これは報われない恋だ。

朝陽天満

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223、ハイパーポーションの回復量

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「わかった。払おう。ギルドのエミリを通して支払ってもいいか? 明日に」

「大丈夫です。あ、それと定期納品ってことは、次はどれくらいで納品に来ればいいですか?」



 どれくらい使うかわからないから、とりあえず一月後にまた同じ数だけ納品してくれと言われたので、頷いておく。

 取り敢えず100本ほど瓶が入るというケースをあきらめ顔の副団長が出してきてくれたので、それにハイパーポーションを入れていく。

 ハイパーポーション用ケース五段とマジックハイパーポーション用ケース三段がきっちり重なったところで、ピコンとクエスト欄に通知が来た。よし、これで魔物が若干弱くなるってことだ。エルフの里が近くなった気がする!



 小さくガッツポーズをすると、それを目ざとく見ていた高橋がこっちに歩いてきて、俺の首に腕をがしっと巻き付けた。



「なあなあマック。今さっきダンジョンで手に入れた戦利品やるから俺にもそれ、分けてくれねえ? 何なら言い値で買おう!」

「え、どんな素材? 調薬に使えそう? 見せてくれ」

「私もあるよ。マック君どんなの欲しい? お花とか?」



 一緒に付いてきたユイが笑顔でそんなことを言う。掴まれたままでほんのちょっとだけ苦しいのに、思わず笑ってしまった。どうしてお花とか持ってるんだ。皆が戦闘で頑張ってる時にしゃがみ込んで「わあ、綺麗なお花」ってニコニコしてるユイを思い浮かべちゃったじゃないか。



「ってか高橋ボロボロじゃん。ユイも! 脚見えてるから隠しなさい。海里も! 谷間はしまいなさい」



 思わずチラ見しちゃって気まずくて注意すると、さらにきゅっと首が絞められた。



「見るなよ」

「見せるなよ。不可抗力だよ」

「つうかクエストで来たのかよ」

「そうだよ」

「クリアかよ」

「そうだよ」



 この会話は首を絞められたまま繰り広げられております。手加減されてるからかちょっと苦しいかも、っていうくらいなのがいっそムカつく。

 その会話にぼろぼろのプレイヤーの面々が和んでいる。

 海里なんか「マックお母さんみたい」なんて笑ってるし。笑う前にしまってあげなさい、ブレイブ。



「どんなクエストなんだよ」

「勇者にハイパーポーション納品。クラッシュに連れてきてもらったんだよ。高橋はシークレットダンジョンどうだったんだよ」



 ギブギブと雄太の腕を叩くと、ようやく腕が離れていった。はぁ。



「ヤバかった。今までで一番ヤバかったのはエルフの里までの道かと思ってたけど、序の口だった。ドラゴン系オンパレード。最後なんかヤマタノオロチみたいな頭がわんさか生えてるドラゴンだった。ほんとダメかと思った。白金の獅子がいなかったら多分ダメだった。回復薬もMPもすっからかんだから最後もう必死で泣きそうだった。アレが光になって消えていった瞬間のあの解放感と達成感、今まで感じたことねえくらいものすごかった」



 珍しくかなり感情のこもった雄太の声に、皆が同意している。俺、行かなくてよかった。ってそんな中でどうしてユイはお花を摘んでるんだ? 一番の疑問はそこだ。



「もしかしたらシークレットダンジョンのレベルは入るやつらのレベルと人数、そして強さに比例して中も見合った難易になるのかもしれないな」



 『白金の獅子』の槍を背中に担いでいる人がそう口にする。

 そう言えるだけの根拠がありそうなしっかりとした口調だった。



「ああ、俺もそう思った。俺たちは一度クリアオーブのダンジョンを経験しているが、こんなに難易度は高くなかった。あの時は今よりよほどレベルが低かったが、それにしてもあの難易度ではなかった。もちろん、ほぼすべての力を出し切って、それでもギリギリだったんけどな。今回のダンジョンを振り返ると、あの時がすげえかわいく思えるよ」



 がっちりと鎧を着て腰に剣をぶら下げている人が、俺を見て肩を竦めた。

 そんなことってあるのかな。この世界がもし本当にゲームだったらわからなくもないんだけど、そうじゃないしなあ。不思議ダンジョンだな。

 雄太が、槍を持ってる人がリーダーのガンツさん、剣を持ってるのが月都さん、裾に大穴が開いてるローブを着てるのがドレインさん、紅一点のアーチャーがユーリナさんだと紹介してくれた。皆パーソナルレベルが150を超えているらしい。なんていうか、それを聞いた瞬間に俺との格差を感じた。とりあえず拝んでみよう。



「そしてこいつが例の英雄の息子の専属薬師のマック。リア友」

「例のってなに」



 雄太の言葉に、俺のすぐ横から突っ込みが入った。俺じゃないよ。クラッシュ本人が単純に気になったらしい。



「有名なのは母さんであって俺じゃないよね。高橋」

「俺らプレイヤーの中では店主さんは結構有名なんだ」

「悪い意味で有名、とかじゃないよね」

「ああ、うん。悪くない」



 うわあ、ちょっとだけクラッシュの笑顔が怖いかも。すごく綺麗に笑ってるんだけど、雰囲気が少しだけ温度低い気がする。

 ほんとにいい意味で有名なんだけどなあ。

 ちょっとだけ雄太が押され気味なのが面白い。

 思わず笑いそうになっていると、ガンツさんが助け舟を出してくれた。



「よく君の店のハイポーションはとても美味しくて効果が高いと聞くから、俺達異邦人の間では有名なんだ」



 その言葉に納得したのか、クラッシュの周りの温度が戻った、気がした。



「なあんだ。それならマックとセイジさんのお手製のハイポーションだからだよ。特にマックのハイポーションは最近すごく美味しくてさ。納品してもらってもその日のうちに売れるんだ。今はランクCハイポーションの四倍の値段で売ってるよ」



 ニコニコとクラッシュが話す内容に、勇者とセイジさんまでこっちを注目した。その苦笑する顔がどうしても保護者のそれに見えるんだよなあ。

 でもセイジさんのハイポーションも売ってたんだ。知らなかった。



「味はマックのがぴか一だよ。特に最近のは甘くてすごく美味しい。何本でも飲みたくなるような味」



 それは必死で修行したからね。薬草を美味しく調薬する方法。



「確かに前に貰ったハイパーポーションもなんか果汁しぼりたてみたいな味だったな。めっちゃ美味かった」



 雄太もそれに同意したおかげで、すごい目で『白金の獅子』の面々にガン見されてしまった。

 あ、でもそうか。この人たちまだHP ほぼ切れかかってる人たちだ。俺もまだ知らないハイパーポーションの回復量を試せるかもしれない。

 俺の今の鑑定レベルでは、ハイポーションの時には見れるようなHP回復量が見れないんだよ。もっと鑑定レベルも上げないとだめだな。



「不躾ですいません。ガンツさんは今最大HPどれくらいの数値ですか? でもって残りHPも教えて貰えたら嬉しいです」

「HPか。今は最大は895だな。でもって今のHPは35だ。もう一発くらってたら確実に消えてたな」



 今は戦闘中じゃないから頭上にHP表記がないのが悔しい。でもみんな同じくらいな物なんだろうなあ。

 俺はHPまだ3桁になったばっかりくらいだから戦闘職とかレベルとかでこんなに差が出るんだ。

 ありがとうございますとお礼を言って、俺はカバンからハイパーポーションを取り出した。



「出来ればモニターになって欲しいんですけどいいですか?」

「モニター?」

「はい。これはさっき勇者に納品したハイパーポーションなんですけど、俺、未だにこれがどれくらい回復するのかわからないんです。わかるのは、高橋のHPくらいは全快するってことだけで」



 俺の言葉に、ガンツさんが息を呑んだ。そして、恐る恐る俺が差し出した瓶を受け取ると、皆が注目する中ほんのちょっとだけ舐めてみた。

 そして一言「美味い……」と呟くと、一気に呷った。



「青臭くない。どころかフルーツジュースを飲んでるみたいだ。後味もスッとする。回復量は……700……?」



 ハイポーションランクSの回復量の約四倍強くらいだった。もう少し高いかなと思ったけど、やっぱりランクが低いとだめか。これ、ヒイロさんが作ったハイパーポーションだったら1000くらいは余裕で回復しそうだよな。そう思うと、獣人さんたちって基本HPとかめちゃくちゃ高いんだろうなあ。

 なんてちょっとがっかりしていたのは俺だけだったらしい。



「なんつーもんを作るんだマックは」



 とセイジさんに呆れられてしまった。



「でもこれでもまだ蘇生薬には手が届かないんです。もっと腕を上げないと」



だって蘇生薬のレシピはまだ灰色だから。まだ作れないってことだ。きっと蘇生薬を作れる適正レベルに達してないんだと思う。あとどれくらい上がれば作れるようになるのかなあ。

 がっくりしていると、セイジさんが薄っすらと微笑んで、俺の頭に手を置いた。



「まだあと二つある。そろったとしても、待つ時間ぐらいある。思いつめるのはなしな」

「でも」

「でもじゃねえ。それにな、オーブが手に入って、マックが蘇生薬の生成に成功したとしても、まだそれだけじゃ万全じゃねえんだ。万が一を考えないと、とんでもない事態を引き起こして後悔ばかりになっちまうから」



 微笑しながら話すセイジさんの言葉は、重い何かが込められているかのように心にずしっと響いた。見ると、勇者も自嘲するような笑みを浮かべている。

 もしかして、エミリさんも同じような顔をするのかな。



 あの雄たけびは、どんな気持ちで上げた物だったんだろう、この目の前に座る勇者は。そんなことを、初めて思った。







 俺は気を取り直すように、ぼろぼろの全員にハイパーポーションをあげた。

 目の前で死にそうになってる友達を捨て置けるほど人非人じゃないつもりだからね。

 ジャル・ガーさんに許可を得たからこそできる芸当だ。

 なんだかんだで全く雄太に詳細を教えてなかったからなあ。



「ところで高橋、古代魔道語はどう?」

「どうって言われても未だにあの文字が模様にしか見えねえ」



 本人に資質があるならまだしも、ない時は特定のこの世界の人から教えて貰えるとスキルとして覚えられるんだけど、高橋はそのセンスがなかったらしい。俺が持ってる古代魔道語のジャル・ガーさんの本を見せても雄太は全く古代魔道語のスキルを覚えなかったから、諦めてそういう人を探し出して古代魔道語を……と思ったところで、すぐ近くにいたセイジさんを見た。



 いたよ。スキルを覚えさせることが出来て、古代魔道語を読める人が。ここに。



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