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306、アダルトな俺≠初々しい俺
しおりを挟むヴィデロさんは、俺の手を引いてクラッシュの店に向かった。
ドアを開けて入って行くと、クラッシュはプレイヤー数人と話をしていた。
「クラッシュ」
「あ、ヴィデロとマック。いらっしゃい。なに、納品?」
「違うんだ。今日は客として来た」
「え、ほんとに? いらっしゃいませ、何がご入用でしょうか」
ヴィデロさんのセリフにクラッシュがふざけて真顔で接客を始める。それを見ていたプレイヤーたちが笑いながら店を出ていく。「ありがとうございましたぁまたどうぞ」と見送ったクラッシュは、ヴィデロさんに向きなおると、首を傾げた。
「それで、欲しい物って?」
「マックにも飲めそうな酒で、クラッシュお薦めの物が一本」
それを聞いたクラッシュは、驚いた顔をした後カウンターから出てきた。
そして俺の手を握り、満面の笑みで「おめでとう!」と握った手をぶんぶん振った。
「とうとう成人したんだ! ヴィデロがマックに酒を飲まそうとするなんて、それ以外ありえないもんね! 成人の儀は? 受けて来た? どうだった? ね、ね、これから二人で成人のお祝いするわけ?!」
「え、あ、うん。成人の儀は、普通だったよ……? ってかなんでそんなハイテンションなんだよ?」
「だってマックが成人したら、頼みたかった薬を作ってもらえるようになるじゃん!!」
「え、薬……?」
「そう! 成人した人しか使えない、作れない、売れないもの各種! よかったあ、他の薬師さんが納品してくれるものって、まだまだランクが低いんだよね。伸びてきたのはポーション類ばっかりでさ。マックが作ってくれたらきっとすぐにランクSとか出来るじゃん? お祝いにその品物とレシピをプレゼントするからさ! 頼むよマックー」
嬉しそうにそんなことを言ったクラッシュは、一旦奥の部屋に入って行って、その後、手に色々な物を抱えて戻ってきた。
それを俺たちの前に並べていく。
薄いピンク色の液体が入った大きめの瓶、粘度の高そうな透明な液体の入った瓶、炎のマークの入った小さな白い瓶、そして、固形で紙に包まれたコロンとした物。あとはレシピ数枚。
何だこれ。初めて見た。
目を輝かせていると、ヴィデロさんが横で溜め息を吐いた。
「クラッシュ……成人した途端こんなものを作らせるなんて……」
「いいじゃん! だってマックは薬師だよ。頼まない手はないよね」
会話からして、ヴィデロさんはこれが何なのかわかるみたいだった。
こんなものって……どんなもの?
ついつい鑑定をして、ようやくそれがどんなものかわかった。
薄いピンクの瓶は果実酒で、別にクラッシュが俺に作らせたい物じゃなかったんだけど。その他の物が。
『潤滑香油:ランクC 性交を円満に行うための香油 未成人使用不可』
『疑似恋愛成就薬:ランクC 体温及び心拍数を上昇させ疑似的に恋に落ちたように思わせる薬 偽薬 未成人使用不可』
『固形媚薬:ランクC 舌の裏に置いて口腔内で溶かすことで身体感度を上昇させる飴 未成人使用不可』
はい、アダルトアイテムでした。それぞれレシピ付き。俺にこれを作れと。
「請け負いましょう」
真顔で返すと、クラッシュが満面の笑みを浮かべ、ヴィデロさんが目を見開いた。だってこのエロアイテム、男のロマンでしょう。こんなの売ってたなんて知らなかったよ。まあ俺が成人してなかったから、知らなかったのは当たり前なんだけどね。頑張って作るね!
クラッシュから送られた物をインベントリにしまって、店を後にする。
新しいレシピを手に入れた俺の鼻息に、ヴィデロさんはさっきから苦笑気味だ。大丈夫、今日は調薬なんてしないから。
だって。
細胞活性剤なしでパンツが剥がれるようになった初めての日だから。
ヴィデロさんと手を繋いでまだ午前中の清々しさを残した朝の道を歩きながら、俺はチラッとヴィデロさんの横顔を覗き見たのだった。
工房に帰って来ると、俺はレシピを薬師用の工房のインベントリにしまった。そして、早速さっきクラッシュから貰った果実酒を取り出した。
「初めての飲酒に付き合ってくれる?」
「喜んで」
カップを二つ持ってきて、テーブルに置く。つまみは必要かな。お腹減ってるかもしれないからちょっと食べる物も出しておこう。
インベントリからサンドイッチを取り出してテーブルに置き、他にはと首を巡らせて、トレアムさんから買った果物の存在を思い出して早速剥いてテーブルに置き、あとは、とキッチンに顔を向けたところでヴィデロさんが俺の腕を取った。
「とりあえず落ち着いて乾杯しようか」
微笑したヴィデロさんに促されて、俺はおとなしく椅子に座った。
グラスをコンと合わせてから、一口、口に含む。
途端に濃厚な果物の香りが口の中に広がった。そして、ジュースのような甘さの中に、少しだけ苦みが混じる。喉を通る液体が、その通った場所を一瞬で温めていった。
味は、美味しい。すごく。
甘くて飲みやすいのもいいな。ヴィデロさん少し舐めるくらいでそこまで飲んではいない。俺に合わせたから、もしかしたら口に合わないのかもしれない。カーっと麦酒みたいなものをぐい飲みしたいのかな。
「ヴィデロさん、火酒飲む? まだ沢山あるから。このお酒、すっごく美味しいけどヴィデロさんあんまり好きじゃなさそう」
返事を聞く前に倉庫のインベントリから火酒の瓶を一本取り出してきて、ついでに新しいカップも取り出してヴィデロさんの前に置く。
そしてそのまま隣に座って蓋を開けようとすると、ヴィデロさんがそっと俺の手を止めた。
「流石に火酒を飲んだらこの後前後不覚に陥りそうだからやめておく。それよりも、初めての酒はどうだ? 美味しいか?」
「うん! 美味しい」
ヴィデロさんの優しい笑顔に、俺の顔も緩む。
それにしてもお酒って美味しかったんだ。ええと、アランネとリモーネの果実酒か。今度仕入れよう。
柔らかい飲み口に、俺はついついジュースを飲む感覚で一瓶開けてしまった。
あれ、俺、お酒の強さってどれくらいに設定したっけ。真ん中より弱くしたんだっけ。それってどれくらい飲んだら酔っぱらうってことなんだろう。
首を傾げながら、そろそろお酒はやめにしてお茶を淹れようと腰を上げると、足に力が入らずヴィデロさんの方に重心が傾いでいった。
「おっとと」
「マック、大丈夫か?」
すかさず俺を抱き取ってくれたヴィデロさんが俺の顔を覗き込む。
足に力が入らない。うわあ、俺、まんま酔っ払いの動きしてたよ。
「大丈夫……かなあ?」
立てないってことは、大丈夫じゃないってことかな。なんて真剣に考えていると、ヴィデロさんがくすくす笑い始めた。
意識はしっかりしてる気がするのに、いまいち身体が動かしにくい。そしてなんかいつもよりも気分がいいっていうか幸せっていうかそんな感じがする。意識はしっかりしてるのに。これが酔ってるってことかな。
「酔ってるマックも可愛いな。でも、気分はどうだ?」
「すごく気分いい。だってヴィデロさんがギュッてしてくれてるから」
特に吐き気とかもないけど、この身体でも吐きそうになったりするのかな。もしかして排泄設定とかそういうのに入ってたりして。オフにしておいてよかった。
フワンとしたいい気分のままヴィデロさんにくっついていると、ヴィデロさんが俺のおでこにチュッと唇を降らせた。
「まだ昼前だけど、下着が脱げるか試してみるか?」
「うん」
目を細めてそっと誘うヴィデロさんに、俺は一も二もなく頷いた。
寝室に運び込まれた俺は、ヴィデロさんに下ろしてもらうとインベントリからさっきクラッシュに貰ったエロアイテム一式をベッド横の小さな机に並べた。
ついでにスタミナポーションとかホットゼリーとかそういうのも。備えあれば憂いなしって言うし。
並んだ瓶に満足してローブの留め金に手を掛けると、そっとそこにヴィデロさんの手が重なる。
俺が脱がせたい、そんな囁きが耳元で響いて、心臓が高鳴った。
今までも散々ヴィデロさんと愛し合って来たのに。
なんか、今日が初めてするみたいな気分だった。なんか変に緊張する。
ドキドキしながらベッドに座ってされるがままになっていると、俺の身に着けていたものが一つ一つ床に落ちていった。
そして、今までなら細胞活性剤を飲むまでは絶対に張り付いて剥がれなかった下着に、ヴィデロさんの指がかかった。
何の抵抗もなく、するりと下着が脱げる。
そして、俺が試行錯誤してキャラメイクしたそのままのナニが、ヴィデロさんの目の前にお目見えした。
「……マックのが、なんか、初々しいな……」
視線を落として、ヴィデロさんがポツリと呟く。
え、いつもと違う? 初々しいって、どういう感想?
俺の股間を見下ろしているヴィデロさんをドキドキしながら観察する。もしかして、もっと違うほうがよかった? 大きい方がよかったとか……? それともむしろ、もっと色が黒い方が、いやいや、頭が大きい方がよかったとか。
「お、お気に召さなかった……?」
むしろ課金してヴィデロさん好みのナニにした方がいいのか?! なんて思いながら恐る恐る訊くと、ヴィデロさんは「いや……むしろ」と視線を上げた。
「いつもマックが薬を飲んでた時は、もっとなんていうか、しっかりと大人な感じの……だったから」
あの薬は身体の成長と共にここもしっかり成長させてたんだな……なんて感心したように言うヴィデロさんに、俺も自分の物をちゃんと見ようと視線を下げた。いつもドーピングしてた時は自分のナニなんて見る余裕なかったからその時がどんな感じだったのかはわからないけど。
じっと見ると、それはいつもログアウト後に右手とお友達になってる俺自身のブツと同じような大きさで。色とかもしっかりと同じような感じで、人間最終的には一番見慣れた物が一番しっくりするように感じる物だったんだな、なんてしみじみ思った。やっぱこんな感じかな、なんて思って設定したここ、まんま本体と同じだったよ……。このなまっちろい童貞臭バリバリの俺のブツ。辛うじて皮は何とか剥けてるのが救いだけど、この先っちょのピンク感と頼りなさ。
……確かに、初々しいよ……! 全然大人じゃないよ! どうしたアダルトな俺!
いきなり恥ずかしくなって慌てて手でそこを隠した瞬間、いきなり動いた弊害か、くらりと眩暈がした。
チラッとステータスを覗くと「酩酊」っていうバッドステータスがついてる。
「酔ってる時はいきなり動いちゃダメだろ……って、今更恥ずかしがるんだな、マック」
ヴィデロさんの小さな笑い声を聞きながら、股間を手で隠したまま眩暈に抗えずにベッドに転がる。
すると、軋みもなくヴィデロさんがベッドの上に身体を乗り上げた。
真上から見降ろされて、心臓が跳ねる。
近づく大好きな顔に見惚れていると、唇が啄ばまれた。
「恥ずかしがるマックも、初々しいマックも、可愛い……」
吐息と共に囁いたヴィデロさんは、その後重ねた唇を深くしていった。
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