これは報われない恋だ。

朝陽天満

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607、惚れ直すってより好きの上書き

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 身体を捻る様にしてキスをしながら、身体を大きな手で撫でられる。

 ゆっくりとしたその動きが余計に熱を生み出す気がする。



「あ……ん、ん……」



 舌を絡めて、唇を啄ばみ、吐息を混ぜ合わせ……。

 ゆっくりと離れたお互いの唇に、透明な糸が繋がる。

 熱くなった身体に大きく息を吐きながらヴィデロさんの胸に身体を預けた俺は、ちらりと目に入ったレシピの一ページに釘付けになった。

 身体の熱は瞬時に違う熱に変わっていく。

 いきなりがばっと身体を起こした俺を、ヴィデロさんの腕が支えてくれる。



「マック?」

「新しい物が作れる……!」



 必要素材の欄に、『真黒宝石×20』という文字が書かれていて、俺はもしかして、と目を輝かせた。



「俺の魔力は必要か?」



 レシピに見入っていた俺に、ヴィデロさんの声が飛び込んできた。

 ハッとして後ろを振り向くと、苦笑したヴィデロさんの顔が目に入った。

 今までのえっちい雰囲気はすっかりなくなっている。主に俺のせいで。



「続きはあとでな」



 ちゅ、と頬にキスしてくれたヴィデロさんは、俺の腰から腕を離すと、錬金するんだろ、と目を細めた。

 確かに、さっきまで大興奮だった俺の下半身はすっかりなりを潜めて、意識の半分は既に目の前のレシピに向かっている。でも、愛し合うのも俺にとっては同じくらい重大事なんだけど、とちょっとだけ残念に思いながら呟くと、ヴィデロさんがフフッと笑った。



「マックが何の憂いもなくすっきりしてから、改めて愛し合いたいんだけどな、俺は。最中にこっちのことが気になって集中できなかったらそれこそ俺が辛いから」

「ヴィデロさん……大好き」



 ポロッと心情を零すと、ヴィデロさんも「俺も愛してるよ、マック」とすごく綺麗な顔で笑った。好き。今の笑顔でまたしても惚れ直しちゃった。





 ヴィデロさんにも魔力を提供してもらって、2人で釜に手を添える。相変わらず俺はヴィデロさんの膝の上で錬金をしているんだけど、今回はヴィデロさんも手伝う気満々らしく、「この格好の方が回しやすいかもしれないだろ」とか言ってくれたので、ありがたく膝の上に座っている。重くないかな。

 新しいレシピに書かれていた素材を、座ったまま倉庫インベントリからテーブルに取り出して、並べていく。結構な量を投入しないといけなくて、素材を並べただけでかなりテーブルが埋め尽くされていた。

 『真黒宝石』だけじゃなくて、他にも錬金で作った石が数個必要で、すべてが必要個数揃ったことで、このレシピが作れるようになったんだけど。錬金ってホント奥が深い。深すぎる。『錬金用素材』って書かれていない物でも錬金に使えるんだもん。可能性は無限大なのかな。わくわくしてきた。

 ヴィデロさんが手伝ってくれると溢れるちょっとキラキラの入った謎液体に、順番通りに一つ一つ投入していく。

 掻き混ぜる棒は、最初からヴィデロさんが手を添えて力を加えてくれるので、今の所全然重くならない。

 数点素材を投入した後、ようやく『真黒宝石』を投入していく。普通だったら入れていくと段々と重くなるのにそれがないから、一度ヴィデロさんに手を離してもらうと、途端にズン、と棒の抵抗が増した。



「う、わ、重……っ!」



 これ、一人じゃ絶対できないやつだ。

 ヴィデロさんがすぐにまた手を添えてくれたから事なきを得たけど、これ、一人だったら『真黒宝石』5個くらい投入したところで俺の上腕二頭筋が悲鳴を上げてる程の抵抗感だった。改めてヴィデロさんの力強さを感じて、多大な安心感と共に嬉しさとか愛しさとかわけわからない感情が浮かんでくる。さっき惚れ直したばっかりなのにまた惚れ直したよ。直すっていうか、上書きされてるっていうか。とにかく好きだな、と背中のぬくもりを感じながら思う。

 素材を全て入れ終えるころには、ヴィデロさんと二人で掻き混ぜていてもかなりの抵抗を腕に感じた。

 ヴィデロさんも「これは大変だな」なんて苦笑するので、うんうん頷く。一人じゃ無理案件だったよほんとに。

 それでも棒はぐいぐい動いて、最後の抵抗を感じた瞬間、釜の中でコロンと音がした。

 二人で中を覗くと、中には手のひら大の黒い石が一つ、入っていた。

 手に取って取り出してみる。

 それは、えもいわれぬ不思議な石だった。

 真っ黒なんだけど、真っ黒っていう言葉が当てはまらない黒い中に、キラキラと光がちりばめられている。でもラメみたいに目に見えるものじゃなくて、石の黒自体がキラキラ光ってるっていうか、言葉で言い表すのはとても難しいほど、不思議で神秘的な黒い石が出来上がった。



「……綺麗だな。いや、綺麗っていう言葉は何か違うような……」



 ヴィデロさんも石に魅入られるように呟く。

 うん。綺麗っていう一言じゃ言い表せない。まさに神秘的。

 鑑定眼で見てみると、『真秘黒宝石』となった。まさに名前の通りって感じだった。



「出来た……。それに、作り方もわかった」



 次は、これを使った、エルフの里から受け取ったレシピだよな。とホッと息を吐く。

 この宝石を使ってしまうのはとてももったいない気がしたけど、でもあの大きな樹を助けられるものを作る方が大事だよな、と石をギュッと握りしめた。もう一度これに挑戦して、出来上がったら今度はこれをアクセサリーにするっていうのも一つの手だよね。めちゃくちゃ手間がかかったけど。



「ヴィデロさんのお陰で出来上がった」

「俺はただほんの少し力を貸しただけだろ」

「ヴィデロさんと一緒に回さなかったら、失敗しかしなかったよ。俺、腕力ないから」

「腕力だったらいつでも貸せるから、遠慮なく言ってくれ」



 どんな力でも、マックに貸せるのは嬉しい、とヴィデロさんはとんでもなくかっこいいことを言って、俺をキュンキュンさせた。何回惚れさせれば気が済むんだよ。心臓がバクバクしてるよ。好き。







「ヴィデロさんとの共同制作の宝石を使うのはちょっと惜しい気もするけど」



 そう言って俺はレシピに必要な素材をテーブルに並べた。

 この神秘的な黒い宝石以外は全て揃ってたから。

 そっと宝石を手の平に載せると、その手に上にヴィデロさんが自分の手を重ねた。



「俺のこの腕は、マックのための腕だから。またいつでも沢山好きなだけ一緒に作ればいいだろ」

「……そうだね。いつでも、一緒に」



 その言葉が嬉しくて、頬が緩む。

 二人で魔力を回復して、もう一度二人で錬金釜に謎液体を満たした。
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