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episode.11 少しずつ縮まる距離
しおりを挟むカヤック前方の水面を大きく揺らして、すらりとした白い体躯が飛沫を散らして飛び出してきた。
宙を切りながら放物線を描き、真横に波紋を残し水中へ消える。
私はすぐ傍で起きた波のせいでカヤックが転覆しそうになるのを必死に抑えた。
しかしその努力も虚しくイルカショーのようなジャンプは続く。あっちへこっちへ飛び跳ねる彼女に私は怒鳴るように大声をあげた。
「ちょっとぉ! 落ちるから! やめてってばー! ミーベーロー!」
ちゃぷちゃぷと音を立てる波間に羊のフードがひょっこり現れる。そこには茶目っ気たっぷりに笑う顔があった。
「ミベロってば! もう!」
私の大声など痛くも痒くもないのか、彼女は悪戯が成功したとばかりに嬉しそうだ。
そんな顔に一泡吹かせたくなった私はパドルの片方を水中に潜らせ、大きく振り上げた。
ミベロの顔面にパドル一掬い分の海水が降りかかる。
彼女は一瞬驚いた顔を見せたが、それはすぐにいたずらっ子の笑顔に戻る。
ミベロはまた水面下に潜ると華麗なドルフィンキックで私の乗るカヤックを揺らした。
「ひゃー! 揺れるー!」
転覆しそうでしない、程よいスリリングな状況を私はいつの間にか楽しんでいた。
揺れが収まる頃、カヤック先頭にひょっこり顔を出したミベロはじっとこちらの顔色を伺っていた。
「ナオ、元気、出タ?」
私を気遣う言葉に心が温かくなり、さっきまでの不安や怒りも忘れて自然に笑みが零れた。
今度はきちんとミベロの目を見て応える。
「うん……ありがとう」
「良カッタ」
ミベロは安心したように無邪気に笑う。ミベロの優しさに、私も安心感を抱いた。
「先、進ム?」
「うん、そうしよう」
こうして私達は再び海上の歩みを進め始めた。
真横で泳ぐ彼女は時々こちらに視線を向けて、私の様子を気にしてくれている。そんな優しさもなんだか嬉しかった。
そういえば、ミベロのお父さんはどうしていないんだろう?
そんな疑問がふと頭を掠めたが、自分も詳細を話せない現状で根掘り葉掘り聞くのはなんか違うかな、と思い何も聞かないままにした。
何より今は少し距離が縮まったこの空気感を壊したくなかった。
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