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524、指名依頼が来たけど、うーん……
しおりを挟むクラッシュの所を辞して今度は冒険者ギルドに顔を出す。
カウンターに顔を出して依頼についてと用件を言うと、職員さんは笑顔で対応してくれた。
奥の部屋に通されて、依頼で集まった『謎素材』を受け取る。もうすぐ預けていたアイテムとお金が無くなるので追加しようと俺の口座の内容を見ると。
「増えてる?」
一時期一気に減って、また気楽に貯めようかと思っていた残金は、知らない間に結構増えていた。
首を傾げた俺に、職員さんはそれでしたら、と教えてくれた。
なんでも、獣人の村が解放されて、今まではフォリスさんの本を所持していなかった人も所持するようになり、第二次ブームが起こっていたとか。新たにやってくる異邦人たちは冒険者ギルドに登録するのとセットでそれを買って、獣人の村に行くためにそれを読むとか、なんかおかしな話を聞いてしまった。っていうか登録とセットでこれを買うとか、どういうことだよ。
っていうかそのお金の一端が印税みたいに俺個人の所に入ってくるっていうのもなんだか怖い。お金がありすぎて堕落しないようにしないと。しかもその感覚がログアウト時まで維持されちゃったら俺、間違いなく路頭に迷うようになるよ。身持ち崩したらどうしよう。
「冒険者ギルドで買い取った『謎素材』の方も買い取っていただきたいと統括が申しておりました。よろしいですか?」
「もちろんです。ありがとうございます」
「それと、薬師マック様に指名依頼が入っています。受ける受けないは自由ですので、こちらをお受け取り願います」
職員さんはぴらっと一枚の紙を俺の前に差し出した。
その内容は。
『 依頼書
草花薬師 マック 殿
セィ城下街貴族街 薬師長ウル老師の元で『蘇生薬』制作を中心とした講習開催を願います
報酬、日時、要相談
オラフ・O・フレード侯爵 』
「侯爵……?」
「依頼主はセィ貴族街にお住みのフレード侯爵様です」
「え、ってことは、これ王宮公認みたいな依頼ですか? それ、断っていいやつなのかな」
「個人のお名前で依頼されているので、そういう場合は裏がどうであろうと個人として取り扱うことになっております。もしここに王宮関係の印が入っていれば王宮からの依頼ととってくださって大丈夫なんですが、これの場合はこのフレード侯爵家の印が押されているので、個人で間違いないでしょう。断るのは問題ありません」
「指名依頼を断ったことでギルドとかに不利益になるとか、ギルドランクが下がるとかそういうことは?」
「ありません。無理な依頼を受けて依頼達成できなかったら本末転倒ですので、たとえ指名依頼だとしても、断ることは悪いことではありません」
「なるほど。なんかすぐ返事する気にならないので、ちょっと保留にしてもらっていてもいいですか?」
「大丈夫です」
職員さんにお礼を言いながら、俺はじっくりとその依頼書を見た。
蘇生薬は既にヒイロさんが大々的に作っちゃって、かなり知名度が上がってるんだよね。でも、何で俺が蘇生薬を作れるってこの人は知ってるんだろう。
っていうかすぐに受けます、って言いたくないのは、きっとセィの貴族だからだ。いい印象ないんだよね、貴族。
俺はその依頼書の写しをインベントリにしまうと、追加のハイポーションハイパーポーションを職員さんに渡した。
貴族とかそういうのの相談は、やっぱりユキヒラだよな、ということで、一度ユキヒラがログインしているか確認してから、『もし時間があるなら訊きたいことがあるんだ』とチャットメッセージを送った。
工房に戻ってきて『謎素材』をしまっていると、『今日は手が空いてる』という返事が返ってきた。このままチャットで話してもよかったんだけど、モントさんの所にある素材も欲しかったのでセィ城下街で待ち合わせすることにした。
魔法陣を描いてセィ城下街の農園に跳ぶ。いつもお世話になってます。人があんまりいないから跳ぶのにうってつけな場所なんだよね。モントさんもいつでも使っていいって前に言ってくれたから余計に。ついでに素材もたんまりゲットしようと農園に顔を出すと、モントさんはタルアル草を世話していた。
「ようマック。久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「こんにちは。素材たんまりください」
「もちろん。うちにあるやつなら何でもいいぜ。何がいい」
歓待に嬉しくなりながら、新鮮素材をこれでもかという程購入すると、モントさんがお茶に誘ってくれたので喜んでお呼ばれすることにした。待ち合わせの時間にはまだ余裕があったから。
一緒に紫色のすごく香りのいいお茶を飲みながら、新しく作り始めた植物がどうの、ちょっと元気がないのがどうのと話をする。
俺も、獣人の村に新しいスパイスの実が生ったことを話すと、モントさんは身を乗り出して食いついた。
「なんだその実。一回見てみてえ」
「今持ってます。獣人の村で特産品にしたいとか言ってたので勝手に増やすのは多分アウトですけど」
そう前置きして、『レッドガルスパイスの実』をモントさんに見せた。
モントさんは実を鑑定して、切って舐めて感動していた。
「これ、獣人の村に行きゃ手に入るのか? 買いてえ。めちゃくちゃ買いてえ」
「モントさんもしかして辛いの好きなんですか?」
「おう。これ、料理に使ったら料理が化けるぞ」
確かに料理に使ったら美味しくなるけど。こんなに興奮するとは思わなかった。
「ミニさんっていう白熊の獣人さんが世話するって言ってました」
「ミニが世話してんのか。んじゃ時間空けてミニの所に行ってみるか」
「ミニさん知ってるんですか?」
「おう。獣人の村の畑管理をしてるらしくてな、前にケインが連れて来たんだ。情報共有しようってな」
なるほどすでに知り合いだったんだ。きっとすごく仲良くなってるんだろうな。植物関連の話ですっごく盛り上がりそう。
「そうだ、モントさん、フレード侯爵って人知ってますか?」
最後の一口を飲みながら、ふと貴族相手に商売をしているモントさんなら何か知ってるかなと思って訊いてみると、モントさんはフッと一瞬だけ顔を顰めた。
「知ってるぜ。王太子の派閥に陣取ってた侯爵様だ。こいつはアレだな。侯爵様が触るとポーションの品質が落ちると俺ら界隈では言われていて、最近立場がやべえことになってる奴だな」
「うわあ、ヤバい人から依頼来ちゃってたのか……」
「まぁたなんかあったのか」
「っていうか、指名依頼が来ちゃって。まだ返事はしてないんですけど、どうしようか悩んでて。ユキヒラならこの人知ってるかなって思って、これから会って話を聞くことにしてたんですけど……もしかしたらモントさんも知ってるかなって思って」
俺がネタばらしすると、モントさんはニヤリと笑った。
「ユキヒラか。あいつならある程度は詳しいだろうよ。俺も負けてねえがな。ここで貴族街と繋ぎ取ってんだ。少しは詳しいぜ。ここで訊いておいてよかったなマック。そいつな、王太子殿下の指示でばらまくポーションの品質を落としつつ、差額を懐に入れて王太子殿下の機嫌を取ってた筆頭だ。今王太子殿下がなぜか萎んじまって引きこもってやがるから、立場がヤバくなって保身に走ろうとしてるんだろうよ。マックを巻き込んで」
嫌な話を聞いてしまった。
またしても騒動に巻き込まれるってこと? これ、依頼を受けなくてもいいんだよね。いいって言ってたもんね、ギルドの職員さん。
あ、でも待って。講習を受ける場所って、ウル老師の家とか書かれてなかったっけ。ウル老師、すでに巻き込まれてるってことかな。
そんな裏話をモントさんから聞いていたら、もうすぐ待ち合わせの時間になってしまった。
「ユキヒラ待たせちゃうから行かないと」
「つうかユキヒラもこっちに来て貰えよ。なんかおもしれえ話になりそうだ」
モントさんが凶悪な笑顔を浮かべているので、俺は逆らわずにユキヒラに『農園に来てほしい』とチャットを入れた。すぐに了承があったので、農園で待つ。
そんなに時間もかからずに、ユキヒラは農園に着いた。
出迎えると、ユキヒラは、白い鎧に赤いマント、チャラい金髪で白馬に乗っていた。どこぞの王子か。
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・O・ ←顔ではない
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