これは報われない恋だ。

朝陽天満

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505、聖魔導士(物理)じゃなかったのか

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 魔魚はいきなり水鉄砲みたいな魔法攻撃を仕掛けて来たので必死で避ける。地面が切れてるから当たったら身体真っ二つかな?

 師匠可愛いなんて爪に見惚れてる場合じゃなかった。

 気を引き締めて刀で魔魚に斬りかかると、跳躍したヨシューさんが上からザクっと爪で魔魚のヒレを引き裂いた。

 横ヒレを使ってヨシューさんを攻撃する魔魚。その間に俺もえらの部分を刀で斬りつけた。

 頭上のHPは黄色。前の魔魚よりも確実に弱い。

 ヒレでバシッと叩かれたヨシューさんは少し離れると今度は詠唱し始めた。ようやく自分の職業を思い出したのかな。

 ひれでバシバシされてHPを削りながら刀で応戦していると、後ろから白いデカい球がいきなり飛んできた。

 その玉は魔魚に当たり、魔魚が変な声ともいえない音を口から発した。悲鳴かな。

 っていうか今の何。



 少しだけ離れてHPを回復するためにインベントリからハイパーポーションを取り出していると、ヨシューさんの詠唱が聞こえてきた。



「至高の神よ、その気高き神気で魔を打ち倒し給え、『聖球ホーリーボム』!」



 あ、ホーリーボムだったのか。俺が前に出したことあるボムより確実にデカいんだけど。俺のが手の平大だとして、ヨシューさんのは確実に直径1メートルくらいある。そしてそれがぶち当たるといきなりHPが減った。一気にHPバーが赤に突入する。



「おおー魔法効くな。マックも魔法出せば?」



 動きの悪くなった魔魚を見て、ヨシューさんが喜びながら俺にそんなことを振ってきた。



「ってか師匠爪攻撃は?」

「あれ、ヒレがバシッて痛えからやめた。食えるのかと思ったけど食える匂いがしねえから張っ倒す。ほら、短剣構えろって」

「確かにヒレ痛いですけど」



 仕方なく刀をしまって聖短剣を取り出して構える。そして手に聖魔法の本を携えた瞬間、何とも言えないヨシューさんの顔が目に飛び込んできた。



「まだ覚えてねえの……? 聖魔法、使ってるか……?」

「……極、たまに」

「使えよ! せっかく聖水茶飲んでるのに勿体ねえって前にも言っただろ!」

「すいません! 精進努力します! 至高の神よ、その気高き神気で魔を打ち倒し給え、『聖球ホーリーボム』!」



 話を誤魔化すかのように聖魔法を繰り出した俺に、ヨシューさんはジト目を向けてきた。猫のジト目は可愛いだけです。でもごめんなさい。これから頑張ります!

 二人で聖魔法を連発すると、程なく魔魚は光となって消えていった。途端に周りから拍手があがる。

 皆、ギャラリーと化していた。



「いやあ、助太刀しようと思ったけど、手を出さなくてよかったよ。二人とも聖魔法使いか」

「まあな。でも弟子はまだまだ詠唱も憶えてねえみてえだけど」



 スン、と鼻を鳴らしたヨシューさんに「すんませんした!」と頭を下げる俺。

 でも俺、薬師で錬金術師だから。聖魔導士じゃないから。どうせならユキヒラを弟子にしたらすごく優秀な弟子になりそうなものなんだけど。

 ほんとすいません。憶えます!



「まあまあ、こっちはもともと薬師だろ。俺もそうだが、二つの職を極めるのはかなり難しいんだよ。それよりも釣りしようぜ釣り」



 ヨシューさんの釣りの師匠プレイヤーは、ヨシューさんの肩をバンバン叩いてサッと釣り竿を持たせた。



「まあ、そうだな。精進努力するって言ってたもんな。その言葉を信じて釣りするか」

「そうそう。弟子は信じるもんだ」



 なだめすかして湖に連れていかれたヨシューさんにごめんなさい、と内心で頭を下げながら、俺もまたヨシューさんの隣に座って釣り竿を握りしめるのだった。

 ちなみにドロップ品は『魔魚の鱗』だった。





 その後俺は大物魚を釣り上げたものの、魔魚は結局その一匹しか釣り上げないで終わり、釣りの時間は過ぎ去っていった。

 ヨシューさんはかなり大量に魚をゲットしてホクホクしていた。

 さっきのスネ顔なんてどこに行ったのかわからないくらい上機嫌だった。



「また釣り来てえなあ」

「今度は他の所に行ってみます?」



 帰る用意をしていたヨシューさんがポツリと呟いたので、そう返すと、周りの人がぐわっとその言葉に食いついてきた。



「他にも釣り場ってあるのか!?」

「どこに!」

「俺も知りたい! 教えてくれ!」



 食いついた人たちは皆釣りガチ勢だったらしい。

 一人が地図を取り出したので、ここから比較的近いクワットロ南部の湖を教える。

 あ、でもそこを漁場にしている人がいるから、ちゃんと断るように言うと、皆頷いていい笑顔を浮かべた。顔に「明日行こう絶対行こう」と書かれている。

 さて帰ろうかな、とヨシューさんと手を繋ごうとすると、コースト村から来ていた村人さんが「帰るなら荷馬車に乗ってくか?」と声をかけてくれた。跳べば一瞬だし、と断ろうとすると、ヨシューさんが「ほんとか!? 乗っていいのか?」と早速荷馬車に乗りこんでしまったので、コースト村まではそれでガタゴト移動することになった俺たち。

 辺りは大分暗くなってきている。荷馬車には凍った魚がかなりたくさん載っていた。これを村で選定していいやつをセィに出荷するらしい。トレ街のギルド転移魔法陣には登録しているものの、そこまでは荷馬車で運ばないといけないから、凍らせるのは必須らしい。今までは凍らせながら荷馬車でセィ城下街まで必死で運んだらしい。でも月に数度しか納品できなかったものが、最近では数日に一度の頻度で納品できるようになったので、そのうち城下街の壁外にも回るくらいに納品できるんじゃないかと村人さんは誇らしげに教えてくれた。





 コースト村に着くと、ヨシューさんはお礼代わりに獣人の村に生えている木の実を渡して村人と別れた。

 そこからジャル・ガーさんの所に転移した俺たちは、ジャル・ガーさんに挨拶して獣人の村に足を踏み入れた。

 ヨシューさんは迷いない足取りでヒイロさんの家にまっすぐ向かって行った。



「ヒイロ! 俺も釣りして来たぞ! 見ろ、すっげえのが釣れたから!」



 ヨシューさんはヒイロさんに詰め寄ると、じゃじゃーんと大物を取り出した。一メートル超えの魚だ。

 ヒイロさんはパカっと口を開けて、ヨシューさんの釣果を見ていた。



「……ちっ」



 ヒイロさんの口から舌打ちが聞こえたのは気のせいだったんだろうか。

 その後ヒイロさんはにんまり笑ってヨシューさんを褒め称えた。



「すっげえなヨシュー。俺でもそんなデカいのは釣れなかったよ。今回は俺の負けだ」

「ほんとか!? やった、俺の勝ちだ!」

「ああ。もちろん、勝者のヨシューは負けて項垂れてる俺に魚を恵んでくれるんだろ?」

「そうかヒイロは負けて悔しいのか! はははもちろん恵んでやるとも! 勝者である俺がな!」



 有頂天でそんなことを宣言したヨシューさんに、ヒイロさんは口元を手で隠してほくそえんでいた。魚ゲットの言質を取ったようだ。さすがヒイロさん。

 いつの間にやら言いくるめられて、ヨシューさんのメートル超え魚は半分ほどがヒイロさんの手に渡った。

 残った魚を見て、ヨシューさんはしまったという顔をしたけれど、今更返せとも言えないらしく、少しだけ悔しそうな顔をしていた。



「ありがとな、ヨシュー。魚で俺元気出た。さすが親友だな」



 そして絶妙なタイミングで持ち上げるのも忘れないヒイロさん流石。

 と感心していると、「というわけで料理作ってくれ」と二人に魚を差し出された。



「何がというわけなんですか」

「師匠をねぎらうのが弟子だろ」

「そうだそうだ。だから作って、弟子」

「この間新しく出来上がったアイテムのレシピ教えるから」

「とっておきの攻撃聖魔法教えるから」

「仕方ないなあ」



 一番転がされてるのは俺だった。

 ヒイロさんの家でデカい魚を刀で捌いて、またしてもひたすら料理を作った俺なのだった。





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