これは報われない恋だ。

朝陽天満

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1『アナザーディメンションオンライン』

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「ダンジョン捜索者サーチャー?」



 昼休み、俺郷野健吾ごうのけんごは友人と弁当を食べながら、今二人でハマってるVRゲームの話をしていた。

 今話題沸騰中のVRゲーム、『アナザーディメンションオンライン』。通称ADO。

 10年前に勇者が魔王を倒し、世界は平和になった。っていうくだりから始まるオープニングムービーは圧巻で、勇者が魔王と決死の戦いをしている場面から始まるんだ。そして、魔王を倒し、泣きながら雄たけびを上げる赤い髪の勇者を見て、胸を熱くしなかった人はいないと思う。俺も不覚にもオープニングムービーで感動したから。でも普通は魔王が現れたからレベルを上げて倒してくれ、みたいなゲームが多いんだけどね。このゲームはその後、って話らしいんだよな。不思議だ。

 このゲームのコンセプトは「異世界で自由をその手に」というもので、戦闘職から生産職まで様々なジョブで自由にいろいろなことが出来るというもの。

 俺達が中学校に上がった時に発売されたそれは、5年たった今でも不動の人気VRゲーム上位にランクインしている。

 俺も、目の前にいる友人の高橋雄太も、15歳になってからそのVRゲームが解禁されて以来、ずっとそのゲームで遊んでいた。



「ああ、なんか週末ログインして皆で森のほうでスキルの熟練度を上げていたらさ、銀髪でローブ姿のすげえ綺麗なやつに声かけられて」

「その人がダンジョン探索者だった、と」

「ああ。一緒に潜った。シークレットダンジョン」

「えええええ?!」



 雄太の言葉に、俺は思わず大声を出してしまった。

 だって、その「ダンジョン捜索者」って、巷ですごく話題になってるNPCで、声を掛けられてその人からクエストを受けると、シークレットダンジョンってところに連れて行ってもらえて、オーブが手に入るって言われてるんだ。

 でも、その人に会える条件が全然ネットにも上がらなくて、レベルが高くないとだめだとか、何かのクエストをクリアしてないとだめだとか、なんかよくわからない憶測しか回ってこないんだ。



「で、で?! 手に入ったのか、オーブ!」

「ああ」



 マジかよ!!

 雄太ばっかりずるい! と叫んで、俺は雄太の弁当に入っていた唐揚げを一つ奪った。



「あっ! 楽しみにとっといたのに!」

「そんなのいいから続き!」



 唐揚げから話題をそらすように話の続きを促すと、雄太は「帰りに俺の家に寄れるか?」とこそっと聞いていた。

 もちろん、と二つ返事で返す。

 科学部の幽霊部員である俺は、帰宅部と掛け持ちをしているから、放課後は家に帰ることを最優先しないと部活動とは言えないのだ。なんてな。

 もちろん『ADO』をするためだけど。

 そして目の前の雄太も、同じような感じで、即帰宅組である。



 『ADO』が出た当初は、あまりの人気に、VRギアまで売り切れ続出という現象が起こった。

 それまでは、VRギア自体の供給は安定していたはずなのにだ。そこまで人気になるゲームは、日本で初めてVRギア使用によるダイブ型ゲームが発売されて以来のことだと、ニュースで言っていたのを、当時中学生だった俺は朝食を食べながら見ていた。

 『ADO』は、身体発達がどうの未発達の脳に動きがどうのとかよくわからないけど、そういう発達的理由で15歳をすぎないとログインするどころかアカウントを取ることすら出来ないようになっている。

 そのころからゲーム好きだった俺と雄太は、早く15歳にならないかなとドキドキしながら、お年玉を貯め続けていたものだ。

 貰う小遣いは最低限しか使わず、お年玉はもちろん丸々貯金。俺より2か月先に生まれた雄太が即買いしてるのをぐぬぬと見ながら耐えに耐え、15歳になると同時に俺も即買い。

 貯金はすべて、なくなった。でも後悔はしていない。



 第何陣になるかわからない俺たちは、すでにトップランカーとして突き進んでいる人たちを横目で見ながら、必死で差を詰めるべく学校と睡眠以外のほとんどの時間をログイン時間にあてた。

 でもたかが2か月、されど2か月。

 俺が喜び勇んでログインしたときには、雄太は『高橋』というそのまんまな名前で、知らない人とパーティーを組んで、楽しんでいた。

 レベルの差、25。



 4人パーティーで、男女二人ずつすごくバランスのいいパーティーでガンガン突き進んでる雄太のところに、今更「まーぜーて」と行くわけにもいかないしな、と俺は、色んな装備で楽しんでいる人々の波にもまれながら、初期装備でトボトボ街中を歩いたのは今でもちょっとしたトラウマだ。

 でもまあ。雄太は雄太、俺は俺だよなと、そこから俺は生産のほうの道に進んだんだ。



 で、最初から生産を目指すと、あれなわけだよ。他人とパーティーを組んでやろうとすると、生産のほうのスキルを手がける時間が無くなるわけだよ。

 だから、俺は大体ソロ。

 せっかくのVRオンラインゲームで、ソロ。悲しくなんかないけどな、全然。という強がりを言ってみる。

 いいんだ俺には錬金術というものがあるから。

 そう、俺が今楽しんでるのは錬金。最初薬師を選んだんだけど、ジョブレベルを上げていたらなぜか「条件を達成しました」っていう通知が来て、錬金術師のジョブを選べるようになってたんだ。たぶんこれ、上位ジョブだと思う。でも条件って別にジョブレベルが上がったから上位になれるわけじゃないみたいなんだよな。同じくらいに薬師を始めた生産友達の輪廻は、薬師のままだし。俺がちょこちょこパーソナルレベルも上げてる間、輪廻はひたすらジョブレベル上げてたはずだから、絶対ジョブレベルは俺の倍行ってると思うし。




 今日は帰ったら、昨日たまたま手に入ったバフ系の効果が付く薬のレシピに挑戦してみようと思ってたんだけど。

 でも、そんなことよりダンジョン捜索者のほうが大事だ。

 早く話が訊きたくて、午後の授業は気もそぞろになりながら、俺は、放課後が来るのを今か今かと待ちわびていた。

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