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564、検証の方法
しおりを挟む「今日はよろしく頼む。いきなりのお願いでごめんな」
「俺らが暇な時ならいつでもいいっすよ。もうあそこはマックの無双ダンジョンじゃなくなったんで俺らが最適でしょ」
雄太の言葉に驚いてると、雄太がおうよ、とサムズアップした。
「文字替えしてからゴースト系はなりを潜めて、通常のダンジョン系魔物が出始めた。これで俺も役立たずじゃなくなるってもんだ」
「俺が役立たずじゃん!」
「だから今回はおとなしく後ろで護られてなさい」
俺が無双できるダンジョンじゃなくなったと聞いて、嬉しいのか嬉しくないのかわからなくなってしまった複雑な心境に、思わず口が尖る。
でもゴーストは出なくなったってことは、皆ちゃんと天に召されたってことだよな。よし、いい方に考えよう。いい方に。はぁ。
「じゃあ、行くか」
「うっす。途中の道が変化するのは変わりないから気を付けてくださいね」
「ああ。心して行くよ」
ヴィルさんは肩にアキちゃん鳥を乗せて朗らかに答えた。
雄太たちに先導してもらって洞窟を進む。
途中にある墓地は、どうやら休憩場所に出来るようになったらしい。ここには魔物が入ってこないんだって。浄化の効果が出たってことかな。
ってことはここのボスは出なくなったってことで、今まさにこのダンジョンは落ち目らしい。でもまあ経験値的には大分いいから墓地で休んでるプレイヤーもいるにはいるんだけど。
俺たちは途中の墓地で休憩をとることなくガンガン進んでいった。
今回は雄太の大剣が風を切って大活躍していた。それほど広い通りじゃないのに大剣を使いこなしてるってのは凄いと思う。でもそれの合間を縫って攻撃していく皆の連携がいつ見てもすごい。
ヴィルさんも特に戦闘に加わることなく、おとなしくゲストとして進んでいる。
たまに後ろから来た魔物を切り裂くくらい。その剣は、前に俺を敵視してきたアーティファクトの剣だったけれど、特に俺に攻撃してくることはなかった。
最後の墓地に着くと、ようやく皆の足が止まった。ほぼノンストップでここまで来たよ、流石勇者の弟子。
最後の墓地には、数組のパーティーたちがいたけれど、そこが浄化されてボスが出てこないと確認できたのか、なんだよ、と口を尖らせて早い段階で奥の転移魔法陣に乗って消えていった。
「前よりかなり温いダンジョンになっちまったからここまで来れるプレイヤーも結構いるんすよ。何せボスがいない」
「ボスとは、もしかして、この墓に眠っていた者だったりしたのか?」
ヴィルさんが丘の上のポツンと立っている墓碑に近付き、しゃがみ込む。
そこには、長光さんが彫ってくれた文字が綺麗に並んでいた。
「『魂よ 愛しき者の元へ還れ 身体は故郷に寄り添い、魂は愛しい者に寄り添え』……いい言葉だな。獣人の王が後悔していた想いとはずいぶんと違う」
ヴィルさんは文字を読み取り、感嘆の声を上げた。っていうかヴィルさん、どこまでオランさんから聞いてるんだろう。
そして、どこまで報告してるんだろう。
俺は、実はオランさんにはまだ何も言ってない。クエストはクリアしてるけど、この言葉で魂が輪廻に還るかって言ったらちょっと疑問だし、ここから出てきた布は魔大陸に繋がるアイテムになっちゃうしで、どう報告していいかわからなかったから。
「それな。愛に生きるマックが考え出した文章だからな」
雄太がからかう様に大声でヴィルさんに伝えると、ヴィルさんは顔を上げて丘の上から俺を見下ろした。
「誰よりも心がこもってるんだろうな」
ふっと笑うと、自分のカバンから地図を取り出して、奥に歩いて行った。
そして転移魔法陣の上に地図を置く。
そこにピヨ、とアキちゃん鳥が乗った。
一瞬後にフッと消えていった。
「え? 何で鳥だけ?」
雄太たちも流れを見守っていて、消えていった鳥に戸惑いを隠せていない。
ヴィルさんは、よし、と頷いて地図をしまい込んだ。一瞬の出来事だった。
「マック、帰ろう」
「え? アキちゃん鳥はどうするんですか?」
「向こうを探って貰う。あの鳥だって元は俺たちの身体と同じものだ。魔物にはならないだろ。心配なのは、HPがなくなった後どうなるかだ。それも含めて今、まさに佐久間に見てもらっている」
「戻ってこれなかったら……」
「鳥4号鳥5号辺りが出来上がるだけ、かな」
うわあ、と思わず声を上げると、ヴィルさんは俺たちを引きつれて、迷わずに転移魔法陣に乗って魔力を注いだ。
結果を知りたい、という雄太たちに今度隅々まで教える約束をしたヴィルさんは、地上に戻ってきたところで雄太たちと別れて俺と二人トレに戻ってきた。
そして俺にはジャル・ガーさんの洞窟に行くように指示して、すぐにログアウトしていった。
ヴィルさんの指示通りジャル・ガーさんの洞窟に跳ぼうとして、玄関が開いたことに気付いた。
ヴィデロさんが帰ってきたみたいだった。
「あ、おかえりなさいヴィデロさん」
「マック、ただいま。今日は兄の所に行くから遅くなる日じゃなかったのか?」
「あ、うん。でも実はヴィルさんの所からここに来てて、ちょっと頼まれごとをされたんだ。それをしに行ってくるから、ヴィデロさんはご飯食べててくれないかな」
さすがに魔大陸の検証をしてるなんて言ったらいつものごとくものすごく心配されちゃうからと言葉を濁すと、ヴィデロさんは俺をじっと見ながら、口を開いた。
「その頼み事、俺が一緒に行ったらダメか?」
「え、あの、そんな危ないところに行くわけじゃないよ?」
「ダメか?」
再度言われて、答えに窮する俺。どうしたらいいんだろう。この際教えちゃった方がいいのかな。でもヴィデロさんに心配かけないように、ヴィルさんが地図を預かったんだろうし。
何より、じっと俺を見つめてくるヴィデロさんをないがしろにするなんて、心が痛すぎてできる気がしない。
「……」
「マック。最近、マックは俺の行けない場所にばかり行ってる気がする。魔物狩りデートも全然できてないじゃないか。オランからの頼みは、もう済んだんだろ。その報告に行くのなら、俺も連れて行って欲しい」
確かにそうだ。でも、報告しに行くわけじゃない、と思う。それに時間もない。ヴィルさんはすぐに、って言ってたから。
そして、こんな心配を顔ににじませたヴィデロさんに「ごめんね」なんて言えない。
ヴィルさんはログアウト中でチャットを送れないし、声を届けてくれるヴィル鳥は今遠い空の下だ。
どうしよう。
後ろめたい気持ちで、俺はヴィデロさんの裾を掴んだ。
「報告……は、したいと思ってるけど、一緒に行ったら、きっとまたヴィデロさんを心配させちゃうから」
「行かなくても心配はする。というか、行かない方が心配の度合いは上だな」
「不快な思いをさせるかもしれない」
何より、ヴィルさんがどうやって検証するのか、俺はまったく聞いていない。ただ、ジャル・ガーさんの洞窟に行けってそれだけ。
何があるかわからないから、連れて行っていいのかわからない。
「……ごめん、わがまま言ったな。兄に頼まれごとっていうのは、仕事の一環なんだろ。行って来いよ。俺はここで待ってる。困らせてごめん」
唇をかんだ瞬間、そこをそっと指でなぞられて、ヴィデロさんに顔を上向かされる。そこには、苦笑した、でも少しだけ苦さが増したような顔のヴィデロさんがいた。その顔もかっこいいけど、笑ってる顔が好きなんだよ。そんな顔させたくないのに。見上げたヴィデロさんの瞳には、弱り切った俺の顔が映っていた。
ガチャッといきなりドアが開いて、そこにヴィルさんが入ってきた。
「帰ってたのか。おかえり弟。まだ健吾がいるってことは、何か我が儘言ってたんだろ。俺は仕事として頼みごとをしたってのに」
溜め息とともに、ヴィデロさんの肩に手を掛ける。
そして、ひょいと肩越しに俺の顔を覗き込んで、やっぱり、と呟いた。
「ああ、連れて行けって我が儘言ってたんだ。仕事を中断させたのは悪かったと思う」
「健吾は君の我が儘に弱いからな。まあ、仕方ないか。ところで、君も行くかい?」
サラっとヴィルさんはヴィデロさんを誘った。
思わず目を剥く。ヴィデロさんもあっさりと誘われたことに驚いたみたいだった。
「君には隠しても仕方ないと思ってるんだ。でも、きっと色々詳細を知る方が苦しいと思うが、それでもいいのか? 問題ないのであれば、付いてくればいい」
「行く」
ヴィルさんの誘いに、ヴィデロさんは間髪入れずに頷いていた。
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