これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
52 / 830

52、フレンド解除

しおりを挟む

「え……」



 セブンの手を見た後、自分の胸元を見る。

 金具の部分が、ローブの留め具にぶら下がっている。



「あ……」



 セブンも、自分の手を見て、しまったという顔をする。



「その、ついカッとして……ごめん、壊すつもりは」

「返してくれ」



 これは、ヴィデロさんに貰った大切な。



「おいお前何してんだよ!」

「わざとじゃないんだ! ごめんマック!」



 高橋の怒声に被せるようにセブンが慌てて謝ってくるけど。

 戻ってきた羽根は。

 ぶら下がっていたところが、折れていて。



 大事な。



「ちょ、マック! 泣くほどのことかよ! ごめんって言ってるだろ!」

「ふざけんなよ! てめえ、逆ギレしてんじゃねえよ!」

「……いいよ、高橋」



 俺の代わりに怒った高橋の腕を叩いて、止める。

 装備欄を開くと、アクセサリ欄のこの羽根は[アミュレットの欠片]とだけ書かれていた。



 愛情が溜まると、このアミュレットは変化するってクラッシュが教えてくれたんだよ。変化する前に壊してごめん。

 ヴィデロさん、謝ったら許してくれるかな。大事にするって言ってたのに。



 俺は、そのまま目に映る画面を操作して、フレンド欄を開いた。

 そして、セブンとのフレンドを解除する。これを壊した人とフレンドとか、無理。



「謝らなくていい。もう、俺にかまわなければそれでいいから」

「マック! ほんとごめん! 悪かった!」 



 だから、謝らなくていいって。

 だって謝ってもらったところで、この羽根は直らないから。

 謝られても今は「いいよ」なんて言えないし。

 俺は留め具の壊れた羽根を握り締めて、椅子を立った。



「じゃあ、高橋、海里、俺もう行くね。そろそろトレに帰りたい」

「マック……」



 雄太が一緒に立ちあがって、俺を見下ろす。そして「せめてその顔を何とかしていけ」としかめっ面のまま俺の頬を抓んだ。



「あら、大変! ちょっと待ってね」



 給仕をしていた年配の女性が、俺たちを見て、慌てて奥に入っていった。そしてすぐに出てきて、俺にちょっとガサッとしたタオルを差し出してくれた。



「ありがとうございます」

「男の子だって泣きたいときはあるわよ。でも後で冷やしなさいよ。目元がもっと男前になっちゃうから」

「はい」



 ずず、と鼻をすすりながら頬を拭う。タオルが湿ったのを見て、かなり涙がこぼれてたんだと気付いた。



「元気出して。よかったら農園に寄って、元気が出る果物でも貰って帰ったらいいのよ……ってそうだった、農園は今閉鎖中だったわ。あんた! あんた!」



 女性は、俺に口を挟ませることなく元気にご主人を呼び、奥から出てきたご主人からオレンジに似た果物を受け取ると、それを俺の手に強引に持たせた。



「これよ。元気が出る果物。食べてごらん、落ち込んでてもすぐ元気になるから」

「え、でもこれ、店の売り物じゃ」

「いいんだよ。その羽根、大事な人から貰ったものなんだろ。元気出しなよ。それにね、そういうもんは、作った人になら直してもらえるかもしれないし。あたしも旦那に貰ったアミュレット、間違って壊しちまったとき、買った店に持ってったらすーぐ直してもらったから」

「え、ほんとに……?」

「ああ」



 にこやかに話すこの女性が、女神か何かに見えた。

 直るんだ、これ。じゃあ、途中下車してクワットロのあの店に行ってみよう。

 受け取ったタオルで顔をゴシゴシして、女性に持たされた果物を一口食べてみる。



「あっまい」



 酸っぱいと思って齧ったら、めちゃくちゃ甘かった。そして、スタミナゲージも回復してる。美味くて回復ってすごい効果の果物だ。物理的に元気になる果物だった。



「ありがとうございます。この果物の代金は」

「いらないわよ。お兄ちゃんが元気になったらあたしも嬉しいから。頑張って!」



 バン、と背中を叩かれて、思わず顔がほころぶ。

 でもただ貰うだけじゃ気が済まないから、とインベントリからスタミナポーションを2本取り出した。



「これ、俺が作ったやつなんですけど。お礼代わりに貰ってください。不味くはないと思うんで」

「あらあら、ありがとう。最近こういうものが買えなくなったから、嬉しいわ。またこの街に来たときはぜひここに泊まってね。サービスするから」

「こちらこそぜひ」



 にこにこと奥に行ってしまった女性に手を振って、俺は後ろを振り返った。すると目に入る、セブンの顔。

 目を見開いて俺を見てるその顔は、何が起きたのか全く分からないって顔だった。

 この世界の人は、こんな風に優しいんだよ。今頃気付いたのか、もったいない。



 それにしてもさっき女性が言ってたことがちょっと引っかかった。

 そもそもポーション不足の前に、ここの農園がヤバいってクラッシュが言ってなかったっけ。

 農園にも顔を出さないといけない気がする。草花薬師として。

 それにこの果物、何かに使えないかな。農園が復活すればこれも買うことが出来るってことだろ。よし。



「高橋、俺、さらにやること出来たみたいだから。そろそろ行くな。海里も、またそのうち会えたら、素材集めとか一緒に行こう」

「そこで魔物討伐とか言わない辺りマックだよな。農園行くんだろ草花くさばな薬師」

「草花そうか薬師! うん、だって閉鎖って大事おおごとだよ。ここまで進出した薬師プレイヤーって一人もいないの?」

「あーいるにはいるが」



 そこにハルポンさんが口を挟んできた。トッププレイヤーの一人として、そういう情報に敏いんだろうな。



「俺達みたいにパーティーじゃなくて、クランとして大人数で活動してるようなところのお抱えがほとんどだな。パワーレベリングとかしてるから、薬師のパーソナルレベルもそれなりに高いし。でも、他の奴には薬類を作らないから、俺たちにとってはいてもいなくても関係ない」

「もしかして、農園からクエスト出てても、スルーした、とか」

「自分たちに利益がないことはしないんじゃないか」



 だから、ここの農園は閉鎖されたんだ。農園の薬草の方が格段に効果高くなるのに。もしかして、フィールドにいくらでも薬草が生えてるから、農園とかあんまり利用してないのかな。農園って大抵はフィールドで取れるものを扱ってるから。でも、たまに出るレアものが他では手に入らないような物ばっかりなのに。虫とか、虫とか。……あ、鳥肌立った。



「そっか、じゃあ余計に農園に寄らないと。ありがとうございます、ハルポンさん」

「マックだったか。薬師ってことは、ハイポーションとか売ってるのか?」

「通常価格の1.8倍ですけど、一応売ってますよ」

「え、マック俺には2倍って」

「友情価格だよ」

「友情価格は普通割り引くもんだろ! ぼったくったのかよ!」

「そうだよ。儲けたぶんはクラッシュと山分けの予定だよ。毎度ありがとうございます」



 俺のやり取りに苦笑しながら、ハルポンさんが「10本ほど貰っていいか? 1.8倍でいいから」と顔の前で手を合わせる。

 毎度アリーと10本ハルポンさんに渡すと、ハルポンさんはそれを手に取って、まじまじ見た後「は?」と目を見開いた。

 そして、それをいそいそとカバンにしまって、こっちを見た。目がなんか光ってる気がするんだけど。



「悪い、二倍でもいいから売れるだけ売ってもらえないか?」

「え? あの?」

「出来れば他の奴も」

「いやあのその」



 頼む! と机に額をこすり付けんばかりにガッと頭を下げるハルポンさんに、皆が目を丸くして注目している。

 一体何が起きた。



「農園が閉まったせいか、ここら辺一体のポーション類が、あらかたランクDの物しか出回ってないんだよ。だからこの回復量はありがたい」



 回復量が見えるってことは、ハルポンさんは鑑定的なものを持ってたのか。

 なるほど、と思いつつ、さすがにここで色々売るのはヤバいかも、と他のポーションを出すのを思いとどまる。だって、マジックポーションとかキュアポーション、ギルドで買い取ってもらえない威力だから。スタミナポーションもしかり。



「待ってください。これ以上はトレの街の雑貨屋の許可が必要で。俺一応そこの専属ってなってるから」



 どうしていいかわからなくて、俺はとりあえずこの場にはいないクラッシュを出してごまかすことにした。さすがにそんなに俺個人で流通させるわけにはいかないし。こっちの流れとかもあるだろうし。

 何より、クラッシュがいい顔しない気がするし。



「じゃあ今度トレに行ったら雑貨屋に確認してみる。そしたら売ってくれ」

「そこに卸してるんで、そこで買えばこれと同等の効果のハイポーションが手に入るんで、ぜひ店で買ってください」



 ついでに宣伝しといたから許せクラッシュ。



 何とか納得したハルポンさんに謝って、雄太たちに別れを告げて、俺はようやく宿屋から出ることが出来た。もうすぐ暗くなる時間だ。遅くなっちゃったな。乗合馬車には明日乗るしかないか。

 それにしても。と俺は手に握られたままの羽根を見下ろした。



〔アミュレットの欠片:ブルーテイルの羽根(11%)破損]



 直るといいなあ。こんなに、愛情増えてたのに。

 溜め息を吐いて、取れてしまった金具と羽根をカバンにしまった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~

絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。 ※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

処理中です...