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55話
しおりを挟むその日は晴天だった。サレオスはまさに神に祝福された気持ちになりながら、大神官の前に跪く。そっと大神官が王冠をサレオスの頭に乗せると、周りから拍手が起きた。
「これにより、正式にサレオス様が王になられました。この場におられる皆様と新たなる王、そしてこの国に祝福を」
そう言って大神官が杖を掲げると、周りの貴族たちは杯を持ち上げて「祝福を」と言った。
無事に戴冠式がすんだサレオスは、手招きをしてロザリーンを呼ぶ。にこやかな笑みを浮かべたロザリーンが、サレオスの隣に立つ。
「今日という素晴らしい日に、もう一つの報告をしたい。聖女であるロザリーン伯爵令嬢との婚姻を、ここで宣言する」
わああ、と歓声が上がり、人の輪の中にいる伯爵が周りから祝福される。その様子をブルクハルト公爵は、苦々しい表情で見つめる。
(――素晴らしい日だ。この後は確か、ビオラの処刑だったな。なかなか可愛らしい顔をしていたから、惜しいが。まぁいい。これからもっといい女が現れるだろう)
下卑た想像をしているとは思えない、穏やかな笑みでサレオスはお祝いの言葉を述べる人々に対応をする。
処刑場となる広場には、多くの人が押しかけていた。
「まだ、中止の連絡はないの?」
「まさか。このまま処刑が始まったりしたりしないよな?」
王都周辺の人々も集まり、広場には人が溢れかえっている。皆が処刑中止の一報を待っていたが、その連絡は来ない。
「サレオス様が王になったら、中止になるんじゃないの」
戴冠式を終えたサレオスとロザリーン、皇后が貴賓席に座っている。また、他の貴族たちも、グラス片手に鑑賞していた。
悲鳴のような声が響く中、ジェレマイアがじっと息を潜めていた。ビオラが広場に出てきたら、処刑が始まる前に連れて逃げるつもりだった。
広場中に公爵から借りた人員が配置されており、ジェレマイアの合図で一斉にビオラを救出するために動く手筈だ。
「そんな。ビオラ様」
誰かが悲鳴のように叫び、ジェレマイアがそちらを見る。そこには前を向いて、しっかりとした足取りで歩くビオラの姿があった。
真っ直ぐ処刑代に向かうビオラの姿に、辺りが静まり返る。
「ああ。ゲルト神様。お願いします。ビオラ様をお救いください」
一人の敬虔なゲルト教信者が座り込んで祈り出すと、皆が同じように座って天に祈り出した。ジェレマイアは処刑代の階段を登り終えたら、合図を出そうと目を光らせた。
不思議な気持ちだった。ビオラの胸に一切の不安はなく、足取りに迷いはない。
(――みんなが祈ってくれるのが見える)
みんなが座り込んで祈る中、立っている人もいる。
(――あ。ジェレマイア様だ。顔を隠してるけど、わかる)
ビオラはフードを被っているジェレマイアを見つけ、そちらを見て微笑んだ。そして、処刑台の階段を登る。
階段を全て登り終わると、もう一度ジェレマイアを見た。そして、ジェレマイアが手をかざすと、彼を含む何人もの男性が一挙に処刑台へと飛び出した。
「ジェレマイア様!」
「ビオラ!」
しかし、処刑台を取り囲んでいた兵、そして隠れて様子を見ていた皇后の影がジェレマイアの行く手を阻止する。
「待っていろ!必ず助けるから!」
目の前の兵を切り捨てると、ジェレマイアが叫ぶ。
「ジェレマイア様!後ろ!」
まさに多勢に無勢。あっという間に数名に囲まれたジェレマイアは、後ろから背中を切りつけられた。血が飛び散り、ビオラは絶叫する。
「神様!貴方が選んで祝福したジェレマイア様の姿が見えませんか?本当にいるなら現れてお救いください!」
ビオラが天を睨みつけて叫ぶ。その時。
快晴だった空に突然雲が現れ、稲妻が走り辺りが暗くなる。貴族の一人は驚きのあまり、グラスを落としてガラス片が飛び散る。
【やっと繋がることができた】
空から声が聞こえた声に、全員が空を見上げる。そこには、暗く重たい影が裂け、光が差し込む光景があった。
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