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340、打ち合わせ
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次の日、会社に行くと、すでにアリッサさんは来ていた。
そして応接テーブルの上には紙が散乱していた。
佐久間さんが通常業務をする中、応接テーブルでアリッサさんとヴィルさんが向き合って打ち合わせをしていた。
「おはようございます」
「おはよう健吾」
「おはよう健吾君」
佐久間さんはギアを被ってるからか、片手だけあげている。
カバンを俺用机の所に置くと、早速ヴィルさんに手招きされた。
ヴィルさんの隣に座って机の上にある紙に目を向けると、それは皆の試練内容がまとめられていた。
なんでも、昨日のうちに皆に内容をチャットで聞いたらしい。エミリさんとクラッシュには直接行ったとか。セイジさんの試練内容までまとめてあるのは、どうやったんだろう。改めて恐ろしい、ヴィルさん。
ないのは、ヴィデロさんと雄太とユイのだけ。
「健吾と弟は昨日デートしてただろ。邪魔しちゃ悪いと思って声を掛けなかったんだ」
とニヤリと笑うヴィルさんに、思わずカッと赤くなる。
も、もしかして愛し合ってたの、聞かれた……? でも寝室のドアに声が洩れなくなる魔法陣をクラッシュが描いてくれたから、大丈夫、きっと。
「鎧を出しに行ったんだろ? ログインしたら健吾がいなかったから」
という付け足された言葉にホッとする。そっか、ヴィルさんも出ていたんだ。よかった。
安堵の息を吐くと同時に、ヴィルさんがぼそりと「健吾、アダルト設定にしてるんだもんな……」なんて呟いたのが耳に入って思わず咽る。
口をパクパクさせていると、ヴィルさんと目ががっちり合ってしまった。
「健吾どうした、顔が赤いぞ」
「ああああかくないですよ気のせいです」
必死でごまかすと、ヴィルさんが声を出して笑った。
俺たちがラブラブなのは知ってるからって、アリッサさんの前でその揶揄いはどうかと思うんだけど……。
居たたまれなくなって、俺は一回お茶汲みと称してキッチンに逃げて呼吸を整えた。
他の人に揶揄われたんだったら、ラブラブ羨ましいだろう、で済むけど、ヴィデロさんの家族に揶揄われるのって、なんか、なんていうか、妙に気恥ずかしい。
前に親に一人でしてるところを見られた恥ずか死ぬとか言ってた同級生がいたけど、こんな気分だったのかな。
お茶を淹れて応接テーブルに戻ると、今度はヴィルさんも仕事の顔になっていた。よかった。
テーブルの上の紙を何気なく一枚拾って見てみる。
それは海里の試練内容だった。
ブレイブの放つ矢を全て落とすか、ブレイブを戦闘不能に陥らせるのがクリア条件となっていて、ちょっとだけ息を呑んだ。
ドキドキしながら読み進めると、矢を全て落としてクリアしたらしい。魔法と双剣を駆使したとか。まあ、増田は彼女に剣を向けるとか、出来ないよな。出来ない、よな?
次に拾ったのが、ブレイブの試練内容がまとめられた紙だった。
ブレイブの場合は、ずっと影と戦っていたらしい。影だから物理攻撃は無効、魔法の矢と魔法攻撃のみでひたすら戦ったとか。考察としては、その影は自分の影だと思うってなってる。
ブレイブはいつも腰に何個かアイテムをぶら下げていたから、インベントリが開けなくても、ちゃんとMP回復出来ていたらしい。そこまでの破壊力のない弓矢での攻撃のせいか時間はかかったけれど、そこまで苦はなくクリアしたらしい。
ブレイブ強い。
「ヴィデロさんの場合は、獣人の人と戦ったと言ってました」
「なぜその試練なのか、健吾はわかるか?」
わかる。多分ヴィデロさんの一番心に傷を残した出来事だから。
無言で頷くと、ヴィルさんはそれ以上は追及せずに頷くだけにとどめてくれた。
「高橋は、ウノの魔物から順に最後は魔大陸の魔物までをひたすら倒しまくったって言ってました。あと、ユイは大事な人の顔がくっつけられた人型の射的にひたすら魔法を打ち続けたって。シューティングみたいって楽しそうでした」
そして容赦なくその顔写真を打ちまくったそうです……とは言えない。ユイ恐るべし。
「貴重な情報だ。ということはこれで今回入った者の内容が揃ったということか。どれも自身の心に打ち勝つ、っていうのが根本っぽいな」
「もう一度検証してみたいところだけれど、ヴィルと健吾君は二か月は入れないのよね。じゃあ……幸平こうへいに頼むか日暮かそれとも足立か……」
アリッサさんは一枚の紙を見ながら考え込んでいる。
「あと、一組が入っている間に他の人がまた入れるかとかも検証したいわね。あと数人必要か……誰がいいかしら」
「あ、この間声を掛けそびれたパーティーがあるんですけど、もしアリッサさんが良ければ声をかけてみてもいいですか? よくエルフの里に遊びに行くらしいので、実力はすごいです」
「へえ、いいじゃない。なんて名前のパーティー?」
「『マッドライド』っていうんですけど」
「『マッドライド』……ああ、いいわね。少し手伝ってもらいましょうか」
とりあえずもう少しだけ検証してみてから、公式で発表するということになった。前のグループが出て来る前に次のグループが入れるかとか、ほんとは中で時間ギリギリまでいてもらって失敗するとかそういうことも検証したいって言ってたけど、わざと失敗するのはちょっと嫌だなあ。検証って実は地味に大変そう。
早速連絡を取れるかしらと言われて、俺はギアを渡された。
簡易ベッドを取り出して、社会人とかもいるから連絡取れるかわからないけど、と前置きしてから、ログインした。
工房に出てフレンドリストを開くと、乙おつさんだけがログインしていた。
早速チャットを飛ばしてみる。
『面白い神殿を見つけたんですけど、挑戦してみませんか。するのであれば詳しく話します』
そんなにすぐには返事が来ないだろうと思ってお茶を淹れていると、ピロンと音が鳴った。
え、もう返事? 早い。
『マックが面白いってことはすげえ癖のあるレアな神殿ってことだろ。やるに決まってる。詳しく』
『限界突破できるアイテムが手に入る神殿なんですけど』
ズバリそのままチャットの文字を送ると、しばらく返事が返ってこなかった。
そして、今度こそお茶を飲んでまったりしていると、ピロンと通知音が鳴った。
『詳細を教えてくれ。場所も教えて欲しい。報酬はどうする』
まさかのハルポンさんからの返事だった。
あれ、もしかして乙さんってハルポンさんのリアフレ?
前にゲームフェスタで会ったイケメンハルポンさんを思い出しながら首を捻る。
それに見つけたのはヴィルさんであって俺情報じゃないし、こっちから入って欲しいあわよくばモニターになって欲しいって頼むのに、報酬なんて貰えるわけないよね。
『報酬はいらないけど、神殿の内容を詳しく教えて欲しいです』
『それだけでいいならお安い御用だ。で、場所は』
俺はあの洞窟があった場所を何とか口頭で教えると、情報提供の約束を取り付けてチャット欄を閉じた。
日取りも決まったら教えてくれるらしい。でも行くとしたら、全員が揃う週末だろうってことだ。さすが社会人。夏休みってものがない。そんな俺も会社にいるんだけどね。
ログアウトしてギアを外すと、俺はまたも応接テーブルに戻った。
「オッケー貰いました。日取りは週末くらいだろうって」
「よかった。それに合わせて日暮と足立には出てもらおうかしら。幸平は……声をかけてみないと」
とんとん拍子に更なる検証の話がまとまっていき、俺が席を立って昼食を作るころにはテーブルの上はすっかり片付いていた。
アリッサさんも食べていくと言っていたので、気合を入れて作る。またヴィデロさんに俺の手料理食べて欲しいなあなんて思いながら。
後片付けの後は、書類整理と打ち込み作業をやった俺は、夜ご飯を作るだけ作ると、早めに会社を後にした。
帰り路、自転車を軽快に飛ばしていると、雄太の家の前でばったり雄太とユイに会った。
「よ。二人でデート?」
「そういう健吾はバイト帰りか?」
「うん」
「そうだ健吾。ちょっとうちに寄って行かねえ?」
雄太に突然誘われて、俺は思わずユイを見た。いつも通りニコニコしている。でもこの顔で雄太の顔写真付きの射的をガンガンぶっ壊したんだよなこの子。
「俺、デートの邪魔して恨まれたくないんだけど」
「え、私? 恨まないから大丈夫だよ」
ユイが慌てて手をぶんぶん振る。
よし決まり、と雄太が俺の自転車のハンドル部分を握った。逃がさない気満々だな。
全く嫌な顔をしないニコニコのユイと、ニヤリと悪役顔になる雄太を前に、俺は観念してサドルから腰を下ろしたのだった。
そして応接テーブルの上には紙が散乱していた。
佐久間さんが通常業務をする中、応接テーブルでアリッサさんとヴィルさんが向き合って打ち合わせをしていた。
「おはようございます」
「おはよう健吾」
「おはよう健吾君」
佐久間さんはギアを被ってるからか、片手だけあげている。
カバンを俺用机の所に置くと、早速ヴィルさんに手招きされた。
ヴィルさんの隣に座って机の上にある紙に目を向けると、それは皆の試練内容がまとめられていた。
なんでも、昨日のうちに皆に内容をチャットで聞いたらしい。エミリさんとクラッシュには直接行ったとか。セイジさんの試練内容までまとめてあるのは、どうやったんだろう。改めて恐ろしい、ヴィルさん。
ないのは、ヴィデロさんと雄太とユイのだけ。
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も、もしかして愛し合ってたの、聞かれた……? でも寝室のドアに声が洩れなくなる魔法陣をクラッシュが描いてくれたから、大丈夫、きっと。
「鎧を出しに行ったんだろ? ログインしたら健吾がいなかったから」
という付け足された言葉にホッとする。そっか、ヴィルさんも出ていたんだ。よかった。
安堵の息を吐くと同時に、ヴィルさんがぼそりと「健吾、アダルト設定にしてるんだもんな……」なんて呟いたのが耳に入って思わず咽る。
口をパクパクさせていると、ヴィルさんと目ががっちり合ってしまった。
「健吾どうした、顔が赤いぞ」
「ああああかくないですよ気のせいです」
必死でごまかすと、ヴィルさんが声を出して笑った。
俺たちがラブラブなのは知ってるからって、アリッサさんの前でその揶揄いはどうかと思うんだけど……。
居たたまれなくなって、俺は一回お茶汲みと称してキッチンに逃げて呼吸を整えた。
他の人に揶揄われたんだったら、ラブラブ羨ましいだろう、で済むけど、ヴィデロさんの家族に揶揄われるのって、なんか、なんていうか、妙に気恥ずかしい。
前に親に一人でしてるところを見られた恥ずか死ぬとか言ってた同級生がいたけど、こんな気分だったのかな。
お茶を淹れて応接テーブルに戻ると、今度はヴィルさんも仕事の顔になっていた。よかった。
テーブルの上の紙を何気なく一枚拾って見てみる。
それは海里の試練内容だった。
ブレイブの放つ矢を全て落とすか、ブレイブを戦闘不能に陥らせるのがクリア条件となっていて、ちょっとだけ息を呑んだ。
ドキドキしながら読み進めると、矢を全て落としてクリアしたらしい。魔法と双剣を駆使したとか。まあ、増田は彼女に剣を向けるとか、出来ないよな。出来ない、よな?
次に拾ったのが、ブレイブの試練内容がまとめられた紙だった。
ブレイブの場合は、ずっと影と戦っていたらしい。影だから物理攻撃は無効、魔法の矢と魔法攻撃のみでひたすら戦ったとか。考察としては、その影は自分の影だと思うってなってる。
ブレイブはいつも腰に何個かアイテムをぶら下げていたから、インベントリが開けなくても、ちゃんとMP回復出来ていたらしい。そこまでの破壊力のない弓矢での攻撃のせいか時間はかかったけれど、そこまで苦はなくクリアしたらしい。
ブレイブ強い。
「ヴィデロさんの場合は、獣人の人と戦ったと言ってました」
「なぜその試練なのか、健吾はわかるか?」
わかる。多分ヴィデロさんの一番心に傷を残した出来事だから。
無言で頷くと、ヴィルさんはそれ以上は追及せずに頷くだけにとどめてくれた。
「高橋は、ウノの魔物から順に最後は魔大陸の魔物までをひたすら倒しまくったって言ってました。あと、ユイは大事な人の顔がくっつけられた人型の射的にひたすら魔法を打ち続けたって。シューティングみたいって楽しそうでした」
そして容赦なくその顔写真を打ちまくったそうです……とは言えない。ユイ恐るべし。
「貴重な情報だ。ということはこれで今回入った者の内容が揃ったということか。どれも自身の心に打ち勝つ、っていうのが根本っぽいな」
「もう一度検証してみたいところだけれど、ヴィルと健吾君は二か月は入れないのよね。じゃあ……幸平こうへいに頼むか日暮かそれとも足立か……」
アリッサさんは一枚の紙を見ながら考え込んでいる。
「あと、一組が入っている間に他の人がまた入れるかとかも検証したいわね。あと数人必要か……誰がいいかしら」
「あ、この間声を掛けそびれたパーティーがあるんですけど、もしアリッサさんが良ければ声をかけてみてもいいですか? よくエルフの里に遊びに行くらしいので、実力はすごいです」
「へえ、いいじゃない。なんて名前のパーティー?」
「『マッドライド』っていうんですけど」
「『マッドライド』……ああ、いいわね。少し手伝ってもらいましょうか」
とりあえずもう少しだけ検証してみてから、公式で発表するということになった。前のグループが出て来る前に次のグループが入れるかとか、ほんとは中で時間ギリギリまでいてもらって失敗するとかそういうことも検証したいって言ってたけど、わざと失敗するのはちょっと嫌だなあ。検証って実は地味に大変そう。
早速連絡を取れるかしらと言われて、俺はギアを渡された。
簡易ベッドを取り出して、社会人とかもいるから連絡取れるかわからないけど、と前置きしてから、ログインした。
工房に出てフレンドリストを開くと、乙おつさんだけがログインしていた。
早速チャットを飛ばしてみる。
『面白い神殿を見つけたんですけど、挑戦してみませんか。するのであれば詳しく話します』
そんなにすぐには返事が来ないだろうと思ってお茶を淹れていると、ピロンと音が鳴った。
え、もう返事? 早い。
『マックが面白いってことはすげえ癖のあるレアな神殿ってことだろ。やるに決まってる。詳しく』
『限界突破できるアイテムが手に入る神殿なんですけど』
ズバリそのままチャットの文字を送ると、しばらく返事が返ってこなかった。
そして、今度こそお茶を飲んでまったりしていると、ピロンと通知音が鳴った。
『詳細を教えてくれ。場所も教えて欲しい。報酬はどうする』
まさかのハルポンさんからの返事だった。
あれ、もしかして乙さんってハルポンさんのリアフレ?
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それに見つけたのはヴィルさんであって俺情報じゃないし、こっちから入って欲しいあわよくばモニターになって欲しいって頼むのに、報酬なんて貰えるわけないよね。
『報酬はいらないけど、神殿の内容を詳しく教えて欲しいです』
『それだけでいいならお安い御用だ。で、場所は』
俺はあの洞窟があった場所を何とか口頭で教えると、情報提供の約束を取り付けてチャット欄を閉じた。
日取りも決まったら教えてくれるらしい。でも行くとしたら、全員が揃う週末だろうってことだ。さすが社会人。夏休みってものがない。そんな俺も会社にいるんだけどね。
ログアウトしてギアを外すと、俺はまたも応接テーブルに戻った。
「オッケー貰いました。日取りは週末くらいだろうって」
「よかった。それに合わせて日暮と足立には出てもらおうかしら。幸平は……声をかけてみないと」
とんとん拍子に更なる検証の話がまとまっていき、俺が席を立って昼食を作るころにはテーブルの上はすっかり片付いていた。
アリッサさんも食べていくと言っていたので、気合を入れて作る。またヴィデロさんに俺の手料理食べて欲しいなあなんて思いながら。
後片付けの後は、書類整理と打ち込み作業をやった俺は、夜ご飯を作るだけ作ると、早めに会社を後にした。
帰り路、自転車を軽快に飛ばしていると、雄太の家の前でばったり雄太とユイに会った。
「よ。二人でデート?」
「そういう健吾はバイト帰りか?」
「うん」
「そうだ健吾。ちょっとうちに寄って行かねえ?」
雄太に突然誘われて、俺は思わずユイを見た。いつも通りニコニコしている。でもこの顔で雄太の顔写真付きの射的をガンガンぶっ壊したんだよなこの子。
「俺、デートの邪魔して恨まれたくないんだけど」
「え、私? 恨まないから大丈夫だよ」
ユイが慌てて手をぶんぶん振る。
よし決まり、と雄太が俺の自転車のハンドル部分を握った。逃がさない気満々だな。
全く嫌な顔をしないニコニコのユイと、ニヤリと悪役顔になる雄太を前に、俺は観念してサドルから腰を下ろしたのだった。
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