これは報われない恋だ。

朝陽天満

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324、出だしでこれか……

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 4人と共に光によって開いた道に足を踏み入れると、ゴゴゴ……という地響きと共に今まで開いていた入り口が閉まった。

 でも誰も焦ったりしない。ゲーム慣れしていないはずのヴィルさんも、ただただ面白そうな顔つきで閉じられていく入り口を見ていた。

 ぴったりと入り口が閉まり切った瞬間、外の古代魔道語に触れた時に聞こえた声が、また頭に響いた。



『知を欲する者よ、おのれのすべての力を使い先に進め』

「そうか。ここは「知」の場所なのか」



 全員声が聞こえたらしく、セイジさんが口元を持ち上げながら口を開いた。



「ってことは、向こうは「力」と「魔力」ってところ?」



 紅一点のユーリナさんも納得したように頷く。そして、俺とクラッシュを見てから、ヴィルさんをじっと見た。ヴィデロさんとそっくりだから戦士系に見えるかもしれないけど、実はバリバリ学者系だからね。

 一応外では自己紹介したんだけど、ヴィルさんがヴィデロさんのお兄さんだって言ったとき、雄太とこっちの住人以外は皆変な顔をしたんだよなあ。だってマップに表示されてたマークがヴィデロさんはNPC色、ヴィルさんはプレイヤー色だったから。



 先に続く道は、さっきの洞窟とは雰囲気が変わっていた。青く光る岩は石畳になり、ところどころ柱が立っている。まさに神殿内部、って感じの道だった。通路には点々とカンテラのような物が設置されていて、先が明るい。

 セイジさんの実力は知ってるから何も言わないけど、俺とクラッシュとヴィルさんを見るユーリナさんの視線は、ちょっと微妙だった。なんか、保護者的な暖かさがあった。きっと俺達低レベル者を守ってあげないと、とか思ってるんだと思う。ユーリナさんもレベルカンスト勢の一人だもんな。



「あ、そうだ。ユーリナさんも弓使うんですよね」

「ええ。一応『聖狩人セインアーチャー』っていうジョブやってるから。サブジョブに『盗賊シーフ』をセットしてるんだけど、こっちが全然上級職にならないのよ」

「俺もです。メインしか上級職になってないです。でもそんな簡単に上級職ってなれませんよね。そう、これさっきブレイブにも渡したんですけど、ユーリナさんにもこれを渡しておきますね」



 俺はブレイブ用に作っていた『感覚機能破壊薬』を、ユーリナさんにもとりあえず20個ほど渡した。それを手に取ったユーリナさんは、じっとそのアイテムを見て、少しだけ眉の間に皺を寄せた。



「これ……なんかすごい性能の物が出て来たね。マック君作?」

「はい。ブレイブは矢にぶら下げて使ってたので、ユーリナさんにもお願いしようかと」

「もちろん。まかせて」



 さすが副業盗賊のユーリナさん。アイテムの鑑定はお手の物らしい。っていうかじゃあここにいるメンバーは全員鑑定とか使えるってことか。ああ、なるほど。「知」だね全員。



「アルは更なる「力」、エミリは更なる「魔力」……」



 セイジさんは小さく呟いて少しだけ肩を震わせると、さ、進むか、と先頭を歩き始めた。

 道はまっすぐではなく、少しだけ曲がりくねっていて先が見通せなかった。

 警戒しながら足を進めると、いきなり横の壁が光りはじめた。



「トラップ?!」



 思わずビクッと肩を震わせていると、壁に三本の光の線が現れた。



「何だこれ」



 いきなり現れたってことは、俺たちに関係している光であることは明白なんだけど、何を表してるのかはわからない。

 いやな感じもしないし、あの頭に響く声もしない。三本の光の線は、後ろ側からちょうど俺たちが立っている場所まで光っていた。一番上の線は下の二本より少しだけ長く、真ん中、下の線は同じくらい。



「とりあえずわけわからねえのに構ってる時間はねえな。進むぞ」



 セイジさんも壁の線を見ながら、足を止めた皆を促す。

 足を動かすと、光の線も俺たちの速さに合わせるかのように伸びていく。

 壁を気にしながらさらに進んでいくと、ふとヴィルさんが口を開いた。



「そこから先、ちょっとこのまま進むのはよくない気がする」



 ヴィルさんがそんなことを言うってことは、何かあるってことか。

 先頭を歩いていたセイジさんもヴィルさんの言葉に足を止めると、一歩後ろを歩いていたユーリナさんが「うわあ……」と声を出した。



「セイジ、そこから先はトラップだらけだからちょっと止まって」

「トラップ?」

「ええ。シーフの方のスキルで、あたしトラップを見破れるのよ。すっごくヤバいことになってる」



 ユーリナさんは首を傾げた俺に教えてくれてから、身軽に先頭まで走っていった。

 そして弓を構えながら、何かを視線で探している。数秒後、探していたものを見つけたらしく、口元を少しだけ持ち上げて、「リリース」と呟きながら矢を射た。

 ユーリナさんの矢が天井に刺さると、そこからピシピシピシ、という音が聞こえてきて、その後、静かになった。



「今ので簡単なトラップ解除、全体の6割ってところかな」

「すごい!」



 思わず声をあげて拍手を送ると、ユーリナさんが俺に向かってウインクした。



「でもまだ半分近く残ってるから、少しだけ待ってね」



 そう言うと、足元を見ながら敷かれている石畳を選んでユーリナさんは飛び移る様にして先の方に行ってしまった。そしてしゃがんで石畳を指でなぞり、またも「リリース」と呟く。



「すげえな、ユーリナ。あそこまで簡単にトラップ解除できる奴なんてそうそういねえぜ」

「ですね。俺もちょっと覚えたい」

「クラッシュは盗賊シーフになりてえのか?」

「そういうわけじゃないですけど。俺、あんまり特技ってものがないから」



 ちょっとだけユーリナさんを眩しそうに見ていたクラッシュの言葉に、セイジさんが吹き出す。

 そして、クラッシュの頭をわしわしと手で掻き混ぜた。



「クラッシュの今の魔力はエミリに近いもんがあるんだけどそれじゃダメなのか? エミリに近いって、化け物並みだってことだぜ。今のクラッシュなら魔大陸に行っても活動出来そうなくらいだ」

「え、ほんとに?」

「こんなことで嘘ついてどうするんだよ」

「母さんと近い魔力……へえ、そっか」



 嬉しそうに顔を緩めたクラッシュに、セイジさんの温かい視線が注がれている。親子だ。親子がここにいる。

 そしてその微笑ましい光景とは反対に、ユーリナさんは一人ちょっと先で奮闘している。

 そこにヴィルさんが近寄って行った。



「ちょっと、ヴィルさん。そんな無造作に歩いて……って、何でそんな簡単にトラップ避けれるわけ?」

「なんとなく、歩いていいところと歩いたらダメだってところがわかるから。ところでユーリナ君。トラップ解除をそばで見ていてもいいか?」



 難なくユーリナさんの横に辿り着いたヴィルさんが、屈み込んでいるユーリナさんの視線に合わせるように腰を落として手元を覗く。うーん、もしかしてトラップ解除のスキルを覚えようとしているのかな。

 ユーリナさんは「見てても面白くないと思うけど」と呟きつつ、石畳に指を添わせて「リリース」と呟いている。



「どうして触っただけで解除出来るんだろう」

「MPが減ってるから、魔力で解除されるとかそんな感じなんじゃないかな」

「なるほど。面白いな」

「もしかしてヴィルさん、そんな感じでこの神殿を見つけたの?」

「ああ。こっちに何かありそうだって思って進んだらここがあった」



 ヴィルさんの言葉に、ユーリナさんが呆れたような視線を向けた。セイジさんも「まさか」と苦笑しながらヴィルさんを見ている。



「半分冗談みたいな感じだけど、ほんとのことだよね……」

「うん。ほんとにあんな感じでここを見つけたんだよ……」



 俺とクラッシュは、いやというほどヴィルさんの非常識を知ってるので、溜め息しか出なかった。



 ふと壁を見ると、一番下だけ真横でとどまり、上二つはさらに伸びていた。真ん中の光は今も少しずつ少しずつ進んでるのが、俺たちが足を止めているからこそわかる。



「……もしかして、これって、俺たちが進んでるのを示す光、とか?」



 真横で止まっている光を見て、ふと思いついたことを呟く。

 一斉に壁の方を見た全員が、なるほどと頷いていた。

 今一番進んでるのは、真ん中の光だ。一番上の光は、俺たちよりもっと伸びて、そこで止まっている。他のどこかの道でも、こんな風に足止めをされてるのが、その光の動きでわかるってことかな。

 すごい、凝ってるなあ。



「さ、大体トラップ解除出来たよ。あとは三か所、あたしの腕じゃ解除できないトラップがあったから、それだけ気を付けて進むよ」



 スッと立ち上がってユーリナさんが「行くよ」と俺たちを振り返る。すると、ヴィルさんがしゃがみ込んだまま、じっと一本の柱を見つめていた。



「ユーリナ君。あの柱のトラップは解除出来ないのか?」

「成功率20%ってところ。あのトラップはレベルが足りないから失敗しそうで怖くて手が出ないよ。それだけ手の込んだトラップだと、失敗した時の反動も怖いしね」

「そうか……その20%に賭けてリリースする気はないか?」

「え、いやだよ」

「そこを何とか。あそこは解除しないとダメだ」

「……」



 はっきりとダメだと言い切ったヴィルさんに、ユーリナさんが困ったような顔をする。でも、ヴィルさんがそう感じるなら、絶対にあのトラップには何かがあるってことなんだと思う。けど。



「リリース以外でトラップを解除する方法ってないんですか?」



 セイジさんにそう訊くと、セイジさんは「ねえことはねえよ」と答えてくれた。

 その解除方法って、どうするんだろう。
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