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第三章 奇跡の融合とトラブル
トラブル
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また一週間たって私がビューティーアドバイザーとして働ける日がやってきた。こうして店頭に立てるだけで力が漲漲ってくる。やはりこの職が私の天職に違いないのだと再認識していると、店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
「ごきげんよう……」
「ごきげんようサリー様。先日はご来店ありがとうございました。本日はどういったご用件で……?」
この方はつい先週来店されたマーガレット・アンブローズ公爵令嬢付きの侍女サリー様。アンブローズ公爵令嬢は、少しわがままで有名なお嬢様……らしい。
ちなみに、貴族の情報を私に叩き込んでくれたのはエリー様だ。貴族相手の商売になるからと、この国の貴族名鑑を手渡され、暗記するよう迫られたのはヴィタリーサ開店前の苦い記憶である。
「実は……あの、問題が起きてしまって……」
――え、問題?
内容が内容なだけに、内心ドキドキしながら続きを促す。
「どうなさいました?」
「お嬢様のお肌が荒れてしまいまして……」
サリー様は罰が悪そうな表情で、私の目から視線を逸らしながらそう言った。
「それは……! どのように荒れてしまったのでしょうか? 今もその症状が続いている状態ですか?」
以前調べたところ、今のところこの世界には皮膚科という概念は存在しなかった。
むしろ、そこで思い出した前世の記憶によると、肌に現れる不調があまりにもひどいと、たとえ病が原因のものであっても宗教的に「穢れ」の対象とされ、差別を受ける可能性すらあるらしいのだ。
この世界でもそういう考え方が存在しているのかは定かではないが、それほど悪い状況でないといいけれど――と、心配しつつ今の状態を訪ねる。
病気が原因の肌荒れでなくとも、私が化粧品を使っていて初めて肌がかぶれてしまった日は、どうしたらいいのかわからないのに加え、炎症を起こして真っ赤になってしまった肌が元に戻るのかとても不安で怖かったものだ。
「いいえ、もうお医者様に診ていただき、すでに症状は治っております」
とりあえず、お嬢様の体調も皮膚も問題なく、元通りになったと確認できて安堵の息を吐く。
――ただ、皮膚疾患を伴う病気を患ったわけでもないのなら――。
サリー様がこの店を訪れた理由が容易に想像できた。
「それはよかったです。……変化があったのは化粧品を使用した箇所だけでしょうか?」
「はい。他の部分には変化はありません。お嬢様は、『ファンデーションを塗布した途端、異変を感じた』とおっしゃっていまして……」
「……それは、どちらのお店の商品を使用されたのでしょうか?」
答えはわかっているが、確認のために質問した。ヴィタリーサを訪れたということはうちの商品を使って起きたトラブルだと言いたいのだろうけれど、そもそもアンブローズ公爵家にうちの商品は売っていない。
前回サリー様が来られたときにもお断りしたはずだ。そして「申し訳ないが本人に直接足を運んでていただき、パッチテストをしてからでないと売れない」ことを丁寧に伝えたはずだ。
こういうことが起こることは想定外というわけではなかったが、実際に起こってみるととても気持ちが落ち込んだ。
「……使用したのは『ヴィタリーサ』の商品です。こちらを訪れる時間がなかったので、知り合いの令嬢から譲っていただいたのです」
きちんとこの店で買ったものを使用してトラブルが起きることはありえないことだ。
けれど、お客様にそういう行動を起こさせたのは私だ。私の接客に問題があったのだ。そのせいで製品を貶められることになってしまった。その事実は真摯に受け止め、反省しなければならない。
「それは、当社の製品が原因でご迷惑をおかけしまして大変申し訳ありません。お嬢様がご使用になった当社の製品を確認するとともに、もし差し支えがなければ直接お詫びに伺いたいのですが、アンブローズ公爵令嬢にお取り次ぎいただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。お嬢様にはすぐにでもお迎えするようにと申し付けられてきましたので、よろしければこのままご案内いたします」
私たちは一路、アンブローズ公爵邸までマーガレットお嬢様に会いに行くことになった。
ーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます!
今回、少し短めですみません。
その分次回が少し長めなのでご容赦ください。
よろしくお願いいたします。
「いらっしゃいませ」
「ごきげんよう……」
「ごきげんようサリー様。先日はご来店ありがとうございました。本日はどういったご用件で……?」
この方はつい先週来店されたマーガレット・アンブローズ公爵令嬢付きの侍女サリー様。アンブローズ公爵令嬢は、少しわがままで有名なお嬢様……らしい。
ちなみに、貴族の情報を私に叩き込んでくれたのはエリー様だ。貴族相手の商売になるからと、この国の貴族名鑑を手渡され、暗記するよう迫られたのはヴィタリーサ開店前の苦い記憶である。
「実は……あの、問題が起きてしまって……」
――え、問題?
内容が内容なだけに、内心ドキドキしながら続きを促す。
「どうなさいました?」
「お嬢様のお肌が荒れてしまいまして……」
サリー様は罰が悪そうな表情で、私の目から視線を逸らしながらそう言った。
「それは……! どのように荒れてしまったのでしょうか? 今もその症状が続いている状態ですか?」
以前調べたところ、今のところこの世界には皮膚科という概念は存在しなかった。
むしろ、そこで思い出した前世の記憶によると、肌に現れる不調があまりにもひどいと、たとえ病が原因のものであっても宗教的に「穢れ」の対象とされ、差別を受ける可能性すらあるらしいのだ。
この世界でもそういう考え方が存在しているのかは定かではないが、それほど悪い状況でないといいけれど――と、心配しつつ今の状態を訪ねる。
病気が原因の肌荒れでなくとも、私が化粧品を使っていて初めて肌がかぶれてしまった日は、どうしたらいいのかわからないのに加え、炎症を起こして真っ赤になってしまった肌が元に戻るのかとても不安で怖かったものだ。
「いいえ、もうお医者様に診ていただき、すでに症状は治っております」
とりあえず、お嬢様の体調も皮膚も問題なく、元通りになったと確認できて安堵の息を吐く。
――ただ、皮膚疾患を伴う病気を患ったわけでもないのなら――。
サリー様がこの店を訪れた理由が容易に想像できた。
「それはよかったです。……変化があったのは化粧品を使用した箇所だけでしょうか?」
「はい。他の部分には変化はありません。お嬢様は、『ファンデーションを塗布した途端、異変を感じた』とおっしゃっていまして……」
「……それは、どちらのお店の商品を使用されたのでしょうか?」
答えはわかっているが、確認のために質問した。ヴィタリーサを訪れたということはうちの商品を使って起きたトラブルだと言いたいのだろうけれど、そもそもアンブローズ公爵家にうちの商品は売っていない。
前回サリー様が来られたときにもお断りしたはずだ。そして「申し訳ないが本人に直接足を運んでていただき、パッチテストをしてからでないと売れない」ことを丁寧に伝えたはずだ。
こういうことが起こることは想定外というわけではなかったが、実際に起こってみるととても気持ちが落ち込んだ。
「……使用したのは『ヴィタリーサ』の商品です。こちらを訪れる時間がなかったので、知り合いの令嬢から譲っていただいたのです」
きちんとこの店で買ったものを使用してトラブルが起きることはありえないことだ。
けれど、お客様にそういう行動を起こさせたのは私だ。私の接客に問題があったのだ。そのせいで製品を貶められることになってしまった。その事実は真摯に受け止め、反省しなければならない。
「それは、当社の製品が原因でご迷惑をおかけしまして大変申し訳ありません。お嬢様がご使用になった当社の製品を確認するとともに、もし差し支えがなければ直接お詫びに伺いたいのですが、アンブローズ公爵令嬢にお取り次ぎいただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。お嬢様にはすぐにでもお迎えするようにと申し付けられてきましたので、よろしければこのままご案内いたします」
私たちは一路、アンブローズ公爵邸までマーガレットお嬢様に会いに行くことになった。
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お読みいただきありがとうございます!
今回、少し短めですみません。
その分次回が少し長めなのでご容赦ください。
よろしくお願いいたします。
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