これは報われない恋だ。

朝陽天満

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120、ヴィデロさんの居場所はここに在るよ

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「あ、あぁ! っは」



 足を抱えた途端に激しく動き始めたヴィデロさんが、俺の奥をひたすら突きまくる。

 今迄のゆっくりから一転、すごく激しい動きに、すぐに俺は余裕がなくなった。

 奥を突かれるたびに嬌声が洩れて、中のヴィデロさんをぎゅうっと押さえつける。

 締められても強引に引き抜いてまた強引に中を進んでくるヴィデロさんに、またも嬌声を上げる。

 すごく気持ちよかった。

 深くまで挿入されるたびに頭が真っ白になる。

 下腹部が熱くなって、引っ切り無しに熱が襲ってくる。



「ん、ん、も、あつ……っあぁ、あ、あ!」

「……っ、ふ……」



 ヴィデロさんの口からも甘い吐息が零れて、それに煽られるようにさらに俺の中で色んなものが混ざっていく。

 そして、最後には絶対に「好き」に行きつく。



「や、好き、大好き……っ、あ、ン、ヴィデロ、さ……っ!」



 うわ言の様に零した言葉に、ヴィデロさんのヴィデロさんがいっそう深くまで挿り込んできた。

 あ、もう。

 頭の中が爆発しそうになりながら、俺は盛大に腹の上に白い体液を飛ばし、ヴィデロさんを迎え入れているところを痙攣させた。

 ヴィデロさんも、その痙攣に眉を顰めると、小さく呻いて俺の中に熱を吐き出していた。





 抜けていくヴィデロさんが名残惜しい。

 そう思いながら、短時間でやたら怠くなった身体の力を抜いて、ヴィデロさんを見上げた。

 肩で息をしながら、視界にはいるヴィデロさんの事後の顔を、マジマジと見てしまう。

 ああ、エロい。少しだけ上気した頬に、俺を愛し気に見下ろす濡れたような瞳、そして、吐き出される吐息。

 思わずうっとりとその顔を堪能していると、そのエロい顔が近付いてきた。

 そして、半開きになってるであろう俺の情けない口に、その弧を描いたエロい口が重なる。



「マックの顔が、すごくエロい」

「それは、俺の、セリフ」



 息切れしてるから、言葉が途切れ途切れになる。

 ちゅ、ちゅ、と繰り返し軽いキスを仕掛けてくるヴィデロさんは、俺の頬を撫でて、髪を梳いて、首筋を指で辿った。

 まだ誘われてるみたいな戯れに、思わず笑ってしまう。好き。





 一気に盛り上がったせいか、まだ二人でイチャイチャする時間は少しはある。

 身体を拭われて、服を着せられたからもう一ラウンド、とはいかないけれど、服の上からだって胸筋は堪能できる、と俺はここぞとばかりにヴィデロさんの胸に顔を埋めていた。

 はぁ、幸せ。俺、この筋肉大好き。

 大半の男子高生の憧れの谷間胸より、このきゅっと引き締まってちょっと固めのヴィデロさんの胸に顔を埋めていたい。

 顔をぐりぐりしたいけど、それをすると怒られるのは目に見えているので、おとなしくただ顔を埋めている俺の髪を、ヴィデロさんが優しく指で弄んでいる。

 こんな風に言葉もなくぺったりくっつくのはいったいいつ以来だろう。しかも俺の工房だから、心身ともにリラックスできるし。



「……幸せ」



 思わず零すと、ヴィデロさんがくすっと笑って、胸筋が上下した。



「マックにそう言ってもらえると、俺も幸せな気分になるな。無理を言ってさっさと帰ってきてよかった」

「え、無理を言ったんだ……」



 ヴィデロさんの言葉に驚いて、堪能していた胸筋から顔を上げると、ヴィデロさんはニヤッと俺を揶揄うときの顔をしていた。



「あの後、話をしに行っただろ。そして、宰相殿にダメもとでいつになったらトレに戻れるのか訊いたんだ。ここにいてもまた同じようなことが絶対に起きないとは言い切れないし、それを俺の『幸運』のせいにされたらたまったもんじゃないからトレに帰したほうがこの街にとっては幸せだって」

「うわあ、でも、そうだよな。「使おうとする」と幸運じゃなくなるんだっけ。スキルを他の人が使おうとするなんて、普通に考えると出来ないのになあ。貴族のおっさんたちは何考えてるんだろ」



 俺のスキルを使うことが出来るのは俺だけだし、俺のためにスキルを使ってくれって頼まれても、嫌な奴には使いたくないし、俺を使って自分のいいようにしてやろう、なんて考えてる奴なんかには絶対にスキルを使いたくないし。薬師然り錬金術師然り。よっく考えたら、ヴィデロさんの『幸運』スキルだって、パッシブスキルだって考えると、俺達プレイヤーにとっては、使ってやろう、なんて考えにはならないよな。「『幸運』スキル? LUCKが上がるのか? いいなあそれ。どうやって手に入れたんだよ」なんて、そんな程度の話なのに。

 スキルが目に見えない人たちにとっては、全く違う感覚なのかな。



 そんなことを考えていると、ヴィデロさんにいきなり抱きしめられた。



「そんなことが簡単に言えるなんて、やっぱりマックはすごいな……」

「たぶん、俺じゃなくてもそう考える人は少なくないと思うよ」



 っていうか顔が見えないよヴィデロさん。

 髪の毛に顔を埋めてぐりぐりするヴィデロさんにそういうと、ヴィデロさんはさらにぐりぐりしてきた。



「少なくとも、俺の周りにいた人は、俺を怒らせると自分の身に不幸が訪れると信じていて、距離を置いて俺に接していたんだ。母親が消えて、その後すぐ父親も亡くなって、身分というものを王に返上して門番になって、そこで初めて俺は俺と距離を置かない人たちと共に過ごせるようになったんだ。トレの街の門番は、皆、『幸運』なんて気にもしないような奴らばっかりだった。だから、一緒に馬鹿な話をして、一緒に飲んだくれて、楽しかった。好きな奴も出来て、周りもそれを一緒になってやきもきしながら応援してくれて、それが叶ったとたんの、セィの街だろ」



 俺の髪に顔を埋めたまま、ヴィデロさんが静かに言葉を紡ぐ。

 そっか、ヴィデロさん、お父さんも亡くしてるんだ。だから、家族はいないって。身分を返上したってことは、お父さんは身分のあった人で、そのつながりから門番になったって感じなのかな。後ろ盾が必要だって言ってたし。亡くなったお父さんが、後ろ盾になってたのかな。



「確かに、トレの門番さんは皆おおらかだもんな。話してて、一番楽しい門番さんたちだよ」

「だからって他の人に目移りしないでくれよ」



 ちょっとだけ拗ねた声でそういうヴィデロさんに、思わず笑ってしまう。

 目移りなんて、すると思ってるのかなこの人は。俺の脳内がどれだけヴィデロさんで満たされてるか、見せてやりたいよ。



「セィの街の貴族街の同僚たちと一緒に生活して、今までの生活がいかに恵まれていたのか、すごくわかったんだ。あっちでは、昔のままだった。俺を怒らせるなという空気と、『幸運』だからこその貴族街への栄転だというちょっとした嫉妬の視線、ってな」

「栄転、だったのかなあ。俺には貴族たちのわがままに巻き込まれただけに思えるけど」

「俺も栄転とだけは思えなかった。すぐにでも帰りたかった。でもさすがに持ち場を放棄して帰ってきても、居場所はないってのはわかっていたから」

「居場所ならあるだろ」

「マック」



 顔が見えないまま、俺もヴィデロさんの背中に腕を回した。

 俺、工房を買っておいてよかった。

 だって、ここ、ヴィデロさんの逃げ場になるじゃん。



「門番でいられなくなっても、ここに住めばいいし、なんでも食べていけるよ。ヴィデロさんの腕だったら普通にダンジョンに潜った戦利品で食べていけるだろうし。俺だってヴィデロさん一人くらい養っていける稼ぎはあるからさ」

「俺がマックに養ってもらうのか?」

「ダメかな。してもらうばっかりって、俺的に嫌なんだけど。それくらいだったら、俺がヴィデロさんを養って、世話したい」



 きっぱりとそう言い切った瞬間、ヴィデロさんが声を出して笑った。



「マックは、やっぱり男前だ。俺なんか足元にも及ばない」

「えー、ヴィデロさんの方がすごくかっこいいしいい男だよ。全俺の憧れなんだから。優しくて、たまに可愛くて、すごく強くて、でも料理が出来ないとかそういうちょっとしたところがたまらなくて、特に好きなのはその声と胸筋とそして」



 さらにヴィデロさんのいいところをあげつらおうとしたら、ギュッと腕に力を込められて、口を胸筋で塞がれてしまった。ああ。幸せだ。



「もうやめてくれ、さすがに照れる」

「んんむむ……うむむ」



 ほんとのことだよ、と言おうとしても、口が塞がれていて言葉にならない。それがくすぐったかったのか、ヴィデロさんが少しだけ身を捩ったのがまた可愛かった。







 そろそろ宿舎に顔を出して帰ってきたことを報告しないと、と夜中にヴィデロさんは帰っていった。

 セィの街では見ることが出来なかったヴィデロさんの生き生きとした背中を、戻ってきてくれてほんとによかったなって思いながら見送る。

 工房の鍵を閉めたところで、ログアウトを促すアラームが鳴った。

 そうだった。明日も学校だった。そしてもうすぐ試験だ。明日はログインできるのかなあ。でもこっちに帰ってきていつも通りのシフトに戻るなら、明日はヴィデロさんは門番の仕事だろうから。



 一瞬だけトレの門に立つヴィデロさんの姿を確認して終わりにしよう、と心に誓って、俺はログアウトした。



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