これは報われない恋だ。

朝陽天満

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150、俺はヴィデロさん一筋だから

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 たとえ俺が掲示板を見なくても。

 情報ソースは他にあるわけで。



「いつから門番さんから店員さんに乗り換えたんだ?」



 と真顔で雄太に突っ込まれた。思わず机に突っ伏した。

 乗り換えてなんていません。全然いません。

 掲示板では、俺が時の人になってるらしい。掲示板見てみろよって言われたけど、見る勇気なんてないよ。







 今日はもしかしてクラッシュの店には近寄らない方がいいのかな、なんて思いながらログインする。

 じゃあやっぱり今日も図書館かな。でも図書館でも絡まれたしな。

 どうしようかな、と思いながら工房のドアを開けて、外の様子を見てみたら、ヴィデロさんが工房の門の所に凭れていた。

 顔を出した俺を見つけて、真剣な顔をこっちに向けてくる。



「ヴィデロさん」

「マック、今日は時間があるか?」

「うん。入って」



 そのままヴィデロさんを工房に連れ込み、ドアが閉まった瞬間腕に抱きこまれた。



「マック、愛してる」

「え、うん、俺も好き」



 思わずさらっと答えちゃったけど、ヴィデロさん、どうしたんだろう。

 ……まさか、街の中まで、昨日のアレが広がってる、とか。

 サッと血の気が引いて、ヴィデロさんの背中に腕を回す。

 誤解されてる? 

 俺がクラッシュに乗り換えたって、思われた?



「ヴィデロさん。クラッシュとは、友達であって、全然そういう気持ちは」



 誤解を解こうと口を開くと、ヴィデロさんが俺の顎を指で押さえて顔を上向けた。

 ちゅ、とキスされて言葉が止まる。



「マックの気持ちを疑ってるわけじゃないんだ。ただ、俺が勝手に嫉妬してるだけなんだ」



 間近でそんなことを囁かれて、胸が高鳴る。

 不本意だけど、嫉妬されるのがちょっと嬉しい。



「街ではどんな風に噂になってるの?」

「クラッシュがマックの所有者宣言して、奥に連れ込んだって異邦人たちが言っていてな」

「所有者宣言……奥に……」



 間違ってない。間違ってないんだけど、誤解しか生まないワードが飛び交ってる。

 ヴィデロさんの腰に腕を回したまま、俺はヴィデロさんの美形顔を覗き込んだ。



「その噂の経緯を説明してもいい?」

「是非、頼む」



 ヴィデロさんに了承してもらえたので、俺は玄関先でヴィデロさんにくっついたまま、昨日の店内での騒動を事細かに説明した。



「それでクラッシュがキレちゃって、俺のモノ発言になったんだよ。だから、クラッシュは助けてくれたんだよ」

「そうか……そうか、よかった」

「ごめんね誤解させるような噂されちゃって。でも俺、ヴィデロさん以外そういう気持ちを抱いたことないから、信じて欲しい」



 だって多分、初恋。

 こんなに好きなのに、他に目が行くわけない。

 腕に力を込めて、ヴィデロさんの鎖骨に頬を摺り寄せる。

 すると、ヴィデロさんが俺の髪を指に絡めて、頭にちゅ、とキスを落としてきた。好き。



 ということで、今日はどこにも出かけずに、ヴィデロさんとおうちデートに決定。

 頭にキスを落としてきたヴィデロさんが愛しくて、目の前の鎖骨にチュッとキスをして、背中を指でなぞったら、ヴィデロさんの口から悩まし気な吐息が洩れたから、その吐息で俺がノックアウトされたんだ。

 ログインしたばっかりで時間もたっぷりあるし。



 パンツが脱げる状態になった俺を、ヴィデロさんはゆっくりとベッドに転がした。

 まだ服を着たままのヴィデロさんが、俺の上に伸し掛かってくる。

 このアングルが好きだなあ。目が、俺を好きって言ってくれてるのが、すごくわかる。



「今日は、ちょっとあんまり手加減できそうもない……」



 俺の首筋に唇を滑らせながら、ヴィデロさんがそんなことを呟く。そ、そんなことを言われたら、胸が高鳴るだろ……!

 手加減なんて、逆にしないで欲しい。



「いっぱい、いっぱい欲しい。むしろ俺がヴィデロさんを愛したい」

「いつも、愛してくれてるだろ……」

「うん……」



 腕を首に絡めて力を込めて、ヴィデロさんの顔を引き寄せる。

 口が重なった瞬間、ヴィデロさんの舌が侵入してきて、絡めとられた。







 奥に当たる熱が、身体の中にこれでもかと詰まってる愛情を高ぶらせていく。

 いつもより少しだけ速くて力強い動きが、目の前に火花を飛ばしていく。

 丁寧に愛撫されて、すっかり蕩けきっていた俺の身体は、そんないつもよりも力強いヴィデロさんの愛し方でも、余すところなく快感を拾っていた。



「あ、あぁ、っん、ん」

「ふ……っ」



 お互いの口から洩れる吐息が、さらに胸の炎を煽っていく。

 少しだけ苦し気に眉を寄せたヴィデロさんが色っぽくて、好き。俺で気持ちよくなってるって顔、すごく好き。



「あ、ぁあ……っ、も、でる、ヴィデロさ……っ」



 こみ上げる高揚感を訴えると、解放しろよとばかりに、俺の前を握っていたヴィデロさんの手の動きが速くなる。

 耐え切れずに、嬌声と共にヴィデロさんの手を汚すと、ヴィデロさんも小さく息を詰めて、俺の奥に熱を注いだ。



 はぁ、と身体の力を抜いて、ベッドにぱたりと腕を投げ出した瞬間、ヴィデロさんに身体を抱き起された。

 重力で結合部がさらに深くなって、息が詰まる。



「……っ、あ、待っ……!」



 イったばっかりで中敏感だから……!

 そのままヴィデロさんの上に座らされて、自分の体重でヴィデロさんをさらに呑み込む。

 息を吐く間もなく、ヴィデロさんが俺の尻たぶを掴んで上下に揺さぶり始めた。



「あ、や、これ……っ! あんん、ん、すご、当たる、当たるから……ぁ!」



 尻たぶを持ち上げられて、下ろされるたび、擦れると身体が震える場所にフィットして、声が止まらなくなる。

 ヴィデロさんの首にしがみついて、何とか痙攣を抑えようとしても、全然効果がなかった。



「ヴィデロさ、ヴィデロさん……っ」

「マック……っ、愛してる、可愛い、マック……」



 耳元でそんなこと言われると。

 ヴィデロさんの言葉に反応して、無意識に中をギュッと絞めてしまう。

 零れるヴィデロさんのエロっぽい吐息も余すところなく拾った俺は、ヴィデロさん愛しさのあまり胸が破裂するんじゃないかな、と最高潮に高まる快感と共にヴィデロさんの耳に口付けていた。

 好き。大好き。







 お互いの身体を綺麗にして、お互いに服を着せ合って、見つめ合って笑った。

 俺の入れたお茶を美味しそうに飲むヴィデロさんが可愛い。ついついにやけると、その顔を見たヴィデロさんも微笑むのが最高。好き。



「なあマック。もういっそのこと、俺とマックが愛し合ってるんだって堂々と宣言したらいいんじゃないかと思うんだ」



 口元を緩めながらも、目はちょっとだけマジな感じで、ヴィデロさんが言う。

 それもいいな、ってちょっと思うけど。



「俺の二股説が流れてさらに面白おかしくなりそうだよ……」



 遠い目をしながら、想像できることを答えてみると、ヴィデロさんが真顔で「……だな」と頷いていた。



 ご飯を食べて蕩ける笑顔で「マックの料理はおいしい最高愛してる」という言葉をくれたヴィデロさんを名残惜し気に見送ると、細胞活性剤のおかげでまだ大人な身体を見下ろした。

 手加減できないって言ってたけど、やっぱり最初から最後まで優しかったんだよな。

 眉を寄せて、それでも真っすぐ俺を見下ろして、俺の中の熱を煽りながら噛み付くようなキスをするヴィデロさんを思い出して、腹の奥の所がカッと熱くなった気がした。

 工房の外に出ることもなく、早めのログアウトをした俺は、ログアウトしてもなおくすぶった熱を放出するため、久しぶりに右手とお友達になったのだった。







 次の日、俺は漸くカイルさんの農園に行くことが出来た。

 聖水のランクが低いからまだ調薬はしないけど、素材は手に入れておかないと。インベントリ内なら枯れたり腐ったりもしないし。 

 と農園に顔を出すと、久しぶりのカイルさんが歓迎してくれた。



「おう、両手に花かあ? やるもんだなマック」



 という言葉と共に。

 違うから。



「それより、月見草と月光草と薬草ある?」

「元気なのが生えてるぜ。あ、あれいるか。マルコラニンジン。精が付くぞ」

「未成年に精を付けさせてどうするんだよ」

「マックじゃなくてヴィデロに食わせればいいだろ」



 お相手の俺が一応パンツ剥がれない人だから。ヴィデロさんのヴィデロさんだけビンビンでもダメだろ。と思って思い出す。カイルさんは細胞活性剤の威力を知ってるんだった。

 ニヤニヤするカイルさんに溜め息を吐きながら、俺はそっと口を開いた。



「……どんなメニューがいいかな」



 精のつく料理レシピ、ください。

 真顔で頼んだ瞬間、カイルさんの大笑いが炸裂したのは言うまでもない。

 ランクの高い素材をゲットした俺は、まだ腹を抱えているカイルさんに無理やりレシピを教えて貰って、帰路についた。





 工房に帰る途中、すれ違うプレイヤーからの視線がバシバシ飛んでくる。

 カイルさんの所を借りて、工房まで転移で帰ればよかったかな。

 でもハイポーションの納品があるし。

 でもでも今クラッシュの店に行ったら、噂を増長しちゃう気がする。

 こんな時には門に行くに限る。

 と途中から道を曲がって門に向かった俺。

 愛しのヴィデロさんは、門を通るプレイヤーの一人と話をしていた。



 近づいていくと、向こう側に立っていたマルクスさんが俺に気付いて、顔を覆っていた兜の前面を上げた。



「ようマック! お前どうやって統括の息子を落としたんだ? あれか、前に一緒に出掛けたときか? 二股はダメだぞ。ちゃんとどっちか選べよ」



 マルクスさんの言葉が冗談だってわかってるのに、思わず頽れそうになる。

 反論しようと口を開いたところで、マルクスさんの兜がゴン! といい音を発した。



「あのな、マルクス。マックは俺の。二股とか、ないから」

「おやおや~? 昨日はあれだけ青くなってたのに。……もしかして、マックと愛でも語らって自信を付け直したとか?」

「悪いか」



 堂々とそう宣言するヴィデロさん大好きです。

 横で勝手に腹筋を鍛えてるといいよマルクスさん。

 ひーひー転がってるマルクスさんの横で、ヴィデロさんが目を細めて俺を見下ろした。

 好き、ってくっついてもいいかな。

 そう思った瞬間、ヴィデロさんの両手が開いた。まるでこの胸においでと言ってるかのように。

 よし、突撃。

 しようとした瞬間、今までヴィデロさんと話をしていたプレイヤーの人が、俺を見て「あ」と声を出した。



「薬師のやつだ。掲示板見たぞ。あのイケメンの店の専属なんだろ。なあ、マジで個人的に売ってはくれないのか? ちょっと多めに買って持って行きたいところがあるんだけど」

「持って行きたいところ?」



 ヴィデロさんに突撃しようとした体勢のまま、俺は首だけプレイヤーの方を向いた。

 
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