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353、聖水茶の効能
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ヒイロさんにとっておきの聖水茶を出しながら、俺はクエスト欄をタップした。
『錬金レシピを完成させよう
呪いに対抗できる物を作ることが出来る素材が手に入った
錬金を成功させて完成させよう
タイムリミット:10時間
クリア報酬:『滅呪の輝石』
クエスト失敗:錬金に失敗した 錬金をしなかった 獣人の村一部消失
【クエストクリア!】
無事錬金が成功した
クリアランク:B
クリア報酬:『滅呪の輝石』』
「何かそこにあるのか?」
宙を見つめる俺の目を見ながら、ヒイロさんが首を傾げた。
そういえば俺たちの目はステータス欄を開くと、それがしっかりと目に映るんだった。
「俺の目、なんか映ってません? これにさっき言ったクエストとかステータスとかが見えるんです」
「おお。確かになんか変な文字が書かれてる。俺らの文字と違うな」
「俺たちの世界の文字ですから」
「ちょっとそのまま映しててくれ」
ヒイロさんは興味深げにテーブルを回って俺の目に顔を近づけた。
ステータスは開いてるけど、その間にヒイロさんの顔がある。可愛いなあ、狐の顔。
クエスト欄を閉じて、今度はインベントリを開いてみると、ヒイロさんが「おお!」と声を上げた。
「何か瓶が入ってる! いろんな素材も入ってる。異邦人ってのは目にそういうもんを入れてたのか。すげえなあ。どうやるんだ」
「目に入ってるわけじゃないですけど、どうなってるのか俺はあんまり知らないです。知ってる人は王宮とトレにいるんですけど」
「あれか。いろんな酒を送ってくれる人族か」
「はい」
おもしれえなあ。俺らの知らない技術だなあ、なんて呟きながら、ヒイロさんが席に戻っていく。
俺もステータス欄を閉じて、ちょっとだけ冷めた聖水茶を口に含んだ。
この聖水茶はちょっと手が込んでいて、魔法陣で魔力濃度をめっちゃ濃くした水で淹れたお茶に祈りを捧げたから、いわば聖水茶ランクSなんだ。味は変わりないけど、ヒイロさんは滅茶苦茶気に入ったらしい。早速真似し始めていた。
「はー、清められたー」から「うおおおお、清められてる!」に進化したらしい。俺にとってはどっちも普通のお茶の味で、変化は分からないけど。贅沢だとは思う。
「そういえばな、三つ向こうの村にいる僧侶やってるやつが今絶賛聖水茶に嵌ってるんだけど、どうも聖魔法の威力が上がったらしいぞ。マックは聖魔法って使わないのか?」
「聖魔法なんて覚えてないですけど、どんな風に上がったんですか?」
ワクワクしながら聞くと、ヒイロさんは思い出し笑いをするように口もとを手で隠してフフフと笑ってから口を開いた。
「『ホーリーボム』っつう攻撃魔法があるんだけどな、そいつ、威力が弱くていつもそれを気にしてたんだよ。聖魔法ってのはあんまり攻撃魔法がねえし基本癒す方がメインだから仕方ねえんだけど、そいつが聖水茶を飲み始めてから、こんな手のひら大くらいだった魔法玉がな……こーんな大きくなったって魔法玉出した本人がビビッてたらしい。ははは、尻尾ヤバかったってよ。見たかった。背中もひたすら丸まってたらしい。最大級の警戒だよなはははは」
ヒイロさんが手を思いっきり開いて大きさを教えてくれた。
うわ、手のひら大のはずの魔法玉が両手を開いた大きさになるって、笑い事じゃないじゃん。それだけ威力も半端ないってことだろ?
それは出した本人が一番ビビるよ。わかる。
でもそれって実は滅茶苦茶すごいことなんじゃないかな。聖魔法って言ったらユキヒラだろ。
よし、ユキヒラに教えてあげよう。
「その話、友人にしてもいいですか?」
「ビビった話を? あははは、酒の肴になるよな!」
笑い話をしようと思ったわけじゃないけれど、ヒイロさんにとってその話は笑い事でしかないようだった。
でも確かに、獣人さんが魔法を使った瞬間自分が出した球にビビッて尻尾をぶわってするのは滅茶苦茶可愛いと思う。きっとあわあわしてたんだと思うと、どんな獣人さんなのかわからないけど、想像で可愛いよ。
背中を丸めて警戒するって、もしかしてネコ科の獣人さんかな。うん、可愛い。
ヒイロさんの家を出ると、村には人が戻ってきていた。
そして、外れの森近くで、オランさんとゴリラの獣人さんが話をしていた。
「マック、帰るのか」
「はい。お騒がせしました。オランさんのおかげで成功することが出来ました」
「いや、あれはお前の力だ。俺が手を貸したのは、そうするべきだと俺の勘が告げたからだ。マック以外の者だったとしたら、きっと俺は傍観者以外の何物でもなかった」
オランさんの勘、ありがとう。
あの助力がなかったら、きっと今回の錬金は失敗していて、村の一部が消失してたよ。
改めてお礼を言うと、オランさんは静かに頷いた。
ゴリラの獣人さんは何かもの言いたげに俺を見ていたけれど、オランさんに何か言われていたらしく、ただじっと黙っていた。
ジャル・ガーさんの洞窟に繋がる道を進んで足を進めると、大分後ろから、「おい」とゴリラの獣人さんに声を掛けられた。
振り返って樹の間から辛うじて見えるその姿を見ると、ゴリラの獣人さんは遠くてもよく聞こえる声で「また来い」と一言だけ俺に投げた。
「はい! ありがとうございます!」
もう来るな、とかだったらわかるけど、また来いなんて言ってもらえると嬉しいよね。
思わず満面の笑みで返事をすると、ゴリラの獣人さんはふいっと後ろを向いて木々の間に消えていった。
きっとオランさんが説得してくれたんだよな。助かるけど、オランさんはそれでいいのかな。俺、一応人族だし、人族は今も許せないってオランさん前に言ってたよな。
俺もヴィデロさんが切られた姿を思い出すとまだはらわたが煮えくり返りそうになるけど、でもそれを助けてくれたのもオランさんで、ヒイロさんで、そして獣人さんたちで。
ヴィデロさんのお腹が傷一つなく今も元気に動いていられるのは獣人さんたちの薬がないとダメだったっていうのはわかってて。
複雑な感情がごちゃ混ぜになるけど、もしかしてオランさんもこんな感情を常に持ってるのかな。ヴィデロさんも? ヴィデロさん、獣人さんたちとかなり仲良くやってるけど、オランさんを見る目はたまに厳しいから、俺以上に複雑なのかもしれない。
溜め息をひとつ吐くと、俺はジャル・ガーさんの洞窟に跳ぶ魔法陣に足を踏み入れた。
ジャル・ガーさんと少し会話をしてから工房に戻ってきた俺は、早速ユキヒラにチャットメッセージを送信した。
『聖魔法威力をあげたいかい?』
という何ともふざけたメッセージだったけど、ちゃんと名前の欄が白くなっていたユキヒラは、すぐに『そんなもんあるなら教えてください』と返してきた。なぜ敬語。
取り敢えず聖水茶を飲み続けるんだということをユキヒラに伝えると、ユキヒラは『そんなお茶、誰が飲むんだよ』なんて返してきた。俺が飲んでるし、獣人たちの間では一大ブームだよ。
詳しく訊きたい、というユキヒラに、メッセージで教えるのも面倒だと気付いた俺は、セィの街で待ち合わせることにして、工房からセィの農園に跳んだ。
久しぶりのモントさんに挨拶して、ここで待ち合わせていいか訊くと、モントさんは快い返事をくれた。
早速ユキヒラに「今セィの農園にいる」と送ると、すぐに行くとのこと。
本当にユキヒラは馬に乗って10分くらいで農園に着いた。
その間、俺はモントさんと農園を見て回り、新鮮な素材をたんまりゲットしていた。タルアル草も元気そうでよかった。
「おう、閣下のとこの若いのじゃねえか」
「ども。マックに呼ばれてきました」
「入れ入れ。待ってたぜ」
モントさんに連れられて、ユキヒラが姿を現した。
今日は鎧は着ておらず、ラフな格好をしている。
「んでマック。聖魔法の威力をあげる方法ってどんなだよ」
「その前に、ユキヒラは「祈り」って使える? あと水魔法」
「一応のたしなみとしてな。でも祈りなんて使う場面ほぼねえからレベルは上げてねえ。水魔法は中級くらいまでだな」
上出来、と頷くと、俺はモントさんに透明な茶器を借りた。
そして、唯一使える水魔法で出した水を沸騰させて、モントさんお薦めのお茶を淹れる。
ユキヒラは一連の流れを興味津々で見ていた。
綺麗なグリーンの色をしたお茶の入った茶器を前に、俺は徐に手を組んだ。
そして、祈る。
「……憎しみを愛に、悲しみを喜びに……」
祈るほどに、茶器の中のお茶がキラキラと光りはじめる。
祝詞を唱え終わると、お茶は聖水茶へと早変わり。
味は保証済み。
俺が組んでいた手を解くと、ユキヒラは目を見開いて茶器を見ていた。
口がパカって開いてるけど、閉め忘れてるのかな。
「……なんつうか、その発想、ねえわ……」
酷い一言をありがとう。とはいえ、偶然の産物なんだけどね。
「これをずっと飲み続けていた人が、手のひら大だった『ホーリーボム』がこれっくらいまで大きくなったって言うのをさっき聞いてさ」
ヒイロさんと同じように腕を広げると、ユキヒラは今度は眉を寄せた。
「なんだ、その『ホーリーボム』って魔法は」
「ユキヒラ覚えてないの? 数少ない攻撃系の聖魔法だって言ってたよ」
「俺が知ってる攻撃系の聖魔法は『セイントアロー』だけだ。威力が全くなくてよ、やっぱ聖魔法は回復オンリーかなんて思ってたんだけどな。どこで会える、その魔法を知ってるやつ」
「俺も知らない人。師匠からのまた聞きだから」
「師匠?」
「うん、めっちゃすごい薬師。ほんとヤバいくらいうまいポーション類を作る。俺まだまだだよ」
「マックのポーションでまだまだって、それだけでヤバいのわかるわ。そっか。知らねえ人なのか。でも、まだまだ聖魔法はあるってことだな。燃えて来たぜ」
そう言って気合いを入れると、ユキヒラは一気にキラキラのお茶を飲み干した。
継続して飲むといいらしいよ。ってことは、俺も聖魔法覚えたらすごい威力のが出るのかな。ちょっと夢広がるよね。
『錬金レシピを完成させよう
呪いに対抗できる物を作ることが出来る素材が手に入った
錬金を成功させて完成させよう
タイムリミット:10時間
クリア報酬:『滅呪の輝石』
クエスト失敗:錬金に失敗した 錬金をしなかった 獣人の村一部消失
【クエストクリア!】
無事錬金が成功した
クリアランク:B
クリア報酬:『滅呪の輝石』』
「何かそこにあるのか?」
宙を見つめる俺の目を見ながら、ヒイロさんが首を傾げた。
そういえば俺たちの目はステータス欄を開くと、それがしっかりと目に映るんだった。
「俺の目、なんか映ってません? これにさっき言ったクエストとかステータスとかが見えるんです」
「おお。確かになんか変な文字が書かれてる。俺らの文字と違うな」
「俺たちの世界の文字ですから」
「ちょっとそのまま映しててくれ」
ヒイロさんは興味深げにテーブルを回って俺の目に顔を近づけた。
ステータスは開いてるけど、その間にヒイロさんの顔がある。可愛いなあ、狐の顔。
クエスト欄を閉じて、今度はインベントリを開いてみると、ヒイロさんが「おお!」と声を上げた。
「何か瓶が入ってる! いろんな素材も入ってる。異邦人ってのは目にそういうもんを入れてたのか。すげえなあ。どうやるんだ」
「目に入ってるわけじゃないですけど、どうなってるのか俺はあんまり知らないです。知ってる人は王宮とトレにいるんですけど」
「あれか。いろんな酒を送ってくれる人族か」
「はい」
おもしれえなあ。俺らの知らない技術だなあ、なんて呟きながら、ヒイロさんが席に戻っていく。
俺もステータス欄を閉じて、ちょっとだけ冷めた聖水茶を口に含んだ。
この聖水茶はちょっと手が込んでいて、魔法陣で魔力濃度をめっちゃ濃くした水で淹れたお茶に祈りを捧げたから、いわば聖水茶ランクSなんだ。味は変わりないけど、ヒイロさんは滅茶苦茶気に入ったらしい。早速真似し始めていた。
「はー、清められたー」から「うおおおお、清められてる!」に進化したらしい。俺にとってはどっちも普通のお茶の味で、変化は分からないけど。贅沢だとは思う。
「そういえばな、三つ向こうの村にいる僧侶やってるやつが今絶賛聖水茶に嵌ってるんだけど、どうも聖魔法の威力が上がったらしいぞ。マックは聖魔法って使わないのか?」
「聖魔法なんて覚えてないですけど、どんな風に上がったんですか?」
ワクワクしながら聞くと、ヒイロさんは思い出し笑いをするように口もとを手で隠してフフフと笑ってから口を開いた。
「『ホーリーボム』っつう攻撃魔法があるんだけどな、そいつ、威力が弱くていつもそれを気にしてたんだよ。聖魔法ってのはあんまり攻撃魔法がねえし基本癒す方がメインだから仕方ねえんだけど、そいつが聖水茶を飲み始めてから、こんな手のひら大くらいだった魔法玉がな……こーんな大きくなったって魔法玉出した本人がビビッてたらしい。ははは、尻尾ヤバかったってよ。見たかった。背中もひたすら丸まってたらしい。最大級の警戒だよなはははは」
ヒイロさんが手を思いっきり開いて大きさを教えてくれた。
うわ、手のひら大のはずの魔法玉が両手を開いた大きさになるって、笑い事じゃないじゃん。それだけ威力も半端ないってことだろ?
それは出した本人が一番ビビるよ。わかる。
でもそれって実は滅茶苦茶すごいことなんじゃないかな。聖魔法って言ったらユキヒラだろ。
よし、ユキヒラに教えてあげよう。
「その話、友人にしてもいいですか?」
「ビビった話を? あははは、酒の肴になるよな!」
笑い話をしようと思ったわけじゃないけれど、ヒイロさんにとってその話は笑い事でしかないようだった。
でも確かに、獣人さんが魔法を使った瞬間自分が出した球にビビッて尻尾をぶわってするのは滅茶苦茶可愛いと思う。きっとあわあわしてたんだと思うと、どんな獣人さんなのかわからないけど、想像で可愛いよ。
背中を丸めて警戒するって、もしかしてネコ科の獣人さんかな。うん、可愛い。
ヒイロさんの家を出ると、村には人が戻ってきていた。
そして、外れの森近くで、オランさんとゴリラの獣人さんが話をしていた。
「マック、帰るのか」
「はい。お騒がせしました。オランさんのおかげで成功することが出来ました」
「いや、あれはお前の力だ。俺が手を貸したのは、そうするべきだと俺の勘が告げたからだ。マック以外の者だったとしたら、きっと俺は傍観者以外の何物でもなかった」
オランさんの勘、ありがとう。
あの助力がなかったら、きっと今回の錬金は失敗していて、村の一部が消失してたよ。
改めてお礼を言うと、オランさんは静かに頷いた。
ゴリラの獣人さんは何かもの言いたげに俺を見ていたけれど、オランさんに何か言われていたらしく、ただじっと黙っていた。
ジャル・ガーさんの洞窟に繋がる道を進んで足を進めると、大分後ろから、「おい」とゴリラの獣人さんに声を掛けられた。
振り返って樹の間から辛うじて見えるその姿を見ると、ゴリラの獣人さんは遠くてもよく聞こえる声で「また来い」と一言だけ俺に投げた。
「はい! ありがとうございます!」
もう来るな、とかだったらわかるけど、また来いなんて言ってもらえると嬉しいよね。
思わず満面の笑みで返事をすると、ゴリラの獣人さんはふいっと後ろを向いて木々の間に消えていった。
きっとオランさんが説得してくれたんだよな。助かるけど、オランさんはそれでいいのかな。俺、一応人族だし、人族は今も許せないってオランさん前に言ってたよな。
俺もヴィデロさんが切られた姿を思い出すとまだはらわたが煮えくり返りそうになるけど、でもそれを助けてくれたのもオランさんで、ヒイロさんで、そして獣人さんたちで。
ヴィデロさんのお腹が傷一つなく今も元気に動いていられるのは獣人さんたちの薬がないとダメだったっていうのはわかってて。
複雑な感情がごちゃ混ぜになるけど、もしかしてオランさんもこんな感情を常に持ってるのかな。ヴィデロさんも? ヴィデロさん、獣人さんたちとかなり仲良くやってるけど、オランさんを見る目はたまに厳しいから、俺以上に複雑なのかもしれない。
溜め息をひとつ吐くと、俺はジャル・ガーさんの洞窟に跳ぶ魔法陣に足を踏み入れた。
ジャル・ガーさんと少し会話をしてから工房に戻ってきた俺は、早速ユキヒラにチャットメッセージを送信した。
『聖魔法威力をあげたいかい?』
という何ともふざけたメッセージだったけど、ちゃんと名前の欄が白くなっていたユキヒラは、すぐに『そんなもんあるなら教えてください』と返してきた。なぜ敬語。
取り敢えず聖水茶を飲み続けるんだということをユキヒラに伝えると、ユキヒラは『そんなお茶、誰が飲むんだよ』なんて返してきた。俺が飲んでるし、獣人たちの間では一大ブームだよ。
詳しく訊きたい、というユキヒラに、メッセージで教えるのも面倒だと気付いた俺は、セィの街で待ち合わせることにして、工房からセィの農園に跳んだ。
久しぶりのモントさんに挨拶して、ここで待ち合わせていいか訊くと、モントさんは快い返事をくれた。
早速ユキヒラに「今セィの農園にいる」と送ると、すぐに行くとのこと。
本当にユキヒラは馬に乗って10分くらいで農園に着いた。
その間、俺はモントさんと農園を見て回り、新鮮な素材をたんまりゲットしていた。タルアル草も元気そうでよかった。
「おう、閣下のとこの若いのじゃねえか」
「ども。マックに呼ばれてきました」
「入れ入れ。待ってたぜ」
モントさんに連れられて、ユキヒラが姿を現した。
今日は鎧は着ておらず、ラフな格好をしている。
「んでマック。聖魔法の威力をあげる方法ってどんなだよ」
「その前に、ユキヒラは「祈り」って使える? あと水魔法」
「一応のたしなみとしてな。でも祈りなんて使う場面ほぼねえからレベルは上げてねえ。水魔法は中級くらいまでだな」
上出来、と頷くと、俺はモントさんに透明な茶器を借りた。
そして、唯一使える水魔法で出した水を沸騰させて、モントさんお薦めのお茶を淹れる。
ユキヒラは一連の流れを興味津々で見ていた。
綺麗なグリーンの色をしたお茶の入った茶器を前に、俺は徐に手を組んだ。
そして、祈る。
「……憎しみを愛に、悲しみを喜びに……」
祈るほどに、茶器の中のお茶がキラキラと光りはじめる。
祝詞を唱え終わると、お茶は聖水茶へと早変わり。
味は保証済み。
俺が組んでいた手を解くと、ユキヒラは目を見開いて茶器を見ていた。
口がパカって開いてるけど、閉め忘れてるのかな。
「……なんつうか、その発想、ねえわ……」
酷い一言をありがとう。とはいえ、偶然の産物なんだけどね。
「これをずっと飲み続けていた人が、手のひら大だった『ホーリーボム』がこれっくらいまで大きくなったって言うのをさっき聞いてさ」
ヒイロさんと同じように腕を広げると、ユキヒラは今度は眉を寄せた。
「なんだ、その『ホーリーボム』って魔法は」
「ユキヒラ覚えてないの? 数少ない攻撃系の聖魔法だって言ってたよ」
「俺が知ってる攻撃系の聖魔法は『セイントアロー』だけだ。威力が全くなくてよ、やっぱ聖魔法は回復オンリーかなんて思ってたんだけどな。どこで会える、その魔法を知ってるやつ」
「俺も知らない人。師匠からのまた聞きだから」
「師匠?」
「うん、めっちゃすごい薬師。ほんとヤバいくらいうまいポーション類を作る。俺まだまだだよ」
「マックのポーションでまだまだって、それだけでヤバいのわかるわ。そっか。知らねえ人なのか。でも、まだまだ聖魔法はあるってことだな。燃えて来たぜ」
そう言って気合いを入れると、ユキヒラは一気にキラキラのお茶を飲み干した。
継続して飲むといいらしいよ。ってことは、俺も聖魔法覚えたらすごい威力のが出るのかな。ちょっと夢広がるよね。
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