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8、NEWクエスト!
しおりを挟む放課後超ダッシュで家まで戻った俺は、幾分ためらいながらもヘッドギアを付けた。
昨日のこともあって、門を通るのがためらわれた俺は、街の外れの農園に行くことにした。そろそろ薬草も切れそうだったし、またなんか面白い草をカイルさんが育てているかもしれないし。
ちょっと冷静に門を通れる気がしない。
ローブを目深に被って、だんだんと人通りが閑散としてくる道をひた進む。
この先にいつもお世話になっているカイルさんの農園があるのだ。
薬草類は道端で採取するよりカイルさんから買っている。だって道端の薬草より性能いいし、たまにすごく変な草が生えたって言って、「お得意さんだから特別な」って薬草と一緒に売ってくれるんだ。
きっとそのことを知ってる人なんてほとんどいないよ。……大抵錬金用の変な草だし。もしかしてあれか。俺が錬金術師だからってお店アイテムが変化してるのか。クラッシュだって錬金釜出してきたくらいだし。ってことはステータスのジョブを薬師に設定していても、NPCには俺が錬金術師に見えてるってこと、なのか?
首を捻りながら歩きなれた道を歩いていくと、街外れの広大な農園の前にでた 。
一つのフィールドみたいな広大な農園は、たとえ特別なアイテムを売ってくれなくても見ていて楽しい。畑に向かって検索を掛けると、色んな草の名前が一気に出てきて、どれがどれやらわからないくらい文字だらけになってそれはそれですごく楽しい。それくらい農園にはいろんな物が生い茂っている。一度検索じゃなくて鑑定をしてみたら全部が説明文まで出てきちゃって目の前が動画のコメ埋まった状態と同じようになっちゃったので、それ以来ここでは鑑定をしていない。インベントリに入れちゃえば、自然と説明されるしね。鑑定の便利なところは、説明で「謎の物体(錬金用)」とか出ていた時に鑑定するとそれが何なのかわかるってところだし。どっちも錬金術師には必須。必死でレベルはあげてる。
色が変わっている一画とか忙しなく首を動かして色々と見て歩いていたら、遠くの方から「おーい」と声を掛けられた。カイルさんだ。
「ちょうどいいところに来たな、マック! こっち来てくれ!」
「はーい!」
叫ばないと声が届かないほど向こうの方にいるカイルさんに返事をして、俺はそのまま進んでいった。そして、農園の異変に気付いた。
カイルさんがいるほうに行くにつれ、いつもは生い茂ってるはずの草とか作物とか花が、だんだんとしおれて行ってるんだ。
「どうしたんだよこれ……」
さっきまでの生い茂っていたあたりから比べると、とんでもなく大変なことが起こってるのがわかる。もしかしてこれって何かクエスト始まった?
ふとステータスを開いてちらっと見ると、クエスト欄に「NEW」のお知らせがついていた。そういえば昨日のクエストも確認してなかった。どうせ失敗だろうけど。
でももうすぐカイルさんの元に着くから、とクエスト欄を開かないでステータスを閉じた。
カイルさんは、いかにも農園主! というような筋肉質の巨体をネルシャツとジーンズで包んで、腕を組んで待っていた。顔もいかにも農園やってます! っていうひげ面の、なんていうかカウボーイ風味のちょい悪親父って感じのおじさんだ。被ったストローハットもかなりかっこいい。肥満じゃないよ、筋肉だよ、あの盛り上がった胸。すげえ。でもいつもニコニコしていて、目尻の皺がすごく渋いんだ。
そのカイルさんが、困ったような顔をして、腕を組んで俺を待っていた。
「カイルさん、どうしたのこれ。こんなこと今までなかったよな」
「ああ、昨日までは何ともなかったんだが、今朝見たらこんなになっていたんだ。たぶんこれは害虫のせいだな。放っておくと農園中の作物たちがこうなっちまう。マック、頼みがあるんだ」
「俺に出来ることなら」
一も二もなく引き受けると、カイルさんは俺の頭をぽん、と軽く叩いた。
「まだ内容言ってないだろ。まず考えろ」
「でもカイルさんが困ってるのに、断るなんて選択肢はないだろ」
「お前、そのうち誰かに騙されるぞ……」
カイルさんが呆れたようにそう呟いたのを聞いて、俺ははははと乾いた笑いを零した。
大丈夫だって。俺だってちゃんと人は見てるから。
「それで、頼みっていうのは?」
「この害虫駆除の薬を作ってほしいんだ」
お、薬師のクエストか。
でも害虫駆除の薬の作り方って俺知らないんだけど。
なんかクエストの詳細に載ってないかな。とここでようやくクエスト欄をタップして開いてみる。
『【NEW】カイルの農園を救え!
カイルの農園が害虫に襲われている!
放っておくと農園中の作物がダメになってしまうぞ!
害虫を駆除する薬を作って散布しよう!
タイムリミット:3日間
(注:クリア時間によって農園の被害が広がる。クリアタイムによって報酬変化)
クリア報酬:???
クエスト失敗:カイル農園一か月の閉鎖』
ああ、うん。書いてなかった。
それにしても、これに失敗したらカイルさんの農園が立ち直るまでに一か月かかっちゃうのか。それじゃカイルさんが大変じゃないか。絶対に失敗できない。しかも出来る限り早く。
よし、カイルさんにダメもとで聞いてみるか。
「カイルさん、害虫駆除の薬って、どういうものか知ってるのか?」
俺の問いに、カイルさんは難しい顔のまま首を振った。
「この害虫がな、あまり発生しない物なんだ。俺の代ではまあ初めてだな。俺のじいちゃんくらいだったら知ってたと思うんだが、俺はなあ……」
「そっか」
うん、そうだろうと思った。図書館とかで何かないかな、と考えていると、カイルさんが「あ、そうだ」と思い出したように付け足した。
「俺の親父がここの主だった時に使ってた部屋があるんだがな、そこにはいろんな本が山積みになっててなあ。納屋みたいな狭い部屋だったからってそのまま放置してるんだけどよ、そこにもしかしたら何かしら資料があるかもしれん。俺は学がないからあんまり字が読めないんだけど、マックなら何とかなるだろ。ちょっと来い」
うわあ、カイルさんのお父さんの書斎!
ぜひお供させてもらいます!! いい資料あるといいなあ。
素晴らしい申し出を、俺はうきうきと二つ返事で了承し、カイルさんの後ろをついていった。
「ここの奥なんだがよ」
そう言って連れていかれたのは、いつも草類を買い付けてる倉庫の奥にあったドアの向こう。
通路があって、さらに奥に住居らしきところがあり、そのさらに奥にポツンとあったちょっとぼろぼろのドアの前。
「ここが親父の物置部屋だ。好きに調べていいから、早めに頼む。マック薬とかお手の物だろ」
「わかった、頑張る」
俺は元気な方の草の手入れしてるからよ、と言って、カイルさんは元来た道を帰っていった。
またしても、普通じゃ入れないところに入れた。これだからこのゲームはやめられない。
でも、こんなだからこそ、こういう小さなクエストも、失敗できないんだよな。
ギイ、と建て付けの悪そうな音がして、ドアが開いた。
そっと入ると、とても埃っぽい。こんな埃まで再現しなくていいのに。
光取りの小さな窓から入ってくる光で、埃がキラキラしている。綺麗……じゃない! マジ勘弁!
顔を顰めながらドアを閉めて、改めて部屋の中を見回した。
4畳半くらいの部屋の壁に本棚があり、そこにびっしりと本が埋まっている。そして、小さな机がポツンと置かれており、そこには朽ちかけた羽ペンと、すっかり乾いたインク瓶、そして、書きかけの紙が乗っていた。床は……。床は、足の踏み場がないくらいの本と紙の束の山、山、山!
もしかしてこの中から害虫駆除の薬のレシピを探し出すのかよ?! もしかして、このクエスト、かなり難易度高かったりするんだろうか……。
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