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終章
3.アラスターの告白2
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「僕は全身悪に染まってる。シンクレア公爵家だけを悪者にして、自分はヒーローになるつもりだった。アージェント家が苦しんできたのは、ひとえに王家のせいなのに」
「まあ、複雑な気持ちにはなりますよね。ラーラの付添人は少しも楽しいものではなかったし。安全な場所とも縁がなかったし。殿下はもっと早く、私を公爵家から脱出させることができたはずですもんね」
エリシアは小首をかしげた。
「で、どうしていまごろになって自分を責めているんですか?」
アラスターはすっと目を逸らしたが、思い直したようにエリシアを見つめた。
「……恥ずかしくなったんだ。爽やかで格好いい救世主気取りだった自分が」
そう言って、アラスターはふっと口元をほころばせた。
「エリシアの話し相手、庇護者、味方。最初は役を演じてた。でも、そのうち……何とも不思議な感覚が呼び覚まされた」
「ほう。それは一体、どのような?」
「ひと言で表現するのは難しいが……。頭が君のことでいっぱいになったんだ。僕は、これほどの装置を作り上げた自分を見上げた根性の持ち主だと思ってた。それが、見下げ果てた男だと思われてならなくなった」
アラスターはゆっくり息を吸い込んだ。
「甘い言葉と魅力を振りまいてさ、君の心を弄ぼうとしてたんだから」
「確かに、私がアラスター殿下を好きになってたりしたら酷い仕打ちと思ったでしょうけど。ドキドキしたりときめいたりはしなかったんで安心してください。殿下、自分で思っているほど魅力ないですよ。顔面力ではギャレット皇太子の方が上です」
「君は本当にずばずば言うよね! ていうか、何でギャレットの顔面力を知ってるんだよっ!」
「手紙に絵姿が同封してあったので」
「あの野郎」と溜め息をついて、アラスターは壁にもたれかかった。
「君みたいな女は初めてだよ。おかげで、自分がとんでもないうぬぼれ屋だったことに気付いたよ」
「まあ、私のようなのはそう簡単には恋に落ちないので。ご先祖様が残した『簡単に手に入れたものは、簡単に裏切る』っていう言葉のおかげで、まず疑ってかかる癖がついてるんで」
「その言葉、治療院でも聞いたな……」
アラスターが顔をしかめた。
「僕だって、恋についてはほとんどしらない。経験したことがないからさ。隙間時間は全部研究に費やしてたし。僕なら君を落とせるなんて、どうしてそんな甘い期待を抱いたんだろうな」
「まあ、王太子ならプライドも相当なものでしょうしねえ」
「君が木っ端みじんに打ち砕いてくれたけどね」
アラスターが鼻を鳴らし、それから力なくうなだれた。
「君がどんなに大きな存在になってたか、失う直前に思い知るなんて皮肉だな」
アラスターの目の下にはひどい隈ができている。打ちひしがれ、悲嘆に暮れているのがわかる。
「レアな付与魔法の持ち主を諦めちゃうんですか? 策を弄して、国のために働かせないんですか?」
「そりゃ僕だって、千載一遇のチャンスを投げ捨てたくはないよ。君がいたら、メンケレン帝国にだって勝てるかもしれない。でも、もう……もう、卑劣な自分には戻れない。戻りたくないんだ」
アラスターはエリシアの目を真っすぐに見つめた。
「君のデータは取ったからね、どうにかやっていくさ。時間をかけて研究したら、人工的に付与魔法の持ち主を作り出せるかもしれない。もちろん、人体実験は自分でやる」
自分に言い聞かせるように言って、アラスターは悲し気な笑みを浮かべた。
「エリシア。君を虐げ続けてきたこの国から自由になってくれ。君を失うことで、僕は先祖の罪の報いを受ける。君との日々は……なんていうか、僕の人生の中で最良の時間だったよ」
「なるほど、よくわかりました」
エリシアは治癒魔法によって大きくなった手で、アラスターの両肩を掴んだ。そして、ふうっと長い息を吐いた。
「まあ、複雑な気持ちにはなりますよね。ラーラの付添人は少しも楽しいものではなかったし。安全な場所とも縁がなかったし。殿下はもっと早く、私を公爵家から脱出させることができたはずですもんね」
エリシアは小首をかしげた。
「で、どうしていまごろになって自分を責めているんですか?」
アラスターはすっと目を逸らしたが、思い直したようにエリシアを見つめた。
「……恥ずかしくなったんだ。爽やかで格好いい救世主気取りだった自分が」
そう言って、アラスターはふっと口元をほころばせた。
「エリシアの話し相手、庇護者、味方。最初は役を演じてた。でも、そのうち……何とも不思議な感覚が呼び覚まされた」
「ほう。それは一体、どのような?」
「ひと言で表現するのは難しいが……。頭が君のことでいっぱいになったんだ。僕は、これほどの装置を作り上げた自分を見上げた根性の持ち主だと思ってた。それが、見下げ果てた男だと思われてならなくなった」
アラスターはゆっくり息を吸い込んだ。
「甘い言葉と魅力を振りまいてさ、君の心を弄ぼうとしてたんだから」
「確かに、私がアラスター殿下を好きになってたりしたら酷い仕打ちと思ったでしょうけど。ドキドキしたりときめいたりはしなかったんで安心してください。殿下、自分で思っているほど魅力ないですよ。顔面力ではギャレット皇太子の方が上です」
「君は本当にずばずば言うよね! ていうか、何でギャレットの顔面力を知ってるんだよっ!」
「手紙に絵姿が同封してあったので」
「あの野郎」と溜め息をついて、アラスターは壁にもたれかかった。
「君みたいな女は初めてだよ。おかげで、自分がとんでもないうぬぼれ屋だったことに気付いたよ」
「まあ、私のようなのはそう簡単には恋に落ちないので。ご先祖様が残した『簡単に手に入れたものは、簡単に裏切る』っていう言葉のおかげで、まず疑ってかかる癖がついてるんで」
「その言葉、治療院でも聞いたな……」
アラスターが顔をしかめた。
「僕だって、恋についてはほとんどしらない。経験したことがないからさ。隙間時間は全部研究に費やしてたし。僕なら君を落とせるなんて、どうしてそんな甘い期待を抱いたんだろうな」
「まあ、王太子ならプライドも相当なものでしょうしねえ」
「君が木っ端みじんに打ち砕いてくれたけどね」
アラスターが鼻を鳴らし、それから力なくうなだれた。
「君がどんなに大きな存在になってたか、失う直前に思い知るなんて皮肉だな」
アラスターの目の下にはひどい隈ができている。打ちひしがれ、悲嘆に暮れているのがわかる。
「レアな付与魔法の持ち主を諦めちゃうんですか? 策を弄して、国のために働かせないんですか?」
「そりゃ僕だって、千載一遇のチャンスを投げ捨てたくはないよ。君がいたら、メンケレン帝国にだって勝てるかもしれない。でも、もう……もう、卑劣な自分には戻れない。戻りたくないんだ」
アラスターはエリシアの目を真っすぐに見つめた。
「君のデータは取ったからね、どうにかやっていくさ。時間をかけて研究したら、人工的に付与魔法の持ち主を作り出せるかもしれない。もちろん、人体実験は自分でやる」
自分に言い聞かせるように言って、アラスターは悲し気な笑みを浮かべた。
「エリシア。君を虐げ続けてきたこの国から自由になってくれ。君を失うことで、僕は先祖の罪の報いを受ける。君との日々は……なんていうか、僕の人生の中で最良の時間だったよ」
「なるほど、よくわかりました」
エリシアは治癒魔法によって大きくなった手で、アラスターの両肩を掴んだ。そして、ふうっと長い息を吐いた。
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