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50、海里って、過激だ……
しおりを挟む寝て、起きた。
週末は終わっていた。
今日も学校。
あの後宿屋でログアウトして本格的に寝た俺は、適当に寝てもう一度ログインして詳細を、と寝る前に計画してたことすべてを成せぬままに朝まで寝てしまった。
寝すぎて逆に眠いままで朝の用意をして、学校に向かう。
大欠伸しながら教室に入ると、すでに雄太は学校に来ていた。いつも早いなあ。
俺は雄太に近付くと、「よっ」と声を掛けた。
「昨日はどうだった? 普通の依頼達成になった?」
雄太の前の席に座りながらそう声を掛けると、雄太も欠伸をしながら、いや、と首を振った。
「俺らの場合、ギルドの緊急クエストだったじゃねえか。それの内容に齟齬があること受付で指摘したら、なんか追加クエストが入ってさ。今度はそれをなし崩し的に引き受けることになったんだよ。期限はまだまだゆっくりっていうか、何日って決まってないんだけどな」
「それは災難だったな。どんなの?」
「んー、辺境のほうまで行かねえと。でもまだレベル足りねえから、じっくり上げてから」
やっぱりひと揉めあったんだ、と顔を顰めると、雄太がでも、と口を開いた。
「健吾のあれって本当にギルド依頼だったのか? 護衛。だったらもっとやりようがあっただろ。俺に伝言残してなかったら俺もギルドで張ってなかったし、そしたら即出れる奴なんてそうそういないだろうし」
「あれ、ギルド依頼じゃないよ」
「ハァ?! だって昨日ギルドに納品してたじゃねえか」
「アレ、店主からの直接依頼だったんだよ。依頼を受けてから出発までの時間は一時間しかなかったし、雄太に賊が出るとか聞いてたから、それの用意でいっぱいいっぱいだったし。それに、あんな規模になるとは思わなかったし、クラッシュも他に頼める奴がいなかったんだって言ってたんだよ。断ろうにも、クエスト失敗するとなんかあの店が閉店するとか書いてあるし、もし俺が断ったことでクラッシュが一人で出発したらと思ったらもう頷く以外の選択肢ないだろ。クラッシュは全然途中襲われるとか思ってなかったみたいだしさ」
口を尖らすと、雄太が憐みの目で俺を見た。
「健吾ってさ、ほんと変なクエストばっかり来るのな。なんか必死なのはわかった。俺としてもあの店が継続されるのはすごく助かるからいいんだけど。でも次もしあんな指名依頼受けた時は、誰かしら連れて行けよ。門番とか」
「いやいやいや、門番さんたちは仕事があるから。持ち場離れられないから」
と雄太の言葉を否定した瞬間、雄太のニヤニヤした顔が目に入った。
こ、こいつ、揶揄いやがった……! 雄太のくせに! くっそリア充め!
「そんなことよりも! ユイとか海里とかブレイブとか、この辺の奴らなのか?」
「ああ、健吾って去年4組だったっけ。去年俺と同じ7組だった増田ってのが、海里。今は2組じゃないか?」
「増田……?」
一学年に9クラスもある学校なせいか、かかわりのない生徒の名前とかは言われてもわからない。
俺が首を傾げると、「あとで会うか?」と聞かれ、あの谷間を思い出した俺は、曖昧に頷いた。
リアルの顔を見ちゃったら、次会ったときどういう反応をしたらいいのかちょっと悩むし。
「ちなみに、唯とブレイブは花降女子高生」
俺の反応に笑いをこらえた雄太は、ニヤニヤしながらいらない情報を教えてくれた。
美人が沢山と噂の女子高じゃないか。なんでそんなとこに知り合いの女子がいるんだ雄太は。
という疑問が俺の顔に書かれていたらしく、雄太がデコピンをしてきた。
「最初は一緒にパーティー組んでるだけだったんだよ。でもちょっとしたことから学校が近所だって知って、それからだよ」
「リア充め」
「だから「紹介しようか?」って言っただろ。花女の唯の友達とか」
「いらねえっての」
恋人は間に合ってます。そんなことよりヴィデロさんにくっつきたいです。
はぁ、俺欲求不満なのかも。
「今日はログインしたら一応宿屋に行くから」
「わかった。その後俺は乗合馬車に乗って帰るけど」
俺の言葉に、雄太はぶっと吹き出した。
「乗合馬車って。冒険者が乗合馬車! すっげえ似合わねえ!」
「結構速いんだよ。ちょっと乗り心地は悪いけど。さっさとトレの街に帰ってクラッシュが店に出てるのか確認したいんだよ」
一人で乗って転がらない自信もないけど。ヴィデロさんが一緒だったら、支えてもらえてくっついてられるのに。そしてあの長い移動の時間もすごく楽しくて。
そんなこと考えてたらもっと会いたくなっちゃったよ。
俺は溜め息を吐きながら、前を向いた。
放課後即家に帰ってログインして、ベッドから起き上がる。
身支度を整えて下の食堂に行くと、すでに雄太はそこに座って飯を食っていた。
隣には、増田、もとい海里も。
結局昼休み、俺達三人で弁当を食う羽目になった。
増田はとても人の好さそうな、大人し目な顔をした、優等生風なやつだった。
結構話が盛り上がって昼休みが楽しかったのは認める。見た目だけじゃなくて、本当にいい奴っぽかったし。
でも話ついでになんで女性アバターを使ってるのかを訊いた時の答えが衝撃的過ぎて、俺は撃沈した。
「だってあのゲーム、成人したらゲーム内で色々出来るだろ。エロいこと。俺さ、女性の立場に立ってみたいんだよな。それを恥を忍んで彼女に言ったら、彼女もそれに共感してくれて。だからお互い性別を入れ替えたアバターを使ってるんだ。成人したら反対の立場でエッチしようねって。へへ、デキた彼女だろ?」
大人しい顔して、過激だった。
そんな彼、いや、彼女は、良く見ると面影をしっかりと残した顔で、俺を見てにっこりとほほ笑んだ。
「あはは、マック、しっかり面影あるわね。今まで気づかなくてごめんね。同じ学校だったのに」
「え、あ、うん。俺も。ってか高橋全然言ってなかったの?」
「門番さんといい雰囲気だってくらいしか聞いてないわ」
それは一番海里にとってはいらない情報だよな! それにしても、中身を知っちゃうと女言葉に違和感があるなあ。
「ヴィデロさんのことはいいからさ……ところで、ユイとブレイブは?」
二人しかいないことに首を捻ってると、雄太が「補習」と簡潔に教えてくれた。
そっか、と適当に頷いて、店に食べ物を注文する。そうだ、料理スキル上げないとなんだった。またヴィデロさんに美味しいって食べてもらうために。
早く帰りたいな。顔を見て、そして。
俺が成人してたら、たぶん今下半身がヤバいことになってたかも。うん。
そのままその席で雄太に追加ポーションを何個か売っていると、食堂のドアが開いて、人がぞろぞろ入ってきた。
空いてる席を探してるらしくきょろきょろした後、ふと俺たちのテーブルで視線を止めた。
「高橋じゃねえか? 久しぶりだな」
その声を聞いて、こっちを向いていた雄太が振り返る。そして、よ、と手を上げて「久しぶり」と声を上げた。
「高橋知り合い?」
そっと雄太に訊くと、雄太が「ああ。俺らに色々教えてくれた人で、『マッドライド』っていうパーティーだ」と答えた。え、『マッドライド』って俺も聞いたことある名前なんだけど。めっちゃ強いパーティーだって。そんな人と高橋が知り合いだったなんて。と驚いてたら、その人がこっちに向かって足を進めてきた。
『マッドライド』メンバーが店に入ってすぐこっちのテーブルに集まる中、最後の一人が店に入ってきたのを見て、俺は思わず「あ」と声を上げてしまった。
だって、その一人が、セブンだったから。
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