これは報われない恋だ。

朝陽天満

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31、お宝発見……!

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「いらっしゃいませ。本日はどういった御用でしょうか」



 イケメン執事さんは、それはそれは綺麗なお辞儀で俺たちを迎え入れてくれた。

 店の中には、わけのわからない骨董品みたいなものとか、古い本とか、昔の電話みたいな物とかが綺麗に並べられている。

 外側の朽ちかけた外見からは想像もつかないような、整った店内に、俺は自然と口元を緩めた。

 すごいここ。すごい。

 絶対掘り出し物とかありそうな雰囲気!

 店主さん、なのかな。イケメン執事さんもすごく店にマッチしていて、この店内を見るだけでも達成感がすごかった。



「護符を買いに来ました」

「護符、ですか。どういった用向きの護符をお求めですか?」

「防御と幸運を、彼に贈りたくて」



 ヴィデロさんとイケメン執事さんの絵面、豪華すぎる。俺の容姿じゃ混ざっていけないから横でそっと見物しておこう。とそっと離れて品物を物色した。

 それにしても、あの古本気になるなあ。そこにばっかり目が釘付けになる気がする。吸引力っていうかなんか。

 いったん目を止めたら、もう目が離せない。

 でも、なんか手に取った瞬間崩れそうな感じで積み上がっていて、勝手に引き抜けないような状態になってる。

 二人で話してるけど、これを取ってみてもいいですかって聞いてみようかな。

 と振り返ると、イケメン執事さんが何かを探してるような感じだった。

 うん、話が終わるまで待とう。

 本を見てると早く取りたくて仕方なくなるから、他の棚を見よう。

 そう思って他を見ても、気付くと視線はその本に向かう。これはおかしい。なんかあの本が魔力でも纏ってるのか? 



「それでは、こちらのアミュレットはいかがでしょうか。ローブを留める留め金に掛けることが出来る仕様になっていますので、お客様の邪魔にもならず、防御力とラックアップ、そして器用さの加護が付加されますよ」

「これはいいですね。見た目も素晴らしい。是非これを」

「あの」



 とうとう我慢できなくて、俺は二人の会話に割り込んでしまった。

 でも二人とも嫌がる顔もしないですぐにこっちを見てくれた。



「あの、すごく気になる物があるんですけど、手に取ってもいいですか?」



 本の方をチラ見しながらそう言うと、イケメン執事さんはおや、と目を瞠ったあと、口元を緩めた。



「ぜひ、お手に取ってみてくださいませ。もしかしたら、今のあなた様に必要なものが見つかるかもしれませんよ」

「ありがとうございます」



 やった! と俺がその本のところに戻ると、ヴィデロさんとイケメン執事さんがついてきて、その本の上に乗ってる本を退かしてくれた。

 装丁も剥げていて、色あせもひどく、ところどころページが飛び出しているところもあるけど、手に持った瞬間、なぜかこれだ、って思う。



「あの、この本」

「この子に選ばれたのですね」

「え……?」



 イケメン執事さんは、にっこりと笑って、乗っかっていた本を元に戻した。

 そして俺の手の中にある本に手を伸ばし、チョンと触れて、すっと手を引いた。



「お代は、そうですね。あなたのカバンの中の物を一つ。あ、もちろん、売れるものでかまいません。その子の代わりにこの店に陳列したいので。それでお代とさせてください」



 高いことを予想していたら、まさかの物々交換だった。うわ、値段提示された方がまだわかりやすかったよ。

 なんか、この本ほんとに手にしっくりくるから、この本に見合う値段の物って何だろう。素材……? 俺が作った薬類? 錬金アイテム?

 どうもしっくりこないな。

 とインベントリを眺める。



「この本に見合うもの、どれかな」

「いえいえ、お客様がこれ、というものなら、石ころ一個でも充分ですよ。そう難しく考えないでください」



 俺の呟きにかぶせる様に、イケメン執事さんがそんな言葉をくれた。

 でも、適当な物じゃ、この本が嫌がる気がするなあ。

 まだ開いてもいないけど、何でこんなにこの本が気になるんだろう。イケメン執事さんが「この子に選ばれた」っていうのも気になるし。

 本を抱きしめて難しい顔をしていると、ヴィデロさんが少しだけ屈んで、俺の首もとに何かを付けてくれた。

 一本の綺麗な羽根だった。

 白から水色、そして深い青へのコントラストがすごく綺麗な羽根。



「マックなら大丈夫だから、ゆっくり選べ。時間は十分あるんだし」



 そう言ってヴィデロさんは、ふわっと笑ってくれた。

 そうだな。なんか知らないけど、慌ててた。どうしてもこの本を自分の物にしたくて。

 深呼吸して、羽根を見つめて、ヴィデロさんを見つめる。

「ありがとう、一生大事にする」というと、こめかみにキスをくれた。イケメン執事さんの目の前なんだけど、いいのかな、と思いつつ、俺もヴィデロさんの美形を間近で堪能。はぁ、かっこいい。

 そう思った瞬間、羽根が淡く光った気がした。



「一度、中身を見てもいいですか?」

「ぜひご覧ください。では、立ちながらもなんですし、奥のテーブルでお座りになられますか?」

「え、いいんですか?」

「大切なお客様です。ぜひ御持て成しさせてください」

「ありがとうございます」



 イケメン執事さんに案内されるまま、店の奥についていくと、すごく装飾の綺麗な小さな丸テーブルと、それと対になっているやっぱり綺麗な椅子がニ脚あるところに「どうぞ」と勧められた。

 ヴィデロさんとそこに腰を下ろして、テーブルの上に本を置く。

 そっと本を開くと、そこにはまず注意書きが書かれていた。



『この本を開いたもの

 中身を読み解けるもの

 ただ あるがままに

 うけとめ 心せよ



 悪用してはならない

 第二の巨大な悪を 生み出す

 悪用するものに

 知られてはならない



 第一の巨大な悪は いまだ

 眠りのそこに

 最後の棺のもとに

 この身をもって 



 ルークを助けるため

 我はこれを残す



 悪用することなかれ』





「要するに、これに書かれてることを悪用したら何かが起きるってことかな。でもって、第一の悪って」



 首を捻っていると、目の前にスッとおしゃれなカップが差し出された。

 顔を上げると、イケメン執事さんがいつの間にやら横に立っていた。



「第一の悪、とは。今の時代の第一の悪でしたら、15年前に討伐されたと言われている魔王のことですよ」

「え、あの勇者が倒したっていう? でもこれには寝てるだけって書いてあるように取れるんだけど」

「それならば、そうなのかもしれないですね。伝えられたことがいつでも真実とは限りません」



 そ、それって、このゲーム根本の設定から揺るがされることじゃん……!



 ちょっと脳内でテンションが上がってしまって、俺は落ち着くためにカップを手に取った。

 すでにヴィデロさんはそれを口にしていて、目元を緩ませている。美味しいっていうのが一発でわかるなあ。ちょっと可愛い、ヴィデロさん。

 お茶を口に含むと、紅茶のいい香りと、スッとするようなミントっぽい味わいが口に広がった。

 確かに美味しい。そして落ち着く。

 はぁ……と満足の息を吐いて、俺はハッと気づいた。



「でもこの本、そしたら少なくとも書かれてから15年も経ってない新しい本ってことですよね。すごく古書! って感じの朽ち果て方なんですけど」

「それは、それを記した者が自らの魔力で描かれたものだからですよ。その子自体が、その方の魔力に耐え切れずにこのような姿になってしまいました」

「魔力で描く……そんなことが出来るんですか」

「たぶんこの子を生み出した方がとても偉大な魔法使いだったのでしょう。ずいぶんたくさんの魔力が込められていますよ」



 にこやかににこやかにイケメン執事さんが説明してくれるけど、なんか段々話がすごいことになってきてる気がする。

 ルーク、って、人? 誰。WIKIとかにも載ってないよなきっと。



 首を傾げつつ、ページをめくると、真っ白のページが現れた。



「え、白い……? ヴィデロさん、これ、何か書いてあるように見える?」

「いや、俺も真っ白に見える。他のページはどうだ?」

「見てみる」



 本を壊さないようにそっとページをめくっていくと、4ページ目くらいに、ようやく文字らしきものを見つけた。



「ええと、『アメフラシの足』? 錬金素材? もしかして……」



 そっと、でも慌てて他のページを探すと、ようやくしっかりと書かれたページを見つけた。

 そこには、俺がこの間まで必死でレシピをなぞっていた、錬金術のアイテムレシピが綺麗な図入りで詳細に描かれていた。

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