上 下
26 / 42

招かれざる客

しおりを挟む
 キァラの件から1ヶ月経った。コルネリアは満月の宴から目が覚めてすぐにヴァルターへ、リューイについて伝えた。

 ヴァルターはリューイを国へ入れることに了承し、帝国だけではなく法国の動きにも気をつけるとコルネリアに約束してくれた。

 また、キァラの件があったため、ヴァルターは屋敷内や領土内の人間を調べ直し、国境の検問も強化するようにした。

 そのため、調査などでヴァルターは慌ただしく動き、コルネリアとゆっくり夕食を取ることも少なくなっていた。しかし、コルネリアが眠るまでには帰るようにして、寝る前の時間を共にしているため、二人の仲は良好だった。

「コルネリア様。もうすぐ庭師が参ります。お花が咲けばぐっと屋敷も華やかになりますわ」

 屋敷や庭を整えるのも、妻であるコルネリアの役目の一つだ。カリンが日傘をさしながらコルネリアに尋ねた。

【そうね。楽しみだわ】

 ヴァルターの屋敷内は、花が全く咲いていない花壇もあり、コルネリアが庭師と話をしながら整えているところだった。

 屋敷の顔でもある正面玄関の前でカリンとコルネリアが話をしながら庭師を待っていると、たくさんの花を両手に抱えた庭師が走ってやってくる。

「お、奥様!お待たせして申し訳ございません!」

 息を切らして肩で息をする庭師。約束よりも早く来てしまった自分が悪い、とコルネリアは首を振って意思表示をした。
 
 と、コルネリアの後ろにある玄関ドアが乱暴に開く。ばんっと大きな音が鳴り、コルネリアが驚いて後ろを振り向く。

「後悔しますぞ!」

「後悔はしないだろう。さあ、早く帰るがいい」

 怒鳴りながら出てきたのは、神父服を着た男性だった。その男性と向かい合わせに立つのはヴァルターだ。

 手をひらひらと動かし、出ていけとジェスチャーでも示している。

「野蛮な国の恩知らずが!……おや、コルネリア様」

 怒鳴った神父はコルネリアを見ると、ころりと表情を変えた。ニヤニヤ笑顔を浮かべると彼女に近づき、そっと耳元でささやく。

「嫌になればいつでも法国に帰りなさい」

「離れてください!」

「離れろ!」

 カリンがコルネリアと神父の間に身体を入れてかばい、ヴァルターが鋭く叫ぶ。

 ふん、と神父は鼻を鳴らすと、その場から去った。

(――あの神父。確かパトリック派のやつだわ)

「コルネリア。すまない。びっくりしただろう?」

【何があったんですか?】

「少し中で話そうか」

 ヴァルターがコルネリアの肩を抱き、屋敷の中を指差す。コルネリアは約束をしていた庭師に謝罪をすると、執務室へヴァルターと向かった。







「さっきの神父はブーテェ法国の使者だ。第一王子がクーデターを起こす予定で、それを支持して兵を出すように言われた」

【なぜネバンテ国に?見返りに何を提示してきたんですか?】

 メヨ帝国と交友のある法国であれば、頼るのはネバンテ国ではなく帝国だろう。コルネリアが不思議そうに首を傾げた。

「法国の聖女と結婚をしたのなら、法国を支援するのは当然のこと、らしい。見返りはないが、協力しない場合はコルネリアを連れて帰ると言っていた」

【私、帰りませんわ!】

 怒りからコルネリアがぎゅっと眉を顰める。

「大丈夫だから。泣きそうな顔をするな」

 怒っているコルネリアだが、不安になっていると勘違いしたヴァルターが優しく抱きしめる。

「不安にさせると思って言ってはいなかったが、帝国の方で出兵をした動きがあった。戦争をするには少ない人数だから、訓練かと思ったが。兵士たちは法国に入っていったんだ」

(――帝国にクーデターを手伝ってもらうつもりなんだわ!もしかすると、これの対価としてリューイを渡すつもりなのかもしれない)

「ネバンテ国としては、動きに注意しながらも傍観するつもりだ。使者には聞かなかったことにする、と言ったら怒ってしまったがな」

 ネバンテ国は大きな国ではない。ここで法国のクーデターに反対をするよりも、傍観者として見守る方が得策だろう。そう考えたコルネリアは頷く。

(――リューイも心配だけれど、国内に残してきた見習いの子も心配だわ。それに、第三王子は無事に逃げられるかしら。何かあったら、法国の民はどうなってしまうんだろう)

 コルネリアはそっとヴァルターから身体を離すと、両手を組んで跪く。

(――女神様。どうか、みんなが無事でいられますように、ご加護をお願いいたします)

 部屋の中心で目を閉じ、ただひたすらコルネリアは女神に祈りを捧げた。


 その日から4日後。ブーテェ法国で、第一王子のパトリックがクーデターを起こした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...