上 下
4 / 8

デート?

しおりを挟む

姐御あねご……いえ、お嬢様。それは紛れもなく『デート』っす」
「っす」
「うす……涙」
 
 舞踏会の日、専属護衛は会場内への付き添いを禁じられていたため、外で馬車と共にヴァレンティーナの帰りを待っていた護衛トリオは、愛するお嬢様が男性にエスコートされて戻ってくるのを見て呆然とした。

 男に寄り添うヴァレンティーナは頬を染めて幸せそうに笑っていたのだ。
 
 顔が怖い三人組は、その生まれつきの威圧感を遠慮なく発揮して威嚇いかくしようとしたが、顔が良すぎる男に鋭く見つめられてひるんだ。

 その一瞬の隙をついたレオは慣れた手つきでヴァレンティーナを馬車に乗せ、最後に「手紙を書くよ」と言葉を残して甘く微笑んだあとに扉を閉め、護衛トリオに向き合った。

「レオ・アダムと申します。デクスター侯爵宛にヴァレンティーナ嬢と共に外出することを許可いただけるよう手紙をしたためますので、よろしくお願いいたします」

 そう言って頭を下げた。
 完璧な対応だった。

 その日に護衛トリオは悟った。「やっとヴァレンティーナお嬢様にも白馬に乗った王子様がやって来たのだ」と。

 只者ただものではないオーラを感じたし、ヴァレンティーナを悪女として貶めている様子は微塵もなかった。
 むしろ優しく丁寧に、まるで恋人をエスコートしているかのように大切に触れているように見受けられた。

 ヴァレンティーナも満更ではない様子だった。これは良縁に違いない。
 護衛トリオはレオ・アダムなる人物を応援することにした。大切なお嬢様の幸せを願って――。

 レオからの手紙はそのあとすぐに父親デクスター侯爵の元へと届けられ、レオの願いは聞き入れられた。

 ヴァレンティーナの父は「おもしろい男に見染められたなぁ。さすが私の可愛いヴァレンティーナだな」なんて親バカ発言をしていた。ひとりごとだったが。

 
 そして、その旨を護衛トリオがヴァレンティーナへと伝えていたわけだがーー。

「デ、デートですの!? ただの会話の練習では? レオ様はそうおっしゃっていましたわ……」

 護衛トリオが大事に守り育てて来たので、ヴァレンティーナは驚くほど純粋で初心うぶだ。
 ヴァレンティーナの父親から許可は出ているから素性も問題ないだろうし、あの舞踏会の日の誠実な様子を鑑みるに安心して大丈夫だろうと判断を下した。

 ただ、大切なあまり過保護になっていたかもしれないことは否定できない護衛トリオは、最後のその責任を果たそうとしていた。
 
「いいえ、お嬢様。言葉には『本音と建前』というものがあるとお教えしましたよね?」
「ええ。習ったわ。舞踏会の日もそれで助かっちゃったもの」
「それはよかったです。では、それを恋愛にも当てはめてください」
「恋愛? うーん、よくわからないわ……」
「大丈夫。レオ様が教えてくれます。ただ、『駆け引き』という名の『本音と建前』が存在しますので、しっかりと本音を見極めてくださいね」
「駆け引き……」
「そう。今日はレオ様が『会話の練習』にかこつけて『デートの約束』を取り付けたという構図です」
「ええ……」
「お嬢様、がんばって……」
「待って。私、婚約者がいる身なのに、他の男性とデートだなんて……常識的にありえなくないかしら?」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

悪役令嬢に転生したので、人生楽しみます。

下菊みこと
恋愛
病弱だった主人公が健康な悪役令嬢に転生したお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約解消と婚約破棄から始まって~義兄候補が婚約者に?!~

琴葉悠
恋愛
 ディラック伯爵家の令嬢アイリーンは、ある日父から婚約が相手の不義理で解消になったと告げられる。  婚約者の行動からなんとなく理解していたアイリーンはそれに納得する。  アイリーンは、婚約解消を聞きつけた友人から夜会に誘われ参加すると、義兄となるはずだったウィルコックス侯爵家の嫡男レックスが、婚約者に対し不倫が原因の婚約破棄を言い渡している場面に出くわす。  そして夜会から数日後、アイリーンは父からレックスが新しい婚約者になったと告げられる──

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

ケダモノ王子との婚約を強制された令嬢の身代わりにされましたが、彼に溺愛されて私は幸せです。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ミーア=キャッツレイ。そなたを我が息子、シルヴィニアス王子の婚約者とする!」 王城で開かれたパーティに参加していたミーアは、国王によって婚約を一方的に決められてしまう。 その婚約者は神獣の血を引く者、シルヴィニアス。 彼は第二王子にもかかわらず、次期国王となる運命にあった。 一夜にして王妃候補となったミーアは、他の令嬢たちから羨望の眼差しを向けられる。 しかし当のミーアは、王太子との婚約を拒んでしまう。なぜならば、彼女にはすでに別の婚約者がいたのだ。 それでも国王はミーアの恋を許さず、婚約を破棄してしまう。 娘を嫁に出したくない侯爵。 幼馴染に想いを寄せる令嬢。 親に捨てられ、救われた少女。 家族の愛に飢えた、呪われた王子。 そして玉座を狙う者たち……。 それぞれの思いや企みが交錯する中で、神獣の力を持つ王子と身代わりの少女は真実の愛を見つけることができるのか――!? 表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より

わがまま令嬢は改心して処刑される運命を回避したい

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のセアラは権力を振りかざし、屋敷でも学園でもわがままの限りを尽くしていた。 ある夜、セアラは悪夢を見る。 それは、お気に入りの伯爵令息デズモンドに騙されて王女様に毒を盛り、処刑されるという夢だった。 首を落とされるリアルな感覚と、自分の死を喜ぶ周りの人間たちの光景に恐怖を覚えるセアラ。しかし、セアラはその中でただ一人自分のために泣いてくれた人物がいたのを思い出す。 セアラは、夢と同じ結末を迎えないよう改心することを決意する。そして夢の中で自分のために泣いてくれた侯爵家のグレアムに近づくが──……。 ●2021/6/28完結 ●表紙画像はノーコピーライトガール様のフリーイラストよりお借りしました! ◆小説家になろうにも掲載しております

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

魔法が使えなかった令嬢は、婚約破棄によって魔法が使えるようになりました

天宮有
恋愛
 魔力のある人は15歳になって魔法学園に入学し、16歳までに魔法が使えるようになるらしい。  伯爵令嬢の私ルーナは魔力を期待されて、侯爵令息ラドンは私を婚約者にする。  私は16歳になっても魔法が使えず、ラドンに婚約破棄言い渡されてしまう。  その後――ラドンの婚約破棄した後の行動による怒りによって、私は魔法が使えるようになっていた。

処理中です...