これは報われない恋だ。

朝陽天満

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133、ただ会いたくなったんだ

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 途中抜け出して昼飯を食べた以外は、終了時間目いっぱいまでゲームフェスタを楽しんだ俺は、最寄りの駅まで足を進めていた。

 あの後、雄太たちと合流したのは昼飯時だけ。雄太もユイと二人で楽しんだらしく、コスプレをさせられたと死んだ目をしていた。貴族の格好をさせられて、あまりの似合わなさに精神をゴリゴリ削られたらしい。機会があればこっそりユイに写真を見せてもらおう。

 もちろん帰りもバラバラ。一緒に帰ろう、なんて時代はとうの昔に過ぎ去った。



 帰りは新幹線なんて贅沢なものは使わず、普通に電車に乗って帰ってきて、俺が家にたどり着いたころにはすっかり夜になっていた。

 家にいた母さんにお土産と飾り瓶に入ったポーションを一本渡し、「楽しかった?」とか「どんなのがあったの?」とか訊かれてそれに答えつつご飯を食べて、部屋に行く。

 カバンを机に投げ出して、俺は即ギアに手を伸ばした。



 身体のふわっと感と共にログインし、見慣れた工房のベッドから起き上がった俺は、そのまま工房を出た。

 目指すは門。夜だけど、ヴィデロさんはまだ立ってるかな。

 そう思いながら足早に門に向かうと、ヴィデロさんが他の門番さんと話をしているところだった。

 そして、タッチをして、詰所に入っていく。



「ヴィデロさん!」



 思わず大声を出すと、周りの人から注目を浴びるとともにヴィデロさんの意識も俺に向けることに成功した。

 体半分がドアの中に入っていたヴィデロさんは、走り寄っていった俺を、驚きながらも抱き留めてくれた。ちょっと鼻にぶち当たった鎧が痛いけど。



「ちょうど交代の時間だったんだ。マックはどうしたんだ。こんな時間に」

「ヴィデロさんに、会いたくなって」

「マック……」



 いきなりの訪問にも、ヴィデロさんは嫌な顔一つせずに笑ってくれた。好き。



「ここじゃ何だし、中で待っていてくれるか? 着替えてくるから」

「うん。いつまでも待ってる」

「ああ、いや、だからな? ……マック、今日はどうしたんだ?」



 一つ溜め息を吐いたヴィデロさんは、困ったような顔で、俺の顔を覗き込んできた。

 隣では、交代したばかりの門番さんが笑っている。



「おうヴィデロ。さっさと中に連れて行って、そこの坊主を甘やかしてやれよ」

「ああ、言われなくても」



 ぐい、と肩を抱かれ、そのまま詰所内に連行された俺は、着替えてくるというヴィデロさんを食堂で待つことになった。



「あ、マック。久しぶりだな。なんか飲むか? ジュースか?」

「あ、いえ、お構いなく」

「お菓子食うか? 確かロイのやつが彼女になんか貰ったって言ってたな。ぶんどって来いよ」

「わかった。ロイは部屋だな」

「待って、それはやめたげて!」

「腹減ってねえか。おぉーいおばちゃん、なんか飯ある?」

「それより酒だろ! 酒もってこい!」



 座って待っていると、わらわらと食堂にいた門番さんたちが寄ってくる。あれよあれよという間に、俺の周りで酒盛りが始まってしまった。

 そこへヴィデロさんが帰ってきて、「触るな俺のだ」発言をかましてくれて、さらに食堂は盛り上がった。

 こういうノリ、ほんと楽しいなあ。

 ヴィデロさんまで周りに揶揄われながらも、俺達は何とか食堂から逃げ出すことに成功した。

 ヴィデロさんの部屋のドアが閉まると、途端に俺の身体はヴィデロさんの腕の中へ。

 そのぬくもりがなんだか嬉しくて、俺もヴィデロさんの背中に腕を回した。



「どうしたんだ? 何か、嫌なことでもあったのか?」

「ううん、何もないよ。ただ、ヴィデロさんに会いたかっただけ」



 胸筋に耳をくっつけて、ドキドキしている心音を聞く。

 ちゃんと鼓動してるんだよ、ヴィデロさん。呼吸もしてるし。温かいし。

 見上げると、ヴィデロさんが少しだけ心配そうな顔をして、俺を見下ろしていた。

 唾液とか、血とか、ほんとに生きてる人としか思えない。

 精液、とか。



「ヴィデロさん……疲れてる?」

「いや、大丈夫。マックは、腹とか減ってないか? 何か飲むか?」



 ヴィデロさんの矢継ぎ早の質問に、思わず笑う。それじゃさっきの門番さんたちと同じだよ。と思って、ハッと気づく。

 ああ、そうか。仕事が終わったばっかりで、ヴィデロさんがお腹空いてるのか。



「俺の工房に行こうよ。何か食べる物、作るからさ」

「いいのか?」

「うん」



 俺は頷くと、ヴィデロさんにくっついたまま、指を動かした。

 そして、転移の魔法陣を描き、ヴィデロさんを俺の工房に拉致する。

 一瞬で工房にたどり着き、ヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんは苦笑してギュッと腕に力を入れた。



「やっぱりすごいな、転移の魔法は」

「クラッシュとかセイジさんと違って、俺のは距離短いけどね」

「そもそも転移を出来る人自体が少ないから、できるだけですごいことだと思うよ」



 ちゅ、と髪にキスが降ってくる。

 そんなところじゃなくて、違うところにキスが欲しいんだけど。

 と思った俺は、背伸びをして、自分からヴィデロさんの口にアタックを掛けることにした。チュッとヴィデロさんの唇に軽くキスをする。そして、身体を離した。

 よし、ご飯作るぞ。





 倉庫やらインベントリにある物を適当に煮詰めて、味をつけて、パンと一緒に出すと、ヴィデロさんは「美味しい」と言って二度もおかわりしてくれた。

 食べっぷりがいいと作る方も楽しい。

 食べ終えて満足したらしいヴィデロさんは、自ら申し出てくれた片づけを終えると、すぐに俺のそばに来てくれた。



「美味しかった。ありがとう」

「どういたしまして。喜んでもらえて嬉しい」



 目の前にヴィデロさんが笑顔でいるっていうそのことが嬉しくて、俺はヴィデロさんの首に抱き着いた。そのままヴィデロさんの頭を引き寄せて、またキスを奪う。

 満足して離そうとすると、ヴィデロさんの腕が俺の背中に回った。

 頭を押さえられて、舌がするりと口の中に入り込んでくる。

 舌を絡められて、歯を舐められて、背中をぞわぞわと快感が走り抜ける。

 ふ、と吐息を漏らすと、今度は唇を唇で啄ばまれて、吸われて、甘噛みされて、さらに蕩けさせられた。

 何でこんなにキスが上手いんだろう。気持ちいい。

 そっと目を開けると、ヴィデロさんの綺麗な瞳が、俺をまっすぐ見ていた。

 ちゅぱ、となんだかやらしい音を立てて、ヴィデロさんの口が離れていく。



「キスで気持ちよさそうにしてるマックが可愛い……」

「見るの反則! 俺、変な顔してない?! 目、目を閉じるのがマナーだろ!」



 ずっと見られてたことが恥ずかしくて、カッと頬が熱くなる。



「そんなマナーくそくらえだ。マックの可愛い顔が見れないマナーなんて、違反しろって言ってるようなもんだろ。それに、マックはどんな顔してても可愛い」

「ちょ、待ってヴィデロさん、は、恥ずかしいんだけど……」

「今更か? もっと恥ずかしいこと、たくさんしたのに」



 そんなこと言われたら、その恥ずかしいこと、したくなっちゃうだろ。

 顔が熱いまま、思わずそう反論すると、ヴィデロさんが半眼になった。



「そんな風に可愛く誘うなよマック」

「誘ってない……」

「いや、誘ってる。マック……全身に、キスをしていいか?」



 囁くようなヴィデロさんの言葉がたまらなくて、あああ、と天を仰ぐ。

 キスだけでどうにかなっちゃいそうなんだけど。

 バクバクする心臓が耐えられなくて、とりあえず俺も反撃してみる。



「じゃあ、俺も、ヴィデロさんのありとあらゆる全身にキスしたい!」

「……っ」



 ヴィデロさんは、一瞬息を呑み、そして、俺のつるぺたの股間にそっと手を触れた。



「ここにも、キスしてくれるのか?」



 笑いを含んだエロすぎる声に、俺はそれだけでノックアウトされた。







 言葉通り、全身にキスをされまくった俺は、剥がれたパンツと服をベッドの下に投げ出して、ベッドの上で身体を蕩けさせていた。



「あ、あぁ……っ、も、イく……っ」



 何度目かわからない絶頂感が襲ってきて、俺は息も絶え絶えにヴィデロさんに訴えた。

 身体の奥の奥に、ヴィデロさんの存在感がしっかりとあるのが、すごくいい。

 たまにくっと顔を顰めて気持ちよさそうにするヴィデロさんが好き。

 俺で沢山気持ちよくなって欲しい。そう思うと、身体もそのまま反応して、ヴィデロさんを更に包み込んでいく。



 身体を持ち上げられて、抱き合ってキスをする。キスの熱と身体の奥の熱が連動して、それが口から吐息になって、時に嬌声になって零れていく。それすら、重なるヴィデロさんの口に吸収される。



「あ、ン、ン……っ!」



 二人の腹の間で擦られた俺のモノが、トロトロとしか出てこない精を、さらに吐き出す。

 それと同時に、奥に熱がじわっと染み込んでいく。



「マック、愛してる……」



 耳元で囁かれて、心臓がきゅうんと締め付けられる。ついでに中も締め付けたらしくて、ヴィデロさんがちょっとだけ息をつめていた。



「俺も……ヴィデロさん、好き……大好き。好きすぎてどうしていいかわからないくらい、好き……」



 本音を零すとヴィデロさんが少しだけ声を出して笑った。



「好きなように、どうにでもマックの好きにしてくれて構わないから」



 ヴィデロさんが、そんな寛大なことを言う。さすが心が広い。好き。



「だからマック……俺を、ただの俺を、ずっと好きでいてくれ」



 消え入りそうな、囁きにすらならない程小さなヴィデロさんの言葉は、ただ、俺の胸を締め付けた後、静かな工房の空気に溶けていった。





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