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167、合流withヴィデロさんとクラッシュ
しおりを挟む「最近は何をしていたんだ? 街でも全く見かけなかったから」
「工房の中でひたすら祈ってたんだ。祈るとスタミナと魔力を使うから、そのまま寝ちゃって」
「そうか、あんまり無理はするなよ」
「全然無理じゃないよ。むしろ祈るのは好き」
気付くと時間が過ぎちゃってるのが玉に瑕だけど。
でもそのおかげか、祈りレベルはぐいぐい上がってるんだ。きっとランクの高い聖水を作る日も近いね!
気合いを入れつつ、ヴィデロさんと共にクラッシュの店に行く。
ようやく落ち着いたのか、店に行列は出来ていなかった。
カランとドアベルを鳴らして入っていくと、数人の客とクラッシュが店内にいた。
「いらっしゃ、ってあー! マック! 何雲隠れしてたんだよ! 来るの待ってたんだから!」
「あ、ごめん、納品忘れてた」
「それもだけど、心配してたんだってば。ヴィデロに訊いてもヴィデロも顔を見てなかったっていうし、じゃあ工房に行って確認しろって言ってもマックなりの考えがあって顔を出さないんだろうからって」
そ、そんなに心配してもらえてたのか。申し訳ない。ただただレベル上げだけ必死でやってたから、周りのそういう気持ちに全く気付いてなかったよ。反省。
「ごめんクラッシュ。ヴィデロさんもごめん、心配かけちゃって」
「大丈夫だから。好きなように行動しろよ。……まぁ、たまに俺のことを思い出してもらえると嬉しいけどな」
「ずっとヴィデロさんのことを考えて祈ってたよ。むしろそれ以外考えなかったよ俺」
「はいはいごちそうさま。それで、今日は何?」
ヴィデロさんと見つめ合ってたところを強制的にクラッシュに止められて、無理やり話題転換される。
そうだったお酒だった。
「あ、ヴィル! 今日もヴィル連れてきてくれたんだ。おいで、こっちおいで」
ようやくヴィデロさんの肩に鳥がとまってることに気付いたクラッシュは、人に訊いておきながら俺をそっちのけでヴィル鳥に指を伸ばした。
鳥がピヨと鳴く。
『おはよう天使』
「おはようだってさ」
ヴィルさんの言葉を翻訳すると、クラッシュの顔が輝いた。
ヴィル鳥はためらうことなくクラッシュの指に移動していき、ピヨピヨ鳴いた。
「今日も綺麗だね天使、だってさ。今日はそのヴィル鳥を連れてジャル・ガーさんの所に行ってくる。だからお酒売ってくれない?」
「え、あそこ行くの? 俺も行きたいんだけど。それともデート?」
「違うよ、今日はヴィル鳥の指示で行ってくるんだ」
「そっか。じゃあ俺が一緒でも構わないよね」
キラキラと目を輝かせてクラッシュがそんなことを言うので、俺はヴィル鳥に向かって「だそうですけどいいですか?」と訊いてみた。
『それは構わないけど、ほんとその世界の人と仲いいなあ健吾は。向こうで合流するやつがいることを説明してそれでもいいって言うんだったら大丈夫』
「わかりました」
ピヨピヨ鳴く鳥と会話する俺を、お客さんたちが胡乱な目で見ている気がする。
でも鳥に向いて話さないとまんま独り言を言ってる変な人になっちゃうから、変質者よりはメルヘン男の称号を秤にかけただけの苦肉の策なんだけど。見ないでくれ、メルヘンな俺を見ないでくれ……。ヴィルさんアバターを連れてた方がまだましな気がするよ。
「現地で合流する人がいるんだけど、それでもいい?」
俺の言葉に二人とも頷く。
クラッシュがまたワインを樽で仕入れていたみたいだったので、それを買い取りインベントリにしまっていると、クラッシュはお客さんに「ごめんなさい、こっちの都合で店を閉めるので、買うものがある人は今のうちに」と声を掛けていた。
「俺、ランクSのハイポーション欲しいんだけど」
「あ、私も。彼がいるから売ってもらえる?」
数人のお客プレイヤーが俺をチラ見しながらクラッシュに声を掛けると、クラッシュは笑顔で「大丈夫だよね?」と有無を言わせぬ迫力を醸し出してきた。
大丈夫だけどね。購入制限かかってるし、だいたいいつでもひと枠は満杯に入れてるから。
苦笑しながらインベントリからハイポーションを取り出してクラッシュに渡す。クラッシュは料金と引き換えにそれをお客に渡して、最後の一人を店の入り口まで行って見送ると、そのまま外の札を「CLOSE」にして戻ってきた。
そしてドアに施錠の魔法陣を描く。
すると、ヴィル鳥がピヨと鳴いた。
『健吾、今の魔法は? 今の魔法が発動したときの波動が気になる』
「魔法陣の事ですか?」
『魔法陣……? そんな魔法の報告あったかな……』
しきりと首を傾げてはピヨと鳴く鳥に、クラッシュが笑顔を向けた。こいつおしゃべりだなあなんて微笑まし気に。中身を知ったらクラッシュはどういう反応をするのかな。
しっかりと自分の肩に乗せて、じゃあ行こっか、と手を差し出した。
俺とヴィデロさんが掴まったのを確認すると、クラッシュは素早く魔法陣を描いた。
光に包まれた一瞬後には、視界は今までと全く違う景色を映していた。
と同時に横で「うわっ」と悲鳴のような物が聞こえてくる。
皆でそっちに視線を移すと、一人戦闘職のような装備の人が驚いた顔でこっちを見ていた。
『……健吾。色々言いたいことがあるし、訊きたいことがある。が、先に紹介しよう。そこで驚いた顔をしているのが今日の同行者「赤片喰」だ』
「驚かせてすいません。「赤片喰」さん」
「あ、ああ。あんたは確か、英雄の息子の……って英雄の息子もいる?! やっぱり掲示板は」
「ないです」
クラッシュを指さして再度驚く赤片喰さんにとりあえず突っ込む。
「ごめんなさい。マックが人と合流するっていうから急いだほうがいいのかと思って転移してきちゃいました」
「あ、ああ、いや……今日は助っ人を頼むってヴィルが言ってたけど、英雄の息子だったとは……っつうか、何でここにいるんだ、ヴィル?」
赤片喰さんが今度はヴィデロさんを指さしてそう呟いた瞬間、鳥がピヨと鳴いた。こっちにメッセージは入ってないから、メッセージは赤片喰さんに行ったんだろうな。
もしかしてヴィルさんがアバター作ってこっちに来てると思ったのかな。そっくりだもんな。
チラチラとヴィデロさんを見ては、「うっそだろ」とか「まじかー」とか呟いている。きっとヴィルさん、弟だとでも紹介してるんだろうな。
「ところで今日はここで何を調べるんですか?」
『その石像の足元の台座から出ている魔力が最近不安定だったから、どこか不具合がないか見てもらいつつ波長を合わせようと思ってな』
「台座……」
目の前にいる石像のジャル・ガーさんは、この間別れた時と同じように座り込んでいた。
『前に赤片喰に来てもらったときは立っていたような気がするんだが……』
「だからさっきからここがおかしいって言ってんだろ」
思案するようなメッセージと共にヴィル鳥がピヨー……と思案の声を出す。それにすかさず赤片喰さんが突っ込む。
そりゃ俺達と別れた時座ったまま石像に戻ったからなあ。
とジャル・ガーさんを見ていると、後ろからヴィデロさんが「マック」と声を掛けてきた。
「マック、ここにあの後来たんだな?」
疑惑じゃなくて確信だ。
俺が来たってヴィデロさん気付いてる。そういえば言うの忘れてたような……。
「一人で来たのか? なあマック。俺を置いて、一人で」
「残念でしたー。マックは一人じゃなくて俺と来たんだよ」
ちょっとだけ恨みがましいようなヴィデロさんを煽るように、クラッシュが満面の笑みで俺にねーと同意を求めてきた。
う、本当の事だけどここでうんって言いたくない。絶対に言いたくないよクラッシュ。
「ああ、そうかわかった。間男か……」
ポツリと呟かれた赤片喰さんの言葉に、一斉に俺達三人は振り向いた。
とりあえず赤片喰さんの誤解を必死で解いて、改めて石像の台座を見下ろした。
祭壇って感じのそこは、確かに感知をするとすごくヤバそうな感覚がひしひしと伝わってくるんだけど、どうしても上のジャル・ガーさんの気配の方が大きくてよくわからない。
っていうかこの台座の魔力が不安定だと何かあるのかな。
「とりあえずこの台座が何なのか本人に訊いてみない?」
クラッシュの提案に俺達が頷くと、赤片喰さんが「はぁ⁈」と声を出した。
「本人って誰だよ! いつもはここで台座に魔法を使ってみて、向こうで電波の波紋を調べるだけだってのに」
調査ってそういうことするんだ。
ここの台座に魔法って。何怖いことやってるんだろうヴィルさんたち。
それに俺は何を手伝えばいいんだろう。
とただ突っ立っていると、クラッシュがお酒を要求してきた。
ジャル・ガーさんと話したいのかな。
インベントリから出しつつヴィルさんと話してるらしい赤片喰さんのことを見ていると、鳥と赤片喰さんがこっちを向いた。正しくは、俺の後ろにいるヴィデロさんを。
「ほんとそっくりだな。俺はお前がこっちに来て自分で調査を始めたのかと思ったぜ。そんな暇ねえだろって突っ込みたくなったよ。今も他の作業もしてるんだろ」
「ピヨー」
「絶対俺より強いから大丈夫じゃね? それより気になるのは英雄の息子だ。何で店を出てこんなところに来るんだよ」
「ピヨ」
「はぁ⁈ こいつが?」
「ピヨピヨ」
うん。はたから見てるとすごくメルヘンだ。俺もさっきはこんな風だったのかな。
そっと赤片喰さんから目を逸らし、クラッシュの方を見た。
クラッシュは今日も豪快に酒をジャル・ガーさんに掛けていた。
座ってるから掛けやすそう。
「ところで英雄の息子はいったい何してるんだ?」
「ピヨ」
「そっかお前も知らねえのか。止めなくていいのか?」
「ピヨ」
腕を組んで呑気に見ていた赤片喰さんは、一瞬後に目を見開いた。
ピキっと空気が固まったような感じがして、赤片喰さんがすごく警戒したのが見ていてわかる。
「ちょ……、待て待て。お前ら一体何したんだ……」
腰の剣に手を掛けて、構える。
その緊張した赤片喰さんの視線の先には、今まで石像だったジャル・ガーさんがギロリと睨む鋭い瞳があった。
『健吾……その石像は、どうなったんだ……?』
俺にもメッセージが飛んでくる。
あ、やっぱり知らなかったんだ。ジャル・ガーさんの事。お母さんが石像に帰り道を聞いたって言ってたはずなのに。
「多分、お母さんが話をした石像はこの石像です」
『どうやって、この状態にしたんだ?』
「酒を掛けると石化が解かれて話をしてくれるんです。だからここに来るなら酒が必要だったんです」
『……健吾』
「はい」
『後で、魔法陣の事と石像のことをゆっくりと話そうか。健吾の家庭の味の手料理を食べながらな』
「……はい」
俺とヴィルさんの会話を断ち切るように、その場に咆哮が響き渡る。
いつものフレンドリーさとは全然違う、腹の底からズンと恐怖が沸き上がってくるような、狼の咆哮だった。
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