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52、フレンド解除
しおりを挟む「え……」
セブンの手を見た後、自分の胸元を見る。
金具の部分が、ローブの留め具にぶら下がっている。
「あ……」
セブンも、自分の手を見て、しまったという顔をする。
「その、ついカッとして……ごめん、壊すつもりは」
「返してくれ」
これは、ヴィデロさんに貰った大切な。
「おいお前何してんだよ!」
「わざとじゃないんだ! ごめんマック!」
高橋の怒声に被せるようにセブンが慌てて謝ってくるけど。
戻ってきた羽根は。
ぶら下がっていたところが、折れていて。
大事な。
「ちょ、マック! 泣くほどのことかよ! ごめんって言ってるだろ!」
「ふざけんなよ! てめえ、逆ギレしてんじゃねえよ!」
「……いいよ、高橋」
俺の代わりに怒った高橋の腕を叩いて、止める。
装備欄を開くと、アクセサリ欄のこの羽根は[アミュレットの欠片]とだけ書かれていた。
愛情が溜まると、このアミュレットは変化するってクラッシュが教えてくれたんだよ。変化する前に壊してごめん。
ヴィデロさん、謝ったら許してくれるかな。大事にするって言ってたのに。
俺は、そのまま目に映る画面を操作して、フレンド欄を開いた。
そして、セブンとのフレンドを解除する。これを壊した人とフレンドとか、無理。
「謝らなくていい。もう、俺にかまわなければそれでいいから」
「マック! ほんとごめん! 悪かった!」
だから、謝らなくていいって。
だって謝ってもらったところで、この羽根は直らないから。
謝られても今は「いいよ」なんて言えないし。
俺は留め具の壊れた羽根を握り締めて、椅子を立った。
「じゃあ、高橋、海里、俺もう行くね。そろそろトレに帰りたい」
「マック……」
雄太が一緒に立ちあがって、俺を見下ろす。そして「せめてその顔を何とかしていけ」としかめっ面のまま俺の頬を抓んだ。
「あら、大変! ちょっと待ってね」
給仕をしていた年配の女性が、俺たちを見て、慌てて奥に入っていった。そしてすぐに出てきて、俺にちょっとガサッとしたタオルを差し出してくれた。
「ありがとうございます」
「男の子だって泣きたいときはあるわよ。でも後で冷やしなさいよ。目元がもっと男前になっちゃうから」
「はい」
ずず、と鼻をすすりながら頬を拭う。タオルが湿ったのを見て、かなり涙がこぼれてたんだと気付いた。
「元気出して。よかったら農園に寄って、元気が出る果物でも貰って帰ったらいいのよ……ってそうだった、農園は今閉鎖中だったわ。あんた! あんた!」
女性は、俺に口を挟ませることなく元気にご主人を呼び、奥から出てきたご主人からオレンジに似た果物を受け取ると、それを俺の手に強引に持たせた。
「これよ。元気が出る果物。食べてごらん、落ち込んでてもすぐ元気になるから」
「え、でもこれ、店の売り物じゃ」
「いいんだよ。その羽根、大事な人から貰ったものなんだろ。元気出しなよ。それにね、そういうもんは、作った人になら直してもらえるかもしれないし。あたしも旦那に貰ったアミュレット、間違って壊しちまったとき、買った店に持ってったらすーぐ直してもらったから」
「え、ほんとに……?」
「ああ」
にこやかに話すこの女性が、女神か何かに見えた。
直るんだ、これ。じゃあ、途中下車してクワットロのあの店に行ってみよう。
受け取ったタオルで顔をゴシゴシして、女性に持たされた果物を一口食べてみる。
「あっまい」
酸っぱいと思って齧ったら、めちゃくちゃ甘かった。そして、スタミナゲージも回復してる。美味くて回復ってすごい効果の果物だ。物理的に元気になる果物だった。
「ありがとうございます。この果物の代金は」
「いらないわよ。お兄ちゃんが元気になったらあたしも嬉しいから。頑張って!」
バン、と背中を叩かれて、思わず顔がほころぶ。
でもただ貰うだけじゃ気が済まないから、とインベントリからスタミナポーションを2本取り出した。
「これ、俺が作ったやつなんですけど。お礼代わりに貰ってください。不味くはないと思うんで」
「あらあら、ありがとう。最近こういうものが買えなくなったから、嬉しいわ。またこの街に来たときはぜひここに泊まってね。サービスするから」
「こちらこそぜひ」
にこにこと奥に行ってしまった女性に手を振って、俺は後ろを振り返った。すると目に入る、セブンの顔。
目を見開いて俺を見てるその顔は、何が起きたのか全く分からないって顔だった。
この世界の人は、こんな風に優しいんだよ。今頃気付いたのか、もったいない。
それにしてもさっき女性が言ってたことがちょっと引っかかった。
そもそもポーション不足の前に、ここの農園がヤバいってクラッシュが言ってなかったっけ。
農園にも顔を出さないといけない気がする。草花薬師として。
それにこの果物、何かに使えないかな。農園が復活すればこれも買うことが出来るってことだろ。よし。
「高橋、俺、さらにやること出来たみたいだから。そろそろ行くな。海里も、またそのうち会えたら、素材集めとか一緒に行こう」
「そこで魔物討伐とか言わない辺りマックだよな。農園行くんだろ草花くさばな薬師」
「草花そうか薬師! うん、だって閉鎖って大事おおごとだよ。ここまで進出した薬師プレイヤーって一人もいないの?」
「あーいるにはいるが」
そこにハルポンさんが口を挟んできた。トッププレイヤーの一人として、そういう情報に敏いんだろうな。
「俺達みたいにパーティーじゃなくて、クランとして大人数で活動してるようなところのお抱えがほとんどだな。パワーレベリングとかしてるから、薬師のパーソナルレベルもそれなりに高いし。でも、他の奴には薬類を作らないから、俺たちにとってはいてもいなくても関係ない」
「もしかして、農園からクエスト出てても、スルーした、とか」
「自分たちに利益がないことはしないんじゃないか」
だから、ここの農園は閉鎖されたんだ。農園の薬草の方が格段に効果高くなるのに。もしかして、フィールドにいくらでも薬草が生えてるから、農園とかあんまり利用してないのかな。農園って大抵はフィールドで取れるものを扱ってるから。でも、たまに出るレアものが他では手に入らないような物ばっかりなのに。虫とか、虫とか。……あ、鳥肌立った。
「そっか、じゃあ余計に農園に寄らないと。ありがとうございます、ハルポンさん」
「マックだったか。薬師ってことは、ハイポーションとか売ってるのか?」
「通常価格の1.8倍ですけど、一応売ってますよ」
「え、マック俺には2倍って」
「友情価格だよ」
「友情価格は普通割り引くもんだろ! ぼったくったのかよ!」
「そうだよ。儲けたぶんはクラッシュと山分けの予定だよ。毎度ありがとうございます」
俺のやり取りに苦笑しながら、ハルポンさんが「10本ほど貰っていいか? 1.8倍でいいから」と顔の前で手を合わせる。
毎度アリーと10本ハルポンさんに渡すと、ハルポンさんはそれを手に取って、まじまじ見た後「は?」と目を見開いた。
そして、それをいそいそとカバンにしまって、こっちを見た。目がなんか光ってる気がするんだけど。
「悪い、二倍でもいいから売れるだけ売ってもらえないか?」
「え? あの?」
「出来れば他の奴も」
「いやあのその」
頼む! と机に額をこすり付けんばかりにガッと頭を下げるハルポンさんに、皆が目を丸くして注目している。
一体何が起きた。
「農園が閉まったせいか、ここら辺一体のポーション類が、あらかたランクDの物しか出回ってないんだよ。だからこの回復量はありがたい」
回復量が見えるってことは、ハルポンさんは鑑定的なものを持ってたのか。
なるほど、と思いつつ、さすがにここで色々売るのはヤバいかも、と他のポーションを出すのを思いとどまる。だって、マジックポーションとかキュアポーション、ギルドで買い取ってもらえない威力だから。スタミナポーションもしかり。
「待ってください。これ以上はトレの街の雑貨屋の許可が必要で。俺一応そこの専属ってなってるから」
どうしていいかわからなくて、俺はとりあえずこの場にはいないクラッシュを出してごまかすことにした。さすがにそんなに俺個人で流通させるわけにはいかないし。こっちの流れとかもあるだろうし。
何より、クラッシュがいい顔しない気がするし。
「じゃあ今度トレに行ったら雑貨屋に確認してみる。そしたら売ってくれ」
「そこに卸してるんで、そこで買えばこれと同等の効果のハイポーションが手に入るんで、ぜひ店で買ってください」
ついでに宣伝しといたから許せクラッシュ。
何とか納得したハルポンさんに謝って、雄太たちに別れを告げて、俺はようやく宿屋から出ることが出来た。もうすぐ暗くなる時間だ。遅くなっちゃったな。乗合馬車には明日乗るしかないか。
それにしても。と俺は手に握られたままの羽根を見下ろした。
〔アミュレットの欠片:ブルーテイルの羽根(11%)破損]
直るといいなあ。こんなに、愛情増えてたのに。
溜め息を吐いて、取れてしまった金具と羽根をカバンにしまった。
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