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第4章
3.復讐のすすめ
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「まるで違う人間になったような気分です……」
魔力がこんなに素晴らしいものだとは知らなかった。エリシアの言語能力を遥かに超えていて、とても説明できない。
ふと気が付くと、エリシアの体は虹色の輝きを放っていた。
アラスターがエリシアの右手を、自分の両手で包み込む。何かが二人の間で揺れ動いたのを感じた。
「ぐ……君の魔力が流れ込んでくる。こっちの魔力が高ぶって、体が痛いほどだ。頼むから少し抑えてくれ!」
「抑え方なんて知りませんよ!」
ついさっき魔力が目覚めたばかりの素人なのだ。怒涛のように込み上げる魔力を、押し戻す方法なんてわからない。
「頭の中で1から10まで数えろ!」
「はい!」
エリシアは言われるままに10まで数えた。最初は母語で、次に隣国の言葉で。理解できる5つの言葉すべてで数え終わったとき、エリシアの内側で荒れ狂っていた魔力が落ち着いた。
「シャレド、銀板の数値を報告してくれ」
「はい、殿下。まず水属性が……」
シャレドが報告を始めた。彼の声は少し上ずっている。
報告内容は、正直よくわからない。ただアラスターの手の温もりが心地よかった。なんだかほっとする。
「エリシア。君の未来は明るいよ」
報告を聞き終わって、アラスターが微笑んだ。
「規格外の魔力量だ。さっき僕は、君の魔力の波に乗って自分が高みに登っていくのを感じた。なんとも不思議な感覚だった」
「えーっと、それはつまり?」
「君には『他者の魔力を増強する能力』が備わっていると考えられる。属性関係なしに使える、夢のような力だよ。付与魔法、あるいは補助魔法とでも言おうか。世界中で君にしか使えない魔法だ。用途が広いことを考えれば、聖女と呼ばれても不思議はないくらいだ」
「なんだかよくわかりませんけど……すっきりした気分です」
百年前のアージェント家の人々が、魔力とは無縁と思われた中でも長期間闘い続けることができた理由。
余命宣告までされていた母や祖母が、結婚後に回復した理由。
シンクレア公爵家がエリシアを手元に置きたがった理由。
アラスターのおかげで、探し求めていた答えが見つかった。
(これが百年前にわかっていたら、領地の人々を救う手立てがあったはず。そのことを考えたら、やっぱり悲しい)
エリシアは目の奥がつんとなるのを感じた。
「エリシア。前代未聞の力を持った君は、これからは誰からも愛されて、大事にしてもらえる。メンケレン帝国の皇妃にだってなれる」
アラスターの言葉に、エリシアは驚いた。
「私、メンケレン帝国に行くつもりなんかありませんよ?」
「まあ、それはおいおい考えよう」
アラスターはエリシアを抱き上げ、笑いながらくるくると回った。
「まずは溜飲を下げておかないといけないからね」
アラスターに抱えあげられたまま、エリシアは小首をかしげた。彼の言葉の意味がさっぱりわからない。
「もっと早く真実がわかっていたら。アージェント家の人々の体質的な問題が解決していたら。死なずに済んだ人がたくさんいる」
「それはそうですが。でも付与魔法、あるいは補助魔法だけでは、どのみち危機的状況に陥ったのでは?」
「加勢があれば済んだことだ。アージェント家の人々は罪など犯していなかった。エリシアが国中から虐げられた、恐怖と孤独の日々の償いをさせなければ」
アラスターの顔にいびつな笑みが浮かぶ。
「君の人生を一変させた連中の子孫がいる。国民を助ける務めを放棄した者の子孫。すべてに目をつぶり、アージェント家の末裔が虐げられる現象を引き起こした輩の子孫。先祖が犯した罪の、当然の報いを受けるべき子孫」
「それは一体……誰ですか?」
ふたりはじっと見つめ合った。ほんの数秒が、何時間にも思えた。アラスターがゆっくりと口を開いた。
「僕だよ」
魔力がこんなに素晴らしいものだとは知らなかった。エリシアの言語能力を遥かに超えていて、とても説明できない。
ふと気が付くと、エリシアの体は虹色の輝きを放っていた。
アラスターがエリシアの右手を、自分の両手で包み込む。何かが二人の間で揺れ動いたのを感じた。
「ぐ……君の魔力が流れ込んでくる。こっちの魔力が高ぶって、体が痛いほどだ。頼むから少し抑えてくれ!」
「抑え方なんて知りませんよ!」
ついさっき魔力が目覚めたばかりの素人なのだ。怒涛のように込み上げる魔力を、押し戻す方法なんてわからない。
「頭の中で1から10まで数えろ!」
「はい!」
エリシアは言われるままに10まで数えた。最初は母語で、次に隣国の言葉で。理解できる5つの言葉すべてで数え終わったとき、エリシアの内側で荒れ狂っていた魔力が落ち着いた。
「シャレド、銀板の数値を報告してくれ」
「はい、殿下。まず水属性が……」
シャレドが報告を始めた。彼の声は少し上ずっている。
報告内容は、正直よくわからない。ただアラスターの手の温もりが心地よかった。なんだかほっとする。
「エリシア。君の未来は明るいよ」
報告を聞き終わって、アラスターが微笑んだ。
「規格外の魔力量だ。さっき僕は、君の魔力の波に乗って自分が高みに登っていくのを感じた。なんとも不思議な感覚だった」
「えーっと、それはつまり?」
「君には『他者の魔力を増強する能力』が備わっていると考えられる。属性関係なしに使える、夢のような力だよ。付与魔法、あるいは補助魔法とでも言おうか。世界中で君にしか使えない魔法だ。用途が広いことを考えれば、聖女と呼ばれても不思議はないくらいだ」
「なんだかよくわかりませんけど……すっきりした気分です」
百年前のアージェント家の人々が、魔力とは無縁と思われた中でも長期間闘い続けることができた理由。
余命宣告までされていた母や祖母が、結婚後に回復した理由。
シンクレア公爵家がエリシアを手元に置きたがった理由。
アラスターのおかげで、探し求めていた答えが見つかった。
(これが百年前にわかっていたら、領地の人々を救う手立てがあったはず。そのことを考えたら、やっぱり悲しい)
エリシアは目の奥がつんとなるのを感じた。
「エリシア。前代未聞の力を持った君は、これからは誰からも愛されて、大事にしてもらえる。メンケレン帝国の皇妃にだってなれる」
アラスターの言葉に、エリシアは驚いた。
「私、メンケレン帝国に行くつもりなんかありませんよ?」
「まあ、それはおいおい考えよう」
アラスターはエリシアを抱き上げ、笑いながらくるくると回った。
「まずは溜飲を下げておかないといけないからね」
アラスターに抱えあげられたまま、エリシアは小首をかしげた。彼の言葉の意味がさっぱりわからない。
「もっと早く真実がわかっていたら。アージェント家の人々の体質的な問題が解決していたら。死なずに済んだ人がたくさんいる」
「それはそうですが。でも付与魔法、あるいは補助魔法だけでは、どのみち危機的状況に陥ったのでは?」
「加勢があれば済んだことだ。アージェント家の人々は罪など犯していなかった。エリシアが国中から虐げられた、恐怖と孤独の日々の償いをさせなければ」
アラスターの顔にいびつな笑みが浮かぶ。
「君の人生を一変させた連中の子孫がいる。国民を助ける務めを放棄した者の子孫。すべてに目をつぶり、アージェント家の末裔が虐げられる現象を引き起こした輩の子孫。先祖が犯した罪の、当然の報いを受けるべき子孫」
「それは一体……誰ですか?」
ふたりはじっと見つめ合った。ほんの数秒が、何時間にも思えた。アラスターがゆっくりと口を開いた。
「僕だよ」
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