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間話 或る生徒の妄想(会計×司)
幸薄オメガは会計に愛される3
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何だこれは。こんなの、知らない。
湧き上がってくる熱と、衝動。目の前のアルファに身も心も捧げてしまいたい。彼の子種を胎に注ぎ込んでほしい。
こんなことは、初めてだった。
今までは、体だけは無理やり発情させられて、冷めた心との乖離に苦しんでいたのだ。
こんなの、自分じゃなくなってしまったみたいだ。
主人公、東條司の混乱の胸中を綺麗な文章で綴られていた。
それは、アルファである五十嵐光も同様だった。
アルファの家系に、当たり前のようにアルファの性を受けて生まれた五十嵐。この学園に入学するまでは、アルファやベータの女性とばかり付き合っていたこともあり、オメガのことを性的な対象として見たことがなかった。孕む能力を持っている男など、得体の知れないものとすら思っていた。
だから、学園の中で当然のように蔓延るオメガを性奴隷のように扱う風潮にも、辟易していた。
「は、運命の番なんて……嘘だと思ってたんだけど」
体の火照りとどうしようもない胸の高鳴りをおぼえていたのは、アルファの側である五十嵐も同様だった。
東條司のことは、情報として知っている。同級生のオメガの中でも、美しく、それでいて具合がいいのだとよく猥談の槍玉に上がっていたからだ。当然彼のことを抱いたことなどなかった五十嵐は、内心理解できないと思っていた。
この学園に放り込まれたオメガは、まともに授業も受けることができずにいたので、顔を合わせたこともなかったが。
前髪を掻き上げて、運命を見つけた雄は笑った。その目は、まさしく捕食者の目だった。
この雌は自分のものだ。他の誰にも渡さない。
呆然と佇んでいた司の腕を掴むと、誰もいない廊下を歩いて生徒会室に辿り着いた。
授業中の今、ここに近づく奴はいない。司を連れ込んでドアを閉めると、当然のように中から鍵をかけた。
「あの……五十嵐」
「俺のこと知ってるんだ?」
「お父様に、優秀なアルファの顔と名前は覚えるように言われてたから」
入学前から、いくつか見繕った一覧を見せられていたのだという。
オメガの子供を道具としか見なしていない父親のやりそうなことだ。
「お父様!?キモッ」
そこまで読み進めたところで、あまりの鳥肌に一時中断した。
あのクソ親父相手にお父様呼びとか、絶対に有り得ない。この作者は俺に夢を見過ぎだ。
……マ、だから悪役とはいえ「令嬢」なんて扱いを受けているわけなんだが。
ともかく、小説の中に意識を戻した。
「ああ、だから会長のお気に入りってのもあながち嘘じゃないんだ」
「……好きで、近づいているわけじゃない」
「家のため、ね。ご苦労なことで」
どうやらこの作中では、生徒会長の美作が当て馬の扱いを受けるらしい。家柄もアルファとしての格も高い美作という障害を乗り越えて結ばれる運命……それにしても、あの美作が!当て馬!
ちょっと愉快な気分だ。
「司先輩、今すごく悪役顔してますよ」
「男を手玉に取ってる……よっ、悪役令嬢!」
「褒めるなって」
「いや褒めてはないだろ」
書類に目を通しては判子を押していた龍次が呆れたように呟いた。
湧き上がってくる熱と、衝動。目の前のアルファに身も心も捧げてしまいたい。彼の子種を胎に注ぎ込んでほしい。
こんなことは、初めてだった。
今までは、体だけは無理やり発情させられて、冷めた心との乖離に苦しんでいたのだ。
こんなの、自分じゃなくなってしまったみたいだ。
主人公、東條司の混乱の胸中を綺麗な文章で綴られていた。
それは、アルファである五十嵐光も同様だった。
アルファの家系に、当たり前のようにアルファの性を受けて生まれた五十嵐。この学園に入学するまでは、アルファやベータの女性とばかり付き合っていたこともあり、オメガのことを性的な対象として見たことがなかった。孕む能力を持っている男など、得体の知れないものとすら思っていた。
だから、学園の中で当然のように蔓延るオメガを性奴隷のように扱う風潮にも、辟易していた。
「は、運命の番なんて……嘘だと思ってたんだけど」
体の火照りとどうしようもない胸の高鳴りをおぼえていたのは、アルファの側である五十嵐も同様だった。
東條司のことは、情報として知っている。同級生のオメガの中でも、美しく、それでいて具合がいいのだとよく猥談の槍玉に上がっていたからだ。当然彼のことを抱いたことなどなかった五十嵐は、内心理解できないと思っていた。
この学園に放り込まれたオメガは、まともに授業も受けることができずにいたので、顔を合わせたこともなかったが。
前髪を掻き上げて、運命を見つけた雄は笑った。その目は、まさしく捕食者の目だった。
この雌は自分のものだ。他の誰にも渡さない。
呆然と佇んでいた司の腕を掴むと、誰もいない廊下を歩いて生徒会室に辿り着いた。
授業中の今、ここに近づく奴はいない。司を連れ込んでドアを閉めると、当然のように中から鍵をかけた。
「あの……五十嵐」
「俺のこと知ってるんだ?」
「お父様に、優秀なアルファの顔と名前は覚えるように言われてたから」
入学前から、いくつか見繕った一覧を見せられていたのだという。
オメガの子供を道具としか見なしていない父親のやりそうなことだ。
「お父様!?キモッ」
そこまで読み進めたところで、あまりの鳥肌に一時中断した。
あのクソ親父相手にお父様呼びとか、絶対に有り得ない。この作者は俺に夢を見過ぎだ。
……マ、だから悪役とはいえ「令嬢」なんて扱いを受けているわけなんだが。
ともかく、小説の中に意識を戻した。
「ああ、だから会長のお気に入りってのもあながち嘘じゃないんだ」
「……好きで、近づいているわけじゃない」
「家のため、ね。ご苦労なことで」
どうやらこの作中では、生徒会長の美作が当て馬の扱いを受けるらしい。家柄もアルファとしての格も高い美作という障害を乗り越えて結ばれる運命……それにしても、あの美作が!当て馬!
ちょっと愉快な気分だ。
「司先輩、今すごく悪役顔してますよ」
「男を手玉に取ってる……よっ、悪役令嬢!」
「褒めるなって」
「いや褒めてはないだろ」
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