの穢れた魔素を抑え込むってどんな鬼畜仕様。
「ピンポイントで場所がわかるなら、魔道具使って聖魔法で魔素を綺麗にしちゃえば見つかりそうな物なんだけどな……」
ブレイブの言葉に、皆が頷く。
城跡って言っても一つの街があった場所だから、かなり広かったんだよね。あの広さを全て浄化するにはどれだけ浄化魔法を唱えないといけないのか。確か一発で浄化しないとすぐにまた穢れた魔素に浸透されちゃうんだったはず。
「ルーチェの眼があれば見つけることも出来たはずなんだけど、手放しちゃったのよね」
「でも手放さなかったら多分魔王に勝ててなかったと思うぜ。あの時全力で戦ったからな」
「そうよね、ルーチェの力、今までとは段違いだったものね」
「そういうからくりなんだろう。力があればその力を使いたいところまでたどり着けず、手放し別の力を手に入れると、その手放した力が必要になる。全く痛いところを突いてくる。神の御使いというものはとことんまで試練が好きとみえる」
4人がはぁ、と溜め息を吐くと同時に、店のドアがノックされた。
「今日は千客万来ですね。少々お待ちいただけますか」
レガロさんが店のドアに近付いていく。これだけの人数が店の中にいると、かなり店の中が狭く感じる。
ドレインさんは全ての説明をガンツさんに丸投げして、目をキラキラさせながら店内を見回している。ユーリナさんも似たような状態で、何かを手に取って「ちょっと高いけどこれは買わなきゃって本能が告げてる」とか言ってる。商品に見染められちゃったみたいだ。
「ようこそいらっしゃいました。今日はお客様が沢山いらしているので、少々混み合っておりますが、どうぞお入りください」
お邪魔します、と店に入ってきたのは、意外な人物だった。
「あれ、何で皆がこんなところにいるんだ?」
「あ、長光。お前こそ何でこんなところに来たんだ?」
「俺は店主さんからクエスト貰ってて、期限ぎりぎりにそれがクリアできたから滑り込みで」
「俺らもクエストで」
マジかよ、と頭を掻きながら入って来た長光さんは、俺たちを見つけて、「ようマック君、ヴィデロ君! 元気そうで何よりだ!」とフレンドリーに手を挙げた。
「まずはこれをお渡しします。前に受け取った蛇紋石の加工したものと、その後貰った『竜眼魔石』の加工品。昨日ようやくこっちが出来て、何とか期限に間に合わせることが出来ました」
「素晴らしい。これをこの短期間に加工、正直出来ないのなら出来ないで仕方ないと思っておりましたが、素晴らしい物を作ってくださいましたね。では、対価として、『魔鉱石全集』をお渡しします。加工割合や時間、他の物と化合させた際の割合や状態なども事細かに載っている世界にまたとない全集です。どうぞお納めください」
レガロさんは長光さんから何かを受け取って、その後カウンター裏から一冊の分厚い本を持ってきた。まるで六法全書の様な分厚さの本を、長光さんは嬉々として受け取った。中身を確認して、口笛を吹く。
「最高です。気合い入れた価値があった。これで、今以上にいい物を作れそうです」
「それは何よりです。また良い商品が出来上がりましたら、こちらにも卸してもらえるととても助かります」
「もちろん。受注生産なので、どういうものがいいのかいつでも相談に乗ります」
長光さんは満足そうに笑うと、分厚い本を懐にしまった。今もまだインベントリは懐なんだね。
レガロさんの手には、まるで何かの魔物の眼球の様な魔石のアクセサリーがあった。
皆、息を呑んでそのアクセサリーを見つめている。目がひきつけられるっていうそんな感じだった。すごい、あの魔石、何なんだろ。
見入ってしまうのに欲しいとは思わないのは、この店がそういう店だからなのかな。本当に必要な物しか買いたいと思わないようなそんな。
と思っていると、ブレイブが「……それを、売ってください」とうわごとのように呟いていた。
「はい、喜んで。対価は魔王討伐時に手に入れたドロップアイテムを」
なかなか凄い対価を言われたのに、ブレイブは躊躇いなくカバンから取り出した物をレガロさんに渡した。そして、魔石のアクセサリーを受け取る。それを作った本人である長光さんも興味津々でブレイブを見ていた。
ブレイブはアクセサリーを躊躇いなく首に掛けた。
「すご……スキル覚えた。ヤバいこの『時空破眼じくうはがん』とかいうスキル。別次元の裂け目が見えるようになるって。あ、でも制限がある。一度使うとクールタイムがかなり長いし、見つけられるだけでそれに干渉するには他の力が必要になるって」
「うわ……ブレイブどこ目指してるんだよ」
雄太の突っ込みに、ブレイブは「さあな」と苦笑した。
「あら。あの力の塊って」
「言うなよ」
そっと聞こえた賢者と魔導士の会話に振り返ると、二人は顔を近づけて小さな声で会話をしていた。
っていうか俺、今うさ耳ローブを身に着けてるから会話聞こえちゃうんだよね。脱ごうかな。
「アルの弟子の手に渡ったのね」
「みてえだな」
「それにしても、あなたのあの力、あんな形になったのね。昔からああいうのに興味津々だったものね。竜型魔物の鱗とか縦長の虹彩の眼球とか。変わりないわね」
「不可抗力だっての。俺がそうしたくてあの形になったんじゃねえよ」
「でもあれ、あなたの気配が濃厚だわ。絶対にあなたの趣味を模してるわよあの魔石」
「うるせ」
……会話を聞いていてわかってしまった。あの魔石、セイジさんが手放したダンジョンサーチャーとしての力じゃなかろうか……。干渉するには他の力って……。ユイの転移能力さえあれば、これから先『高橋と愉快な仲間たち』はシークレットダンジョン入り放題なんじゃ……なんつー恐ろしい物を売ってるんだこの店は。
ドキドキしながら視線を逸らし、隣にいるヴィデロさんの袖をきゅっと握った。
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