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第四章 新製品の開発と絆
進路
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それから、私と両親の関係も改善され、今では私も本邸へ移り住み、父と義母と、それからお腹の中の弟か妹と四人で過ごすことも増えた。
時々そこにお休みをもらって帰省したソフィアお姉様も加わり、家族団欒の幸せな時を過ごしている。
前世から望み続け、叶うことはないと諦めていた光景がここに実現していた。
そして何も苦労することなく学園に通い、もうすぐ卒業を迎える。卒業後の進路は既に心に決めている。
――もちろん天職であるビューティーアドバイザーとして就職すること!
家族との関係改善が見込めないならさっさとどこかの家に妻として引き取ってもらう道を模索するつもりだったけれど、その必要もなくなってしまった。
それに、両親も「急いで結婚する必要もなければ、家のために結婚する必要もない」と断言してくれた。さらに「今まで苦労させてしまった分、好きに生きていい」との言質をとっている。
これまでも好きに生きてきたけれど、そう言ってもらえるなら素直にお言葉に甘えるまでだ。
それに、最近ずっと考えていることがあるのだ――。
✳︎✳︎✳︎
「いらっしゃいませ!」
「今日も来てしまいました! 昨日教えていただいたファンデーションのつけ方なのですが、もし殿下がご面倒でなければ、もう一度……」
「喜んで! ではこちらにおかけくださいなー!」
「ありがとうございます……!」
ここ、ヴィタリーサには私の他にもう一人ビューティーアドバイザーが増えた。皆さまお察しの通り、王女殿下のラヴィーちゃんである。
私がメイク技術を教えたあと、それをネタに王宮の侍女たちに話しかけまくっていたそうなのだが、そのおかげでみるみるうちに上達してしまったそうだ。
コミュニケーションをとることが目的だったけれど、話ついでにみんなで研鑽し合って高め合えたとのこと。さすが王宮で働くだけあって、みんな向上心が高いのだなぁと感心した。
ラヴィーちゃんには、お陰で王宮の使用人たちとは仲良くなれたし、メイク技術も格段に上達したし、一石二鳥だったと大変感謝された。
ラヴィーちゃんは今まで引きこもっていたとは思えないほどのコミュ力の高さを見せているし、メイク技術は一朝一夕で身につくものでもない。
私はきっかけを与えたにすぎず、それを元に自分で考え、行動を起こしたことが素晴らしいことなのだと私は思う。
コミュ力に関しては元々ポテンシャルが高かったのだろうし、メイク技術に関してもそうだ。
刺繍が得意だったと聞くし、何をするにも器用な人は存在する。さすがエミリオ様の妹だと感心した。
――さてと。そのエミリオ様を探さないと……。
結局、貴族との交流目的でラヴィーちゃんがヴィタリーサに顔を出すようになって、必然的にエミリオ様の正体は知れ渡ることになった。
――幼いラヴィーちゃんが出入りするのに、身分的にも保護者となれる人がいないと危ないもんね。それで、完成したのがこの状況ね……。
エミリオ様は今日も独身の貴族令嬢たちに囲まれてちやほやされていた。
ヴィタリーサの化粧品は全てエミリオ様が開発したこと、店の運営で莫大な利益をあげていることが周知され、今まで隠していた彼の有能さが露呈してしまった形だ。
――エミリオ様のすごさは、私だけが知っていたのになぁ……。
実際は彼の家族である王族もみんな知っていたけれど、いつまでも「家族以外で知っているのは私だけ」という優越感に浸っていたかったのだ。短い夢だった。
「あーあ、私だけのエミリオ様じゃなくなっちゃったなぁ」
私は胸のうちに溜まっていくモヤモヤをどう発散していいのか分からず、途方に暮れていた。
「大丈夫ですわよ。私がいますわ」
「私も……いるわよ」
私の独り言に答えてくれたのは、イザベラ様とアンブローズ公爵令嬢だった。
「イザベラ様~! あ、アンブローズ公爵令嬢も! お会いしたかったです~!」
そう言って私は久しぶりに会うイザベラ様たちに抱きついた。
「私も会いたかったから、来ちゃった」
「私のことはマーガレットと呼びなさいと言ったはずです。もう……何度言ったらわかるのかしら」
――イザベラ様が美しかわいい……! マーガレット様のツンデレかわいい……!
私が二人の美女に抱きついて癒されていると、モヤモヤの元があちらからやってきた。
「仕事中になにしてるんだ」
「お得意様と話していただけです。店長だって……」
「僕はちゃんと仕事していただろう」
「仕事? 美しいご令嬢方に囲まれるのがお仕事なんですか?」
少し棘のある言葉が思わず出てしまった。
不貞腐れたような物言いになってしまったことも自覚する。
――ああ、こんなこと言いたかったわけじゃないのに……。
私が自分の発言を省みて後悔に苛まれていると、エミリオ様の小さくて大きな呟きが耳に飛び込んできた。
「アイリーン……僕は期待していいのか?」
「…………っ」
最近こうしてよく真剣な表情で尋ねられる。
私はその度にドキドキしてしまって何も言えなくなってしまうのだ。
だんだんわかってきてはいるのだ。私がエミリオ様に対して抱く気持ちについても。でも――。
「ふふふ。青春ですわね」
「はぁ……。私たち、何を見せられているのよ……」
イザベラ様とマーガレット様がそう言って笑ったり呆れたりしているのも、私の目には入っていなかった。
時々そこにお休みをもらって帰省したソフィアお姉様も加わり、家族団欒の幸せな時を過ごしている。
前世から望み続け、叶うことはないと諦めていた光景がここに実現していた。
そして何も苦労することなく学園に通い、もうすぐ卒業を迎える。卒業後の進路は既に心に決めている。
――もちろん天職であるビューティーアドバイザーとして就職すること!
家族との関係改善が見込めないならさっさとどこかの家に妻として引き取ってもらう道を模索するつもりだったけれど、その必要もなくなってしまった。
それに、両親も「急いで結婚する必要もなければ、家のために結婚する必要もない」と断言してくれた。さらに「今まで苦労させてしまった分、好きに生きていい」との言質をとっている。
これまでも好きに生きてきたけれど、そう言ってもらえるなら素直にお言葉に甘えるまでだ。
それに、最近ずっと考えていることがあるのだ――。
✳︎✳︎✳︎
「いらっしゃいませ!」
「今日も来てしまいました! 昨日教えていただいたファンデーションのつけ方なのですが、もし殿下がご面倒でなければ、もう一度……」
「喜んで! ではこちらにおかけくださいなー!」
「ありがとうございます……!」
ここ、ヴィタリーサには私の他にもう一人ビューティーアドバイザーが増えた。皆さまお察しの通り、王女殿下のラヴィーちゃんである。
私がメイク技術を教えたあと、それをネタに王宮の侍女たちに話しかけまくっていたそうなのだが、そのおかげでみるみるうちに上達してしまったそうだ。
コミュニケーションをとることが目的だったけれど、話ついでにみんなで研鑽し合って高め合えたとのこと。さすが王宮で働くだけあって、みんな向上心が高いのだなぁと感心した。
ラヴィーちゃんには、お陰で王宮の使用人たちとは仲良くなれたし、メイク技術も格段に上達したし、一石二鳥だったと大変感謝された。
ラヴィーちゃんは今まで引きこもっていたとは思えないほどのコミュ力の高さを見せているし、メイク技術は一朝一夕で身につくものでもない。
私はきっかけを与えたにすぎず、それを元に自分で考え、行動を起こしたことが素晴らしいことなのだと私は思う。
コミュ力に関しては元々ポテンシャルが高かったのだろうし、メイク技術に関してもそうだ。
刺繍が得意だったと聞くし、何をするにも器用な人は存在する。さすがエミリオ様の妹だと感心した。
――さてと。そのエミリオ様を探さないと……。
結局、貴族との交流目的でラヴィーちゃんがヴィタリーサに顔を出すようになって、必然的にエミリオ様の正体は知れ渡ることになった。
――幼いラヴィーちゃんが出入りするのに、身分的にも保護者となれる人がいないと危ないもんね。それで、完成したのがこの状況ね……。
エミリオ様は今日も独身の貴族令嬢たちに囲まれてちやほやされていた。
ヴィタリーサの化粧品は全てエミリオ様が開発したこと、店の運営で莫大な利益をあげていることが周知され、今まで隠していた彼の有能さが露呈してしまった形だ。
――エミリオ様のすごさは、私だけが知っていたのになぁ……。
実際は彼の家族である王族もみんな知っていたけれど、いつまでも「家族以外で知っているのは私だけ」という優越感に浸っていたかったのだ。短い夢だった。
「あーあ、私だけのエミリオ様じゃなくなっちゃったなぁ」
私は胸のうちに溜まっていくモヤモヤをどう発散していいのか分からず、途方に暮れていた。
「大丈夫ですわよ。私がいますわ」
「私も……いるわよ」
私の独り言に答えてくれたのは、イザベラ様とアンブローズ公爵令嬢だった。
「イザベラ様~! あ、アンブローズ公爵令嬢も! お会いしたかったです~!」
そう言って私は久しぶりに会うイザベラ様たちに抱きついた。
「私も会いたかったから、来ちゃった」
「私のことはマーガレットと呼びなさいと言ったはずです。もう……何度言ったらわかるのかしら」
――イザベラ様が美しかわいい……! マーガレット様のツンデレかわいい……!
私が二人の美女に抱きついて癒されていると、モヤモヤの元があちらからやってきた。
「仕事中になにしてるんだ」
「お得意様と話していただけです。店長だって……」
「僕はちゃんと仕事していただろう」
「仕事? 美しいご令嬢方に囲まれるのがお仕事なんですか?」
少し棘のある言葉が思わず出てしまった。
不貞腐れたような物言いになってしまったことも自覚する。
――ああ、こんなこと言いたかったわけじゃないのに……。
私が自分の発言を省みて後悔に苛まれていると、エミリオ様の小さくて大きな呟きが耳に飛び込んできた。
「アイリーン……僕は期待していいのか?」
「…………っ」
最近こうしてよく真剣な表情で尋ねられる。
私はその度にドキドキしてしまって何も言えなくなってしまうのだ。
だんだんわかってきてはいるのだ。私がエミリオ様に対して抱く気持ちについても。でも――。
「ふふふ。青春ですわね」
「はぁ……。私たち、何を見せられているのよ……」
イザベラ様とマーガレット様がそう言って笑ったり呆れたりしているのも、私の目には入っていなかった。
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