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629、邪魔しないで欲しい
しおりを挟む「理不尽な理屈で笑えるな」
鼻で笑ったヴィデロさんは、その理不尽パーティーのメンバーを一瞥すると、俺の腕を取って「他を探そうか」と進み始めた。
ヴィデロさんと二人で森を進んでいく。
なんていうか、まだいるんだ、ああいう人。呆れる。
せっかくの楽しい気分がちょっとだけ萎んだけど、ヴィデロさんが面をあげて俺の顔を覗き込んだことで、ちょっと浮上した。
ヴィデロさんの目が、さっきの刺すような視線じゃなくなっていたから。あったかくて素敵な目になってたから。好き。
「さ、またあの鳥を探そうか」
「うん。でも一度あのモフっとした背中に乗ってみたい気がする」
「気持ちはよさそうだな」
ヴィデロさんが笑ったので、つられるように顔を綻ばせると、ヴィデロさんの腕が腰に回った。
「今もまだ、ああいう異邦人は一定数いる。気にするなよ。ただし、ああいうやつらがマックに剣を向けたら、俺はためらわずに切るからな。異邦人は死に戻りが出来るんだろ」
「できるけど、そのことでヴィデロさんが恨まれたりしたらやだなあ。報復されたりとか」
「その場合は相手に先に抜かせるさ。正当防衛を主張しようか。ずるい手だけどな」
ほんとはヴィデロさんがそんなずるい手を使うとは思わないけど、俺は「絶対ね」とヴィデロさんに抱き着いた。
そして、また『隠密』を使って気配を消して、魔物に近付いていく。
それにしても、ちょっと気になったけど、さっきの人たち、姿を見るまで、マップに表示されなかったんだけど。もしかして隠密のレベルがかなり上がってるとか上位スキルを覚えたとかそんな感じなのかな。ちょっとああいう人たちが隠密使うって怖い気がする。
「ヴィデロさん、いたよ」
「ああ」
視界の隅に羊鳥の特徴的な身体が映り、ヴィデロさんがそっと足早に近付いていく。
鎧の隠密はかなり高いらしく、羊鳥は全く気付いていない。
ふと、またしても視界に景色とは違うものが入って来た。
俺の横を通り越して、凄いスピードで誰かが飛び出していく。
ヴィデロさんが剣を抜いて羊鳥を一刀両断した次の瞬間、剣を翻した。
キイン! と金属のぶつかる高い音が森に響いた。
止める間もなく、さっきのパーティーのうちの一人が、ヴィデロさんの剣に自分の剣を止められていた。
「どうして邪魔するんだよ。さっき忠告しただろ。あの魔物には手を出すんじゃねえ」
「悪いが、俺たちもあの魔物のドロップ品を集めてるんだ。それに、お前らにそんなことを言われる筋合いはないな」
「うるせえ。NPCが口答えしてるんじゃねえよ。ってかなんでこの剣を止められるんだよ!」
バッとヴィデロさんから距離を取って、剣を構え直す。すると、あとからやって来たパーティーメンバーがそのプレイヤーに声を掛けた。
「ゲームバランスとして強いチート持ちのNPCもいるんじゃねえの? ってかさ、NPCに剣向けるなよ、カジキ。リーダーみたいに垢BANされちまうって」
「だってよ、こいつら横取りしやがるんだぜ。あれだけ必死に隠密上げてようやく攻撃当たる様になったってのによ。くそむかつくじゃん」
「ってかカジキ一撃であの魔物倒せないじゃん。まだ俺らの魔法が届かねえうちに手えだすなよ」
「こいつらに横取りされると思ったからに決まってんだろ。お前らが遅いんだよ」
「斥候系上げてるカジキにスピード勝てるわけねえじゃん」
なんだかんだとパーティー内で会話をしていたので、その間に俺とヴィデロさんは移動することにした。
リーダーが垢BANって、この人たち『夕凪』の関係者以外ありえないじゃん。離れよう。ヴィデロさんが怪我とかさせられたら嫌だし。
ヴィデロさんも全く同じことを思っていたらしく、言い合いをしている間に俺の手を引いて、森を進み始めた。
特に動揺してるわけでもないから、きっと門番さんをしていて、ああいうプレイヤーに慣れてるんだろうけど。慣れて欲しくないなあ、と思う。
「通報、しようか? ヴィルさんに」
「いや。さっきの剣筋は、俺を狙った物じゃなくて、俺の横から魔物を攻撃しようとしたものだった。だから、通報したところで言い逃れられてしまうんじゃないかと思う。兄だってそういうものはしっかりと見定めると言っていただろ。前ジャル・ガーを害した異邦人たちの時に。手を出されたわけじゃないから、無視するのが一番だ」
「そうかも……でも、隠密使われちゃうと俺たちも気付けないのはちょっと困るね」
「俺も、あいつらが視界に入るまで気付かなかった。視界に入ったらあとは気配が出てくるんだが、このまま邪魔されるのはさすがにな」
「ドロップ品集まらないで終わりそうだよね」
二人で顔を見合わせて、溜め息を吐く。本当に同時だったので、思わず笑ってしまった。
羊鳥じゃない魔物を倒しつつ、俺たちはその場所から少し離れようかと森を進んだ。マップでは、俺たちの位置は丁度セィからオットへの直線距離の真ん中くらいだ。
羊鳥はここでしか出ないらしいし、邪魔は入ったけどもう少し素材集めしようかと素材を採取しつつ歩いていると、今度はプレイヤー二人と現地の人の集団がいた。
その人たちは、何やら相談をしているみたいだったけれど、俺たちと目が合うと、俺たちから現地の人を隠すように、その二人のプレイヤーが立ちはだかった。俺たちを警戒しているみたいだった。護衛のクエストでも受けてたのかな。
俺たちは邪魔しないようにとお辞儀をして通り過ぎた。
「マック、向こうから魔物が来る」
何事もなくすれ違ったところで、ヴィデロさんがふっと顔を上げてそんなことを言った。
確かに、ヴィデロさんが視線を向けた方から、ヤバい魔物が来る気配がし始めた。
それは、すぐ近くにいるパーティーの人たちも気付いたみたいで、「今日はいったん帰った方がよくないか」と現地の人に相談し始めた。
「でも素材が必要なんだ」
「それはわかるけど……すげえ強そうな魔物がちょっとこっちに気付いたみたいなんだ。あんたらを守りながら倒せるかってと、結構難しいかもしれねえ。ここは一旦引こう。怪我させたくねえし」
パーティーリーダーの言葉に、現地の人たちは目を伏せてから、小さくわかった、すまない、と頷いていた。
うわ、すっごくまっとうなプレイヤーだった。さっきのがさっきのだっただけにちょっとだけスッキリした。
世の中捨てたもんじゃないね。
そんなことを思っていると、ヴィデロさんもリーダーさんと同じ提案をして来た。
「マック、俺たちはどうする。強さがわからないから、俺たちも引くか?」
「そうだね。ヴィデロさんが怪我したら嫌だし」
あの森の主的魔物だったら、正直勝てる気がしないし。
俺はヴィデロさんの手を握ってから、ねえ、とヴィデロさんを見上げた。
「このまま歩いてると追い付かれそうだよね」
「ああ……マックの好きにしていい」
ヴィデロさんは俺が言いたいことがわかったらしい。
あの人たちも一緒にどこかの街に跳べばいいんじゃないか、と提案したかったことを。
魔物が来る方向と違うほうに進み始めていた人たちに、早速「あの」と声を掛ける。
「このままだと追い付かれちゃうので、一緒に逃げませんか」
俺の声に、全員が一斉に振り向いた。怪訝な顔をしている。まあ、そうだよね。今の言い方だと俺たちも連れてって、って言ってる風に聞こえるよね。言い方間違えた。
「俺、転移使えるんで、魔物に襲われる前に街に跳ぼうと思うんですけど、一緒にどうですか?」
「転移……? って、街に直接行けるのか?」
リーダーの人が足を止めて、俺の方を振り向く。
こんな話をしている間にも、魔物の距離は結構詰まってきている。
「行けます。と言ってもセィかオットかセッテくらいですけど。一緒に行きませんか」
リーダーは、依頼主であろう現地の人たちを振り返って、どうするか訊いた。
何かボソボソと小声で話をしている。こういう時にあのローブを着れば何を話してるのかわかるんだろうけど、流石に盗み聞きはね。道徳的にね。ダメだよね。
「すまない。オットまで連れて行ってくれるか?」
話がまとまったらしく、リーダーがそう言って手を差し出してきた。
俺に触れると跳べるってことを知ってるってことは、この人、セイジさんとシークレットダンジョンに入ったことがある人かもしれない。とふと気付く。
俺は、どうぞ、とヴィデロさんと繋いでいた手を差し出して、皆に腕に触れてもらった。
魔物はそろそろ可視化できる位置まで来ている。案外ゆっくり進む魔物なのかな、なんて振り返って、その行為を後悔した。
全員が触れたのを確認した瞬間、俺は慌てて魔法陣を描いて、オットの農園近くに跳んだ。
振り返った全員の顔が青くなってたのがわかる。
追ってきた魔物の姿、なんかよくわからないウネウネだらけの植物だった……。怖い。前に対峙した魔物の方が見た目優しかったよ……。
自分たちがオットの街にいるということを確認した人たちは、ようやく人心地ついたというように息を吐き、今度こそ友好的な笑顔で「ありがとう」と口々に礼を言ってきた。
「さっきは態度が悪くて悪かった。俺の名前はコメット。そっちにいるNGと『ディープシー』っていうパーティーを組んでるんだ」
「俺はマックです」
「マック……って」
俺が名乗ると、ローブを着ていた方のプレイヤーがフードを捲って俺を見た。確か、こっちの人はNGっていうプレイヤーネームだっけ。
「なるなる。そっちが噂の門番さんか。すまないな。デートを邪魔して」
NGさんは親し気にヴィデロさんに手を差し出した。
ヴィデロさんは仕事中に浮かべる笑みを兜の間から見せて、その手を握った。
「んじゃ今日はやべえのがいるから、また日を改めようぜ」
「そうだな。すまない。でもまた頼む」
「いいってことよ。あ、そうだ。今日の収穫分。あいつらに邪魔されてあんま集まってねえけどな」
コメットさんは現地の人にそう言うと、腰のポーチ型カバンからワサッと綿を取り出した。羊鳥の『羊羽毛』だった。
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