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233、剣舞のように
しおりを挟む俺は自分が持っていたそこまで強くない剣を鎧の人の前に放り出した。
このレベルの魔物はさすがに剣が全然効かないから持ってても意味ないし。
「お前……これ」
「貸すから早く魔物倒せよ! それとも弱いのかよ!」
必死で魔法陣を描きながら叫ぶ。ああ、ガンガンMPが減っていく。でもそこまで魔法が効いてる気がしない!
思い出すようにセイジさんの描いた魔法陣を繰り出していく。あの威力がほしい。でもアレはセイジさんが何年も何年も使ってるからこその威力なのかもしれない。
ヴィデロさんはこの魔物を結構簡単に倒してたけど、やっぱり俺には難しいのかな。
ちらりと横を見ると、マルクスさんが一匹を葬っているところだった。でも傷が増えてる。
多分スノウグラスさんに向かう魔物の攻撃をすべて抑えようとしてるから。魔物のレベルが高いのか、そこまでデバフは効いてないみたいで、スノウグラスさんも必死で魔法を飛ばしていた。
キィン! と甲高い音がして、魔物の牙が折れる。次の瞬間、魔物が咆哮を上げた。
ビリビリする咆哮に、身体が固まりそうになる。
「うるせえ!」
咆哮に対抗するために怒鳴って、ビリビリを弾き飛ばす。こんな咆哮、効くかよ! スノウグラスさんに威圧耐性つけて貰ったんだからな!
気合いと共に目潰しを投げ、あのボス特有のはずの瀕死のパワーアップをしたらしい魔物の攻撃を止める。っていうかなんで雑魚のはずのこの魔物がパワーアップするんだよ!
なんてマルクスさんの魔物に気をとられていると、いきなり横から爪が振り下ろされた。
痛……!
そうだった、俺の相手はこっちだった。
「マック!」
「大丈夫!」
思いっきり引き裂かれた腕は全然大丈夫じゃないけど、マルクスさんの叫び声に必死でそう返す。目の前の魔物はしっかりと俺をロックオンしているから、手を足を休めるとすぐに消されそうだ。HPが切れてないのはスノウグラスさんの支援魔法で底上げされてるから以外にないよ絶対。普通だったら深手だもん。
それにしても、攻撃をかわしながら魔法陣を描くのすごく難しい。
あんまりスピード重視の魔物じゃなくてよかった。でも早く腕回復させたい。
抉られた左腕はなんか使い物にならなくなってるから、さっさと回復しないとさらに不利になるだけだよ。
クソ、と思っていると、ようやく鎧の人が俺の前に割り込んできた。
魔物の攻撃を剣で受けながら、「早く回復しろよ!」と叫んでいる。
「何でこんなカスい剣使ってるんだよ! っつうかなんでトレ周辺の魔物がこんなに強いんだよ! おかしいだろ!」
俺のなまくらな剣で魔物と戦いながら、鎧の人が叫ぶ。魔物の視線が鎧の人に移ったから、今のうちに回復しよう。
ハイパーポーションを腕に掛けて、もう一本を一気飲みする。そしてマジックハイパーポーションも一気飲みして、よし、全回復!
魔物は鎧の人に任せることにして、俺はマルクスさんの元に走った。後ろで「何そっちに行ってんだよ!」なんて声が聞こえるけど気にしない。
到着した瞬間、目の前で魔物が光になっていく。この魔物を一人で倒せるなんて、やっぱりマルクスさんも強い。
大きく息を吐いたマルクスさんに勝手にハイパーポーションを掛けると、腕の傷がすぐに消えていった。
「やっぱマックの回復薬はすげえな。綺麗に治った」
「治らなかったら困るよ。飲んで回復しといて。スノウグラスさんも」
二人にそれぞれの回復薬を渡して飲ませてほっとしてると、後ろの方で悲鳴が上がった。
「そっち倒したならこっちに来て手伝えよ!」
鎧の人が魔物の尻尾で転がされながら叫んでいる。
「スノウグラス!」
「俺はお前にはもう支援魔法は掛けない」
悲鳴のような声で呼ぶ鎧の人に、スノウグラスさんはきっぱりとそう言って断った。
あ、HP減ってる減ってる。転がされるたびに鎧の人のHPバーが減っていく。
剣で対抗するも、一撃入れても魔物のHPバーはあんまり削られず。まあ、攻撃力弱い剣だしなあ。初期の。
身体が大きくて順番待ちをしていたような動きの最後の一匹の魔物は、俺達には興味を示さず鎧の人の方をうろうろしてるし。この人何したんだろう。
マルクスさんは身体を動かして状態が治ったことを確認すると、一度スノウグラスさんに視線を向けてから、ゆっくりとした足取りで鎧の人の方に近付いていった。
転がってまだ起き上がってない鎧の人に振り下ろされる爪を剣で弾くと、その勢いで魔物の懐にもぐりこみ、剣を薙ぐ。ぐっと目に見えて魔物のHPが減った。
「そんな悠長に転がってたら狙ってくれって言ってるようなもんだぜ。早く起き上がれよ」
鎧の人に声を掛けつつ、魔物に攻撃を仕掛けるマルクスさんに、スノウグラスさんがすかさず攻撃力アップの魔法を飛ばす。
俺も横から魔法陣を展開して微力ながらHPを削っていく。でも大丈夫、さっきの鎧の人が攻撃したときよりは削れてる!
ちょっとだけ自信を付けて魔法陣を描いていくと、すぐに魔物のHPバーは赤くなった。
そしてこいつも咆哮を上げた。
対抗するために「だからうるせえ!」と大声を出す。結構有効なんだよ。マルクスさんも威圧耐性が効いてるのかもともとついてるのか、全然気にもせずに攻撃をしている。でも鎧の人は咆哮が効いたのか、硬直していた。
最後のあがきで少しだけ素早くなった魔物が、固まってる鎧の人目がけて爪を振り下ろす。それをマルクスさんが弾く。その隙に横から俺が魔法を放つ。爪を弾かれ仰け反ってる間にマルクスさんも攻撃を仕掛ける。バフが切れそうになるとすぐにスノウグラスさんが底上げしてくれるのがすごく助かる。
ようやく起き上がってきた鎧の人も剣を構えて負けじと魔物に突っ込んでいった。
一体を三人で攻撃するのはすごく快適で、すぐにHPバーを削り切ることが出来た。
「次すぐ来る……って待って、他にも魔物集まって来てない?!」
ホッと一息ついてマップを見た瞬間、俺は愕然とした。またも魔物を示すマークがこっちにじりじりと向かってきているから。
俺の言葉を聞いたマルクスさんが、鎧の人に視線を向けた。
「お前、なんか呪いを貰ってねえ?」
マルクスさんの言葉に、鎧の人が何でそれを、という顔をした。
「呪われてる、けど……なんでそれが魔物に襲われることになってるんだ?」
「よくあることだからだよ」
マルクスさんは、最後……じゃなくなった一体に剣を向けながら、なんてことないようにそういった。そういえば前も門番さんたちがトレインをごく普通に処理してたよな。日常茶飯事なのかな。
「じゃあその呪いを解かないとまた魔物が集まってくるってことか」
そろそろ陽が傾いてきている。魔物退治に結構時間を食ってるから。瞬殺で倒して街まで走って、ギリって感じなのにまた魔物が来たらもうアウトだよな。
「その呪い、なんて名前の呪い?」
「『魔香の呪い』ってなってる」
「もしかして石像に触った?」
「あ? ああ」
あそこはもう注意書きの看板が立っていて、触ると呪われるってことが周知の事実なのに触るなんて珍しい。しかもあそこに行く人はほぼディスペルハイポーションを買っていくのに。
「ディスペルハイポーション、持ってないんだ」
「アレ一つで千ガル位するだろ。そんなひょいひょい買えねえよ」
吐き捨てるように言って剣を構える鎧の人に、俺は手持ちのディスペルハイポーションを渡した。
「さっさと飲んで呪いを消せよ。迷惑だ」
「……サンキュ」
受け取って一気に飲んだ鎧の人に、すかさず俺は「二千ガル」と値段を吹っ掛けた。
「は?! 高くね?! なにボったくってんだよ!」
「迷惑料と魔物にやられたときに俺達が使った回復薬も合わせたらむちゃくちゃ安いと思うけど。あ、あと剣の貸し出し賃も」
「ふざけんな!」
「ふざけてないよ。お前のせいでスノウグラスさんのクエストが失敗するかどうかの瀬戸際に立たされてるんだから、ちょっとは責任感じろよ」
ついでに俺のクエストもかかってるんだ。失敗すると門番さんたちの親愛度が???ってなってるんだから、怖いんだよ。
なんて言ってる間に、でかい一体がマルクスさんの剣に切り刻まれていた。
回復したマルクスさんはさっきよりもさらに強さがアップしているみたいで、一撃一撃で削れるHP量が増えていた。すごい。
「闇の者は闇に沈め、暗闇!」
スノウグラスさんが魔法を唱えた瞬間、魔物の目の周りに黒い靄が現れて、魔物の視線が定まらなくなる。
獲物が見えなくなった魔物がきょろきょろし始めた瞬間、マルクスさんが猛攻を開始した。まるで剣舞の様な動きで魔物を切り刻んでいく。魔物はどこから攻撃されているのかわからないみたいで、誰もいない空間を爪で切り裂いたりマルクスさんとは全く違うところに噛みつきを繰り出したりしている。おお、本場の目潰しは違う。俺の目潰し、今度本格的に研究してみようかな。便利だからそのまま使ってたけど。もしかして目潰しじゃないのかな。
HPバーが赤くなって魔物が咆哮をあげても、マルクスさんは攻撃を続けた。俺、今回は出番なし。だって下手に手を出すと邪魔しちゃいそうな動きだから。
木の幹を蹴ってすっかり瀕死になった魔物の頭上に跳んだマルクスさんが、頭上から剣を刺し込み、魔物の頭を地面に縫い付ける。
サラ……と頭から光となって消えていく魔物にふぅ、と息を吐いたマルクスさんは、俺とスノウグラスさんを振り返った。
「他の魔物はどうなったんだ?」
「呪いが解けた辺りから散り散りになったよ。ここに襲ってくることはないけど、帰り道が魔物だらけっぽい」
「あー……ま、そうだよな。しかし、今更ディスペルハイポーションも持たずに石像の所に行く奴がいたなんてなあ」
マルクスさんが鎧の人に目を向けて、呆れたような溜め息を吐いた。
鎧の人はイラっとした様な顔をしていたけれど、さっきのマルクスさんの動きを見ていたせいか、怒鳴り返すことはなかった。
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