これは報われない恋だ。

朝陽天満

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34、ううう、グロい……

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※虫系が苦手な人は読み飛ばしを推奨します……

‐・‐・‐・‐・‐・‐

「ルーク、ルーク」



 俺は今、ログインをせずに調べ物をしている。

 ゲームの公式ホームページ、そして掲示板、その他いろいろとだ。

 そしてわかったこと。

 公式では、ルークなんていうキャラクターは出てきていないこと。

 プレイヤーにはいるかもしれないけれど、それは省く。



 デカい所のヤバくない掲示板にも、ちょっとヤバい方の掲示板にも、『ルーク』なんて名前は出てこない。



「わかんねえ……」



 そして、公式には、『錬金術師』なんて職業は全く載っていないということがわかり、前面に出すのはやめよう、と本気で思った。

 ゲットする素材に関しても、どこを探しても出てこない。

 久々にネットでこうやっていろいろ調べたけれど、案外街の人たちと仲良くしてる人たちは多いということだった。

「街のNPCから特殊クエスト貰った!」的な書き込みは結構な数に上る。そして、「特殊クエスト」の板までちゃんと立っている。

 セブンはこういうの、見てないっぽいよな。見てたらあんな風にスルーとか出来ないもん。特に生産職なんだし。



「ルークねえ……」



 で、結局わからず今に至る。

 諦めてヴィデロさんの顔でも見てこよう。

 俺は椅子を立ち、ギアを持ってベッドに足を向けた。





 ログインすると、まず目に入るのは、見慣れた工房の天井。

 起き上がって伸びをする。これをすると身長が伸びるっていうじゃん。

 ゲーム内だから意味ないかもしれないけど。



 さてと。

 今日はとりあえず薬師の方の行動を取ろう。

 クラッシュも薬品類が足りないって言ってたしな。 

 と部屋の倉庫の薬草ストックを覗き込む。ハイポーション50個作れるくらいのストックしかなくて、また素材集めか、と立ちあがった。

 またしても行先はカイルさんの農園。

 最近はクラッシュの所とカイルさんの所とヴィデロさんの所にしか行ってない気がするなあ。

 と思いながらローブを羽織って支度する。支度と言っても常備品の在庫確認くらいなんだけど。

 インベントリ内の余計な魔物の素材を丸っと倉庫に移して、インベントリ内を空けて、出発。工房の鍵も忘れない。ヴィデロさんの顔を見るのも忘れないようにしないと。



 最後に胸に羽根をぶら下げて、俺は農園に向かった。

 そういえば羽根は、パーセンテージが4%に増えていた。何で増えるんだろう。要検証だ。



「カイルさーん薬草類くれーー」

「おー。たんと持ってけ」



 相変わらず畑に出ているカイルさんは、手を振って俺を歓迎してくれた。

 そして出してきてくれる薬草の山。ここの薬草を使うとほんと効果が高くなるから素晴らしい。

 次々とカバンに入れるようにインベントリに薬草を収めながら、そうだ、と思い立って訊いてみた。



「カイルさんさあ、『ルーク』って聞いたことある?」

「『ルーク』? いや、そんなやつに知り合いはいねえなぁ……」

「そっかありがとう」



 お礼を言うと、カイルさんは悪いな力になれなくて、と肩を竦めた。



「そんなことよりよ、すげえ畑の元気がいいんだよ。マックの薬撒いてから、撒いたところだけがずっと豊作でな。変なものが取れたんだけど」

「え、変なもの? 何それ見たい」



 カイルさんの言葉に目を輝かせると、カイルさんはちょっと来い、と俺を手招いた。

 そして連れていかれた先には……。



「うわあ……グロい」

「そういうなよ。万能薬みたいなもんなんだからよ」



 連れていかれた先にあったのは。

 小型犬の大きさほどもある芋虫の背中が割れて、変な植物が生えているという、かなり見た目的にアレなものだった。

 これはあれか? 冬虫夏草、みたいなやつか? ううう、グロい。つうかこんなにでかいって嘘だろ。本物は手のひらサイズだろ!



「これで強壮剤が作れるんだ。マックならお手の物だろ」

「強壮剤は違うやつでも作れるよ……見た目的に、アウト……」



 触りたくなくてそう断ろうとした途端、カイルさんは軽い調子で「とりあえず使ってみて他とどんだけ性能違うのか試してみねえか?」とあろうことか俺の手の上に子犬大の虫の死骸をどんと乗せてきた。



「ぎゃあああああ!」

「どわははははは!」



 俺の悲鳴にカイルさんは大爆笑。笑うなよ!

 全身鳥肌涙目でそれを必死でインベントリにしまうと、ちょっとむにっとした、ちょっと冷たい感触を忘れようと、手に着いた土をカイルさんの服でゴシゴシ拭いた。そんなことなんてことない、みたいな顔で俺の行動を笑いながら見てるカイルさんは、服で拭いたことでさらに汚れた俺の手を見てさらに吹き出していた。くっそ。でもあのえもいわれぬ感触が少しだけ和らいだからそれでよしとしよう。



「ううう……このグロいのの値段は……? 貰ったからにはさっさとこの原型をすりつぶしてゴリゴリ削って影も形もない状態に……」



 いまだ治まらない鳥肌と戦いながら訊くと、カイルさんが顔を顰めて「いや」と手を振った。



「マックの言ってることの方が断然グロいぞ……。それ、潰すとき緑の液体出るから気を付けろよ。で、お代はいい。それよりも、その虫草がたくさん出来上がったから、引き取って欲しいんだ」

「たくさん……」



 ごくりと喉が鳴る。

 ほら、とカイルさんが目の前にあるトウモロコシみたいな茎をかき分けると、そこには。

 虫がわんさか並んで何か怪しげなものを生やしていた。

 ぎゃあああああああ!

 み、見るんじゃなかった……。もう、しばらくゼンマイとかキノコとかいらない……。

 と考えて、ふと気づく。



「アレ、背中に生えてるの、何種類かある……?」



 慌ててインベントリ内の冬虫夏草を鑑定してみると。



『虫草:強壮剤の原料となる植物。虫型の魔物に寄生し栄養が行き届く土にて魔物の養分を吸って生える』



 ってことは、この虫は魔物か。魔物の養分を吸ったものって恐ろしい効果が出そうだよな。怖い。

 そしてあんまり見たくないけど、違う植物と思われる物が生えている虫草を、鳥肌を立てながら手に取った。



『虫草:麻痺を緩和する植物。虫型の魔物に寄生し栄養が行き届く土にて魔物の養分を吸って生える』

『虫草:狂精剤の原料となる植物。虫型の魔物に寄生し栄養が行き届く土にて魔物の養分を吸って生える』



「これ、三つとも効能が違う」



 一つはひょろんとした小さな傘のある白いキノコ状の物、一つはゼンマイみたいに黒っぽくて頭が丸まってるもの、一つは茎がしっかりしていて小さな葉が付いている物。全部の効能が違う。

 すごい。っていうか狂精剤って何だろう。初めて聞いた。



「カイルさん、『狂精剤』って何だかわかるか?」

「狂精剤? あれだろ、成人の儀を受けても、成人できねえ半端ものが使う薬剤だ」

「というと?」



 成人の儀がどういうものなのかいまいちわからない俺は、首を捻って詳しく訊いてみた。



「そうかマックはまだ成人してねえんだったな。わりいわりい。ヴィデロとすでに成人あはーんなことをしてやがるからついつい忘れるぜ」

「いやいや、それはいいから! だからどんなのなんだよ?!」

「まさにそれだぞ。成人しても、全然おっ勃たなくて子を成せねえ奴がたまにいるんだよ。そいつに『狂精剤』を服用させることで、しっかりとナニがおっ勃たつんだよ。俺は喜ばしいことにそんな薬を使うようなことはねえんだけどな。金になるらしいぜえ。それを作れる薬師があんまりいねえし、材料がまずお目見えしねえからな。ってかこれがその薬の原料かよ。俺も知らなかった」



 ああ、バイアグラみたいなものか……。と俺はカイルさんの色々アレな説明に、思わず遠い目をした。

 成人できない男性よ……そのバカ高いらしい薬の原型がこれだと知ったら、卒倒しそうだな。俺ははっきり言って飲みたくない。

 カイルさんは、すごいものを見た、とまじまじと虫草を手に取って眺めている。俺には無理。 



「じゃあ、普通の人が飲んだらどうなるかわかるか? なんかヤバそうなんだけど」

「悪い、わからねえ。でも、この虫草の扱いが難しくてなあ。一攫千金にはなるんだが、これを売るとこの農園が上に目を付けられるからよ、これは全部マックに押し付けようと思ってな。売ったら一生遊んで暮らせる金は手に入るかもしれねえが、俺は上に縛られる気はねえんだ。まだまだ自由気ままに農業してえから、悪いがこれ、全部持ってってくれ」

「うえええええ……か、カバンの中に、この虫をいっぱい……? でもこんな虫型魔物、どこから現れて……」

「いっぱいいたじゃねえか。成虫になってがぶがぶ俺の子たちを食いやがったやつらは火だるまにしてやったが。どっかに卵があったのが、逆に草に寄生されたみてえなんだよな」

「あああ……いたな、虫」



 枯れた草を思い出し、俺はがっくりと肩を落とした。

 それにしても大量の虫。いや、虫から生えてる植物。虫の幼虫だけだったらまだいいんだけど、そこから寄生されてるってのがもう、見た目的にアウトなんだよな。さっさと粉状にしちゃおう。マジでさっさと。

 ほぼ泣きそうになりながら、俺はカイルさんから次々渡される虫の死骸をカバンに詰め込んでいった。うえええ。

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