これは報われない恋だ。

朝陽天満

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610、不安定な鑑定眼

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 中央から分けることが出来る、と説明されている枝を半分にしてみると、最後の数字が「132/301」「95/301」となった。比較的小さい方の枝が95なので、もしかしたらヴィデロさんの枝と合わせると「301」なのかもしれない。ヴィデロさんのはそこまで詳しく見てないから推測でしかないけど。どっちを魔大陸に挿せばいいのかな。守護樹の加護が付くって長老様が言ってたけど、持ち物にいれとくだけでいいのかな。

 やっぱり色々とわからないことだらけだけど、とにかくやるしかないんだな、とクエストを読み返して思う。

 俺も、魔大陸に行くことになるってことだよなあ。一人で魔大陸から帰って来れるかわからない距離だから、雄太たちに便乗して行った方がいいかな。魔物に襲われたらひとたまりもないし。



 雄太たちのログイン状況を確かめてみると、珍しく全員の名前が灰色になっていた。

 今日は午前中卒業式予行をして学校が終わったから、その後雄太たちは遊んでるのか。ユイたちと待ち合わせて最後の制服デートとかしてたりして。

 一応『そのうち魔大陸に一緒に行ってくれないか』というチャットメッセージだけ送って、枝をインベントリにしまった。もう説明には「分けられる」って書かれてないから、これ以上小さくすることは出来ないってことなんだろうな。魔大陸でちゃんと育ってくれるといいんだけど。

 魔大陸に行ったら、まずは綺麗な土と綺麗な水を用意しないと。

 枝をインベントリにしまって、やらないといけないジョブレベル上げを開始する。

 納品物は、今の所ちゃんと納品してるはずだから。

 あとは、魔大陸に行くときに必要な物を、と俺は調薬の工房に移動した。



 カーテン裏の魔法陣を見つけてから俺は、ちゃんとカーテンを閉めて、うさ耳フードを被って調薬している。

 その方が成功率がぐっと上がるから。下手するとタイミング的にすごく上手くいって、ランクが高くなったりもする。クラッシュありがとう。

 今日は輪廻に教えてもらったレシピをもとに作ってみようと、月見草を乾燥の魔道具にセットして、色々使う素材を用意した。

 錬金も主にカイルさんの所で覚えたものを作ろう。そしたらもしかしたら枝に使えるかもしれないし。

 ちゃんと根付くといいな。

 ゴリゴリと千鳥バチの羽根を擂り潰しながら、ふと手を止める。



「そういえば、表面だけ浄化しても、土の中が穢れてたら根っこが枯れちゃうよな……どうやって調べられるんだろう……」



 考えている間に、乾燥の魔道具が止まる。いい感じで乾燥した月見草を取り出して、それもゴリゴリと粉にしていく。

 土の状態も鑑定眼で見れるのかが心配だ。前よりは大分レベルが上がって細かい数値も見れるようにはなってきたけど、その数値が何を示してるのかいまいちわからない場合があるのが致命的だ。もっとレベルを上げないといけないのかな。

 そう思いながら何気なくゴリゴリした月見草を鑑定眼で見てみると。



『月見草:ランクA 他の素材の能力を引き立たせることのできる繋ぎの媒体 24』



 なんか数字が増えていた。

 待って、24って何。

 段々と鑑定眼がわけわからないことになってきた。

 混乱しながらもゴリゴリし終わった千鳥バチの羽根を見てみると。



『千鳥バチの羽根:ランクC 酒気の宿った薄羽根 火の通りがよくなり成分が逃げにくくなる 32』



 今度は「32」って。だからその数字は何なんだよ。

 残りの素材は薬草と香花という花。これを混ぜて調薬することで、植物の栄養剤的な蜜が出来上がる。

 何気なく見てみると、薬草には『26』という数字が付いていて、香花には『20 』という数字が付いていた。



「ええと……足すと102? もしかして、これって師匠の言ってた魔力……?」



 でも、他の上級キットで作るときに使う物はもっとたくさん入るから、上限が100くらいでそれ以上だと失敗するとかそういうのとは違うような……。



「もしかして、素材が4つだから簡易キットでも作れる調薬……ああ! なるほど!」



 アレだきっと。簡易調薬キットと普通の調薬キット、そして上級調薬キットでは、上限魔力が違うんだ。



「ってことは……適当に詰め込んで失敗してたのは、この数値がダメダメだったってことだよな。うわあ、俺、ようやく見えるようになったんだ。やった!」



 ぐっと手を握りしめて、ガッツポーズを作る。でも昨日までは見えなかったんだけど。レベルは、上がってないんだけどなあ。

 どうしていきなり見えるようになったのか疑問に思いながら調薬して、出来上がった『栄養蜜』を調薬倉庫のインベントリに突っ込む。

 ちょっとだけお茶でも飲もうかな、と席を立ってカーテンを開けて、キッチンに行った俺は、ふと手元のお茶ッ葉を鑑定眼で見てみた。これにも魔力は見えるのかなと思って。



「ええと、くれないちゃ、ランクA、鮮やかな赤い茶になる茶葉、少し苦めで、魔力回復が上昇する……って数字書かれてない。お茶っ葉は素材じゃないからかな」



 もしこれで魔力が書かれていたら、これも調薬に使ってみようかと思ってたのに。

 赤いお茶を淹れて飲んで、またも工房に向かった俺は、とりあえず薬草をもう一度見てみた。



『薬草:ランクS 傷を治し回復する薬を作る素材 このまま噛んでもほんの少し回復する』



「今度は数字でないじゃん……! 何でだよ」



 他の素材も手に取ってみると、今度は最後の数字が出てこなかった。何が起きたんだ。

 わけが分からなくて溜め息を吐きながらカーテンを閉めると、俺はまた、調薬キットの前に座った。



「って、今度は数字が見える……」



 なんなんだよ、とがっくりと肩を落とす。こういう気分で調薬すると失敗するんだよなあ。

 手に持った薬草をテーブルの上に置いた俺は、席を立った。

 こういう時は誰かに訊いてみるっていうのもいいよね。





 ヒイロさんの家に来た俺は、現在両肩に小さな獣人たちを乗せ、手には二人、背中にも一人ぶら下げて、ついでに頭の上にも一人乗せてヒイロさんの家の玄関を潜った。ちなみにユイルは俺の左肩に乗っている。小さい子たちだからそんなに重くない……いや、やっぱりちょっと重い、かも。でもこの人数だとさすがに歩き辛い。

 アリオンが後ろからそっとついて来るのを確認して、俺はヒイロさんの家の玄関を閉めた。



「なんだって今日は大人数だな」

「ええ。途中で襲われまして」

「だってー」

「おにいちゃんさいきんあしょんでくれないから」

「おいしいのは?」

「僕もおいしいの欲しい」

「楽しいもん」

「もっとぶらぶらして」



 俺の身体から降りて行った子供たちに、ヒイロさんが「このお兄ちゃんは力弱いんだから、あんまり無茶しちゃダメ」って怒ってるけど、地味にグサッと心に刺さるなあ。子供たちも素直に「はーい」って返事してるけど、俺に乗ってて非力だってわかっちゃったのかな。

 顔で笑って心で泣きながら、俺はインベントリからふわふわドーナツを取り出した。

 皆がワッと歓声を上げて手を伸ばす。ヒイロさんまで一緒になって手を伸ばしてるのは見なかったことにしよう。

 くい、と袖がひかれて、そっちに顔を向けると、一番後ろにいたアリオンが俺の袖を掴んでいた。



「アリオン? 早く食べないとなくなっちゃうよ」

「いいんです。僕は、お兄ちゃんの顔が見れたのでホッとしました」



 にこっと笑うアリオンに、俺はそっとインベントリから取り出したふわふわドーナツを渡した。こうなるかもと思って沢山作ってきたんだ。

 取り合いの様にワイワイとドーナツを食べる子供たちを見ながら、俺はさっきのことをヒイロさんに相談してみた。



「素材の魔力が見える時と見えない時がある? 何だそりゃ」



 ヒイロさんも首を捻っている。

 ヒイロさんの場合は、見えるようになったら安定してずっと見えるそうだ。スキルが不安定とかそういうのあるのかな。



「鑑定眼が少し成長した……ら次からはちゃんと見えるはずだしなあ。うーん……マック、これちょっと見てみてくれ」



 渡された薬草を見てみると、やっぱり数字は付いていない。



「ないのか。薬草の場合魔力値が『15~28』なんだ。ランクが違うと内包魔力も全然違ってくる。それの場合は『27』だな」

「工房にあった薬草は『26』でした」

「そりゃランク高いな。いい薬草だ。じゃなくて、何で見えないんだ?」

「俺が訊いてるんですけど」

「うーん……場所的な問題? でも、同じ場所でも見えたり見えなかったりするわけだろ……? じゃあ、干渉的な問題か……? 不安定か?」

「感傷的な問題って、もしかして俺がなんか考えてるとだめとか」

「なんでそうなる。干渉だ干渉。よその何らかの力が加わって、ちょっと鑑定しやすくなってる状態、ってこった」

「なんだ。守護樹のことを考えながら鑑定眼使ったから見れたのかな、とかちょっと思っちゃいました。よその力かあ……」



 なんかあるかな、と考えて、「あ!」と大きな声を出してしまう。

 それにびっくりした子供たちがビクッとテーブルにドーナツを落としちゃったのが見えて、慌てて追加ドーナツを出しながら、ヒイロさんにもしかしたらということを伝えた。



「俺の工房、実は魔法陣が描かれてるんですよ。でも読めない単語も何個かあって、もしかしてそれかなあ?」

「なんでそんな物騒なところで調薬してるんだよ」

「え、だってそれを描いたの、大事な友達ですから」



 疑うっていう発想自体なかった俺に、ヒイロさんは肩を震わせた。



「マックはアレだな。俺ら獣人に近いのかもな、頭の中が」

「それは……脳筋ってことですか」

「あのな。誰もがムキムキズじゃねえよ。俺とか滅茶苦茶スマートだろ」

「スマート……」



 思わず吹き出しそうになって、慌てて口を手で押さえた俺なのだった。



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