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第3章:鉱山都市ラグリア

第33話:激闘

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 傭兵たちが襲い来る。なるほど、たしかに。兵の質は以前戦ったゴルドニアースの部隊やさっき戦ったラングの私兵たちより上だろう。

 それでも幻想具を持たない雑兵に過ぎない。幻想具を持ったナハトたちの敵ではなく次々と倒されていく、と。

 傭兵の一人を斬り捨てた後、もう一人の傭兵に斬り掛かったナハトは自分の聖桜剣が受け止められたことに衝撃を受けた。

 聖桜剣は想力を纏わせて振るっている。普通の武器で受け止めるのは不可能だ。ならば、相手は――。



「今度は雑魚ばかりじゃないわよ。幻想具持ちも何人かいるわ」



 ナハトの推測を裏付けるように戦況を眺めているメリクリウスが楽しげに言う。

 今、ナハトの剣を受け止めている相手の剣は、やはり、幻想具……! チラ、と周りを見渡せばナハトの仲間たちも皆、幻想具持ちと当たり、互角の戦いを演じているようだった。

 ナハトの聖桜剣と傭兵の剣がつばぜり合い、ギリギリ、と金属と金属のこすれる音が響く。一旦、聖桜剣を引いたナハトは再び剣を振るった。

 相手が幻想具持ちだと分かっているのなら、分かっているなりの戦い方というものがある。相手が幻想具持ちだというのなら加減などいらない。

 ありったけの想力を込めて勢い良く聖桜剣を振るい、その剣撃で相手を圧倒する……! 暴風のようなナハトの剣の連撃に幻想具を持った傭兵は圧倒されたようだった。

 幻想具の剣を持っているというのに防戦一方になっていく。

 舐めるな、とナハトは思う。同じ幻想具でもこっちは伝説の聖剣・聖桜剣キルシェだ。並の幻想具で太刀打ちできるなどと思うなよ……! それから数合、打ち合い、聖桜剣が相手の幻想具の剣を跳ね飛ばす。その隙を逃さず聖桜剣を振るい、傭兵を袈裟懸けに斬り付ける。

 できるだけ人間を殺したくはない。しかし、相手が死んでしまってもやむ無しの状況だとナハトは判断していた。相手が幻想具持ちともなれば、手加減をしている余裕など全くないのだ。

 死ぬなよ、とナハトは思いながら、倒れ伏す傭兵の姿を見た。

 幻想具持ちの傭兵一人を倒し、ナハトは後ろにいるドラセナの方に視線を移した。今のところ誰もドラセナに手は出せていない。

 ナハトの仲間たちも幻想具持ちに苦戦しながらも、敗れるということはないようだった。

 ドラセナを守るようにナハトは後ろに下がり、襲い掛かってきた幻想具を持っていない二人の傭兵を鎧袖一触に斬り捨てた。「ナハト……!」とドラセナの不安げな声が響く。「大丈夫だ」とナハトは答えた。



「こんなヤツら敵じゃない。すぐに蹴散らしてドラセナを守ってやる!」



 次に襲い掛かってきた相手は幻想具の槍を持った相手だった。普通の槍兵とは比較にならない勢いの突きを連続して放たれ、なんとかこれを聖桜剣で弾き返す。

 ナハトが持っているのが幻想具でなければ剣を吹き飛ばされていたであろう。

 聖桜剣で反撃を放つも、槍の柄の部分で見事に受け止められる。なかなかの相手だ。

 だが、ゆっくりまったりと相手をしている暇はナハトにはないのも事実。

 ナハトは聖桜剣の想力を解放した。聖桜剣の薄紅色の刀身が黄金の輝きに包まれて、黄金の光刃となる。

 こうなればもはや普通の幻想具ですら敵ではない。ナハトは黄金の剣筋を振るい、相手を圧倒するとその体に光刃を突き立て、幻想具の槍を持った相手は地面に倒れ伏す。

 次の相手は……。休む余裕もなくナハトに傭兵たちが襲い来る。ナハトは黄金の聖桜剣を振るい続けた。







 イーニッドの拳が大盾に受け止められる。並の盾くらいなら真っ向から粉砕する自信のあるイーニッドだが、今戦っている相手の持っている盾は普通の盾ではないようだった。

 幻想具の、盾。

 そうに違いなかった。

 イーニッドがガントレットで連続して攻撃を放つもその全てを盾の幻想具を持った相手は受け止めきる。

 だが、イーニッドはそのことに苛立ちはしなかった。

 それくらいやってくれなければ相手にしていて意味はない。戦い甲斐のある相手だ、とイーニッドはピンチの状況にも関わらず、喜んでいた。



「お前、やるな。わたしの攻撃を全て受け止めるとは!」



 言いつつ、イーニッドは連続して拳を放つ。幻想具の大盾持ちは防御だけに徹している訳ではなかった。

 盾の幻想具からの想力で強化した肉体から片手剣の一撃を繰り出してくる。それをイーニッドはガントレットで弾き返す。

 そうだ、とイーニッドは思う。高揚する自分の感情を自覚する。これくらいの相手でなければ戦う意味はない。雑魚を蹴散らすだけでは何の修行にもなりはしない。

 イシュプリンガーの一族の血が目覚めたのか。イーニッドは一旦、ドラセナを守るという目的も忘れて戦いに熱中した。



「わたしも全力で行くぞ! これを受け止めきれるかぁ!」



 イーニッドは飛び上がり、幻想具のガントレットの想力を解放する。

 巨大な青い拳のオーラがガントレットを纏い、それが大盾持ちの傭兵に振り下ろされる。

 通常の攻撃なら受け止められる大盾もこれは受け切れなかった。

 大盾持ちの傭兵は大盾を持ったまま思いっきりぶん殴られ、体を後方にふっ飛ばされ、壁に激突した。







 グレースの風刃矛ヴェントハルバードの渾身の突きを幻想具の剣を持っているらしい相手は見事にさばいてみせた。

 普通の剣を持っている相手なら剣ごと弾き飛ばしていたはずの一撃。今回の相手は雑魚ばかりではないことを悟る。

 グレースはイヴをかばいながら戦っていた。イヴも幻想具を持ってはいるが、治癒杖キュアは戦闘には向かない幻想具だ。

 それ故に、幻想具を持たない相手や並の想獣相手ならともかく、相手が戦闘用の幻想具を持っているとなれば遅れを取ってしまうのも無理はない話だと言えた。

 ハルバードの連続突きを敵は全て受け止めきる。ち、とグレースは舌打ちする。

 グレースには強い相手と戦えて嬉しいというようなイーニッドのような感情はない。

 自分の攻撃が防がれることにただただ苛立ちを覚えるだけだ。

 ドラセナ様を守らなければならない。そのためにもこんなところで苦戦している暇などない。

 グレースはヴェントハルバードの想力を解放する。ヴェントハルバートから放たれる不可視の風の刃が相手に襲い掛かる。

 相手は幻想具の剣を持っている。それをある程度は使いこなしているし、想力による身体能力の強化も行っている。

 しかしながら、不可視の刃を全て見切るナハトの聖桜剣程の力はなかった。

 不可視の風刃が傭兵の肉体の各所を斬り裂き、傭兵は悲鳴を上げる。

 その隙を逃さず、ハルバードを直接、傭兵に叩き込む。

 不可視の風刃に翻弄されていた傭兵はその攻撃に対応することができずハルバードの一撃を喰らい、地面にひれ伏すことになった。







「相手が幻想具持ちだからって、この天才剣士アイネアス様の敵じゃないんだから!」



 アイネは自分を鼓舞するようにそう言うと氷雪剣ネーヴェを振るう。

 天才を自称するだけのことはある華麗なる剣筋を幻想具の槍を持っている傭兵は全て弾き返してみせた。

 そのことにアイネは苛立ちを覚える。自分は天才だ。いかに相手が幻想具持ちといえど、遅れを取るはずがない。そんなことを思っていると傭兵の幻想具の槍が通常の槍の一撃を遥かに凌駕した鋭い突きを繰り出してきて、危うく、体を串刺しにされそうになった。

 なんとか氷雪剣で槍の軌跡をズラし、突きを躱す。「やってくれたわね!」とアイネは怒りの声を発し、氷雪剣の想力を解放する。

 相手は想力の解放を感じ取ったのか、一旦、後ろに下がる。剣のリーチから外れる行為。普通ならばそれは正解だ。だが、氷雪剣の力の前では悪手でしかない。

 アイネは氷雪剣を振るった。勿論、相手は剣のリーチの外、氷雪剣は何も斬りはしない。

 しかし、その刀身から放たれる氷雪の波動は真っ直ぐに相手の傭兵に向かって飛んでいく。

 氷雪の波動を全身でまともに浴びることになった傭兵は悲鳴を上げる。

 アイネは接近する。それを阻もうと槍を繰り出す余裕は傭兵にはなかった。体中の至る所を氷漬けにされた傭兵はそれでもなお、槍を振るいアイネと戦おうとしたが、そんな状態でアイネの相手が務まる訳がなかった。



「ま、天才のアタシとここまで戦えたんだから、誇りに思って散りなさい」



 アイネはその言葉と共に再び氷雪の波動を放つ。それを全身で受けた傭兵は音もなく崩れ落ちるのであった。







 そんな戦況を幼い外見の少女、メリクリウスは観察していた。

 ドラセナ・エリアスを護衛する桜の勇者御一行と幻想具持ちも多数いる鳴り物入りのゴルドニアース傭兵団の精鋭部隊。

 その戦いは相手の優位に進んでいるようだ。幻想具を持っていない傭兵は勿論のこと、幻想具を持っている傭兵でさえも敵の幻想具の攻撃を止められずに倒れている。

 特に黄金に輝く光刃を持つ桜の勇者の力は圧倒的だった。三人目の幻想具持ちの傭兵をその光刃で斬り捨てたのを見て、メリクリウスは呟く。



「なるほどね。あれが桜の勇者ね。ふふっ、思っていた以上に素敵な殿方じゃない」



 自分たちの陣営が不利になっているというのにメリクリウスは余裕の表情を崩さず笑う。

 しかし、幻想具持ちの傭兵も次々に倒されている。こうなれば自分が戦うしかないか、と思い、メリクリウスは桜の勇者――ナハトの前までゆっくりと歩いて行く。

 ナハトの瞳がメリクリウスを見る。その後ろにはドラセナが怯えた表情で控えている。



「桜の勇者、今晩は特別サービスよ。このわたしが直々に相手をしてあげる」



 メリクリウスが笑みを浮かべてそう言うと、ナハトは黄金に輝く聖桜剣をさらに強く握りしめ、構えるのだった。



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